モダナイゼーションの成否は、現状の課題、選ぶ手法、移行の進め方によって変わり、業務効率化や保守費削減にもつながります。製造業の基幹系や小売の店舗運用、金融機関の勘定系では、保守費の増加や改修の遅れが課題となる企業が増えています。
効果や成果につながる進め方が見えず、判断に迷う経営者や情報システム部門もいます。全体像はモダナイゼーションの完全ガイドもご覧ください。
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モダナイゼーション事例を学ぶことの重要性

新規開発と違って、稼働中の現行システムを止めずに作り替えます。長年の運用で仕様が複雑になり、当初の設計意図が失われているケースも少なくありません。こうした難しさから、事例から学ぶ意義が高まっています。
そのため、計画段階で参考にできる先行事例の価値は高い領域です。他社がどこで課題を抱え、どんな手法や判断を選び、どんな成果を得たかを知ることが、自社の刷新計画の精度を左右します。また、事例は成功談として読むだけでなく、自社で再現できる判断や備えるべきリスクを読み取る教材にもなります。
「2025年の崖」が示す刷新の緊急性
経済産業省のDXレポートは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを刷新しないまま2025年を迎えた場合、その後に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘しています。
この必要性は国レベルで定量化され、「2025年の崖」と呼ばれています。刷新を急ぐ理由と急ぎすぎる危険は、どちらも事例から学べます。
- 企業の課題:JUAS調査では約7割が既存システムの老朽化を経営課題として挙げている
- 業界の広がり:製造業の生産管理、小売業の販売管理、金融機関の取引処理、サービス業の予約・顧客管理なども対象に含まれる
- 老朽化の傾向:基幹的な役割を担い、長く使われてきたシステムほど老朽化しやすい
- 業界横断の視点:「自社の業界は関係ない」とは限らず、事例を横並びで見る価値がある
- 移行時の注意:急ぐ理由と急ぎすぎる危険を見極めたうえで、適切な速度で進める
全社を一度に切り替えると、重大なトラブルを招きかねません。一方で、次章以降の成功企業は、刷新の速度と移行リスクのバランスを丁寧に取っていました。
事例から読み取る3つの視点
成功事例を自社の計画に活かすには、成果だけでなく、課題から効果までの判断過程を見ることが欠かせません。特に見落とされがちな意思決定も含めて、事例を3つの視点から読み解けます。
- 出発点:刷新前に抱えていた課題
- 意思決定:課題に対して選んだ手法や進め方
- 得られた効果:定量・定性の両面で変化した点
同じ保守費の課題でも、全面刷新、土台の載せ替え、業務プロセスの見直しでは、必要な期間・費用・リスクが異なります。このため、成功企業は制約と目的に照らして、実施しないことも決めていました。
効果は、夜間処理の短縮時間、保守費の削減割合、月間の業務削減時間などで測れます。さらに、属人化の解消や新施策の進めやすさといった定性面も見る必要があります。次に見る事例も、定量と定性の両面から読み解きます。
業務効率化・コスト削減を実現した刷新の成功事例

ここでは、モダナイゼーションで成果を出した製造業、小売・流通、インフラ運用の事例を取り上げます。それぞれの課題、アプローチ、効果から、自社に置き換えられる判断を探していきます。数字の裏側にある判断には、ほかの企業でも活かせるヒントがあります。
製造業:基幹系刷新で夜間バッチ8時間を90分に短縮
まず取り上げるのは、従業員約1,200名の製造業における基幹系刷新です。この会社はCOBOLの基幹システムを長年使っており、夜間バッチに約8時間かかっていました。
夜間バッチが翌朝の業務開始に間に合わないリスクがあり、運用負荷とコストの両面で限界に近づいていました。さらに、保守費は年2,400万円規模でした。
- 刷新方法:資産を棚卸しして機能・データ・依存関係を洗い出したうえで、リビルド型を選択
- 載せ替え:不要な機能を削り、必要な処理だけを新基盤へ移行
- 処理時間:約16ヶ月で刷新し、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮
- 保守費:サーバー保守費を年2,400万円から850万円へ、約65%削減
- 業務面の効果:翌朝前に処理が終わる安心感も得られ、定量と定性の両面で効果が出た代表例
小売・流通:イオングループの業務可視化で月700時間を削減
次に紹介するのは、小売・流通大手のイオングループです。自動化ツールを導入する前に対象業務を分析し、業務の可視化を起点にしました。
- 可視化する理由:不要作業や重複手順、自動化に向かない属人的判断を見つける
- 導入時の注意:整理しないまま導入すると、無駄な作業まで自動化するおそれ
- 削減効果:効果を高められる対象を見極め、月あたり700時間規模を削減
- 刷新の範囲:業務プロセスの見直しと部分的な自動化も刷新の一形態
成果を左右したのは、進め方の順序でした。刷新は基幹システムの全面的な作り替えに限らないため、この教訓は業界を問わず応用できます。
インフラ運用:ユニリタのログ可視化による作業負担の5分の1への軽減
ユニリタは、大規模なITインフラ運用を可視化しました。200種・約30,000台のネットワーク機器と約10,000台のサーバーから、1日10億件の通信ログを集計しました。
- 可視化の背景:膨大な機器それぞれのコストや負荷を把握することが課題
- 特定した対象:保守費が高い機器や、役割を終えつつある機器
- 判断の変化:データを基に、残す機器と整理する機器を選べる状態にした
- 成果:作業負担は5分の1に軽減し、投資対効果は数億円規模
可視化は、勘や経験に頼らず合理的に意思決定するための土台です。この取り組みは、「測れないものは改善できない」という原則を体現しています。
業界横断で見るモダナイゼーション成功のパターン

製造業・小売・インフラ運用では業界やシステムが異なりますが、成否を分ける判断軸は似ています。再現性の高い成功パターンを、3つの観点で整理します。
現状把握を起点に手法を選ぶという意思決定
成功事例に共通するのは、いきなり作り始めないことです。ただし、刷新の起点となった現状把握は事例ごとに異なっていました。
- 製造業:現行システムの資産を棚卸し
- イオングループ:業務プロセスを分析
- ユニリタ:インフラのログを可視化
手法に唯一の正解はなく、リビルド、業務プロセスの見直し、部分的な自動化などの中から、自社の課題と制約に合う方法を選びます。
現状把握で判断材料を揃えたうえで、実施することとしないことを決めます。手法ありきで進めると、途中で目的を見失うことがあります。
移行方法も判断の対象になります。全社を一度に切り替えるビッグバン型は速いものの、トラブル時の影響範囲が大きくなります。一方で、成功事例は機能や対象を区切って段階的に移行していました。これはストラングラーパターンに通じる進め方です。急ぎつつも一気に進めないことが、成功事例に共通する点です。
業務改革との連携と効果の定量管理
第二の共通点は業務改革との連携で、第三の共通点は効果の定量管理です。定量管理は、投資判断の段階から組み込んでおくのが理想です。
- 業務手順:導入の前後で仕事の流れを見直し、旧来の業務をそのまま移す刷新は避ける
- 事例の指標:製造業は処理時間・保守費、イオンは削減時間、ユニリタは作業負担・投資対効果
- 目標管理:事前に数値目標を置き、刷新後に達成度を評価
- 投資評価:トヨタ自動車はQCDS(Quality・Cost・Delivery・Safety)の4つの軸で多角的に見ている
単一の指標だけでなく、複数の軸でバランスを見ると、刷新が事業に貢献しているかを立体的に捉えられます。
成功と失敗を分ける分岐点
刷新の結果は分かれるもので、江崎グリコの事例からは、成功と失敗の分岐点が読み取れます。
- 障害の事例:江崎グリコの基幹システム切り替えで、チルド商品の全品出荷が停止
- 設計と検証:移行計画が不十分だと事業も止まりかねず、手間をかけた準備が成否を分ける
- 準備不足のリスク:影響範囲の見積もりや切り戻し手順が不十分になりがち
- 成功企業の進め方:現状把握と段階的な置き換えに時間をかける
- 失敗回避のチェックリスト:現状把握から始め、手法を選び、業務改革と定量管理を行ったうえで、段階的に移行する
失敗要因やリスク全般を把握するには、別の観点での整理が必要です。成功事例との対比からは、移行設計の重要性が見えてきます。
この進め方を実践できるかで、業界を問わず刷新の成否は決まります。手法の派手さよりも、丁寧な進行の積み重ねが大切です。
まとめ
モダナイゼーションの成功事例を、業界横断の視点で見てきました。
製造業の基幹刷新では、資産の棚卸しを起点にリビルドし、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮しました。さらに、保守費も年2,400万円から850万円へ約65%削減しています。
イオングループは、導入前の業務可視化によって月700時間規模を削減しました。ユニリタはログの可視化で作業負担を5分の1に減らし、数億円規模の投資対効果を得ています。
成功の要点は、現状を把握して手法を選び、業務改革と定量管理を行い、段階的に移行することです。たとえば、トヨタ自動車のQCDSのように、複数の軸で投資効果を見る姿勢も役立ちます。
江崎グリコの事例が示すように、移行計画が不十分だと事業停止を招くおそれがあります。刷新の成否は、手法の派手さよりも進め方の丁寧さに左右されます。
自社の状況に置き換えて事例を読み返し、判断軸を計画に反映してください。手法や費用感、進め方の全体像は、完全ガイドであわせて確認できます。
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