マッチングサイトのリニューアルでは、現状分析で課題とKGIを言語化し、要件定義で機能に優先度を付け、RFPでベンダーに伝えます。この順に進めると、課題に沿った提案を得やすく、手戻りも抑えられます。
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アセスメント:既存マッチングサイトの現状分析と課題の言語化

アセスメントは、要件定義の前に現状の課題を洗い出す工程です。数字で測れる面と測りにくい面の両方から問題を把握し、「なぜリニューアルが必要か(Why)」を言語化します。
課題を整理しておくと、要件定義で目的がぶれにくくなり、ベンダーへの説明も具体的になります。この工程を省くと、担当者の主観が要件に混ざり、解決すべき課題と関係のない機能追加が起きがちです。
KPI低迷・成約率・モバイル離脱の数値による把握
アセスメントの出発点は、KPI(重要業績評価指標)の実態を押さえることです。目標値からどれだけ離れているかを特定するため、主要な指標を月次・週次で計測します。
- 利用状況:新規会員登録数、月間アクティブユーザー数
- マッチング成果:マッチング成立率、成約率
- 利用体験:平均セッション時間、モバイル離脱率
検索に課題がある場合、たとえば、絞り込み後の結果で離脱が多い、条件が多く操作を諦める、といったデータが表れます。
成約率が低い場合は、成立後のメッセージ機能やKYC(本人確認)といった安心・安全の仕組みに問題があるケースが多く見られます。また、モバイル離脱では、レスポンシブ対応や表示速度が主な原因であることがほとんどです。
課題を数値で記録しておくと、要件定義での優先順位付けやRFPでの現状説明に使えます。GA4などのアナリティクスツールとCRMデータを組み合わせて深刻度をスコア化すると、ベンダーにも説明しやすくなります。
技術的負債・外部連携・KGIの現状整理
KPIの課題に加えて、技術的負債と外部連携も確認します。技術的負債とは、開発速度を優先して積み重なった設計や実装上の問題のことで、リニューアルの制約になります。
- 技術的負債:フレームワークやライブラリのバージョン陳腐化、テストコード不足
- 構成・運用:モノリシックな構成、デプロイ自動化の未整備
- 外部連携:決済、SNSログイン、メール配信、本人確認API
外部連携は、リニューアル後も引き継ぐか、別のサービスに切り替えるかを決めておきます。連携先の仕様変更や廃止予定も、あわせて確認してください。
外部連携の洗い出しを怠ると、要件定義で仕様が固まらず、開発中に大幅な手戻りが発生します。最後に、KGI(重要目標達成指標)も設定します。
KGIは、リニューアル後の成功を経営目標と結び付けて、数値で定義します。例として「12か月で成約率を現状比30%向上」や「モバイル離脱率を15ポイント改善」といった形になります。
KGIが定まっていないと、要件定義で「あれもこれも必要」となり、要件が膨らみます。そこで、KPIや技術面の現状と合わせて、達成した状態を明確にしておきます。
要件定義:機能要件・非機能要件とMust/Wantの仕分け

要件定義では、アセスメントで把握した課題を、システムで解決する要件に落とし込みます。要件定義書では機能要件と非機能要件を分けたうえで、各要件をMust(必須)とWant(あれば望ましい)に仕分けます。
仕分けを怠ると要件が膨らみ、予算や納期が破綻するおそれがあります。要件定義・ディレクション費用の相場は、総予算の10〜30%です。この工程を削ると、開発中の手戻りでかえって高くつくケースが多いため、発注側は適切な工数を確保しておきます。
マッチング特有の機能要件
マッチングサイトには、一般的なWebサービスとは異なる機能要件があります。まず候補を並べ、どの機能がリニューアルの目的に直結するかをKGIと結び付けます。
- 検索・推薦:検索、絞り込み、推薦アルゴリズム(レコメンド)
- やり取り・決済:メッセージ、チャット、課金、決済
- 信頼・管理:KYC、年齢確認、評価、レビュー、通報、ブロック、会員管理・案件管理を行う管理画面
Must/Wantは、「この機能がなければKGIを達成できないか」で判断します。たとえば成約率の改善が最優先なら、成立後のメッセージ機能とKYCはMustとなるケースが多くあります。
AIを使った高度なレコメンドエンジンの刷新は、Wantに分類されるケースが多くあります。そのうえで、Wantはフェーズ2以降の追加候補として別リストに保管し、今回の発注範囲から外します。
モバイル対応は、今のマッチングサイトでは前提に近い要件です。スマートフォンのUX改善を明記しないと、ベンダーがPC優先の設計を提案することがあります。そこで、要件定義書には「モバイルファースト設計を原則とし、iOS/Androidの主要ブラウザで動作確認を必須とする」と記載します。
非機能要件:セキュリティ・可用性・Webガバナンスの基準
非機能要件では、システムがどの品質水準で動くかを定めます。マッチングサイトでは、セキュリティや可用性に加えて、パフォーマンスやWebガバナンスも論点になります。
- セキュリティ:個人情報のアクセス制御、暗号化、ログ保全
- 可用性:RTO、RPO、月次稼働率などの基準
- Webガバナンス:コンテンツポリシー、不正検知、通報対応
セキュリティ要件には、氏名・住所・決済情報をどう扱うかを書きます。KYCで集める本人確認書類や、外部APIで送受信するデータの管理方針も、あわせて明記します。
可用性は、許容できるサービス停止時間をRTO(目標復旧時間)で示します。また、データ消失の許容範囲はRPO(目標復旧ポイント)で定めます。
24時間稼働が前提になることが多いため、月次稼働率99.9%(停止時間は月43分以内)などのSLA基準を記載します。提案の段階で、インフラ設計を評価できます。
Webガバナンスでは、投稿や利用のルールをどう運用するかを整理します。成りすましや詐欺被害が社会問題になるケースもあるため、通報ルートと対応フローは、システム要件に含めておきます。曖昧なままだと、トラブル時の責任分界が不明確になり、どこまでを誰が受け持つかが分からなくなります。
RFP(提案依頼書)の必須項目と記載のポイント

RFP(提案依頼書)は、複数のベンダーから比べられる提案を得るための文書です。内容が具体的なほど、現実的なアーキテクチャと見積を得やすくなります。
マッチングサイトのリニューアルでは、RFPに最低限必要な項目を盛り込みます。内容が曖昧だと各社の見積の前提がずれ、提案を横並びで比べられなくなります。
RFPに含めるべき必須記載項目
比較可能性を確保することは、RFP発行の大きな目的です。そのため、マッチングサイトのリニューアルでRFPに記載したい必須項目は次のとおりです。項目をそろえておくと、ベンダーは提案の前提を同じにできます。
- 背景・現状:リニューアルの目的、KGI、課題の定量データ
- 対象範囲・要件:対応範囲と対象外、Must/Want、画面一覧やユーザーストーリー
- 非機能・移行:セキュリティ、可用性、性能、モバイル基準、データ移行の範囲と方法
- 予算・納期:希望する予算レンジと全体スケジュール
- 選定・保守運用:評価観点・配点、選定フロー、保守体制・バグ対応SLA・機能追加方針
特に見落とされやすいのが、データ移行の仕様です。会員情報、取引履歴、マッチング履歴を新システムへ移す方法は、開発工数と費用の両方に影響します。
データの形式や件数を事前に整理し、クレンジングの必要性と移行テストの方法も決めておきます。これらを明記しないと、ベンダーが最小限の前提で見積もることがあります。そのため、後から大規模なデータ整備が追加費用になることもあります。
RFPでは、提案書の書式も指定できます。初期開発費とインフラ費、保守費とオプション費を、分けて記載させます。また、回答してほしい質問をテンプレートにまとめると、各社の提案を同じ観点で比べられます。
ベンダー評価観点と選定プロセスの設計
ベンダー評価の観点は、提案を受け取る前にRFPへ明記しておきます。後から決めると選定が担当者任せになり、社内で理由を説明しにくくなります。
- 実績・技術:マッチング開発実績、技術力
- 提案・体制:提案書の具体性、体制
- 支援・費用:セキュリティ、価格、保守サポート
この3分類に含まれる評価軸は、個別に数えると計7つです。各観点に重み付けを設定すると、定量的に採点できます。例として、開発実績25点、技術力・アーキテクチャ提案25点、価格・費用対効果20点とする配点があります。
保守サポート体制とセキュリティ対応を各15点とする配点例もあります。配点を決めておくと、複数の関係者が参加する選定会議でも、客観的に議論できます。
重み付けは、自社のプロジェクトの特性に合わせて調整します。選定は、RFPを送付し、提案書を受け取り、プレゼンと質疑を経て評価・採点を行い、優先交渉権を与える順で進めるのが一般的です。
プレゼンでは、成りすまし対策、KYC実装、課金フローの設計経験を確認します。さらに、類似案件のトラブルと対処方法を聞くと、実力と誠実さを見極められます。
アセスメント→要件→RFPを通した進め方の勘所
アセスメント、要件定義、RFPは、それぞれ別々の文書ではなく、一本の流れでつなげて考えます。課題から要件、要件からRFPの記載へと筋道を通すことが大切です。
たとえば、成約率の低さを課題として特定したら、要件定義ではメッセージ機能の改善やKYCの強化をMustに位置づけます。そのうえで、RFPには課題と要件をベンダーへ正確に伝えるように書きます。一貫性が崩れると、ベンダーは機能の必要性を理解しないまま提案することになり、的外れな提案が増えます。
スコープ管理と予算の現実的な組み立て方
リニューアルでは、要件が膨らんで予算が2倍になる事態が起こりがちです。そこで、要件定義でMust/Wantを仕分け、スコープ、費用、日程を管理します。
- 要望管理:Wantはフェーズ2以降の候補として別管理し、開始後の追加要望は費用見積とあわせて採否を決める
- 予算配分:要件定義・ディレクションに総予算の10〜30%を充てる
- 関連費用:開発、データ移行、テスト、インフラ構築、年間保守の各費用
- マイルストーン:RFPに要件定義・設計・開発・UAT(受入テスト)完了、本番リリースの5点を記載
- 日程確認:中規模は要件定義からリリースまで4〜8か月。短い提案は根拠を確認
要件定義の工数を削ると設計が甘くなり、開発段階で手戻りが生じます。また、保守費は初期開発費の15〜25%が年間の目安です。
各工程の期間は、サイトの規模や複雑さによって変わります。ただし、短すぎる日程は品質リスクを高めます。
データ移行の仕様確認による手戻りの防止
会員データ、取引履歴、マッチング履歴の移行には、特に注意が必要です。既存データは、サービスの信頼性と継続性にかかわる部分で、移行に失敗すると会員離脱やサービス停止につながります。
- 構造と件数:データベース構造と各テーブルのレコード件数を把握
- 品質確認:重複、欠損、文字コードの不統一、日付形式の揺れを調査
- 担当範囲:クレンジングを自社・ベンダーのどちらが担うか要件定義書に明記
- 移行リハーサル:本番前に所要時間、エラー率、検証方法を確認し、問題があれば修正して再実施
- 段階的移行:ダウンタイムを抑えるため、並行稼働が可能かベンダーに確認
クレンジングを誰が受け持つかが曖昧だと、ベンダーが最小限の前提で見積もることがあります。その結果、後から大規模なデータ整備費が追加されるケースも多く見られます。
まとめ
アセスメント、要件定義、RFPの流れと、各段階で確認する項目を見てきました。
アセスメントでは、KPI低迷、成約率、モバイル離脱の数値と、技術的負債、外部連携の現状を把握し、KGIを定めます。この作業が要件定義の精度を左右します。
要件定義では、機能要件と非機能要件を分けたうえで、Must/Wantで優先順位を付けます。
RFPには、背景・現状や対象範囲・要件、非機能・移行などの必須項目を含めます。そろえた前提で、各社の提案を比べられるようにするためです。
要件定義・ディレクション費用の相場は、総予算の10〜30%です。ここを削ると、開発中の手戻りでコストが膨らむことがあります。
アセスメント、要件定義、RFPは、課題から要件へ、要件からRFPへと一貫してつなげます。これにより、ベンダーが的確な提案を出しやすくなり、選定後の認識のずれも抑えられます。
データ移行の方法、クレンジングの担当範囲、評価の重み付けを要件定義書とRFPに記載します。見落とされやすい点を先に明確にしておくことが、リニューアルの成否を分けます。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
