在庫管理システム刷新の事例/成功事例について

在庫管理システムの刷新は、業務の可視化、段階的な移行、効果測定で進めると、在庫と倉庫業務の改善につながります。

進め方や効果が想像しにくく、踏み出せない相談も多くあります。全体像は在庫管理システム刷新の完全ガイドで解説しています。

▼全体ガイドの記事
・在庫管理システム刷新の完全ガイド

在庫管理システム刷新が求められる背景と典型的な課題

在庫管理システム刷新前によく見られる4つの課題を示す図。
課題が重なると、欠品と過剰在庫が同時に起きることもあります。

事例を読む前に、多くの企業に共通する課題の構造を押さえておくと、自社の状況と重ねて考えやすくなります。

導入から10年以上たつシステムは多く、当時の業務に最適化されているため、オムニチャネル販売やリアルタイム経営に対応しきれないことがあります。

JUASの調査では、約7割の企業がレガシー化の課題を抱えると指摘されています。特に在庫管理では、その影響が在庫差異・欠品・過剰在庫として数字に表れやすい領域です。

古いシステムを放置すると、欠品や過剰在庫による機会損失とキャッシュフローの悪化を招きます。さらに、「2025年の崖」で指摘される、年間最大12兆円規模の経済損失リスクの一翼を担うことにもなりかねません。

レガシー在庫管理システムが抱える典型的な課題

刷新前によく見られる課題は次の4つです。これらが重なると、欠品と過剰在庫が同時に起きることもあります。

  • 在庫の更新遅れ
  • 棚卸の長時間化
  • チャネル間の在庫分断
  • システムのブラックボックス化

たとえば、在庫が夜間バッチでしか更新されないと、日中の販売状況は翌朝まで確認できず、欠品や引当ミスが起きます。

ハンディターミナルがない、または古い端末しかない現場では、棚卸を手書きやExcelへの転記で行います。そのため、棚卸に数日から数週間かかるケースもあります。

EC・実店舗・倉庫の在庫を別々のシステムや台帳で管理すると、全社の在庫を一元的に把握できません。これが、オムニチャネル化を阻む最大の壁になります。

長年の改修で仕様書が失われると、引当ロジックや在庫計算の根拠が誰にも分からなくなります。欠品による販売機会の損失と、過剰在庫による保管コスト・廃棄ロスが、悪循環を生みます。

刷新で選択される手法の全体像

AWSが提唱する「7R」のうち、在庫管理システムの刷新で主に選ばれるのは、次の4手法です。

  • リホスト:基盤だけをクラウドへ移設
  • リプラットフォーム:一部を最新化
  • リプレース:パッケージやWMSへ置き換え
  • リビルド:業務に合わせて再構築

在庫差異の解消やリアルタイム化が目的なら、最新のクラウド在庫管理システムやWMS(倉庫管理システム)へのリプレースが有力です。

独自の引当ルールや受発注連携が複雑な場合は、業務に合わせて再構築するリビルドが選ばれます。事例では、選んだ手法とその理由を見ておくと、自社の状況と照らし合わせる材料になります。

ポイント

古いシステムの課題が在庫差異や欠品、棚卸の遅れにつながっていないかを見ると、刷新の要否と手法の選び方が見えてきます。手法は目的によって異なるため、目的を先に決めておくことが大切です。

製造業の在庫管理システム刷新事例

在庫照会、入出荷、所要量計算の順に進める段階的な移行を示す図。
機能を順に切り替えることで、各段階で在庫データを検証できます。

製造業では、原材料・仕掛品・製品という複数の在庫区分を扱います。そのため、刷新は生産計画や夜間バッチ処理の改善と一体で進むケースが多く見られます。

COBOLで構築された基幹系の在庫・生産管理システムを刷新した事例を見てみます。

COBOL基幹系を刷新し夜間バッチを80%短縮した事例

従業員1,200名規模の製造業では、COBOLの基幹系システムで在庫・生産・出荷を一体で管理していました。夜間の在庫締めと所要量計算に8時間かかり、翌朝の業務開始までに処理が終わらないこともありました。

  • 基幹系の刷新:16ヶ月かけ、在庫計算ロジックを最新基盤上で再構築
  • 夜間バッチ:8時間から90分となり、約80%短縮
  • 年間保守費:2,400万円から850万円となり、約65%削減

日中の在庫データを翌朝早い時間に確認できる体制も整いました。さらに、バッチ処理の短縮は欠品・過剰在庫の判断を早め、在庫回転率の改善にもつながります。

また、クラウド基盤への移行で、ハードウェア保守の負担も大きく軽減されました。リアルタイム性の向上と保守コストの圧縮を同時に実現した好例です。

段階的移行で業務停止リスクを抑えた進め方

この製造業は、機能ごとに新旧を並行稼働させながら少しずつ置き換える、ストラングラーパターン(段階的置き換え)を採用しました。

  1. 在庫照会機能の新システムへの移行
  2. 入出荷機能の移行
  3. 所要量計算の移行

在庫管理システムは出荷や生産に直結するため、一度に全面切り替えするビッグバンアプローチでは、業務停止のリスクが極めて高くなります。

段階的移行では、各フェーズで在庫データの整合性を検証できます。さらに、不具合が起きた場合に旧システムへ切り戻せる体制も確保できます。

成功事例の多くは、業務を止めない移行設計に十分なコストと時間を割いています。一方で、短期で安く済ませようと一括切り替えを選び、在庫差異や出荷停止を招いた失敗もあります。このため、移行方式は事例の成否を分ける大きな分岐点です。

ポイント

夜間バッチの処理時間や年間の保守費が業務の制約になっている場合は、基幹系を段階的に刷新する事例が参考になります。移行の順番を先に決めておくと、業務停止のリスクを小さくできます。

小売・卸売業の在庫一元化と倉庫効率化の事例

刷新前の別管理から、刷新後の単一DBでの在庫管理へ変わる対比図。
管理を一元化すると、複数チャネルの在庫をまとめて扱えます。

小売・卸売業では、EC・実店舗・倉庫に分散した在庫の一元化と、倉庫オペレーションの効率化が中心的なテーマです。

次の事例は、業務プロセス分析を行ったうえで在庫・倉庫業務を刷新し、業務削減効果を得たものです。

業務分析を徹底し月700時間を削減した事例

大手流通グループでは、在庫照合や倉庫の入出荷管理に関わる定型業務に多くの人手をかけていました。

  • 事前分析:刷新やRPA導入の前に業務プロセスを分析
  • 作業の可視化:手作業の内容とムダのある箇所を確認
  • 定型作業の自動化:在庫照合・伝票転記を自動化し、月700時間を削減

ムダな作業は、古いシステムをそのまま置き換えると新システムにも移ってしまいます。この事例は、刷新の前に現状の在庫業務を正しく棚卸しすることの大切さを示しています。

EC・店舗・倉庫の在庫を一元化したオムニチャネル事例

この事例で、在庫の管理方法と販売機会が刷新前後でどう変わったかを見ておきます。

  • 在庫統合:クラウド在庫管理を中核に、複数チャネルの在庫をリアルタイム統合
  • 刷新前の課題:実在庫が別管理で、売り越しや販売機会の逸失が頻発
  • 刷新後の管理:単一DBで管理し、注文・店舗販売・倉庫出荷を即時反映
  • 新しい購買体験:売り越しが大幅に減少。店舗在庫を引き当ててEC販売する取り置き出荷や店舗受け取りも可能に

在庫の一元化は、システム統合に加えて、販売チャネルを広げるという事業面の効果も生みます。これは、近年の小売業の事例に見られる特徴です。

ポイント

在庫の分散や倉庫作業の負担が課題になっている場合は、業務分析で手作業を洗い出す進め方が参考になります。在庫の一元化は、販売チャネルの拡張という事業面の効果にもつながります。

成功事例に共通する3つのポイント

製造業・小売業・卸売業の事例には、業種を超えて共通する成功要因があります。自社のプロジェクトで設計指針となる3点を、順に見ていきます。

現状の在庫業務の徹底的な可視化

1つ目は、刷新前に在庫業務の現状(AS-IS)を徹底的に可視化することです。業務と処理を整理し、ムダや属人化を洗い出します。

  • 倉庫業務:入荷・棚入れ・ピッキング・出荷・棚卸
  • システム処理:引当・受発注・在庫照会

成功事例では、業務の見える化が先行しています。月700時間を削減した事例も、分析の後に自動化へ進んでいます。可視化を省くと、古いシステムの非効率を新システムへ持ち込み、刷新効果が目減りします。

業務を止めない段階的な移行設計

出荷や売上に直結する在庫管理では、システムが停止すると事業損失につながります。そこで、製造業の事例ではストラングラーパターンを採用しました。

在庫照会から引当までの機能を段階的に切り替え、各段階で旧システムへ戻せる体制を整えています。さらに、移行リハーサルと在庫データの突合検証にも、十分な時間を確保しておきます。

業務効果と財務効果の両面での評価

刷新の効果は、業務面と財務面の両方から評価します。COBOL基幹系の事例では、夜間バッチを80%短縮し、年間の保守費も2,400万円から850万円へ削減しました。

  • 業務指標:在庫回転率・欠品率・棚卸工数
  • 財務指標:保守費・在庫保管コストの削減

業務と財務の指標を組み合わせ、刷新後に測る仕組みを用意しておきます。さらに、両面の指標をそろえておくと、経営層の合意形成にも役立ちます。

効果が本格化するのは、運用が安定してからです。事例でも、操作習熟や業務フローの定着に時間がかかり、在庫精度や工数の改善が数字に表れるまで一定の期間を要しました。

成功企業は、刷新前に定めたKPIを継続して測り、想定どおりの効果が出ているかを検証しています。そのうえで、必要に応じて運用を改善し、効果測定を継続的な成果へつなげています。

ポイント

刷新の効果を測るには、着手前に業務の現状を可視化し、業務と財務の両面で指標を決めておくことが欠かせません。移行とあわせて、効果が表れるまでの期間も見込んでおくと、運用後の検証を計画どおりに進められます。

まとめ

製造業では、COBOL基幹系の刷新で夜間バッチを8時間から90分へ短縮し、保守費を年2,400万円から850万円へ削減した事例を紹介しました。小売・卸売業では、業務分析による月700時間の削減や、EC・店舗・倉庫の在庫一元化によるオムニチャネル販売の事例を取り上げました。

いずれも在庫の見える化と倉庫業務の効率化を軸に、定量効果を生んでいます。成功事例に共通するのは、業務を可視化し、業務を止めない段階移行を設計して、業務・財務の両面で効果を測ることです。

刷新を検討する際は、現状の課題を棚卸しし、目指す姿と効果指標を明確にしましょう。

在庫管理システムの刷新には専門的な知見が必要です。そのため、進め方やパートナー選定に迷う場合は、構想策定から伴走できる支援先への相談もご検討ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。