シフト管理システムのRFP/要件定義書/提案依頼書について

シフト管理システムを自社開発やカスタマイズで導入しようとするとき、成否を最初に左右するのが要件定義です。とりわけベンダーに開発を依頼する場合は、RFP(提案依頼書)や要件定義書の精度が、見積りの妥当性とプロジェクトの成功率を大きく左右します。「自動でシフトが組めるシステムが欲しい」といった曖昧な依頼では、各社から比較不能な見積りが返ってきたり、完成後に「自社の勤務ルールが再現できていない」という致命的な手戻りが発生したりします。

本記事は、シフト管理システムのRFP・要件定義書・提案依頼書を、発注企業の視点から実務的にまとめる「要件定義特化」の解説です。独自就業規則(変形労働・丸め処理)の要件化、勤怠・給与計算との連携要件、月額だけで選ばないTCO評価軸、そしてデータ移行・並行運用の要件まで、RFPに盛り込むべき観点を一次データとあわせて整理します。読み終えるころには、ベンダーに渡せる要件の骨子が描けるはずです。なお、要件定義の前提となる費用相場や開発方式の全体像をまだ把握していない方は、まずシフト管理システムの完全ガイドから読むことをおすすめします。

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独自就業規則を要件化するRFPの書き方

独自就業規則を要件化するRFPの書き方のイメージ

シフト管理システムの要件定義で最も重要かつ難しいのが、自社の就業規則をシステムにどう落とし込むかの要件化です。変形労働時間制、フレックス、独自の丸め処理、休憩の取り扱いなど、各社固有のルールが正しく再現できなければ、システムは使い物になりません。ここを曖昧にしたまま開発に進むと、リリース後に大きな手戻りが発生します。

変形労働・丸め処理のルールを明文化する

RFPには、自社で運用している労働時間制と計算ルールを具体的に書き出す必要があります。1か月単位や1年単位の変形労働時間制を採用しているか、フレックスタイム制のコアタイムはどう設定されているか、時間の丸め処理は何分単位で行うか、深夜・休日割増の計算ロジックはどうかといった項目です。これらは口頭の説明では伝わりきらないため、就業規則の該当条文を抜粋し、具体的な計算例を添えてRFPに記載するのが実務上有効です。

とくに丸め処理は、ベンダーとの認識齟齬が起きやすい論点です。「15分未満切り捨て」と一言で書いても、出勤打刻と退勤打刻のどちらに、どの方向に丸めるかで残業代が変わります。一次データでは、連携不具合や設定ミスによる残業代差異が月10万円規模に達した事例も報告されており、計算ルールの曖昧さは金銭的な事故に直結します。RFPの段階で「この打刻ならこの残業時間になる」というテストケースを複数用意しておくと、ベンダーの理解度を見積り段階で見極められます。

必要配置・スキル要件・上限規制を定義する

シフト自動作成の品質は、配置ルールをどれだけ正確に要件化できるかで決まります。各時間帯に最低何人必要か、どのスキルや資格の保有者を必ず配置するか、新人だけの時間帯を許すか、連続勤務日数の上限はいくつか、といった制約をRFPに列挙します。これらの制約が抜けていると、システムは「人数だけは合っているが現場では回らないシフト」を生成してしまい、結局手で直すことになります。

あわせて、法令上の上限規制も要件として明記します。36協定による時間外労働の上限、年5日の有給取得義務、学生アルバイトの扶養範囲の管理など、コンプライアンスに関わる制約をシステムが警告できることは、近年ますます重要になっています。2026年4月公布・10月施行の同一労働同一賃金ガイドライン改正のように、法改正への追従も要件に含めるべき観点です。RFPに「どの法令要件をシステムでチェックしたいか」を明示しておくと、運用後のコンプライアンスリスクを先回りで抑えられます。

機能要件と非機能要件を切り分けて記述する

RFPの精度を高めるうえで欠かせないのが、機能要件と非機能要件を切り分けて記述することです。機能要件は「希望シフトを収集する」「自動でシフトを作成する」「給与計算へ連携する」といった、システムが何をするかを定義します。一方の非機能要件は、同時アクセス数、レスポンス速度、可用性、セキュリティ、対応デバイスといった品質や性能に関わる条件です。機能要件だけを並べたRFPでは、繁忙期に動作が重くなる、スマホで使いにくいといった問題を見落とします。

とくにシフト提出はアルバイトを含む全従業員がスマホから一斉に操作するため、ピーク時の同時アクセスに耐える性能が求められます。締切直前に全員がアクセスして画面が固まる、といった事態は、現場の信頼を一気に失います。RFPには、想定ユーザー数・拠点数・ピーク時の同時利用数を前提条件として明記し、それに耐える性能をベンダーに求めるべきです。セキュリティ面では、勤怠・給与という機微な情報を扱うため、権限管理やアクセスログ、データの暗号化といった要件も漏らさず記述します。機能と非機能の両輪をそろえて初めて、実運用に耐えるRFPになります。

勤怠・給与計算との連携要件の定義

勤怠・給与計算との連携要件の定義のイメージ

シフト管理システムは単独で完結せず、勤怠管理や給与計算と連携してこそ価値を最大化します。そのため、連携要件をRFPで具体的に定義することが、二重入力の撲滅とデータ不整合の防止に直結します。連携先の製品、方式、項目、頻度を曖昧にしたまま進めると、後から「思っていた連携ができない」という事態に陥ります。

連携先システムと方式(API/CSV)を特定する

連携要件では、まず自社が現在使っている、あるいは今後使う勤怠・給与・会計システムを正確に列挙します。そのうえで、各システムとどの方式で連携するかを定義します。API連携はリアルタイム性が高くミスが少ない一方で対応製品が限られ、CSV連携は汎用性が高いものの項目マッピングや手作業の出力が残ることがあります。RFPには「どのシステムと、どの方向に、どの項目を、どの頻度で連携するか」を表形式で整理して記載すると、ベンダーが実現可否と工数を見積もりやすくなります。

連携には隠れコストが潜むことも忘れてはいけません。一次データでは、給与計算連携の費用が10万〜50万円かかる例が挙げられており、これは「無料」をうたうサービスでも実際には発生し得るコストです。連携対象が複数あれば、その分だけ開発・テスト工数が積み上がります。RFPで連携要件を明示し、各社にその費用を含めた見積りを求めることで、後から連携費が膨らむ事態を防げます。連携の有無は、月額だけを見た比較では見落とされる重要な評価軸です。

打刻方法と複雑な雇用要件を盛り込む

打刻方法も連携・運用要件の一部として定義します。PC・スマホ・ICカード・生体認証・GPSのどれを使うか、複数を併用するかは、業態によって最適解が異なります。ICカードリーダーなどのハードウェアが必要な場合、一次データではその費用が5万〜50万円とされており、これも要件と見積りに含める必要があります。打刻方法はなりすまし防止や直行直帰への対応など、自社の働き方に直結するため、要件として明確にしておくべきです。

さらに、複雑な雇用要件はRFPで先回りして明示することが重要です。外国人労働者向けの多言語対応、複数法人を一元管理する要件、単発・日雇い派遣のような特殊な勤怠形態などは、汎用SaaSでは「要確認」で済まされがちな領域です。これらを抱える企業は、RFPで明確に要件化し、各ベンダーに実現可否を問うことで、導入後に「対応できなかった」という事態を防げます。自社の雇用の特殊性こそ、要件定義で最も丁寧に扱うべきポイントであり、ここが汎用SaaSと自社開発の選択の分かれ目にもなります。

月額だけで選ばないTCO評価軸の設計

月額だけで選ばないTCO評価軸の設計のイメージ

RFPで各社を比較する際、月額単価だけで選ぶと判断を誤ります。要件定義の段階で、5年TCO(総保有コスト)の評価軸を設計し、初期費用・隠れコスト・運用工数まで含めて総額で比較する枠組みを作ることが重要です。とくに従業員数が増える見込みのある企業では、従量課金の積み上がりが大きな差を生みます。

5つの隠れコストを見積り項目に明記する

シフト・勤怠システムには、月額以外の隠れコストが複数あります。一次データでは、(1)ハードウェア(ICカードリーダー等)5万〜50万円、(2)データ移行費5万〜30万円、(3)カスタマイズ費20万〜100万円超、(4)給与計算連携費10万〜50万円、(5)運用工数 年20万〜100万円換算、という5つが挙げられています。RFPでは、これらの項目を見積りフォーマットとして明示し、各社に内訳の提示を求めることで、表面上の安さに惑わされない比較ができます。

初期費用についても注意が必要です。「初期費用無料」をうたうサービスでも、実際には初期設定代行やデータ移行で5万〜20万円を払う企業が多いとされます。RFPでは「無料の範囲はどこまでか」「初期設定は自社作業か代行か」を明確に問うことで、後から請求される費用を防げます。要件定義の段階で見積り項目を統一しておくことが、フェアな比較の前提です。

SaaSと自社開発の損益分岐点を試算する

要件定義の段階で、SaaS従量課金と自社開発の損益分岐点を試算しておくと、開発方式の選択が論理的になります。クラウドSaaSは1ユーザー300〜500円がボリュームゾーンで、企業規模別では100〜199名で月額29,000〜57,710円という試算があります。一方、ノーコード受託(Bubble等)は初期100万〜300万円・月額1万〜3万円で、ユーザー無制限の固定費です。この構造を比べると、50名以上の規模では、5年TCO(約160万〜500万円)で自社開発側が有利になると試算されています。

RFPには、自社の現在と将来の従業員数を前提条件として明記し、各方式の5年総額を比較できる形で見積りを求めるとよいでしょう。オンプレ・パッケージは初期30万〜100万円以上・年間保守30万〜100万円、ERP連携型は初期500万円〜・5年総額1,700万〜6,500万円という相場感も、選択肢の上限として押さえておく価値があります。月額だけでなく、規模拡大後の総額と、自社固有要件の実現性を両天秤にかけることが、後悔しない開発方式の選び方です。

データ移行・並行運用の要件定義

データ移行・並行運用の要件定義のイメージ

導入失敗の上位に必ず挙がるのが、データ移行と並行運用です。要件定義の段階でこれらを具体的に設計しておかないと、稼働直前に大きく躓きます。何を、どの形式で、いつまでに移行するか、そして旧システムといつまで並行運用するかを、RFPで明確に定義することが、安定稼働への近道です。

移行対象データと法定保存を要件化する

データ移行の要件では、従業員マスタ、過去のシフト・勤怠実績、スキル・資格情報など、何を移行するかを洗い出します。一次データによれば、導入失敗の1位はデータ移行であり、多くの解説が「ベンダーに確認しましょう」で止まっているのが実情です。だからこそ、RFPで移行対象・形式・件数・期限を具体的に定義し、各社に移行方法と費用を提示させることが、泥臭い失敗を避ける鍵になります。移行費は5万〜30万円が相場で、見落とすと予算オーバーの原因になります。

あわせて、退職者データの法定保存も要件に含めます。労働基準法では勤怠データに保存義務があり、退職者のデータも一定期間保持しなければなりません。しかしクラウドSaaSはユーザー課金制のため、退職者アカウントを保持し続けると課金が続くジレンマがあります。RFPでは「退職者データをどう保存し、課金対象から外せるか」を要件として明記し、各社の対応方針を確認しておくべきです。自社開発であれば保存設計を法令要件に合わせて自由に組めるため、この課金ジレンマを根本回避できます。

並行運用期間とサポート体制を取り決める

新システムへの切り替えは、旧システムと一定期間並行して動かす「並行運用」を前提に計画するのが安全です。一次データでは、データ移行・初期設定の難航により「スケジュール遅延1か月」「安定稼働まで2か月」という調査結果が報告されています。RFPでは、並行運用の期間、その間の運用体制、切り替え判定の基準を定義し、ベンダーにスケジュール上の余裕を持った計画を求めるべきです。一発切り替えを前提にすると、トラブル時に給与計算が止まるリスクを抱えます。

サポート体制も要件として明確にします。初期設定の代行があるか、稼働後の伴走支援や専任担当が付くか、法改正時のアップデートはどう提供されるかは、運用負荷を大きく左右します。クラウドは法改正対応の自動アップデートが優位とされますが、自社開発でも保守契約で同等の追従を担保できます。要件定義の段階でサポート範囲とSLA(サービス品質保証)を明文化しておくことが、運用フェーズでの認識齟齬を防ぎます。要件定義は機能の網羅だけでなく、移行・運用・サポートまで含めて初めて完成します。

提案評価表とベンダー選定基準を設計する

RFPを各社に配布したら、返ってきた提案を公平に比較するための評価表を、要件定義の段階で用意しておくことが重要です。評価軸は、機能の充足度、5年TCO、自社独自ルールの実現性、連携対応、移行・サポート体制、開発・運用実績といった項目に分け、それぞれに重み付けをして点数化します。価格だけ、機能だけといった単一軸の比較では、総合的に見て最適なベンダーを取り逃すことがあります。

とくに重視すべきは、自社の業界・規模に近い導入実績と、要件整理から伴走してくれるかどうかです。一次データでは、ジョブカン勤怠が累計導入25万〜30万社、KING OF TIMEが60,000社といったシェアの数字が示されていますが、こうした実績は安心材料の一つに過ぎません。汎用SaaSで満たせない要件が多い企業では、フルスクラッチやノーコード受託を含めて提案を募り、自社の業務に寄り添えるパートナーを選ぶことが肝心です。評価表という客観的な物差しを持つことで、提案の見栄えや営業トークに流されない、根拠に基づいた選定ができます。

まとめ

シフト管理システムの要件定義まとめイメージ

シフト管理システムのRFP・要件定義書を整理すると、押さえるべき柱は「独自就業規則の要件化」「勤怠・給与計算との連携要件」「月額だけで選ばないTCO評価軸」「データ移行・並行運用の要件」の四点に集約されます。変形労働や丸め処理は計算例とテストケースで明文化し、連携は対象・方式・項目・頻度を表で定義し、TCOは5つの隠れコストと損益分岐点を含めて5年総額で比較し、移行・並行運用は失敗1位の領域として具体的に設計する。これらを盛り込んだRFPが、比較可能な見積りと手戻りの少ないプロジェクトを生みます。

要件定義で大切なのは、「機能を並べる」ことではなく「自社固有のルールと制約を漏れなく言語化する」ことです。自社の就業規則・連携先・雇用の特殊性・移行対象を棚卸しし、ベンダーが実現可否と工数を判断できる粒度まで落とし込んでください。汎用SaaSで満たせない要件が多い場合は、フルスクラッチやノーコード受託が現実的な選択肢になります。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発の立場から、要件整理とRFP作成の段階から伴走します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。