化学/素材業界のシステム開発の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

化学・素材業界のシステム開発は、現場の手順を標準化してから、要件定義、設計・開発へと進み、実データでのテストを経て段階的に切り替える順で進めます。この順番を踏むと、安全を守った稼働につながります。

化学・素材業界のシステム開発の全体像

化学・素材業界の業務基盤で扱う、レシピ、原価、在庫・物流、規制・GX情報の4領域を示す図。
製造条件から規制情報までが、同じ業務のまとまりとして並びます。

化学・素材業界のシステムは、生産管理だけを単独で作るものではありません。製造や在庫、物流の業務を、同じデータの流れでつなぐ業務基盤になります。法規制や会計・原価、環境情報も、この流れに含めて考えます。

特にプロセス型製造では、投入量と出来高が毎回一致するとは限りません。だからこそ、製造実績を正確に記録できる設計が欠かせません。

レシピ・配合比率の正確な管理

製造指示に使うレシピは、配合条件と承認状況を次の観点で管理します。

  • 配合条件:化学品、樹脂、塗料、食品素材などで、製品番号、原料の配合比率、投入順序、温度、圧力、撹拌時間、許容差を管理
  • 版管理:顧客仕様や原料ロットで条件が変わる場合に備えて、レシピごとに版数と適用期間を持たせる
  • 承認追跡:誰がいつ承認した条件かを記録し、承認済みのレシピだけを製造指示に反映

特にExcelで最新版を探す運用は、誤配合や品質記録の欠落につながります。

歩留まりと連産品・副産物の原価把握

反応・蒸留・分離の工程では、主製品と複数の副産物が生まれます。そのため、投入原料費を完成品数量で割ると、製品別の採算が歪みます。

主製品と連産品にどう原価を配賦するかは、先にルールとして決めておきます。廃棄、再投入、リサイクルの扱いと、ロット別の実績歩留まりも要件に含めます。

標準歩留まりとの差を日次で確認すると、原料ロスや設備条件、作業手順のうち、改善すべき箇所を絞り込めます。

サイロ・タンク在庫とバルク物流の連携

粉体や液体の物流では、保管から出荷までの情報をつないで管理します。

  • タンク在庫:袋単位だけでなく、サイロ・タンクごとの容量、残量、温度、保管期限、使用可能量を管理
  • 出荷計画:ケミカルローリーや専用船の車両・船腹、積載条件、納入先の受入可能時間を考慮し、販売管理とTMS(輸配送管理システム)を連携
  • 定時共有:入港予定、サイロの空き容量、輸送計画を共有し、電話や紙での確認を減らして荷役の安全性を高める

SDS・PRTR・危険物管理とGX情報の連携

法規制とGX情報は、製品・原料マスタを中心に、関連情報や実績データを結び付けます。別々に管理すると、同じ内容を入力し直す二重入力が生じます。

  • 規制情報:SDS改訂、化学物質含有、PRTR対象、危険物区分、保管場所、取扱資格を管理
  • 法令対応:対象判定や帳票作成を自動化しても、最終確認者と改訂履歴を記録
  • CFP算定:原材料調達から廃棄・リサイクルまで、原料、電力、燃料、輸送、廃棄の実績を製品やロットにひも付ける

環境省の資料では、PRTR制度とSDS制度の対象となる第一種指定化学物質は515物質です(出典:環境省「PRTR制度・SDS制度の概要」)。

ポイント

レシピや原価、在庫・物流、規制情報を同じデータの流れでつなげられるかが、システム候補を比べる目安になります。製造実績の正確な記録も外せません。

化学・素材業界のシステム開発の進め方

化学・素材業界のシステム開発を、現場観察、要件定義、設計・開発、並行稼働・段階移行の順に並べた図。
切替前に現場で確かめる工程までが含まれています。

基本は、業務とデータを整理して要件を固め、設計・開発したあとに、実データでテストします。そのうえで、段階的に切り替えます。

稼働後の成否は、システムの完成度だけでなく、現場の安全手順とデータ移行の精度にも左右されます。そこで、工場・製品群・業務範囲ごとに区切って進めると、切り替えで起きるリスクを小さくできます。

AXによるアナログ業務の標準化

システム化の前に、現場で行っている業務を洗い出し、手順を標準化しておきます。

  • 現場観察:散水、目視確認、サンプル採取、異常連絡、入港・出荷共有の手順を確認
  • 安全手順:すべてをAIやIoTに置き換えず、粉塵火災や異物混入にはチェックリストと定時連絡を先行
  • システム化:手順を標準化してから、入力や通知を仕組みに反映

要件定義での業務・マスタ・責任者の決定

要件定義では、画面一覧より先に業務イベントを並べ、受注から出荷までの流れを作ります。次に、各段階で必要なデータと承認者を確認し、例外処理と証跡も確かめておきます。

  • 業務イベント:受注、原料受入、製造指図、実績計量、品質判定、出荷
  • 管理マスタ:レシピ、原料、ロット、設備、SDS、危険物区分、取引先、単位換算
  • 責任者:マスタの登録・変更・廃止を担う担当者

追加要望を無制限に受け入れると、納期と費用が崩れます。たとえば、旭川医科大学の電子カルテ訴訟では、追加要望の一部が開発対象外とされました(出典:旭川医科大学・NTT東日本関連の裁判資料)。同資料では、継続的な設定変更が必要なマスタの作成は、ユーザー側の責任と判断されました。

化学業界でも、配合レシピや危険物情報を整備する担当を、契約・要件定義書に記載しておきます。

設計・開発での標準機能と個別開発の切り分け

機能の配置は、現場への適合とアップデート時の改修負担を見て決めます。

  • 機能の分担:ERPや生産管理パッケージの標準機能で対応する業務と、追加開発が要る業界固有の機能を分ける
  • 現場への適合:レシピ版数、連産品原価、タンク在庫、SDS連携を標準画面に無理に合わせると、現場がExcelに戻ることがある
  • 保守性:製造・品質データは個別化し、会計や権限は標準機能を優先する。汎用ERPの全面改修は、更新のたびに費用が発生する

並行稼働と段階移行によるプラント停止の回避

24時間稼働のプラントは、休日に一度切り替えれば済むとは限りません。そのため、パイロットと並行稼働を通じて、稼働条件を確かめます。

  1. 一つの製品群または工場でパイロットを行う
  2. 旧新システムの在庫、製造実績、品質判定を一定期間照合する
  3. 切替判定基準、ロールバック条件、障害時の紙運用、連絡網を決める

現場端末や計量器が止まると、出荷できません。PLCや検査機器、ラベル発行機が止まった場合にも、出荷は止まります。外部機器の動作も、本番の前に確かめます。

ポイント

工場や業務範囲を区切って段階的に進め、切り替え前に実データで確かめるという順番を守れるかどうかが、稼働後の安全を左右する目安になります。

化学・素材業界のシステム開発費用相場と内訳

小規模、中規模、全社基盤の開発費概算レンジを、金額の広がりが分かる横棒で比較した図。
工場や連携範囲が大きくなる区分ほど、費用幅も上方へ広がります。

開発費は、企業規模だけでなく、工場数や製品数によっても変わります。計量機器との連携やレシピの複雑さ、法規制帳票、データ移行量も、費用を左右します。

公的に統一された「化学業界システムの平均価格」はありません。そのため、以下は2026年時点で発注計画を立てるための概算レンジとして示します。

ライセンス費や機器更新費、税、現場の社内工数を含めるかどうかで、金額が変わります。見積書では、どこまでが費用の対象かを確かめてください。

規模別の開発費の幅と目安

化学・素材業界では、工場数やシステム連携の範囲が開発費の目安を左右します。

  • 小規模:単一工場の在庫・製造実績・品質記録をクラウドで始める場合、1,000万〜3,000万円程度
  • 中規模:レシピ、ロット追跡、原価、販売・購買、会計連携で3,000万〜1億円程度
  • 全社基盤:複数工場・海外拠点・MES・TMS・設備連携で1億〜5億円以上

フルスクラッチで、24時間運転や複雑な計量、特殊な品質判定を再現する場合は、費用がさらに上振れします。

要件定義・開発・移行・教育の費用の内訳

要件定義、基本設計、詳細設計・開発、テストを工程ごとに分けて確認します。データクレンジングも、移行に関わる別項目として見ます。

機器・外部連携と教育、移行支援、保守も、項目を分けて示してもらいます。化学・素材業界では、マスタ整備と移行前のデータの洗い出しが大きな工数になります。

旧製品コードと新品目コードの対応や、kg・L・個などの単位換算は、別項目にします。ロット番号やSDS版数の変換作業も、別々に見積もってもらいます。項目を分けておくと、安すぎる見積もりの理由に気づけます。

保守費用とクラウド・オンプレミスのTCOの比較

稼働後の総額は、保守の範囲や運用環境で変わります。主な費用と比較材料を、分けて確認しておきます。

  • 継続費用:保守、監視、問い合わせ、法改正・脆弱性対応、バックアップ、クラウド利用料
  • 年間保守:開発費の15〜20%程度が初期目安。24時間監視、現地駆け付け、機器保守で増加
  • クラウド:初期設備を抑えやすく、拠点追加にも向く一方で、長期の通信・ストレージ費と海外リージョンの為替影響を確認
  • オンプレミス・ハイブリッド:機密性の高いレシピや大量の図面・分析データをTCO(総所有コスト)で比較

ポイント

費用は規模と連携範囲で大きく変わるため、要件定義・開発・移行・保守の費用を分けて見積もりを比べます。稼働後の保守費用も、同じ基準で並べて見ます。

化学・素材業界のシステム見積もりを取る際のポイント

複数社に見積もりを頼むときは、同じRFP(提案依頼書)を渡して、価格と前提条件をそろえます。

機能一覧には、レシピ、ロット、歩留まり、連産品を明記します。さらに、タンク、TMS、SDS、PRTRを加えます。権限、監査ログ、CO2データも、一覧に含めます。

紙で行う現場手順や、計量器・検査機器の型式を伝えると、提案の実現性が高まります。なお、既存データの件数や切替可能な時間帯まで書くと、より具体的な提案が得られます。

プロセス製造の実績と責任体制の確認

ベンダーを選ぶ際は、製造業の実績だけでなく、プロセス型製造の導入実績を確かめます。そのうえで、実例をもとに設計や復旧方法を質問します。

  • レシピと原価:BOMではなくレシピをどう表現し、連産品原価をどう配賦したか
  • 在庫と設備:タンク残量と実在庫をどう照合し、設備停止時にどう復旧したか

面談は、営業担当だけでなく、設計・移行・保守を担うメンバーとも行います。特に、障害時の責任者や移行担当、追加変更の単価を確認します。

レシピの機密性とROIの見積もりへの組み込み

レシピの機密性を守る権限設計と、投資効果の算定は、見積もりに含めるよう求めます。管理策は、利用環境ごとに確かめます。

  • 権限:工場・製品群・工程・承認段階で分け、閲覧・編集・承認・出力を管理し、誰が何を見たかを監査ログに残す
  • クラウド:暗号化、ID連携、多要素認証、バックアップ、再委託管理を確認

オンプレミスの場合も、USBの持ち出しや共有アカウント、バックアップ媒体を管理しなければ、安全とはいえません。

投資判断では、作業時間の削減に加えて、原料ロスや再加工、廃棄を金額で示します。在庫過多や出荷遅延、事故リスクも、金額の対象に含めます。

たとえば、射出成形の設備投資事例では、リサイクル率を10%から25%へ高め、年間PP樹脂購入量を27トン削減し、次の効果を試算しています。同事例の試算では、8年間で81,460千円の原価低減と年間114.696トンのCO2削減が見込まれ、投資回収期間は2年3.3か月です。

これは、システム単体ではなく、設備や運用の改善と合わせた効果です。そのため、削減量や単価、実現時期を根拠付きで示すと、稟議の判断材料になります。

ポイント

複数社に同じRFPを渡し、プロセス製造の実績と障害時の責任体制を確かめたうえで、価格と前提条件を並べて比べます。前提がそろわない見積もりは、単純に比べられません。

化学・素材業界のシステム開発でよくある質問

パッケージ、クラウド、フルスクラッチのどれが合うかは、製品・設備・規制・拠点の条件で変わります。そのため、判断の順番を先に整理しておきます。

化学・素材業界では汎用ERPと専用システムのどちらが適していますか?

会計や購買、販売などの共通領域には汎用ERPを使い、業界固有の領域は専用機能や個別開発で補う方法が適しています。

レシピや歩留まり、連産品、タンク、品質は、業界固有の領域です。そのため、競争力に直結する工程だけを個別化すると、費用と保守性のバランスを取れます。

24時間稼働のプラントを止めずに移行できますか?

段階導入、パイロット工場での検証、旧新システムの並行照合を組み合わせれば、移行できます。また、切替基準とロールバック計画を決めます。

設備制御をすぐに置き換えず、計画・実績・在庫・品質の記録から始める方法もあります。

製造指図や計量、ラベル、出荷に影響する機器を洗い出します。停止できる時間帯と代替手順を決めてから、本番に切り替えます。

クラウドで配合レシピを管理しても安全ですか?

レシピの安全性は、閲覧・編集・承認・出力の権限を分けることで高まります。クラウドかオンプレミスかにかかわらず、この設計が要ります。

多要素認証や通信・保存時の暗号化、監査ログ、バックアップ、退職者のアカウント停止を組み合わせます。

機密度の高いデータは社内環境に置き、その他の業務はクラウドで運用するハイブリッド構成も選べます。

最初にどの業務からシステム化すると効果が出ますか?

現場の負担が大きく、成果を測りやすく、失敗時に人が止められる業務から始めます。

  • 在庫・品質:原料・製品ロットの追跡、タンク在庫、品質記録
  • 現場情報:SDS検索、製造実績入力

安全手順が標準化されていない場合は、先にチェックリストを整え、誰が何を受け持つかを決めます。次に、入力や通知、承認をシステム化すると、現場に定着しやすくなります。

まとめ

化学・素材業界では、レシピや連産品・副産物、歩留まり、バルク在庫を業務データの流れとして設計します。危険物やSDS・PRTR、CFPも、同じデータの流れに含めます。

開発は、現場のアナログ業務を観察し、標準手順と責任者を決めるところから始めます。

次に行うべき業務・データ・リスクの棚卸し

製品や原料、レシピ、ロット、設備のマスタを一覧にします。品質や危険物、SDS、CO2のマスタも、同じ一覧に加えます。さらに、登録・変更・承認・廃止の責任者を決めておきます。

紙やExcel、電話で行っている業務を工程順に並べ、安全に直結する手順と、効率化する手順を分けます。

対象工場と成功指標を絞ったRFPを作り、プロセス製造の実績がある会社に、同じ条件で見積もりを依頼します。

参考情報・出典

本文で扱った制度や算定方法は、次の公的資料を参照できます。

費用相場は、化学・素材業界のシステム開発を発注する際の、計画用の概算です。実際の金額は、対象拠点や機能範囲、データ移行量で変わります。機器連携や保守条件、ライセンスの有無も、金額を左右します。

法令の適用は、最終的に所管官庁や専門家に確かめてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。