保守開発のメリット/デメリット/効果と判断基準について

保守開発の体制は、内製か外注か、いまの体制を続けるか別の形に切り替えるかで選びます。どちらにも一長一短があり、保守には開発費の5〜15%/年という決して小さくないコストが続くため、効果とコスト・リスクを比べて自社に合う形を選ぶことが欠かせません。

本記事は、保守開発の導入・委託のメリットとデメリット、効果と判断基準を、発注企業の視点から整理した「メリデメ特化」の記事です。全体像をまだ把握していない方は、まず保守開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。

内製と外注のメリット・デメリット

内製のノウハウ蓄積と機動力、外注の即戦力と対応力を左右に並べた図。
体制ごとに得られる強みが異なる。

保守開発の体制を考えるとき、最初の分かれ道になるのが「内製か外注か」です。どちらか一方が優れているとは一概に言えず、それぞれにメリットとデメリットがあるため、自社の状況に合わせて選ぶことになります。まずは両者の特性を、メリットとデメリットの両面から見ていきます。

内製のメリットと属人化のデメリット

保守開発を内製する最大のメリットは、システムのノウハウが社内に蓄積されることです。自社のエンジニアが保守を担えば、システムの構造や業務との結びつきを深く理解した状態が保たれ、外部に頼らず機動的に改修や障害対応ができます。

仕様変更の判断から実装までを社内で完結できるため、スピード感も出しやすくなります。さらに、ベンダーロックインに陥る心配もありません。特に、事業の根幹をなすシステムで頻繁に改修が発生する場合は、内製の機動力が大きな武器になります。

一方、内製のデメリットは属人化です。保守を特定のエンジニアに任せきりにすると、その人が退職した途端、システムの中身が分からなくなり、保守が立ち行かなくなります。

こうした状態は、社内版のベンダーロックインとも言えます。加えて、保守できる人材の採用・育成にはコストがかかり、保守ニーズが一定量なければ、その人材を遊ばせることにもなります。

内製のメリットを活かすには、ドキュメントを整備して属人化を防ぎ、複数人で保守できる体制を作ることが欠かせません。属人化が招く失敗やリスクの詳細は、関連記事もあわせてご覧ください。

内製の体制は、属人化と人材コストの二つの面から点検できます。

  • 担当者の分散:特定の一人に保守を任せきりになっていないか
  • 人材の見通し:保守の量に対して、採用・育成の費用が見合うか

外注のメリットとブラックボックス化のデメリット

保守開発を外注するメリットは、即戦力と対応力を確保できることです。専門のベンダーは多様なシステムの保守経験を持ち、24時間365日の障害対応体制や、幅広い技術スタックへの対応力を備えています。

自社で保守人材を採用・育成する必要がなく、必要な分だけ保守リソースを確保できます。そのため、保守ニーズが一定でない企業や、保守人材の確保が難しい企業にとっては、外注が現実的な選択になります。近年は、月額10万円・最低1か月から使える内部組織型のメニューもあり、外注の柔軟性は高まっています。

外注の最大のデメリットは、システムがブラックボックス化し、ベンダーロックインに陥るリスクです。保守をベンダーに任せきりにすると、システムの中身を社内で把握できなくなり、いざ乗り換えたくても「そのベンダーにしか分からない」状態になります。

公正取引委員会の2022年2月8日の調査では、自治体の98.9%が既存ベンダーと再契約していました。また、48.3%が「既存ベンダーしか機能詳細を把握できなかった」と回答しています(出典:公正取引委員会)。

ブラックボックス化を防ぐには、契約の中身と社内での把握度を見ておくことが要ります。

  • 契約の内容:ドキュメントの提供を契約に盛り込んでいるか
  • 社内の把握度:ベンダーが替わっても、社内で中身を説明できるか

ポイント

内製か外注かは、社内で保守人材を採用・育成できるか、保守ニーズが一定しているかを基準に考えるのが目安です。どちらを選んでも、属人化やブラックボックス化を防ぐ体制を整えることが前提になります。

定額制と従量制のコスト構造の違い

保守の発生頻度、費用の予測可能性、契約範囲、月間の予算上限を並べた確認項目の図。
頻度と契約条件を並べると、費用の考え方を整理しやすい。

保守開発を外注する場合の代表的な契約形態が、定額制と従量制です。どちらを選ぶかで、コスト構造とリスクの所在が変わります。

保守費用は一般に開発費の5〜15%/年が相場です。ただし、この相場の中で、定額と従量のどちらが自社に有利かは、保守の頻度によって変わります。

定額制のメリットとデメリット

定額制のメリットは、費用が読みやすく、予算管理がしやすいことです。毎月決まった額を支払えば、契約範囲内の保守は何度発生しても追加費用がかからないため、障害や改修が多い月でも費用が膨らむ不安がありません。

継続的に一定の保守が見込まれるシステムや、費用の予測可能性を重視する組織にとって、定額制は安心感のある選択です。また、ベンダー側も安定収入を前提に体制を組めるため、対応の質が保たれやすいという利点もあります。

一方、定額制のデメリットは、保守がほとんど発生しない月でも一定額を支払う点です。安定して動いているシステムでは「今月は何もなかったのに費用だけかかった」と割高に感じられることがあります。

また、定額の範囲外となる大きな改修は別料金になるため、「どこまでが定額に含まれるか」が曖昧だと、想定外の追加請求でトラブルになりかねません。

定額制で追加請求の不安を減らすには、契約範囲の線引きと範囲外の単価を決めておくことが要ります。

  • 契約範囲:定額に含まれる作業と、範囲外となる改修の線引き
  • 範囲外の単価:範囲外の作業をいくらで依頼するかを取り決めているか

従量制のメリットとデメリット

従量制のメリットは、保守が少なければ少ないほど費用が安く済むことです。安定して動いていて、めったに障害や改修が発生しないシステムであれば、対応した分だけ支払う従量制のほうが、定額制より割安になります。

無駄な固定費を払いたくないなら、従量制は合理的な選択になります。たとえば、月額10万円・最低1か月から使える内部組織型のように、必要な分だけリソースを確保できる柔軟なメニューは、従量的な発想に近い選択肢と言えます。

従量制のデメリットは、保守費が一気に膨らむことです。費用の上限が見えにくく、予算管理が難しくなります。特に、システムの劣化が進んで障害が頻発するようになると、従量制では保守費が想定を超えてしまうことがあります。

従量制を選ぶなら、月間の予算上限や工数枠を設け、費用が青天井にならないようにコントロールすることが、デメリットを抑える前提になります。定額か従量かは、自社のシステムの安定性と、費用の予測可能性をどこまで重視するかで決めることになります。

従量制では、保守の発生頻度の見込みと、費用の上限を設けているかで、費用の振れ幅が変わります。

  • 保守の発生頻度:今後の障害や改修が、どの程度見込まれるか
  • 上限の設定:月間の予算上限や工数枠を設けているか

ポイント

定額制か従量制かは、保守の頻度が多いか少ないかと、費用の予測可能性をどこまで重視するかで決めるのが目安です。定額制は契約範囲、従量制は予算の上限を先に決めておくことが大切です。

乗り換えるべきかを見極める判断基準

乗り換え判断の視点としてTCO、ベンダーロックイン、ドキュメントの整備状況、事業上の重要度を示す4つのパネル。
月額費用以外の移管条件も判断に加わる。

保守開発のメリットとデメリットを理解したうえで、多くの企業が直面するのが、「いまの保守体制を続けるべきか、別のベンダーや体制に乗り換えるべきか」という判断です。乗り換えには移管の手間とコストが伴うため、感覚ではなく明確な基準で判断することが求められます。

TCO(総保有コスト)で比較する判断基準

乗り換えを判断する第一の基準は、TCO(総保有コスト)の比較です。乗り換え先の月額が安くても、移管の初期費用(数十万〜数百万円)や一時的な工数を加味すると、回収までに時間がかかる場合があります。そのため、月額保守費の安さだけで乗り換えを決めると、かえって損をすることがあります。

判断は、現行ベンダーの月額と、乗り換え先の月額・移管初期費用を並べ、何か月で投資を回収できるかを見て行うのが基本です。たとえば、月額保守費が30万円から20万円に下がり、移管初期費用が100万円かかるなら、月10万円の削減で10か月後に投資を回収でき、それ以降は純粋なコスト削減になります。

逆に、月額の差が小さいのに移管費用が高い場合は、乗り換えても回収に何年もかかり、メリットが薄くなります。TCOで比べれば、「なんとなく高い気がする」という感覚的な不満を、明確な数字で判断できるようになります。

TCOで比べるときは、月額の差が移管の初期費用に見合うかと、移管に伴う社内の工数を合わせて見ます。

  • 月額の差:移管の初期費用と比べて、差額が十分に大きいか
  • 一時的な工数:移管に伴う社内の手間を、費用と合わせて見ているか

ロックイン度とドキュメント整備状況の判断基準

第二の基準は、ベンダーロックインの度合いです。いまのベンダーにどれだけ依存しているか、システムの中身を社内で把握できているか、ドキュメントは整備されているかを点検します。ロックインが深い場合は、乗り換えたくても移管が難しく、移管費用も高くつきます。

前述の公正取引委員会のデータからも分かるように、自治体の98.9%が既存ベンダーと再契約していた背景には、この移管の難しさがあります(出典:公正取引委員会)。このように、ロックインが深いほど、乗り換えのハードルは上がります。

第三・第四の基準は、ドキュメントの整備状況と、そのシステムの事業上の重要度です。ドキュメントが整っていれば移管はスムーズになり、リバースエンジニアリングのコストも抑えられます。

事業の根幹をなす重要システムであれば、多少コストがかかっても、ロックインを解消して保守の自由度を取り戻す価値があります。逆に、まもなく刷新予定の周辺システムなら、無理に乗り換えず現状維持が合理的なこともあります。

乗り換えの判断は、TCOを基本にしつつ、ロックイン度やドキュメントの整備状況、事業上の重要度を合わせて見ることで、後悔のない選択になります。

ロックインの度合いは、次の点から確かめられます。

  • 依存の度合い:社内で中身を説明できる部分と、ベンダー任せの部分
  • 刷新の予定:まもなく刷新するシステムかどうか

ポイント

乗り換えは、移管費用を含めた回収期間で判断するのが目安です。ロックインが深いほど移管は難しくなるため、事業上の重要度とあわせて慎重に見ることが大切です。

まとめ

保守開発のメリットとデメリットを振り返ると、内製はノウハウ蓄積と機動力がメリットで、属人化がデメリットです。一方、外注は即戦力と対応力がメリットで、ブラックボックス化やロックインがデメリットという対照が見えてきます。

コスト面では、定額制は費用が読みやすい反面、割高に感じられることがあります。また、従量制は安く済む反面、障害が多発すると費用が膨らむリスクがあります。

乗り換えの判断は、月額の安さだけで決めず、移管費用を含めたTCO(総保有コスト)と回収までの期間、ロックインの度合い、ドキュメントの整備状況、事業上の重要度を総合して行うのが鉄則です。

自治体の98.9%が既存ベンダーと再契約していたという公的データは、ロックインの強さを示しています(出典:公正取引委員会)。

保守体制の選択に、万能の正解はありません。自社の保守頻度や技術力に照らし、事業上の重要度や予算の予測可能性も含めて、メリットとデメリットを比べて選ぶことが大切です。

riplaは、フルスクラッチ受託と国内伴走を組み合わせ、内製・外注の比較からTCOを踏まえた乗り換え判断まで、自社の状況に即して支援します。全体像の確認には、保守開発の完全ガイドをあらためてご活用ください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。