商社/卸売業界におけるAI活用の活用事例/実例/具体例について

商社・卸売業界のAI活用は、受発注の自動化、需要・価格の予測、データ連携と人の承認を組み合わせて、業務効率化と利益の確保につなげるものです。

業務別・シーン別の具体例を、課題、導入内容、効果の順に紹介します。商社特有の課題や導入手順、事例、導入後の役割も扱います。

商社/卸売業界におけるAI活用の全体像

商社・卸売業では、販売先と仕入先の間で多くの情報が行き交います。情報は、注文書や納品書、見積書の形で届くほか、メールや電話、Web-EDIでも届きます。形式はさまざまです。

同じ商品でも取引先によって呼び方や単価が異なるため、処理ごとに担い手を分けるのが現実的です。定型処理はRPA、画像や文脈の理解はAI、最終承認は人が担います。

受発注業務を効率化するAI

AI-OCRはFAXやPDFから取引先、商品コード、数量、希望納期を読み取り、販売管理システムへ渡します。

需要予測AIは、販売実績に季節性、曜日、天候、販促予定などを重ねて発注数量の候補を出します。そのため担当者は全件を入力せず、AIが確信を持てない注文や、在庫・粗利への影響が大きい注文を確認できます。

攻めの業務に広がるAI

AIの価値は入力時間の削減だけにとどまりません。購買データから同一品目の重複購入を見つけ、市況ニュースから仕入価格の変動を予測することもできます。

サプライヤーの財務悪化を早期に知らせる活用もあります。NECは2024年の実証で、約1,300部品の納期・数量調整について、AIだけで合意できた割合が95%だったと発表しています。

NECの実証では、数時間から数日かかっていた調整時間を約80秒に短縮したとしています(出典: NEC「AIを活用した調達交渉自動化」2025年)。

ポイント

まず件数が多く効果を測りやすい業務から選び、例外が多い取引先は後回しにするのが判断の目安です。導入の範囲は、精度が出た範囲から広げていく考え方で決めます。

業務別の具体的な活用方法とデータ

AI-OCRで帳票を読み取り、マスタ照合と確認を経て販売管理システムへ連携する流れの図。
確認が必要な項目を人へ渡してから、確定データを連携します。

導入効果を測りやすい三つのユースケースを取り上げます。各事例では、導入前の課題、使うデータと自動化の内容、導入後の効果の順に確認します。

AI-OCRによる非定型帳票の読み取り

取引先ごとに異なる注文書や手書きFAXを人が目視し、商品マスタを検索して販売管理システムへ入力しています。朝の出荷に間に合わせるために早朝出社が常態化し、入力ミスは欠品や誤出荷、返品につながります。

入力の自動化は、読み取り、照合、連携を組み合わせて進めます。効果は作業負担と処理品質の両面で確認します。

  • 読取と照合:FAX・PDFをAI-OCRでテキスト化し、取引先名と商品コードをマスタ照合
  • 確認と連携:確信度の低い項目を確認画面へ送り、確定データをRPAやAPIで連携
  • 効果測定:入力時間、早朝出社、入力ミス、返品件数を測定

RPAは画面操作を自動化できても、帳票の位置ずれや表記揺れの判断は難しいため、AI-OCRとの組み合わせが必要です。

riplaの支援実績には、月間4,000件のFAX処理を自動化し、年間128万円を削減した事例があります。

九州日立システムズの金属卸売業では、年間7万件を超えるWeb-EDI受注の取り込みを対象にしました。作業時間を年間約6,800時間から約2,400時間へ、65%削減しています(出典: 九州日立システムズ「金属卸売業A社さま導入事例」2026年確認)。

需要予測AIによる発注数量の提案

発注担当者は、過去の売上と経験を見ながら商品ごとの数量を手作業で決めています。食品や日用品は曜日、季節、天候、チラシ、イベントで需要が変わるため、数量の過不足が廃棄や欠品につながります。

需要予測では、社内の実績と外部要因を合わせて発注候補を出し、効果も確認します。

  • 予測データ:販売実績や在庫に、天気予報と企画予定を加えた情報
  • 発注判断:目標在庫・安全在庫を含む候補を人が確認する
  • 効果確認:発注時間、欠品・廃棄、在庫金額、緊急配送費を測定

予測には、販売実績、在庫、入荷リードタイムを使います。さらに、最低発注ロットと欠品履歴も加えます。外部要因には、天気予報や企画カレンダーなどがあります。

AIは発注数量を自動確定せず、担当者が例外を承認する形から始めると安全です。riplaの支援実績では、デイリー商品の発注業務時間を60%削減しています。

AIが予測を外した理由を後から確かめられるよう、予測値、実績、採用した発注量を保存しておきます。こうした記録が、現場の信頼と継続的な改善につながります。

異常検知AIによる誤発注と返品の防止

数量、単価、納期、配送先が通常と異なっていても、締め処理や出荷直前まで気づけないことがあります。入力ミスのほか、急なキャンペーンや商品コードの取り違えも、返品や緊急対応の原因になります。重複受注も、返品や緊急対応を招きます。

異常検知では、通常範囲から外れた注文を見つけ、理由と確認先を示します。効果は、ミスや返品対応の負担で測ります。

  • 検知:商品・顧客・曜日別の受注パターンから逸脱を把握
  • 理由の提示:「前月平均の3倍」など異常の根拠を説明
  • 人の確認:自動キャンセルせず、担当者へ確認タスクを通知

過去の受注パターンから、商品・顧客・曜日別の通常範囲を学習し、数量や単価が外れた注文を検知します。理由には、販売先や契約単価との違いも含めます。

riplaの支援実績では、異常検知AIを24時間監視に活用し、入力ミスを90%以上減らしました。

食品卸売業の返品対応コストは年間1,500万円削減しました。夜間・休日の監視負担も軽減できます。

ポイント

三つの事例はいずれも、導入前の課題と効果の指標を先にそろえておくと、導入後の比較に使えます。指標を決める際は、作業時間だけでなく、誤りや返品など業務の品質も含めます。

商社・卸売特有の応用課題へのAI活用

AI活用が難しい理由は、データの不足ではなく、同じ取引にも複数の契約条件があることです。顧客別単価や数量割引などを誤解すると、売上が増えても粗利が下がる可能性があります。

期間限定価格、リベート、返品条件、物流費も判断に関わります。そのため、条件を正しく扱えるように業務とデータを整えることが欠かせません。

複雑な価格設定・リベートの利益管理

販売価格の根拠が営業担当者の経験や表計算ファイルに分散し、顧客別・商品別の実質粗利をすぐに把握できないことが課題です。請求時にリベートを差し引く契約では、見積時の売価だけを見ると利益率を誤認します。

価格管理では、契約情報を構造化し、粗利を踏まえた候補を示します。最低粗利や承認権限は、人が定めます。

  • 見積候補:実質粗利を踏まえた価格案と根拠を提示
  • 価格ルール:最低粗利率、承認権限、値引き上限を別管理
  • 効果測定:回答時間、受注転換率、粗利率、計上差異を確認

契約書や価格表、過去の見積を構造化します。請求実績とリベート条件も、同じように整えます。生成AIに価格を自由に決めさせず、ルールは別に管理します。

AIは「この顧客には過去にこの条件を適用」「数量をまとめるとリベート後の粗利が改善」と根拠を添えて提案します。

提案を採用しなかった理由も記録すれば、現場の判断を学習データに戻せます。また、属人化を解消しながら、営業の交渉力も保てます。

多様な受注チャネルとレガシーERPの統合

注文はWeb-EDI、専用線EDI、FAXのほか、電話やメールでも届きます。形式が異なるため、APIを持たないオンプレミスERPへ手入力する場合があります。商品コードや単位を変換できなければ、AI-OCRを導入した後も手作業が増えてしまいます。

連携では、注文を共通項目に変換してからERPへ渡します。中間データモデルを作り、AI-OCR、EDI変換、メール解析の結果を同じ検証ルールへ通します。エラーはキューに集めてからERPへ連携します。

  • 共通化:取引先、商品、数量、単位、納期、価格を整える
  • 検証・連携:各チャネルのデータを検証し、エラー後にERPへ連携
  • 効果測定:取込時間、再入力、エラー修正、停止時間を評価

基幹システムは一度に置き換えず、連携基盤を挟みながら進めます。既存業務を止めずに済みます。

マスタ変更には申請・承認・履歴管理を設け、特定の担当者しか変換定義を直せない状態を防ぎます。データ統合は付属作業ではなく、AIが安全に判断する土台として最初に設計します。

顧客の売掛金回収リスクの予測

与信審査が新規取引時の一度きりで、支払遅延の兆候を営業担当者の感覚に頼っていることが課題です。受注量が増える顧客ほど売掛金残高も大きく、倒産後に発見すると貸し倒れにつながります。

回収リスクを複数の取引情報からスコア化し、理由と対応案を営業へ示します。あわせて、効果と情報管理も確認します。

  • リスク把握:顧客ごとの回収リスクをスコア化
  • 対応判断:理由と営業の対応案を示し、人が判断
  • 効果測定:延滞、回収日数、貸し倒れ、限度額超過を確認

入金履歴、支払遅延、受注額に加えて、返品・値引き、限度額、取引年数も使います。さらに、公開財務情報やニュースも加えます。

スコアだけで取引停止を決めず、「支払遅延が増えた」「限度額に近づいた」などの理由も示します。守りのAIは売上を直接増やしませんが、取引拡大を安全に判断する材料になります。

営業と経理が同じデータを見て、早期に対応できます。財務情報については、アクセス権限と利用目的を明確にし、人が判定を説明できる運用にします。

ポイント

契約条件が取引ごとに違う場合、AIに判断させる前に、価格やリベートなどの条件をデータとして正しく扱える状態にしておく必要があります。

戦略的調達へ発展させるAI活用

調達リスクに関する予測、代替案、契約責任者の最終判断を3枚のパネルで示す図。
予測と候補の提示を経て、契約責任者が判断を引き受けます。

受注と発注の自動化が安定したら、AIを調達担当者の分析パートナーへと広げていきます。仕入価格の変動は、販売価格や在庫、粗利、顧客との契約に連鎖します。

価格の変動を見るには、単一の予測値ではなく、複数の情報をつないだシナリオが役立ちます。

価格動向とサプライヤーリスクの把握

仕入価格の改定通知や市況ニュースを個別に確認すると、値上がり前の発注や代替先の検討が遅れることがあります。また、サプライヤーの利益悪化、災害、地政学リスクも、在庫や契約と結びつけて見なければ優先順位を決められません。

複数の調達情報からリスクや代替候補を把握し、警告の根拠と予測の不確実性を見て判断します。

  • 予測:値上がり確率や供給停止リスクを推定
  • 代替案:候補と警告の根拠データを提示
  • 最終判断:確率や更新時点を確認し、契約責任者が決定

購買履歴、契約単価、納期実績に加えて、品質不良、ニュース、市況指数も横断して見ます。たとえば、部材Xの来期5〜8%の値上がり見込みや、主要サプライヤーの利益悪化を受けた代替候補の検討を警告します。

効果は、価格改定への対応日数と欠品日数で測ります。そのほか、代替サプライヤーの検討時間や調達単価も見ます。予測は確定情報ではありません。

確率、参照期間、更新日時を示し、最終判断は契約責任者が行います。

経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.1版は、AIのライフサイクル全体でリスクを認識し対策を実行する考え方を示しています(出典: 経済産業省「AI事業者ガイドライン」2025年)。

購買データの横断によるコスト削減

同じ品目を複数部門や拠点が別々に購入すると、数量をまとめた交渉や契約の機会を逃します。商品名や単位が不統一だと、表計算を何時間確認しても重複を見つけきれないことがあります。

購買分析では、品目を分類・名寄せして価格や支出を比較し、提案を契約実務につなげます。

  • 名寄せ・比較:品目情報を揃え、カテゴリ別支出と市場平均を比較
  • 仮説の提示:一括契約や単価交渉の余地を提示
  • 人の確認:品質、納期、契約、取引関係を確認して判断

品目名、規格、仕入先の情報をAIで分類・名寄せします。

一括契約で年間3%削減可能、または市場平均単価より15%高く交渉余地がある、といった仮説が提示されます。

効果は、カテゴリ別の削減額と契約集約率で測ります。分析時間や交渉成立率も、あわせて見ます。

分類精度を高めるため、AIが迷った品目は人が修正してマスタへ戻します。見つけた課題はRFQや見積比較へ進め、承認と契約更新までつなげます。

商社・卸売業がAIを導入するステップとコスト

業務システム、データ基盤、AIを上下に積み重ねた3層構成の図。
データ基盤を間に置く構成が、AIと業務システムの境界を支えます。

AI導入費用は、利用料に加えて、帳票の種類、商品・顧客マスタの整備状況、レガシーERPとの連携方式によって変わります。

過去データの移行、現場教育、運用監視の範囲によっても、費用は変動します。2026年時点で中小卸売業が検討する場合は、月額型SaaS、既存システムとの連携、独自開発を分けて見積もります。

中小卸売業におけるSaaSと独自開発の使い分け

初期投資を大きくかけられず、導入を迷うことがあります。ただし、安価なSaaSでも例外処理や基幹連携が合わず、定着しない場合があります。

選定では、業務の固有性と保守負担を見ます。費用だけでなく、効果と運用コストを合わせて投資を判断します。

  • SaaS:帳票読取や一般的な要約など、業務差が小さい部分
  • 連携・追加開発:価格、リベート、商品コード、与信など固有の部分
  • 費用比較:初期・月額費用、削減効果、将来の改修費を確認

独自開発は自由度が上がる一方で、モデル更新や精度監視を自社で負担します。セキュリティや担当者不在時の保守も、自社で担うことになります。

稟議では、初期費用と月額費用、削減工数を並べます。加えて、返品・廃棄・貸し倒れの回避額と、将来の改修費も示します。

効果は、投資回収期間と業務KPIで判断します。AI-OCRの場合は、精度に加えて、確認を含めた処理時間や取引先を追加するときの設定工数も測ります。月額が低くても、例外処理を人が行うなら、実質的なコストは下がりません。

PoCの成功条件と撤退ラインの事前設定

PoCが「試してみる」だけで終わると、本番判断の材料が残りません。平均精度だけでは、例外の多い取引先や繁忙期を見落とし、現場が手作業へ戻る可能性があります。

PoCでは、対象と評価基準を事前に決め、実績を対象別に確認して撤退ラインを設定します。

  • 開始前に定義:対象業務・取引先、学習期間、正解率、確認時間
  • 効果を確認:全体平均だけでなく、取引先・帳票・繁忙期別に見る
  • 撤退ライン:精度や処理時間、年間削減額で基準を設ける

食品卸「マツヤ」のPoCでは、AI-OCRのテキスト化精度が93%、CSV出力精度が100%でした。商品・取引先検索精度は、初期86%から人と同等レベルまで向上しました。

新規取引先では過去のノウハウが使えず精度が出なかったため、既存取引先に絞って完全自動化を進めました。

たとえば、既存取引先で確認込みの処理時間が50%未満にならない場合や、精度が一定期間改善しない場合を基準にできます。年間削減額が運用費を下回る場合も、撤退の対象です。

撤退は、対象範囲を見直して投資を守るための管理です。

AI前提の3層アーキテクチャによる設計

既存の販売管理システムに後からAIを付け足すと、画面やデータ、権限、例外処理が複雑になることがあります。卸売業のシステム開発では、後付けのAIほど改修コストがかかるという実感があります。

後付けによる複雑化を抑えるため、業務システム、データ基盤、AIの役割を分けます。

  • 第一層:受注・在庫・購買などの業務システム
  • 第二層:商品・顧客・契約・履歴を整えるデータ基盤
  • 第三層:AIによる予測・抽出・提案・エージェント

AIが直接ERPを書き換えないよう、提案と検証、承認と実行の境界を設けます。モデル変更による業務システムへの影響を抑えられます。

効果は、機能追加のリードタイムと連携障害の復旧時間で測ります。AI変更時のテスト範囲や監査ログの確認時間も、あわせて見ます。

将来、生成AIやAIエージェントを追加する可能性があるなら、人の承認と権限、ログを最初から設計に含めます。データマスキングも含めておくと、総保有コストを抑えられます。

ポイント

AI導入の費用は、初期費用と月額費用、削減効果、将来の改修費を並べて判断します。PoCの段階で撤退ラインを決めておけば、投資を守る基準として使えます。

商社・卸売業のAI活用事例

ここまでの内容を、導入判断に使いやすい事例で確認します。対象業務を絞り、現場の例外処理まで含めて効果を測ることが大切です。

食品卸「マツヤ」のPoCにおける自動化範囲の絞り込み

食品卸特有の早朝出荷に対応するため、担当者は注文書を確認し、商品・取引先を検索して入力していました。取引先が増えるほど帳票形式も増え、新規取引先では全件自動化にリスクがありました。

既存取引先を中心に、複数のツールで受注処理を自動化し、精度に応じて人の確認を残しました。

  • 構成:AI-OCR、RPAのAutoジョブ名人、販売プラットフォームIPORTER
  • 自動化範囲:読み取り、検索、CSV出力、登録を既存取引先中心に実施
  • 運用判断:精度に応じて自動化先と人の確認先を分ける

業務時間は年間3,276時間削減しました。テキスト化精度は93%、CSV出力精度は100%です。

検索精度は初期86%から人と同等レベルまで改善しました。精度が出る範囲から広げる判断が、現場で使われ続けるAIにつながります。

riplaの支援実績における工数と損失コストの測定方法

受発注の入力、発注判断、異常監視が経験に依存すると、忙しい時間帯ほどミスが起きやすくなります。工数を減らしても誤出荷や返品が減らなければ、効果は限定的です。

業務ごとにAIを設計し、入力データと判断理由を次の改善や確認に使います。

  • FAX処理:AI-OCRで受注入力を支援
  • 発注支援:需要予測AIで数量を提案
  • 異常監視:異常検知AIを24時間活用

受注・在庫・返品のデータを共通化し、モデル改善に使います。担当者にはAIの結果だけでなく、判断理由と確認項目も渡します。

支援実績では、FAX処理で年間128万円を削減し、デイリー商品の発注業務時間を60%削減しました。異常検知では、入力ミスが90%以上減少しています。

食品卸売業の返品対応コストは年間1,500万円削減しました。稟議では、削減時間の人件費換算だけでなく、廃棄・返品・緊急配送・貸し倒れの回避額も別項目で示します。

AI導入後に営業・事務担当者が担う仕事

AIで入力作業を減らしても、担当者の仕事は自動的に価値の高い業務へ変わるわけではありません。浮いた時間の使い方を決めておかないと、不安が強まる可能性があります。

AIの提案を確認せず、従来の手作業に戻ってしまうこともあります。そのため、導入後に担う仕事と判断範囲をあらかじめ決めておく必要があります。

事務担当者の役割:例外処理と品質改善

AIが処理した注文の確認だけが増えると、担当者は「間違い探し」に追われてしまいます。確認件数が多いままでは、入力作業が確認作業に置き換わるだけです。

事務担当者は例外処理と品質改善を担い、営業担当者は顧客情報を交渉や関係構築に生かします。

  • 事務担当者:マスタ品質、例外ルール、帳票分類、注文形式を改善
  • 営業担当者:顧客別粗利、値引き余地、回収リスクを交渉に活用
  • 効果評価:確認率、例外処理時間、提案件数、粗利率を測定

週次で誤読・誤発注・却下理由を確認し、現場がルールを変えられる運用にします。営業担当者には、交渉や関係構築の研修も行います。

効果は、マスタ修正のリードタイムでも測ります。AI導入の成果は、人員削減だけでなく、改善提案の件数や顧客対応時間の増加も評価し、持続的な定着につなげます。

HITLによるAIと人の責任範囲の設定

誤った代替品提案、異常発注、価格判断が、顧客や仕入先へ伝わるおそれがあります。すべて人が承認すると自動化の効果が小さくなるため、リスクに応じて責任を分けます。

承認設計では、処理区分、記録、効果指標を定めます。重大な誤処理を防ぎながら、自動化の範囲を評価します。

  • 自動処理:低リスクの定型注文を処理
  • 人の承認:高額、契約外価格、初回取引、与信低下を確認
  • 検証:入出力、承認者、結果を記録し、誤処理や承認時間を測定

金額や粗利、与信に応じて承認レベルを変えます。納期や品質のリスクも、承認レベルを決める材料になります。AIの入出力と承認者、実行結果をログに残すと、判断を検証できます。

効果は、自動処理率に加えて、重大な誤処理件数と承認時間で測ります。AI提案の採用率も指標になります。

IPA「DX動向2025」では、大企業ほど生成AIの導入が進み、従業員100人以下の企業では導入・試験利用の割合が低い傾向が示されています(出典: IPA「DX動向2025」2025年)。

この傾向を踏まえ、中小卸売業では、現場が理解できるHITL運用と小さな成功体験から始めます。

ポイント

AI導入後は、事務担当者が例外処理と品質改善を、営業担当者が顧客別粗利や回収リスクを交渉に生かす形で役割を決めます。浮いた時間の使い方を先に決めておくことが、現場の不安を抑える目安です。

よくある質問

商社・卸売業でAI活用を始める際の質問に答えます。費用や精度に加えて、システム連携、現場運用、導入を止める判断も確認してください。

商社・卸売業界で最初に導入するAIは何ですか?

件数が多く効果を測りやすい受注処理のAI-OCRが候補です。発注量が安定しているカテゴリーの需要予測AIも適しています。

受注処理のAI-OCRなどが候補になるのは、入力時間や確認時間、ミス、返品を導入前後で比べやすく、次のデータ活用にもつなげやすいためです。

AI導入の費用相場はどのくらいですか?

一律の相場はありません。SaaSの月額利用料や帳票・商品マスタの初期設定によって変わります。加えて、ERP連携、PoC、教育、運用監視の範囲でも変わります。

見積もりでは初期費用と月額費用を分けます。取引先や帳票の追加、モデル再学習、障害対応が追加料金になるかも、確認してください。

AIの精度が低い場合はどうすればよいですか?

全体を自動化せず、精度が安定する取引先、帳票、商品カテゴリーに対象を絞ります。AIが迷ったデータを人が修正し、その結果をマスタと学習データへ戻します。

改善しない場合は、精度基準と撤退ラインに従い、SaaSの利用範囲を縮小するか、別方式へ切り替えます。

生成AIに取引先情報を入力しても安全ですか?

入力前に、サービスの学習利用や保存場所、アクセス権限を確認します。ログと契約上の責任分界も、確認しておきます。

個人情報や価格、契約条件、財務情報は、マスキングや閉域環境を検討します。AIの提案を人が確認するルールも設けます。

経済産業省のガイドラインを参照し、自社の利用目的とリスクに合わせて管理します。

まとめ

商社・卸売業界のAI活用は、AI-OCRによる受注入力、需要予測による発注、異常検知による返品削減から始められます。

価格・リベート管理、売掛金回収リスク、戦略的調達へと広げることもできます。その際は、共通データ、業務システム、AIと人の承認を分けた構成で設計します。

まず対象業務と取引先を絞り、課題、導入内容、効果を数字で記録してください。読み取り精度や工数だけでなく、誤出荷や返品、粗利、回収リスクまで評価します。

うまくいかない範囲は、撤退・縮小できる基準を先に決めます。浮いた時間を例外処理や顧客提案、調達交渉に振り向け、データ品質の改善にも充てると、AIを利益につなげられます。

参考にした公開情報

経済産業省「AI事業者ガイドライン」: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/

NEC「AIを活用した調達交渉自動化」: https://www.nec.com/en/press/202512/global_20251202_01.html

九州日立システムズ「金属卸売業A社さま導入事例」: https://www-kyushu-hitachi-systems-co-jp.itdweb.ext.hitachi.co.jp/case/manufacturing/case002.html

IPA「DX動向2025」: https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/tbl5kb0000001mn2-att/dx-trend-2025.pdf

本文中のripla支援実績・マツヤPoCの数値は、指定のリサーチノートに基づいています。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。