成功事例からは、現状把握、業務改革、定量評価を踏まえて段階的に移行すると、全社の効率化やコスト削減につながると分かります。
経営会議で刷新が話題になっても、成果や巻き込む部門、進める順序が見えず、決裁前に止まる企業は少なくありません。全体像はシステム刷新の完全ガイドもご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・システム刷新の完全ガイド
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経営視点で事例を学ぶ意義

システム刷新は、稼働中の現行システムを止めずに全社規模で作り替える取り組みです。新規開発と違って後戻りが難しく、多くの部門が関わるため、先行事例は他のIT施策以上に計画の参考になります。
製造・販売・経理・人事など全部門の業務に波及するため、情報システム部門だけで完結しません。特に経営層には、稟議の投資根拠として他社の成功・失敗事例が役立ちます。さらに、事例は成功談として読むだけでなく、自社で再現できる判断や部門ごとのリスクを考える材料にもなります。全社横断の視点で事例を学ぶ意義は、ここにあります。
「2025年の崖」が示す全社規模の経営リスク
システム刷新の必要性は、すでに国レベルで定量化されています。経済産業省のDXレポートは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを刷新しないまま2025年を迎えると、その後に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘しました。これが「2025年の崖」です。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査でも、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題と認識しています。古いシステムが新施策を妨げ、部門間のデータ分断が意思決定を遅らせるため、損失は情報システム部門の予算にとどまらず、事業全体の競争力に関わります。
- 事業への影響:施策の停滞が、売上や利益にも及びます。
- 投資の捉え方:刷新は、事業を続けるための投資という位置づけ。
- 切り替えの速度:急ぐ理由と一斉移行のリスクを、両方の面から考えます。
全社を一度に切り替えると、重大なトラブルを招くおそれがあります。そのため、事例からどの程度の速さで進めるのが適切かを見極めます。
事例から読み取るべき3つの経営視点
成功事例を読むときは、少なくとも3つの視点を意識すると学びの質が変わります。成果の数字だけを追うと、なぜその成果が出たのかが見えないためです。
- 全社の課題:取り組みの出発点。
- 経営の意思決定:何を刷新し、何を対象外にしたか。
- 波及した効果:定量・定性の両面から見た結果。
特に見落とされがちなのは、2つ目の経営の意思決定です。同じ保守費の課題でも、刷新範囲や業務変更の対象によって、必要な期間・費用・全社への影響は異なります。成功企業は、制約と目的を踏まえて、実施することとしないことを経営判断で決めていました。
効果は、夜間処理の短縮時間や保守費の減少率、月あたりの業務削減時間などで確かめます。加えて、データ分断の解消や、新施策に着手しやすくなったかも見ます。
全社の業務効率化・コスト削減を実現した刷新の成功事例

製造業、小売、インフラ運用の3つの事例を、全社課題、経営判断、波及効果の順に見ていきます。数字の背後にある判断から、自社で再現できるヒントを探します。
製造業:基幹系刷新で夜間バッチ8時間を90分に短縮
この事例は、刷新前の制約、経営判断、刷新後の効果の順に見ると、成果につながった判断が分かります。
- 刷新前:約1,200名の製造業で、COBOLの基幹系は夜間処理に約8時間かかり、複数部門が依存。保守費は年2,400万円規模。
- 経営判断:機能・データ・部門間の依存を洗い出し、未使用機能や重複処理を除いて刷新範囲を確定。
- 刷新後:約16ヶ月で完了。夜間処理は90分(約80%短縮)、保守費は年850万円(約65%削減)。
処理時間の短縮は単なる速度向上にとどまらず、翌朝の業務開始前に終えられる安心感を全部門にもたらしました。この事例は、定量効果と定性効果を両立させた全社刷新の成功例です。
小売・流通:イオングループの業務可視化で月700時間を削減
小売・流通大手のイオングループの事例では、刷新の順序と、得られた業務効果を見ていきます。
- 先に業務を可視化:新しい仕組みを導入する前に、対象プロセスを部門横断で分析。
- 無駄を整理:不要作業、重複手順、自動化に向かない属人的判断の洗い出し。
- 効果を確認:月あたり700時間規模の業務削減。
不要な業務を残したまま導入すると、新システムにそのまま移すことになります。効果を高められる対象を見極めてから進めた点が、この事例の特徴です。
この事例は、基幹システムの全面入れ替えだけでなく、業務プロセスの全社的な見直しや部分的な自動化も、刷新の一つになり得ると示しています。
手法の派手さより、全社を巻き込む順序が成果を左右するという教訓は、他業界にも応用できます。
インフラ運用:ユニリタのログ可視化による作業負担の5分の1への軽減
ユニリタは、大規模なITインフラ運用を可視化によって刷新しました。対象、判断、成果の順に見ていきます。
- 可視化の対象:200種・約30,000台のネットワーク機器と、約10,000台のサーバーのログ。
- 経営判断:機器のコストや負荷を把握したうえで、残す対象と整理する対象を決定。
- 得られた効果:運用作業の負担は5分の1に、投資対効果は数億円規模。
集計・可視化した通信ログは、1日あたり10億件にのぼりました。全社インフラのコストや負荷を経営として把握することが、もともとの課題でした。
ログを可視化したことで、保守費の高い機器や、役割を終えつつある機器を特定できました。このため、可視化は全社の投資判断を支える土台として機能しました。
インフラ刷新は地味に見られがちですが、可視化と定量管理によって、大きな全社効果を生み出せます。測れないものは改善できないという原則を、この事例は示しています。
業界横断で見るシステム刷新成功のパターン

製造業、小売、インフラ運用の事例を比べると、業界やシステムが違っても、全社刷新を成功させる判断の観点には共通点があります。その共通点を、再現できる進め方として見ていきます。
現状把握を起点とした刷新範囲の経営判断
製造業は資産を洗い出し、イオングループは業務を分析、ユニリタはログを可視化するところから始めました。いずれも、現状を押さえてから刷新に入っています。
- 現状を把握:判断に必要な材料をそろえます。
- 範囲を決定:自社の課題と制約を踏まえた優先順位付け。
- 段階的に移行:機能や対象を区切り、影響を抑える進め方。
現場の要望を積み上げるだけでは、途中で予算や目的を見失いがちです。このため、経営が刷新範囲を絞り、優先順位を付けることが成功企業の共通点でした。移行の方法も、経営判断の対象になります。
一度に全社を切り替えると、トラブルの影響が全部門に及びます。そこで、急ぎながらも段階的に置き換えることで、影響を抑えます。
業務改革と組み合わせた、定量による全社管理
第二の共通点は、刷新を全社の業務改革と組み合わせることです。イオングループは導入前に業務を可視化しました。古い業務手順をそのまま新システムへ移すと、従来業務が速くなるにとどまります。
- 定量管理:処理時間や費用、削減時間を成果指標として扱う。
- 改善目標:何をどれだけ変えるかを定めた、全社目標。
刷新の前後で業務そのものを見直し、部門をまたいで仕事の進め方を変える必要があります。
製造業は夜間バッチの処理時間と保守費、イオングループは削減した業務時間を成果として示しました。ユニリタは、作業負担と投資対効果を指標にしています。
目標を置くことで、刷新後に経営として達成度を評価できます。さらに、定量管理は投資判断の段階から計画に組み込むのが理想です。
投資判断では、複数の観点から効果を評価する考え方もあります。たとえば、トヨタ自動車はQCDS(Quality・Cost・Delivery・Safety)を採り入れています。コストや品質など一つの指標だけでなく、複数の観点で見ると、刷新の事業貢献を立体的に捉えられます。
成功と失敗を分ける分岐点
失敗する刷新もあります。江崎グリコの基幹システム切り替えでは、障害が起き、チルド商品の全品出荷が停止しました。
- 移行設計と検証:経営が必要な時間を確保すること。
- 影響範囲の確認:納期を優先して、見積もりや切り戻し準備を省かないこと。
- 成功パターン:範囲決定、業務改革、定量管理、段階移行。
移行計画が不十分だと、システムだけでなく事業も止まり得ます。江崎グリコの事例は、そのリスクを示しました。
成功企業は、現状把握や段階的な置き換えに時間をかけていました。失敗要因を網羅するには、別の観点での整理が必要です。成功事例と対比すると、移行設計の重要性がよく分かります。経営が丁寧な進め方を支えられるかが、成否を左右します。
まとめ
システム刷新の事例と成功事例を、全社横断の経営視点から振り返ります。製造業では資産の洗い出しを起点に、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮しました。保守費は年2,400万円から850万円へ約65%減っています。
イオングループは業務可視化により月700時間規模を削減しました。また、ユニリタはログ可視化で作業負担を5分の1にし、数億円規模の投資対効果を実現しました。
成功事例に共通するのは、現状を把握して範囲を経営判断し、業務改革と定量管理を行い、段階的に移行することです。トヨタ自動車のQCDSのように、複数の観点で投資効果を見る姿勢も役立ちます。
江崎グリコの事例が示すとおり、移行設計が甘いと事業停止にもつながります。手法の派手さより、全社を巻き込んで丁寧に進めることが重要です。
自社の状況に置き換えて事例を読み返すと、経営判断の考え方を計画に反映できます。手法や費用感、体制づくりについては、システム刷新の完全ガイドも合わせてご活用ください。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
