システムのモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法(リホスト/リプラットフォーム/リファクタリング等)の一覧について

システムのモダナイゼーションは、刷新の対象範囲を4つのレイヤーで捉え、7Rの中からシステムごとに手法を選ぶものです。全体像はシステムのモダナイゼーションの完全ガイドもご覧ください。

経済産業省のDXレポートが指摘した「2025年の崖」では、老朽化・複雑化したシステムを放置すると、年間最大12兆円もの経済損失が生じるリスクがあるとされています。また、手法の選び方を誤れば刷新自体が頓挫しかねません。

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モダナイゼーションの対象範囲

モダナイゼーションの対象をインフラ層、アプリケーション層、データ層、連携・運用層に分けたレイヤー図
各層の見直しは、ほかの層にも関わります。

手法を選ぶ前に、何を刷新の対象とするのかを決めておく必要があります。対象は、アプリケーション本体だけではありません。

動作基盤となるインフラや、システムが保持するデータも対象です。さらに、システム間をつなぐインターフェースや、運用・保守のプロセスまで含まれます。

範囲が曖昧なまま手法を選ぶと、刷新後に「データは新しくなったが連携は古いまま」といった中途半端な結果に陥ることがあります。

刷新の対象となる4つのレイヤー

対象は大きく4つのレイヤーに分けると、全体を見渡せます。

  • インフラ層:オンプレミスのサーバーやメインフレームをクラウドへ移すなど、基盤の刷新です。
  • アプリケーション層:業務ロジックそのものの再構築や、パッケージへの置き換えを指します。
  • データ層:分断されたデータの統合や、マスタの整理が含まれます。
  • 連携・運用層:システム間インターフェースや運用プロセスの見直しです。

これらのレイヤーは独立しておらず、互いに影響し合います。たとえばインフラをクラウドへ移しても、アプリケーションがクラウドの特性を活かせない作りのままでは、効果は限定的です。

手法選定の前提は、4つのレイヤーを見渡して、どこに最も深刻な課題があり、どこから手をつけるかを見極めることです。

ポートフォリオアプローチによる手法の割り当て

複数のシステムを抱える企業では、全社のシステムに単一の手法を当てず、システムごとに手法を変えるポートフォリオアプローチが重要です。手法は次のとおり割り当てます。

  • 基幹システム:作り替え(リファクタリング)の対象です。
  • 周辺の汎用業務:パッケージへの置き換えの候補です。
  • 安定稼働中の小規模システム:そのまま残す(リテイン)判断をします。

すべてを一律にクラウドへ移すことや、すべてを作り直すことは、コストとリスクの両面で非効率です。

ポートフォリオを組むには、各システムを「事業上の重要度」と「老朽化・技術的負債の深刻度」の2つの観点で評価します。重要度が高く負債も深刻なシステムは優先して再構築の対象とし、一方で、重要度が低く安定しているものは当面リテイン(現状維持)とします。この評価をもとに、次に解説する7Rを選ぶことになります。

ポイント

対象範囲は4つのレイヤーで見渡し、システムごとに重要度と老朽化の深刻度で評価して手法を割り当てます。全社に単一の手法を当てず、この考え方で進めることが基本になります。

標準的な手法「7R」の一覧と使い分け

7Rの手法を移行度合いが軽い手法、抜本的に刷新する手法、刷新しない選択肢の3区分にまとめた図
刷新の深さに応じて、選べる手法のまとまりが変わります。

モダナイゼーションの手法として広く参照されているのが、AWSが整理した「7R」のフレームワークです。

7Rは、リホストやリプラットフォームのような移行の軽い手法から、リファクタリング、リタイア、リテインまでの7つの手法を指します。

手法ごとに刷新の度合いが異なり、得られる効果やコスト、期間、リスクも大きく変わります。7つの手法は、移行の軽い手法、抜本的な刷新、刷新しない選択肢の3段階に分けて整理できます。

移行度合いが軽い手法(リホスト・リロケート・リプラットフォーム)

移行度合いが軽い手法には、リホスト、リロケート、リプラットフォームの3つがあります。

  • リホスト:ほぼそのまま別の基盤(主にクラウド)へ移す「リフト&シフト」で、費用は数百万〜1,000万円台、期間は3〜6ヶ月です。
  • リロケート:仮想化環境などを構成を変えずに別の場所へ移す手法で、リホストより改修が少ない点が特徴です。
  • リプラットフォーム:リホストより改修は増えますが、DBやミドルウェアをクラウド化する手法で、運用負荷軽減や性能向上が見込めます。

これら3手法は、サーバー保守費の削減やEOL回避を急ぐケースに向いています。たとえばサポート終了が目前に迫るなど、時間的制約が強い場合には、これら3手法が短期間・低コストで「まず崖を回避する」ための有力な選択肢になります。

ただし、リホストは古い設計をそのままクラウドへ持ち込むため、レガシーが抱える根本的な複雑さや技術的負債は解消されません。さらに、崖の回避という当面の目的は果たせても、業務の俊敏性向上といった本質的な効果までは得にくい点に注意が必要です。

軽い手法は「時間を稼ぐための一手」と位置づけ、その後の抜本的な刷新につなげる中長期のロードマップを描いておくことが望まれます。

抜本的に刷新する手法(リファクタリング・リパーチェス)

抜本的に刷新する手法には、リファクタリングとリパーチェス(リプレース)があります。

  • リファクタリング:業務ロジックを再設計・再構築するリビルドで、費用は2,000万円以上、期間は12〜18ヶ月以上が目安です。
  • リパーチェス(リプレース):自社開発をやめ、ERPやSaaSなど既製のパッケージ・サービスに置き換える手法です。

リファクタリングは、改修の規模は大きくなりますが、技術的負債を根本的に解消でき、拡張性や保守性も大きく高められます。事業の中核を担い、今後も機能の追加が必要な基幹システムに適しています。

リパーチェスは、会計・人事・経費精算など業界標準の業務であれば、独自開発を続けるより低コストで最新機能を享受できます。

パッケージの標準機能に業務を合わせる「フィット&ギャップ」が前提となるため、過度なアドオン開発を避けられるかどうかが成否を左右します。

刷新しない選択肢(リタイア・リテイン)

7Rには「刷新しない」という選択肢も明確に含まれ、リタイアとリテインの2つがあります。

  • リタイア:もはや使われていない、または他システムで代替できる機能を廃止する判断で、刷新対象の絞り込みにつながります。
  • リテイン:安定稼働し技術的負債も浅いシステムを、当面そのまま残す判断です。

資産を棚卸しすると、誰も使っていないシステムや重複した機能が見つかることは少なくありません。これらを廃止すれば刷新対象を絞り込めるため、全体のコストとリスクも下がります。

安定稼働し、事業上の変更要求も少ないシステムは、無理に刷新する必要はありません。限られた予算と人員を本当に刷新が必要な領域に集中させるため、「あえて触らない」という判断も求められます。

7Rで大切なのは、システムごとに刷新の度合いを選び分けることです。すべてを刷新する必要はありません。

ポイント

移行の度合いによって費用・期間・効果が大きく変わるため、時間的制約が強ければ軽い手法を、事業の中核で機能拡張が必要なら抜本的な手法を候補にします。刷新しない選択肢も含めて考えます。

手法別の費用・期間の目安と選定の判断軸

モダナイゼーション手法の選定に使う緊急度、事業戦略との整合、業務の標準性の3つの判断軸を示す図
3つの観点を合わせて見ると、システムごとの違いを捉えやすくなります。

同じ「刷新」でも、軽い手法と抜本的な手法では費用の桁が変わります。そのため、手法を選ぶ前に、費用と期間の現実的な目安を把握しておくことが欠かせません。

規模・手法別の費用と期間の目安

要件定義だけの段階から基幹を含む大規模な刷新まで、費用と期間は桁ごとに開きがあります。区分ごとの幅を下に挙げます。

  • 要件定義・業務棚卸しのみ:200万〜500万円
  • クラウド移行型(リホスト等):数百万〜1,000万円台(3〜6ヶ月)
  • 再構築型(リファクタリング/リビルド等):2,000万円〜数千万円規模(12〜18ヶ月以上)
  • 小〜中規模の単一業務システム全体:3,000万〜1.5億円(SI費が60〜75%を占める)
  • 中〜大規模の基幹+複数周辺:1.5億〜5億円

特に注目したいのは、システム全体の費用のうちSI費(設計・開発・移行の人件費)が占める割合が60〜75%と大きい点です。つまり、刷新コストの大半は「どれだけ作り込むか」で決まります。

このため、軽い手法で済むものは軽く、抜本的に直すものだけを再構築するというポートフォリオ判断が、コストを抑える鍵になります。

費用を見積もるときは、初期の構築費に加えて、移行後のランニングコストも比べる必要があります。たとえばリホストでクラウドへ移した場合、初期費用は抑えられても、利用量に応じたクラウド利用料が継続して発生します。

リファクタリングで作り替えた場合は、初期投資が大きくなるものの、保守性が高まって長期的な運用コストは下がる傾向があります。

どの手法が安いかは、初期費用とランニングコストを合わせた数年単位の総額で判断する必要があります。目先の見積額だけで選ぶと後悔しやすいので、この点には注意が必要です。

手法を選ぶための判断軸

手法を選ぶ観点は、大きく3つあります。

  • 緊急度:ハードウェアのEOLやサポート終了が迫っているなら、まずリホストで崖を回避することが優先されます。
  • 事業戦略との整合:今後も新機能を継続投入する予定なら、コストがかかってもリファクタリングで作り替える価値があります。
  • 業務の標準性:業界標準の汎用業務であれば、リパーチェスでパッケージに寄せる方が合理的です。

これらの観点は、単独ではなく組み合わせて判断するのが基本です。具体的には「緊急度は高いが将来も作り込みたい基幹」なら、まずリホストで時間を稼ぎ、その後リファクタリングへ移る二段階の戦略が有効です。

どの手法にも万能なものはありません。よって、自社のシステムごとの状況に応じて最適な組み合わせを設計することが、モダナイゼーションの実務の核心といえます。

手法を最終決定する前に、現行システムの資産を洗い出して現状を分析し、どの処理がどの業務に紐づいているかを把握しておく必要があります。現状把握が浅いまま手法を選ぶと、想定外の依存関係が後から発覚し、選んだ手法が成立しなくなるおそれがあるためです。

手法選定でもう一つ意識したいのは、移行方式との組み合わせです。同じリファクタリングでも、全機能を一度に切り替えるか、機能単位で段階的に移すかによって、リスクは大きく変わります。

基幹システムのように停止が許されない領域では、新旧を並行稼働させながら少しずつ移し替える「ストラングラーパターン」と相性のよい手法を選びます。

この選び方によって、移行時のリスクを抑えられます。手法は「何に作り替えるか」と「どう移すか」をセットで考えることが、実務では欠かせません。

ポイント

費用は初期の構築費だけでなく、移行後のランニングコストまで含めて、数年単位の総額で比べます。判断は、緊急度、事業戦略との整合、業務の標準性の3つの観点を組み合わせて行います。

まとめ

ここまで、モダナイゼーションの対象範囲と、標準的な手法の7Rを見てきました。

対象範囲は、アプリケーションだけでなく、インフラ・データ・連携・運用の4レイヤーに及びます。これらを見渡して手法を選ぶ流れになります。

標準的な手法である7R(リホスト/リロケート/リプラットフォーム/リパーチェス=リプレース/リファクタリング/リタイア/リテイン)は、7つの手法の総称です。

移行の度合いによって、費用・期間・効果は大きく異なります。軽い手法は数百万〜1,000万円台で3〜6ヶ月、再構築型は2,000万円以上で12〜18ヶ月以上が目安です。

大切なのは、全社のシステムに単一の手法を当てず、システムごとに最適な手法を組み合わせる「ポートフォリオアプローチ」を取ることです。そのためには、システムごとの重要度と老朽化度を評価する必要があります。

判断にあたっては、緊急度、事業戦略との整合、業務の標準性という3つの観点を使います。刷新すべきものは抜本的に、軽く済むものは軽く、不要なものは廃止し、安定しているものは残します。

この見極めが、コストとリスクを抑える鍵になります。自社のシステム群にどの手法を割り当てるかは、現状分析を起点に、経験豊富なパートナーとともに設計していくことをおすすめします。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。