データモダナイゼーションの失敗/課題/注意点/リスクについて

データモダナイゼーションは、うまくいけばデータ活用の土台を一新できる一方で、失敗すると多額の投資が無駄になるだけでなく、業務そのものを止めてしまうこともあります。基盤を新しくしたのに以前よりデータが使いにくくなった、移行でデータが欠損した、プロジェクトが大幅に遅延・予算超過した。こうした失敗は決して珍しくなく、しかもその多くは「同じパターン」で繰り返されています。裏を返せば、典型的な失敗の型を知っておくことが、最も効果的なリスク対策になるということです。

本記事では、データモダナイゼーションの失敗・課題・注意点・リスクについて解説します。江崎グリコの業務停止やSAP導入の「3大疾病」といった実在の事例・知見をもとに、なぜ刷新プロジェクトが炎上するのか、その典型的な要因と、リスクを最小化するための具体策を掘り下げます。あわせて、進め方の全体像を体系的にまとめたデータモダナイゼーションの完全ガイドもご覧いただくと、本記事のリスク対策を全体の流れの中で位置づけやすくなります。本記事を読めば、失敗を回避するためのチェックリストが手に入ります。

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データモダナイゼーションが失敗する典型的な要因

データモダナイゼーションが失敗する典型的な要因

データ基盤の刷新が失敗するとき、その要因はいくつかの型に分類できます。要件定義の甘さ、データ移行の難しさの見誤り、そしてベンダーへの丸投げです。これらは互いに関連し合いながら、プロジェクトを炎上へと導きます。本章では、失敗の典型的な要因を整理し、どこに落とし穴があるのかを明らかにします。

要件定義の甘さとブラックボックス化

失敗の最も大きな要因は、要件定義の甘さです。刷新が炎上するプロジェクトの多くは、現行システムの仕様書が失われていたり、ブラックボックス化していたりして、現状(AS-IS)を正確に把握できていません。データ基盤の場合はさらに深刻で、どこにどんなデータがあり、どんな依存関係を持つかが見えないまま移行を始めると、移行してみて初めて欠損や不整合が発覚します。

このリスクの根は、事前の資産棚卸しと現状分析を軽視することにあります。棚卸しには費用も時間もかかるため、「早く移行に着手したい」という焦りから省略されがちです。しかし、現状把握が甘いまま進めたプロジェクトは、後工程で何倍もの手戻りを生みます。データの所在・形式・品質・依存関係を可視化する工程は、コストではなく失敗を防ぐ保険だと捉えるべきです。

もうひとつ要件定義で起こりがちな失敗が、目的の不明確さです。「老朽化しているからとりあえず新しくする」という動機だけで進めると、何をもって成功とするかが定まらず、判断のたびに迷走します。データ基盤の刷新は、データ抽出の時間を短くしたいのか、分析を高度化したいのか、運用コストを下げたいのかで、最適な手法も投じるべき工数も変わります。目的とKPIを最初に言語化しないまま要件を固めることが、後の「作ったが使われない基盤」を生む温床になります。

ベンダー丸投げとユーザー部門の不参画

もうひとつの典型的な要因が、ベンダーへの丸投げと、ユーザー部門の参画不足です。データの意味や業務での使われ方を最もよく知っているのは現場のユーザー部門ですが、刷新を「IT部門とベンダーの仕事」と捉えてしまうと、現場の知見が反映されません。その結果、移行後に「現場が本当に必要としていたデータが抜けていた」「業務に合わない形でデータが整理された」といった事態が起こります。

この問題は、ERP導入の文脈で「3大疾病」として知られています。SAPなどのパッケージ導入における3大疾病とは、(1)ユーザーがやる気を持って参画しない、(2)大量のアドオン(独自カスタマイズ)開発が膨らむ、(3)データ移行がうまくいかない、という3つです。いずれもデータモダナイゼーション全般に当てはまる普遍的な落とし穴です。とくにデータ移行の失敗は、現場が関与しないことで「どのデータが本当に必要か」が定まらないことに端を発します。ベンダー任せにせず、ユーザー部門を巻き込む体制づくりが失敗回避の鍵です。

2つめのアドオン開発の膨張も、データモダナイゼーションでは見過ごせない課題です。標準のパッケージやサービスに合わせず、現行業務をそのまま再現しようとすると、独自カスタマイズが際限なく増えていきます。その結果、費用と期間が膨らむうえに、将来のバージョンアップや保守が困難になり、せっかく新しくした基盤がまた数年で「動かしにくいもの」へと逆戻りします。「業務をシステムに合わせる」発想を持てるかどうかが、刷新後の柔軟性を左右するのです。

データ移行という最大の難所とその落とし穴

データ移行という最大の難所とその落とし穴

データモダナイゼーションにおいて、最もリスクが集中するのがデータ移行の工程です。基盤の構築そのものより、既存データを新基盤へ正確に移すことのほうがはるかに難しく、ここでのつまずきが致命的なトラブルに直結します。本章では、データ移行特有の落とし穴と、実際に起きた失敗事例を見ていきます。

江崎グリコに見る移行計画の甘さの代償

データ移行の失敗が事業に与える影響の大きさを示すのが、江崎グリコの事例です。基幹システムの切り替え時に発生した障害により、チルド商品の全品出荷が停止する事態に至りました。基幹システムの切り替えはデータ移行と表裏一体であり、移行計画の作り込みが不十分だと、システムの不具合にとどまらず、商品が出荷できないという事業の根幹を揺るがすトラブルにつながります。

この事例から学ぶべきは、データ移行のリスクを「システムの問題」ではなく「事業継続の問題」として捉える必要があるということです。移行時にどんな障害が起こりうるか、起きたときにどう切り戻すか、その間の業務をどう回すか。こうした移行計画の作り込みと検証を怠ると、技術的には小さなミスでも、事業全体を止める巨大なリスクへと膨らみます。移行は「データを移す作業」ではなく「事業を止めずに移す作業」だという認識が欠かせません。

データマッピングの複雑さと品質問題

データ移行が難航する技術的な理由のひとつが、データマッピングの複雑さです。旧基盤のデータ項目を新基盤のどの項目に対応させるか、形式の違いをどう変換するか、複数システムで定義が異なるデータをどう統合するか。この対応付けは、データの種類が多いほど、そして古い基盤ほど複雑になります。マッピングを軽く見積もると、移行作業が想定の何倍にも膨らみます。

さらに厄介なのが、移行元のデータ品質の問題です。欠損・重複・表記ゆれを含んだまま移行すると、新基盤に「汚れたデータ」を運び込むことになり、活用段階で初めて問題が露呈します。「新しい基盤にしたのにデータが信用できない」という最悪の結果は、移行前の品質チェックを怠ったときに起こります。データマッピングと品質整備は、移行の中でも特に工数を見込み、ユーザー部門の知見を借りながら丁寧に進めるべき領域です。ここを軽視することが、3大疾病の「データ移行がうまくいかない」の正体なのです。

移行の失敗を防ぐには、本番の切り替え前に「リハーサル」を重ねることが有効です。実データを使った移行を事前に複数回試し、どこでデータが欠けるか、どれだけ時間がかかるか、想定どおりの結果になるかを検証します。一度のぶっつけ本番で切り替えるのではなく、テスト移行で問題を洗い出し、切り戻し手順まで確認しておけば、本番でのトラブルは大きく減らせます。江崎グリコの事例が示すように、移行は「やってみないと分からない」では済まされない工程であり、検証にかける時間こそがリスク対策の本体です。

リスクを最小化するプロジェクト設計

リスクを最小化するプロジェクト設計

失敗の要因と落とし穴が見えたところで、最後にそれらを回避するプロジェクト設計を整理します。失敗のパターンは裏返せば対策のチェックリストになります。本章では、リスクを最小化するための具体策を解説します。

ビッグバンを避け段階的移行を採用する

リスク回避の最大の定石は、全社を一度に切り替える「ビッグバンアプローチ」を避けることです。ビッグバンは一見スピーディーですが、データの整合が崩れたときの影響範囲が全社に及び、江崎グリコのような事業停止のリスクを最大化します。これに対し、機能やデータ領域を区切って新旧を並行稼働させながら少しずつ移していく「ストラングラーパターン(段階的置き換え)」を採用すれば、問題が起きても影響を局所化でき、切り戻しもしやすくなります。

段階的移行には、最初の対象で得た知見を次の対象に活かせるという利点もあります。1つ目のデータ移行でマッピングの勘所や品質整備の進め方を学び、2つ目以降の精度とスピードを高めていく。「2025年の崖」が示す最大12兆円の経済損失リスクを前に刷新を急ぐ必要はあるものの、急ぐことと一気にやることは別物です。急ぎつつも一気にやらない、この舵取りこそがリスク最小化の核心です。

段階的移行を選ぶ際は、最初にどの領域から着手するかの見極めも重要です。いきなり最も複雑で重要な基幹データから手をつけると、最初のつまずきが全体への不信につながりかねません。比較的リスクが小さく、かつ効果が見えやすい領域から着手し、小さな成功を積み重ねて社内の信頼と知見を獲得していくのが定石です。「どこから始めるか」という順序の設計もまた、失敗を避けるための立派な戦略なのです。

失敗を防ぐ4つのチェックリスト

これまでの失敗要因を裏返すと、リスクを防ぐためのチェックリストが見えてきます。
(1)事前の資産棚卸しと現状分析を徹底し、データの所在・品質・依存関係を可視化したか
(2)ユーザー部門を巻き込み、現場の知見を要件と移行に反映できているか
(3)データマッピングと品質整備に十分な工数を見込んでいるか
(4)ビッグバンを避け、段階的移行と切り戻し手順を設計したか

この4点を着手前に確認するだけで、典型的な失敗の多くは未然に防げます。

あわせて、JUASの調査で約7割の企業がレガシー化の課題を抱えているという現実も踏まえておきたいところです。多くの企業が同じ崖の前に立っているからこそ、先行事例の失敗から学ぶ価値があります。失敗は避けられないものではなく、典型的なパターンを知り、棚卸し・参画・移行設計・段階移行という4つの対策を講じることで、十分にコントロールできるリスクです。データモダナイゼーションは、慎重な準備さえあれば、恐れる必要のない取り組みなのです。

最後に強調しておきたいのは、失敗を防ぐ仕組みは「人と体制」にこそ宿るという点です。どれだけ優れたツールや手法を使っても、現場が関与せず、目的が共有されず、検証に時間をかけない体制では、同じ失敗が繰り返されます。逆に、ユーザー部門・IT部門・ベンダーが目的とリスクを共有し、段階的に進めながら学びを積み上げる体制があれば、多少の想定外があっても致命傷を避けられます。技術論だけでなく、誰がどう関わるかという体制設計を含めて計画することが、データ基盤刷新を失敗させない最も確実な道なのです。

まとめ

データモダナイゼーションの失敗・リスクのまとめ

本記事では、データモダナイゼーションの失敗・課題・注意点・リスクについて解説してきました。失敗の典型的な要因は、要件定義の甘さとブラックボックス化、そしてベンダー丸投げとユーザー部門の不参画です。後者はSAP導入の「3大疾病」(ユーザーがやる気を持たない・大量のアドオン開発・データ移行がうまくいかない)として知られ、データ刷新全般に通じる普遍的な落とし穴でした。

最もリスクが集中するのはデータ移行の工程です。江崎グリコの事例が示すように、移行計画の甘さはチルド商品の全品出荷停止という事業停止を招きます。データマッピングの複雑さや移行元の品質問題を軽視すると、移行が想定の何倍にも膨らみ、「新基盤にしたのにデータが信用できない」という最悪の結果に至ります。移行は「事業を止めずにデータを移す作業」だという認識が欠かせません。

リスク最小化の核心は、(1)資産棚卸しと現状分析の徹底、(2)ユーザー部門の巻き込み、(3)データマッピングと品質整備への十分な工数、(4)ビッグバンを避けた段階的移行という4つの対策に集約されます。失敗は典型的なパターンを知れば十分に防げるリスクです。具体的な進め方の全体像をさらに確認したい場合は、完全ガイドもあわせて活用し、慎重な準備のもとで刷新を成功へ導いてください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。