在庫管理におけるAI活用の活用事例/実例/具体例について

在庫管理へのAI活用は、需要予測、発注や棚卸しの支援、現場の制約に応じた在庫配置を組み合わせ、欠品と過剰在庫の削減を目指すものです。

業務ごとの活用事例から、データ整備とPoCの進め方、リスク管理、費用と効果測定までを、順に見ていきます。

在庫管理におけるAI活用の全体像

需要予測による適正在庫の維持に向け、予測データ、欠品期間、発注条件、評価指標を並べた図解
予測結果は、発注条件と評価指標までそろえて現場判断につなげます。

AIは、将来の需要と現場の制約を踏まえて、次に取るべき行動を提案します。導入時は、「予測するAI」と「現場を動かす仕組み」を分けて設計することが大切です。

需要予測による適正在庫の維持

従来の発注では、過去の販売数と担当者の経験をもとに、安全在庫を積み増す方法が中心でした。一方、AIによる需要予測と発注量の調整では、次の情報と条件を見ておく必要があります。

  • 予測データ:販売実績に、曜日・季節・気温・天候のほか、販促、イベント、価格変更、リードタイムを加えて使います。
  • 欠品期間:欠品中の売上をゼロ需要と見なさず、潜在需要を推計して補正します。
  • 発注条件:最低発注数量、納期、保管容量、賞味期限、サービスレベルを、発注量の計算に反映させます。
  • 評価指標:欠品率に加えて、在庫金額、廃棄ロス、納期遵守率も同時に見ます。

これらのデータから、商品ごと・拠点ごとの需要を予測します。特に、欠品期間を補正しないと、AIが需要の少ない商品だと誤認するおそれがあります。

発注・棚卸し・検品の自動化

業務ごとに、AIが支援できる作業と現場での使い方を決めます。

  • 発注:AIが候補の品目、数量、時期を示し、人が承認してから注文を出す運用が現実的です。
  • 棚卸し・検品:画像認識により、バーコードのない商品や棚の状態を読み取ります。
  • 残量検知:IoTセンサーが重量や入出庫を捉え、消耗品の量が閾値を下回ると通知します。
  • 問い合わせ支援:生成AIは予測モデルに比べて、異常の説明や発注理由の要約、質問対応に向いています。

画像認識は、棚卸しや検品に加えて品出しも支援します。また、発注実績が蓄積されれば、定型品から自動発注へ移行できます。

予測AI、カメラ、センサー、生成AIは一度に導入せず、時間や損失が大きい業務から組み合わせます。

在庫管理AIの活用事例と具体的な効果

補修部品の需要予測事例について、170万点超の品目、即納率98%、在庫を10億円削減の3点を示す図解
多品種を扱いながら、即納率と在庫削減を両立した事例です。

事例を読むときは、課題、導入内容、効果の順に、どの指標がどう変わったかを確認します。商材や拠点、顧客との接点は企業ごとに異なるため、自社に近い課題の事例を参考にします。

コベルコ建機:170万点超の補修部品の需要予測

補修部品の在庫を需要予測で管理した事例です。

  • 課題:建設機械の補修部品は品目数が非常に多いため、常備すると在庫金額が膨らみます。欠品は修理と顧客の稼働に影響します。
  • 導入:170万点超の品目に統計予測と機械学習を使い、出庫頻度とリードタイムから計画を立てます。
  • 効果:即納率98%を保ちつつ、在庫を10億円削減しました。計画策定を月2週間から3日に短縮し、担当者数も半減しています。

従来は担当者の経験による見積もりに頼っており、ロングテール品の判断には限界がありました。

計画担当者が予測結果を確認し、例外品には人が判断を加えます。多品種を扱う場合は、重要度と需要頻度で区分し、人が確認する対象を絞る方法が有効です。

スシロー・トラスコ中山・ZOZO:商材特性に合わせた在庫の持ち方

3社は、それぞれの商材の制約に合わせて在庫や補充の方法を変えています。回転ずしでは鮮度、工場向け工具では顧客拠点での消費、衣料品ではサイズ数が制約になります。特に、予測後の一括発注だけでは、廃棄や欠品は解消しきれません。

  • スシロー:全皿のICタグで、レーン上の経過時間を把握します。それを鮮度管理と廃棄削減につなげています。
  • トラスコ中山:「MROストッカー」で顧客工場の中に在庫を置き、消費の傾向に応じて補充します。
  • ZOZO:体型データによるマルチサイズと受注生産を組み合わせ、多サイズ商品の在庫リスクを抑えます。

スシローでは、AIが1分後と15分後に必要なネタと数量を厨房へ示します。また、トラスコ中山の仕組みは、顧客の調達時間を短縮し、必要な場所に在庫を置く価値を生みます。

Made by ZOZOは、注文後に最低1着から生産し、最短10日で発送します(出典:株式会社ZOZO「Made by ZOZO」、2022年)。

AI活用では、倉庫の在庫を減らすだけでなく、在庫を持つ場所・時点・方法も変えます。

ニチレイロジグループ・東急ストア:過酷な現場での作業時間の削減

冷凍倉庫と小売現場では、確認や品出し、ピッキングの負荷が課題でした。

  • ニチレイロジグループ:賞味期限を読む画像AIで、1箱10秒の確認を2秒に短縮し、精度93%を維持しました。
  • 東急ストア:在庫情報と作業の導線をクラウドで連携し、品出しを1日120分削減しました。
  • 探索時間:ネットスーパーでは50秒から40秒に短くなり、最速は30秒になりました。年間1,200時間の改善につながっています。

冷凍倉庫では、作業者がマイナス25℃の環境で賞味期限を目視で確認していました。小売現場では、品出しやネットスーパーのピッキングに時間がかかり、人手不足が作業量を制限します。

画像認識の精度は、AIモデルだけでなく、照明、撮影角度、ラベルの状態にも左右されます。そのため、傷の検出には斜光照明、色ムラの検出には色温度をそろえた環境光など、現場の設備も整えます。

AI導入時は、精度だけでなく、1件あたりの処理時間と作業者の安全もKPIに含めます。

ポイント

事例を自社に当てはめるときは、課題と商材の制約が近いかを基準にします。鮮度、顧客拠点、サイズ数など、在庫の持ち方を変えた理由に注目すると判断しやすくなります。

在庫管理AIの導入の進め方

段階的なデジタル化として、入出庫記録、マスター統一、FAX注文、シャドーモードへ進む流れを示す図解
記録とマスターを整えてから、提案と実績を見比べます。

導入は、目的を絞り、データを整えたうえで小さく検証し、効果と現場の負荷を確かめてから広げるのが基本です。全拠点や全SKUを一度に自動発注すると、予測の誤差、倉庫の受け入れ能力、担当者の確認負荷が見えなくなります。

データ整備とPoC対象の決め方

発注側は、欠品率、発注工数、廃棄ロスのうち、どれを優先して改善するかを決めます。PoCの前に、開発会社とデータの準備状況を確認し、評価の対象と指標を定めます。

  • データ量:最低1年分の販売・出庫データが目安です。整理に3〜6か月かかる場合があります。
  • データ整備:商品コードの揺れ・返品・休業日・販促・欠品期間・拠点移動を整理します。
  • 記録の統一:紙などで管理している場合は、入出庫日、商品コード、数量、拠点、担当者をそろえます。
  • PoC対象:売上上位の商品に加え、欠品損失が大きい品や予測しやすい定番品も含めます。
  • 評価指標:繁忙期だけに偏らず、予測誤差・欠品率・在庫金額・廃棄率・発注時間・差し戻し件数を比べます。

予測精度が上がっても、発注量が増えて倉庫が回らなければ、成功とは言えません。

超アナログ現場の段階的なデジタル化

紙台帳をいきなり高価なAIシステムに置き換える必要はありません。

  • 入出庫記録:スマートフォンやバーコードで記録し、CSVで集計できる状態を作ります。
  • マスター統一:商品マスター・拠点コード・単位・発注先・リードタイムをそろえます。
  • FAX注文:受信データをOCRで取り込み、人が確認した記録を残す運用です。

この段階では、例外が起きても現場が止まらない運用を目指します。本番前には、AIの提案だけを画面に表示するシャドーモードを設けます。担当者は従来の発注を続けながら、提案と実績を比べ、違いの理由を記録します。

MonotaROは、機械学習への切り替えで発注量が一時増えた際、対象を段階的に切り替えました。また、予測の更新頻度をあえて落とす対応も行いました(出典:MonotaRO Tech Blog、2022年)。

精度の最大化より、現場が処理できる変化量に合わせる判断が必要です。

PoCの撤退基準の事前決定

本番導入を前提にせず、契約前にPoCの継続、再設計、撤退の条件を決めておきます。

  • 欠品:対象商品の欠品率が改善しない場合は、継続の可否を見直します。
  • 予測と工数:予測誤差が許容水準を下回る場合や、発注確認の工数が増える場合を定めます。
  • データ:欠損が一定の割合を超える場合も、判断の条件に含めます。

閾値の数値は、商材と損失額から設定します。PoCは予測精度だけでなく、利益額で判断します。

撤退しても、商品マスターや入出庫データは、棚卸し、BI、手動発注の改善に再利用できます。また、失敗時に残る成果物と、追加投資を止める条件を明確にしておきます。

ポイント

導入範囲は、効果を一つの指標で確かめられる大きさに絞ります。全拠点や全商品を一度に広げず、現場が処理できる変化量かを見てから次の段階に進みます。

在庫管理AIで失敗しないためのリスク管理

AIは、過去データにない災害、急なキャンペーン、取引先の倒産、モデルの不具合を、自動では正しく判断できません。そのため、自動化は段階的に広げ、予測理由、入力データ、承認者、発注結果を追跡できる仕組みを残します。

Human-in-the-Loopによる判断の記録

自動発注を始める前に、制御、担当者の役割、説明、事故対応、契約を整えておきます。

  • 発注制御:上限・急増率のアラート・重要商品の承認必須・休日停止・仕入先の休業日との連携を設定します。
  • 例外管理:担当者は承認役にとどまらず、AIの予測と現場の情報を照合します。
  • 判断根拠:過去実績、販促、季節要因、在庫日数などを画面に表示します。
  • 誤発注対応:検知・停止・仕入先への連絡・返品と振替・原因分析まで、手順を決めます。
  • 契約と権限:契約書で、モデル更新・ログ保存・障害通知・データ帰属・損害時の責任を取り決めます。

導入企業が最終的な発注業務を担う場合は、社内の承認権限も文書で明確にします。

企業間データ共有における目的と権限の切り分け

データ共有は欠品の抑制に役立つ一方で、販売数量や顧客別の需要は営業機密でもあります。

  • 共有の範囲:全データは渡さず、商品コードを匿名化したうえで、期間・粒度・項目を定めます。
  • 合意事項:利用目的・保管期間・再提供の可否・アクセス権限・漏えい時の連絡方法を、合意書に記載します。
  • 責任と利用目的:精度だけでなく、誰が何のデータを何に使うかを定め、契約と責任分担を整理します。

仕入先や物流会社との共有は、欠品を減らし、サプライチェーン全体の最適化にも役立ちます。経済産業省は、AI利用のリスク管理や契約・責任分担を継続的に整理しています(出典:経済産業省「AIガバナンス」、2026年確認)。

ポイント

自動化の範囲は、例外が起きたときに人が止められるかで決めます。承認者、発注上限、誤発注時の手順、契約上の責任まで決めておくと、事故への対応を遅らせずに済みます。

在庫管理AIの費用相場とROIの考え方

2026年時点で、小規模クラウド型の在庫管理システムは月額数千円からです。中堅向けのERP・WMS連携やIoT・AI最適化は、月額数万円から数十万円で、初期費用は数十万円以上です。

SmartMatの2026年の整理では、クラウド型は月額3,000〜100,000円前後です。IoTセンサー連携型は、初期費用50万円以上が目安です(出典:株式会社スマートショッピング、2026年)。価格は公開情報に基づく目安で、SKU数、拠点数、連携範囲、センサー台数により変わります。

初期費用だけでなく5〜10年のTCOでの比較

5〜10年のTCOで比べるときは、初期費用と運用費用を分け、在庫や業務の改善額と照らし合わせます。

  • 初期費用:要件定義・データ整備・モデル構築・API連携・画面開発・端末・センサー・教育・保守を確認します。
  • 運用費用:稼働後は、クラウド利用料・データ転送量・モデルの再学習・マスター更新・精度監視・障害対応・現場教育の追加費用が発生します。
  • 比較対象:総費用を、在庫金額・廃棄ロス・発注工数の削減額と比べます。
  • 効果例:月額20万円で発注時間を毎月100時間削減し、廃棄・緊急配送も年300万円減らせるなら、効果を見込みやすくなります。

予測精度が上がっても、在庫が増える場合があります。そのため、欠品率とキャッシュフローも同時に試算します。

欠品率・廃棄率・工数による効果測定

業務に合わせてKPIを選び、導入前と条件をそろえて比較します。

  • 主要指標:欠品率・在庫回転率・在庫日数・廃棄や滞留在庫の金額・発注リードタイム・発注時間。
  • 追加指標:業務に応じて、予測誤差、棚卸し差異、検品の処理時間、サービスレベルを加えます。
  • 比較条件:導入前の同じ期間・商品群と比べ、季節や販促の影響を切り分けます。
  • 公表事例:MonotaROは2025年度時点で在庫点数68.8万点と、需要予測による自動発注を公表しています。

出典は株式会社MonotaRO「第26期定時株主総会招集ご通知」、2026年です。大規模事例の数字をそのまま目標にせず、自社で毎月追えるKPIに落とし込みます。

ポイント

費用は初期費用と月額だけで比べず、再学習や保守、教育を含む5〜10年の総額で比べます。総額を在庫金額や廃棄ロス、発注工数の削減額と照らし、効果が見込めるかを判断します。

よくある質問

導入を検討する企業からよく寄せられる、データ量、既存システム、費用の疑問に答えます。

在庫管理AIには何年分のデータが必要ですか?

目安は最低1年分の販売・出庫データです。1年分あれば、季節性を含めて検証しやすくなります。さらに、商品コードや欠品期間の整備も重要です。

既存のERPやWMSと在庫管理AIを連携できますか?

連携は可能です。ただし、商品コード、拠点、在庫の締め時刻、発注単位、APIやCSVの仕様を、先に確認しておく必要があります。

最初はAIが候補を出し、人が既存システムに登録する形にすると、連携のリスクを抑えて効果を検証できます。

中小企業でも在庫管理AIを導入できますか?

導入できます。1拠点や定番商品、発注候補の作成など、効果を確認しやすい範囲から始めます。紙やFAXが残る場合も、入力の標準化とOCRの活用から、段階的に進められます。

まとめ

在庫管理AIは、需要予測を導入すること自体が目的ではありません。欠品や過剰在庫を減らすために、商材に合うデータと業務フローを設計し、現場が処理できる速度で自動化します。

コベルコ建機の補修部品、スシローの鮮度、トラスコ中山の顧客内在庫、ZOZOの受注生産は、在庫の持ち方を見直す事例です。

最初の課題とKPIの決め方

欠品率、廃棄率、発注工数から、最優先のKPIを一つ決めます。そのうえで、欠品期間の補正、商品マスターの統一、発注上限、Human-in-the-Loop、PoC撤退基準を決めて検証します。

導入費用は、初期費用と月額だけでなく、再学習や保守、教育を含む5〜10年のTCOで比べます。

本文で参照した主な情報源

本文で参照した情報源は、次のとおりです。いずれも2026年8月確認です。

  • 株式会社ZOZO「ファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す生産支援プラットフォーム Made by ZOZO」
  • MonotaRO Tech Blog「あえて予測の更新頻度を落とす」
  • 株式会社MonotaRO「第26期定時株主総会招集ご通知」
  • 株式会社スマートショッピング「在庫管理システムの費用・料金相場 2026年版」
  • 経済産業省「AIガバナンス」

ZOZO「Made by ZOZO」の発表ページは、https://corp.zozo.com/news/20220825-madebyzozo/です。

記事URLは https://tech-blog.monotaro.com/entry/2022/03/24/090000 です。

株式会社MonotaROの招集通知は、次のURLから確認できます。

https://corp.monotaro.com/ir/upload_file/tdnrelease/3064_20260302573951_P01_.pdf

参照先URLは https://www.smartmat.io/column/inventory_management/8177 です。

参照先URLは https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ai-governance/index.html です。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。