人事管理システムのRFP/要件定義書/提案依頼書について

発注企業が人事管理システムのRFP(提案依頼書)や要件定義書を作るときは、既製のSaaSで足りるかを見極めたうえで、制度や連携、データ移行を要件に落とし込みます。

要件を制度に合わせて丁寧に整理すると、導入後のミスマッチを減らせます。全体像は人事管理システムの完全ガイドもご覧ください。

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SaaSかカスタム・スクラッチかの方式を見極める要件整理

方式選定では、既製のSaaSで足りるか、カスタマイズやフルスクラッチが必要かを見極めます。まず、汎用化できる要件と自社固有で譲れない要件を分けておきます。この分け方が曖昧なまま製品を比べると、標準機能では自社の評価制度を再現できないと後から分かり、手戻りが生じます。

標準化できる要件と自社固有要件の切り分け

人事業務には、企業間で共通する標準的な業務と、自社独自の運用があります。方式選定では、この2つを分けて確認します。

  • 標準業務:入退社、勤怠、社会保険の届出
  • 自社固有の制度:評価制度、等級体系、独自のグレードや手当

標準業務は法令に沿う処理が中心で、SaaSの標準機能でまかなえることが多くあります。一方で、評価制度などは企業ごとの差が大きく、方式選定の核になります。

要件定義書では、各機能を一覧にし、標準機能、設定、カスタマイズのどれで対応するかを仮に書き込みます。大半を標準機能や設定でまかなえるなら、SaaSが有力です。

評価制度の核がSaaSに合わない場合は、カスタマイズやスクラッチも視野に入ります。ただし、制度を無理に変えて合わせるより、自社に合うシステムを選ぶほうが定着しやすいケースもあります。

要件定義段階での費用の前提把握

方式選定には、費用の前提理解も欠かせません。SaaS、オンプレ型、フルスクラッチは、それぞれ費用の構造が異なります。

  • クラウド型SaaS:初期費用と月額料金
  • オンプレ型:初期投資と保守費用
  • フルスクラッチ:オンプレ型に近い費用構造で、大きな初期投資と個別開発

リサーチでは、HCMの初期費用は10万〜30万円未満が最多で32.9%、30万〜100万円未満が25.1%です。さらに、初期無料は10.4%にとどまります。

月額は1名あたり300円〜500円未満が最多で35.1%、500円〜800円未満が27.8%です。この範囲が、SaaSのおおよその相場感です。

一方で、オンプレ型の人事評価システムは、初期費用が数百万円〜数千万円で、保守費用は年額で初期費用の10〜20%が目安とされます。また、フルスクラッチは、自社制度を忠実に再現でき、ベンダーロックインを避けやすい利点があります。

予算やRFPでは、単年の月額よりも数年間のトータルコストで各社を比べます。そのため、要件定義の段階でSaaSとカスタム・スクラッチの費用の構造を押さえておくと、判断がぶれにくくなります。

ポイント

既製のSaaSで足りるか、スクラッチが要るかは、標準化できる要件と自社固有の制度を分けて決めます。費用は、単年の月額より数年間のトータルコストで見ると判断を誤りにくくなります。

自社評価制度への適合要件の定義

評価制度のシステム要件を評価項目、評価軸、評価フロー、承認担当の4項目に分けた図解。
制度の形と進め方を別々に書き出すと、製品との適合を確かめやすくなります。

評価制度は企業文化や人事ポリシーを反映しているため、制度をシステム要件に落とす作業は、要件定義でも特に難しく重要です。制度とシステムが噛み合わないと、評価運用が機能しません。そこで要件定義では、現行制度を分解し、再現する要件を明文化します。

評価項目・評価フロー・承認段階の要件化

評価制度を要件にする際は、まず評価項目とその構造を整理します。次に、評価の進行手順も具体化します。

  • 評価項目:定量目標(MBO)と定性評価(コンピテンシー等)
  • 評価軸:項目ごとの配点や重み、職種・等級ごとの差
  • 評価フロー:目標設定から自己評価、一次・二次評価、最終承認まで
  • 承認担当:誰が最終承認するか

承認段階の階層数や差し戻し時の扱いまで詰めておくと、製品の適合性を正確に判定できます。要件を文書化すると、SaaSの標準フロー、設定、カスタマイズのどれで対応するかが明確になります。さらに、文書化した要件は、ベンダーへの説明資料や複数製品の比較表にも使えます。

評価段階が独特な場合や、職種ごとに異なる評価シートが必要な場合は、汎用SaaSの自由度では足りないことがあります。また、要件が曖昧なままデモを見ると、各社の良い面だけが目に入り、判断を誤りがちです。

無料トライアルと相見積もりで適合性を実機検証

要件を文書化したら、無料トライアルと相見積もりで、実機を確かめます。

  • 制度の再現:評価項目を設定し、評価フローを一巡させる
  • 見積もり比較:対応可否、カスタマイズ費用、期間を比べる
  • 現場の操作性:現場の数名に試してもらい、使用感を確かめる

リサーチでも、相見積もりと無料トライアルでUI/UXや評価制度への適合を実機で確認することが重要だと指摘されています。カタログやデモの段階では、自社の制度を再現できるかは確かめられません。そのため、実際に設定して評価フローを試すと、標準機能の限界やカスタマイズの必要性が見えてきます。

複数社に同じ要件定義書を渡せば、各社の見積もり差が生じた理由を確認できます。同じ条件で比べることは、安さだけで決めるリスクを抑えることにもつながります。

リサーチでは、操作性が悪く浸透しなかったことが失敗要因の上位です。そのため、現場の使用感を導入前に確かめる工程も、要件定義に含めます。

ポイント

製品が自社の評価制度に合うかは、評価項目から承認段階までを文書にしたうえで、無料トライアルで実際に再現できるかを見て判断します。

給与・勤怠連携とデータ移行の要件

連携と移行の要件を、連携先とデータ、連携頻度、連携方式、移行対象の4項目に整理した図解。
接続条件と引き継ぐ履歴を並べると、確認の抜けを見つけやすくなります。

人事管理システムは、給与・勤怠・労務などと連携して使われることがほとんどです。そのため、連携と移行の要件もRFPに盛り込む必要があります。

RFPに盛り込まないと、導入後に連携の不整合や過去データの引き継ぎ漏れが起き、トラブルになります。連携と移行の要件は、プロジェクトの成否を左右します。

既存システムとのAPI連携要件の明文化

連携要件では、相手のシステムや、受け渡すデータ、連携頻度を文書にしておきます。

  • 連携先とデータ:給与システムへ渡す評価・等級データ
  • 取り込むデータ:勤怠システムから取得する打刻データ
  • 連携頻度:リアルタイム・日次・月次

連携方式は、API、CSV連携、手動のなかから対象システムごとに選び、データを受け渡す向きも明記します。連携先にAPIがなければ、開発で接続する必要があるかも確かめます。

さらに、将来の乗り換えを見据えて、データを取り出しやすいかも見ておきます。リサーチでは、API連携開発費の相場、移行時のデータ取得、ベンダーロックインが、競合記事で語られにくい論点とされています。

RFPには「契約終了時に人材データを標準形式でエクスポートできること」などを記載します。入口だけでなく出口の自由度も決めておくと、長期的なリスク低減につながります。

データ移行・名寄せと初期設定の要件

Excelや旧システムから移行する場合は、履歴の範囲、データの精度、作業を担う側を決めておくと、移行要件が明確になります。

  • 移行対象:何年分の履歴を移すか
  • 移行精度:データをどの精度で移すか
  • 作業主体:自社とベンダーのどちらが移行するか

社員番号の体系が異なる、所属履歴が散在する、表記に揺れがある場合は、名寄せや整備に想像以上の工数がかかります。

初期設定の代行、データ移行、運用コンサルも、予算を押し上げる隠れコストです。リサーチでも、こうした費用は予算オーバーの要因になりやすいと指摘されています。

たとえば、月額だけで安いと判断しても、初期設定やデータ移行に別料金がかかり、総額が膨らむことは珍しくありません。一時費用はRFPで明細化し、トータルコストで比べます。総額を見比べれば、後の予算トラブルを防げます。

ポイント

連携と移行の要件は、RFPに書いていないと導入後に不整合や引き継ぎ漏れが起きやすくなります。データの出口と一時費用も含めて決めておくと、後の手戻りを抑えられます。

企業規模別の料金体系選択とRFPへの落とし込み

人事情報を中心に、アクセス管理、データ保護、監査と防御、可用性とバックアップを周囲に配置した図解。
情報への入口、保存、監査、障害への備えを一枚で見渡せます。

料金体系の選択は、要件定義における重要な意思決定です。料金体系には、従量制、定額制、段階制の三種類があります。

従量制は1ユーザー課金、定額制は全社固定、段階制は人数の範囲ごとの料金です。最適な方式は、規模と成長見込みによって変わります。

RFPでは、従業員数と増減の見通しを示したうえで、有利な料金体系の提案を求めます。そのため、各社のコストを比べられます。

規模別の料金体系の傾向と選び方

リサーチによる規模別の傾向を踏まえ、現在の人数と増減の見通しから料金体系を選びます。

  • 小規模(1〜99名):従量制や無料プラン
  • 中規模(100〜999名):段階制
  • 大企業(1000名以上):定額制

人事評価システムの課金モデルのシェアは、定額制33.3%、従量制30.3%、段階制28.7%とほぼ均等です。小規模は従量制と定額制に分散し、中堅と大企業では段階制と定額制がそれぞれ最多です。

人員が増えると従量制の費用は人数に応じて伸び、一定規模を超えると定額制や段階制が有利になります。一方で、人数が読みにくい小規模では、従量制で無駄を抑えられます。

RFPでは、現在と将来の人数を示し、複数の料金体系で数年間のコストを試算してもらいます。そのため、今の人数だけでは分からない、自社に有利なプランを比べられます。

補助金活用とRFP記載のチェックポイント

中小企業では、IT導入補助金の活用も要件定義に組み込む価値があります。

  • 補助金の対象:製品やベンダーが対象か
  • 提案内容:導入後のサポートと定着支援があるか
  • 運用準備:KPI、運用チーム、利用促進策を含むか

リサーチでは約40%の企業が何らかの補助金を利用し、中堅(100〜999名)ではIT導入補助金の利用率が最も高く24.6%です。補助金は導入費の一定割合を補助します。

RFPの最終確認では、機能要件と連携要件、データ移行要件を見直し、料金体系や補助金対応も確かめます。そのうえで、導入後の支援体制と定着支援の有無もRFPに明記します。

リサーチでは、性能より運用準備が成否を分けると指摘されています。また、RFPは、機能を発注する書類であるとともに、導入後に現場へ定着するまで、どう支援するかを問う文書です。

隠れコストと総保有コストの見積もり項目化

表示される月額からは見えにくい一時費用も、RFPの見積もり項目に含めます。そうすると、導入時にかかる費用を各社で比べられます。

  • 初期設定:設定代行の費用
  • データ移行:既存データの移行費用
  • 運用支援:運用コンサルの費用
  • 追加開発:追加カスタマイズの費用

リサーチでも、こうした隠れコストが予算オーバーの主要因だと指摘されています。見積もりの内訳をそろえることが、予算トラブルの予防になります。

要件定義では、単年の月額より、数年間の総保有コスト(TCO)で判断します。入口の安さに左右されず、使い続ける総額を見極めます。

たとえば、3年〜5年で試算すると、SaaSの月額累計とカスタム・スクラッチの初期投資が逆転する点が見えます。TCOには、保守費用、法改正対応費、人員増減による料金変動も含めます。

そのうえで、RFPでは各社に同じ期間・前提のTCOを出してもらいます。長期の総額で比べれば、表示価格の安さに惑わされず、有利な選択ができます。

非機能要件とセキュリティ要件の明記

RFPでは、機能要件だけでなく非機能要件も重要です。人事情報を守る条件を、ここで確かめておきます。

  • アクセス管理:権限を細かく制御できるか
  • データ保護:通信と保存データを暗号化できるか
  • 監査と防御:操作ログと不正アクセス対策があるか

セキュリティ要件が不足していると、自社基準を満たさないと後から分かり、導入が頓挫することがあります。要件定義の段階で、あらかじめ明示しておきます。

人事情報は給与や評価に直結し、システムが止まれば業務にも影響します。そのため、RFPでは可用性とバックアップ、障害時の復旧目標を整理し、サポート対応時間も同じ場で確かめます。

クラウド型では、データセンターの信頼性やSLAを確認します。一方で、オンプレやスクラッチでは、自社の運用体制を確かめます。

非機能要件を整理するときは、自社の業種固有の規制やガイドラインも洗い出します。これに照らすと、社内規程や業界のセキュリティ基準を満たす製品に絞られます。

コンプライアンス要件を後から伝えると、追加対応で費用と期間が膨らみます。そのため、RFPに先に明記して、選定後の手戻りを防ぎます。

機能と非機能の両方をRFPに含めると、使えても安心して任せられない事態を避けられます。網羅的な要件定義をしておけば、長く使えるシステムを選べます。

ポイント

料金体系は人数の見通しに合うものを選び、比較は数年間の総額で行います。一時費用や補助金の対象、非機能要件もRFPに書き込んでおきます。

まとめ

RFP・要件定義は、SaaSかカスタム・スクラッチかの方式選定から始めます。続いて、評価制度と給与・勤怠連携を整理し、データ移行と料金体系も確かめます。

標準化できる要件と自社固有要件を分けたうえで、評価項目から承認段階までを文書にします。無料トライアルと相見積もりで、実機も検証します。

連携や移行では、隠れコストとデータの出口も要件に含めます。料金は規模別の傾向を踏まえ、将来の人数を前提に複数案を試算します。

小規模は従量制と定額制、中堅は段階制、大企業は定額制が選ばれやすい傾向です。試算すると、自社に有利なプランを比べられます。

補助金や導入後の定着支援も、RFPに含めます。全体像は、冒頭で紹介した完全ガイドをご覧ください。

riplaは、フルスクラッチ受託と運用伴走の立場から、自社制度に合う要件整理と定着までを見据えたシステム化を支援します。

要件定義は時間と労力がかかります。省略すると、その影響が導入後に何倍にもなって返ることがあります。

要件を丁寧に積み上げれば、導入後のミスマッチを防げます。また、ベンダー提案の質が上がり、比較も的確になります。

現場の使われ方を無視すればシステムは形骸化し、連携や移行の詰めが甘いと手戻りを繰り返します。要件定義は、製品選びの前段にとどまらず、プロジェクト全体の成否を決める工程です。そのため、時間をかける価値があります。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。