勤怠管理システムのRFP/要件定義書/提案依頼書について

勤怠管理システムのRFPは、就業規則の要件化から始め、連携、TCO、移行と並行運用へと具体化を進めると、手戻りを抑えられます。

この記事は発注企業の視点から、RFPに書く要件を項目ごとに解説します。全体像は勤怠管理システムの完全ガイドもご覧ください。

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独自就業規則を要件化するRFPの書き方

就業規則を勤務形態、計算ルール、端数処理の観点に分け、端数処理の例として15分単位と1分単位を示す図
規則の分類と計算単位を分けて整理できます。

「うちは普通の勤務体系です」と思っていても、部署ごとの細かな例外が積み重なっている企業は少なくありません。そのため、勤怠管理システムの要件定義では、就業規則をシステムの要件に置き換える作業が欠かせません。

打刻方法の柔軟性や、変形労働・フレックス・独自の丸め処理を再現できるかは、導入の成否を分けるといわれます。就業ルールの要件化は、それほど大切な作業です。

勤務形態・例外ルールの洗い出し

要件定義は、自社にどんな勤務形態があるかを洗い出すところから始まります。雇用区分や部署ごとの例外まで挙げておくと、必要な設定を見落としにくくなります。

  • 勤務形態:固定時間制、フレックス、変形労働時間制、シフト制、裁量労働制
  • 計算ルール:休憩、深夜・休日の割増率、残業の起算点、所定労働時間
  • 端数処理:勤務時間を何分単位で丸めるか

変形労働時間制には1か月単位と1年単位があります。そのため、計算に影響するルールは、具体的な数値とともに要件へ書き出しておきます。

丸め処理は、たとえば「15分単位で切り捨て」「1分単位で計算」のように、企業ごとに異なります。丸め処理を明記しないと、稼働後に給与額がずれるおそれがあります。

RFPに「就業規則を再現できること」と抽象的に書くと、ベンダーは対応可否を判断しにくくなります。勤務形態ごとの単位や率、起算点まで書き、ベンダーが答えられる粒度にしておきます。

複数法人・外国人雇用など複雑要件の明記

標準的な勤務形態以外に複雑な雇用要件があるなら、提案段階で対応可否を確定させるため、RFPの最初に明記します。

  • 複数法人:兼務者の労働時間合算やグループ全社の一元管理
  • 外国人雇用:外国人スタッフ向けの多言語打刻
  • 特殊な雇用:単発・日雇い派遣の勤怠

市販システムでは「要確認」とされやすく、調査でも多言語対応、一元管理、日雇い派遣の勤怠は未確定のまま残りやすいと指摘されています。こうした要件は、提案時に確かめておきます。

複雑な要件が導入後に分かると、追加開発やカスタマイズで予算が膨らみます。RFPでは、各要件を「対応可能・要カスタマイズ・対応不可」のいずれかで答えてもらいます。

複雑要件を早く開示すれば、提案の精度が高まり、費用も見えやすくなります。

ポイント

就業規則は単位や率まで数値で書き、複雑な雇用要件は提案段階で示させると、ベンダーの対応可否を比べやすくなります。迷ったときは、この2点が要件に入っているかで判断できます。

給与計算・周辺システム連携の要件定義

勤怠管理システムは単独では完結せず、給与計算などの周辺システムと連携して価値を発揮します。そのため、接続先と方法を決め、連携するデータと時期も要件に定めておきます。

連携要件が曖昧なままだと、稼働後にデータを手作業で転記する事態になりかねません。そこで、連携の範囲と運用をRFPに記載します。

給与計算ソフトとの連携方式と項目の定義

中心になる連携先は、既存または導入予定の給与計算ソフトです。RFPには、接続先から頻度までを具体的に書き込みます。

  • 連携先と方式:給与計算システム名とAPI・CSVの別
  • 連携項目:労働時間、残業・深夜・休日の対象時間、手当の根拠時間
  • 連携頻度:データを連携するタイミング

給与奉行クラウドやfreee人事労務など、自社で使う給与側ソフトとの相性は選定の決め手になります。

さらに、連携には隠れコストも伴い、給与計算連携の構築には10万〜50万円かかることがあります。見積もりに含めないと予算超過につながるため、この費用もRFPで確認します。

オールインワン型、シリーズ連携型、異ベンダー間のCSV連携は、いずれも総額で比べます。

RFPでは、連携項目の精度と費用も要件に含めます。

法令対応と退職者データ保存の要件化

退職者データの保存は、要件定義で見落とされやすい論点です。法令対応では、特別条項や部署別の設定まで確かめておく必要があります。

  • 法令対応:36協定の上限アラート、年5日の有給取得管理、勤務間インターバル監視
  • 退職者データ:保存年数と保存方法、アカウント課金、法定期間への適合
  • データ出力:エクスポートできる項目、形式、タイミング

法令対応が標準機能で足りるのか、カスタマイズが要るのかは、提案段階で確認します。

退職者の勤怠データは、労基法上の保存義務を満たす形で扱います。SaaSでは退職者アカウントの課金を確認し、無料系サービスでは保存期間が法定期間を満たすかを確かめます。

一方で、自社開発であれば、課金と切り離して自社データベースに保存する設計も要件にできます。運用開始後の手戻りを避けるため、この点は早い段階で決めておきます。

SaaSによっては、データの出力形式や範囲に制約がある場合もあります。

将来システムを乗り換える可能性があるため、勤怠データを必要な形式でいつでも取り出せるかを確かめておきます。データの出口を要件に定めておくと、特定ベンダーへのロックインを避けやすくなり、長期運用の柔軟性も守れます。退職者データの保存にも活用できます。

ポイント

給与計算との連携は接続先から頻度まで、法令対応と退職者データは保存年数や課金まで書くと、各社の提案を同じ基準で比べられます。

月額だけで選ばないTCO評価軸の要件化

クラウドSaaS、ノーコード受託、ERP連携型の5年TCOを3つのパネルで比較する図
費用の幅から提供形態ごとの違いを見渡せます。

月額だけで提案を選ぶと、後から隠れコストが発生することがあります。初期費用と月額に加え、保守と隠れコストも評価に含めます。

要件定義では、5年間のTCO(総保有コスト)を評価軸にします。各ベンダーに5年分の総額を見積もってもらうことが、投資判断の前提になります。

5つの隠れコストを見積もる項目

月額料金だけでは把握しにくい費用は、機器の購入から導入後の運用まで、複数の段階で発生します。

  • ハードウェア費:ICカードリーダーなど、5万〜50万円
  • データ移行費:5万〜30万円
  • カスタマイズ費:20万〜100万円超
  • 給与連携費:10万〜50万円
  • 運用工数:年20万〜100万円換算

これらを見積もりに含めれば、月額の背後にある総コストを比べられます。また、初期費用が無料のSaaSでも、初期設定代行や移行に5万〜20万円を払う企業が多いのが実情です。

RFPでは、費用の内訳を項目ごとに分けて示す見積もり様式を指定します。これにより、「無料」という表示に左右されず、ベンダー間で実質総額を比べられます。費用が分かりやすくなることも、要件定義書がもたらす価値の一つです。

導入後も、打刻漏れの確認、申請承認、月次締めの作業は残ります。こうした作業を前提に、誰が何をどれだけ行うかを想定し、運用工数も総コストに含めます。

導入費だけでなく、継続して発生する費用も含めると、投資対効果を判断しやすくなります。

提供形態別の5年TCOを比較する評価軸

TCO評価軸を要件に組み込むなら、提供形態ごとの5年総額を比べる枠組みが有効です。クラウドSaaS、ノーコード受託、ERP連携型は、それぞれ費用の構造が異なります。

  • クラウドSaaS:1ユーザー月額300〜500円。100名規模なら月5万円前後、5年で約300万円
  • ノーコード受託(Bubble等):初期100万〜300万円、月額1万〜3万円。5年で約160万〜500万円
  • ERP連携型:初期500万円〜、保守20万〜100万円。5年で約1,700万〜6,500万円

固定費型のノーコード受託では、利用者が増えても費用は膨らみません。そのため、50名以上になると、SaaSの従量課金より5年TCOで有利になることがあります。

RFPには現在と5年後の想定従業員数を記し、その規模で各形態の5年総額を試算するよう求めます。成長の見込みを含めて比べます。

この評価軸を要件定義書に組み込んでおくと、後悔しないシステム選定につながります。

ポイント

提案は、初期費用と月額に保守と隠れコストを加えた5年総額で比べます。利用人数が50名以上かどうかも、提供形態を選ぶ材料になります。

データ移行と並行運用の要件化

移行対象と役割分担の整理から並行運用、集計結果の照合、本番切り替えへ進む流れを示す図
新旧の集計を照合する工程が切り替えの判断につながります。

勤怠管理システムの導入失敗で一位に挙がるのが、データ移行です。そのため、移行と並行運用を独立した要件として立て、費用と体制も織り込みます。

多くの記事や提案は「ベンダーに確認しましょう」で終わりがちです。一方で、移行内容を計画に含めておけば、稼働遅延や給与事故を防ぎやすくなります。

移行対象データと役割分担の要件化

まず、何を移すかを決め、移行元と移行先の対応関係を整理します。対象データの状態を確かめることが、移行計画の出発点になります。

  • 従業員マスタ:紙、Excel、旧システムなどの移行元
  • 勤怠・休暇データ:過去の勤怠記録と有給休暇の残日数
  • 就業ルール:移行する設定と新システム側の対応関係

失敗統計には、移行や初期設定が難航し、スケジュールが1か月遅れた例があります。安定稼働まで2か月かかったという声もあります。

データのクレンジングを自社とベンダーのどちらが担うか、費用にどこまで含まれるかは、RFPで定めておきます。

移行費の目安は5万〜30万円ですが、データの状態が悪いと工数が増えます。そのため、移行範囲と役割、費用上限を決めておき、後から出てくる追加費用を防ぎます。

並行運用期間とサポート体制を要件に明記

給与に直結する勤怠データは、いきなり全面切り替えするとリスクがあります。そこで、新旧システムを並行稼働させ、集計結果が一致するかを確かめます。

  • 並行運用:期間と給与計算の確認方法
  • 導入支援:初期設定代行や伴走支援、専任担当の有無
  • 差異対応:新旧集計に差が出た場合の原因究明の担当

RFPには、集計結果を確かめて本番に移るまでの並行運用期間を明記します。期間は給与計算の締めサイクルに合わせて決めます。

失敗統計では、連携不具合で給与支給が3日遅れた例や、残業代に月10万円の差異が出た事故が報告されています。

導入時の支援は定着率に関わり、現場への浸透も後押しします。

riplaは、フルスクラッチやノーコード受託、国内開発の立場から、要件整理から稼働まで伴走する進め方を重視しています。

並行運用では、少なくとも1か月分の給与計算を新旧両方で行います。金額が一致したことを確かめてから、本番へ切り替えます。

RFPには、並行運用中の作業分担と、差異の原因究明を担う側も書き込みます。自社とベンダーが共同で進める前提を、要件に含めておきます。

RFPは、移行と定着まで含む導入プロジェクト全体の設計図として書きます。機能一覧で終わらせないためです。

ポイント

移行対象と役割分担、並行運用の期間と差異対応まで要件に書いておくと、稼働の遅れや給与事故を防ぎやすくなります。費用と体制も、あわせて要件に含めます。

非機能要件とサポート体制の評価軸

機能の洗い出しだけでなく、非機能要件とサポート体制も要件として定めます。性能やセキュリティ、導入後の支援は、安定運用を左右します。

特に全従業員が毎日打刻するシステムでは、これらをRFPに含めることで、ベンダーの実力を多面的に評価できます。

性能・セキュリティ・可用性の非機能要件

始業時と終業時は、従業員のアクセスが集中します。そのため、想定する同時打刻数と、集中時にも遅延なく処理できる性能をRFPに記します。

  • 性能:想定同時打刻数と集中時の処理
  • セキュリティ:アクセス権限、通信の暗号化、ログ記録
  • 可用性:稼働率、バックアップ、障害時の復旧手順

打刻の画面が固まると、現場の負担になり定着も妨げられます。従業員数が多い企業ほど、性能要件を具体的な数値で定めておく必要があります。

勤怠データは個人情報なので、取り扱いの水準を要件で明確にしておきます。

システムが停止すると打刻できず、業務も止まってしまいます。こうした事態を避けるため、非機能要件も機能要件と同じ重みで扱います。

非機能要件が曖昧だと、平常時は問題がなくても、アクセス集中や障害時に運用が破綻します。

初期設定代行・伴走支援の要件項目

サポート体制は、導入と定着に関わります。RFPでは、初期設定の代行や就業ルール設定の支援内容を確認します。

  • 問い合わせ:対応範囲と応答時間
  • 導入支援:就業ルール設定への伴走と専任担当の有無
  • 法改正対応:対応する側と保守契約の範囲

就業ルールが複雑な企業ほど、ベンダーの伴走の有無で稼働までの期間が変わります。そのため、RFPでは支援内容を具体的に答えてもらいます。

クラウドSaaSは自動アップデートで法改正に対応します。一方で、自社開発では、保守契約に法改正対応を含めるかを明記します。

サポート範囲は、月額や保守費用が妥当かを判断する材料になります。riplaは、フルスクラッチやノーコード受託、国内開発の立場から、非機能要件や初期設定、法改正に追従する保守体制の要件化を支援しています。

機能だけでなく、非機能要件とサポートもRFPで問うことが、長く安定運用できるシステムを選ぶ条件です。

ポイント

性能、セキュリティ、可用性は具体的に、初期設定や法改正対応の支援範囲は契約の中身まで書くと、ベンダーの実力と保守費用の妥当性を比べられます。

まとめ

勤怠管理システムのRFPでは、就業規則を数値まで具体化し、給与連携や法令対応、退職者データ保存を定めます。5年TCOで比べ、移行と並行運用も独立した要件として立てます。

変形労働や独自の丸め処理、複数法人・外国人雇用などの複雑要件は、早い段階で開示しておきます。そのうえで、5つの隠れコストを見積もりに含め、移行と定着まで導入全体を設計すれば、手戻りや予算超過を防げます。

機能の有無だけでなく、自社業務と移行の流れを再現できるかが大切です。riplaは、要件を洗い出すところから連携、TCO評価、移行設計まで伴走し、要件化を支援しています。

全体像の確認には、完全ガイドもあわせてご活用ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。