基幹システム/ERPのモダナイゼーションの事例/成功事例について

長年使い続けてきた基幹システムやERPが老朽化し、「保守費用が年々膨らんでいる」「特定の担当者しか中身を理解できずブラックボックス化している」「2025年の崖が心配だが、何から手をつければよいかわからない」といったお悩みを抱える企業は少なくありません。経済産業省のDXレポートでは、レガシーシステムを放置した場合、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じるリスクが指摘されており、基幹システム/ERPのモダナイゼーション(刷新)は多くの企業にとって避けて通れない経営課題となっています。

本記事では、基幹システム/ERPのモダナイゼーションについて、実際の成功事例と失敗事例を中心に、どのような課題に対してどの手法を選び、どのような定量的・定性的効果を得たのかを具体的に解説します。COBOL基幹系の刷新による保守費削減事例から、ERP移行における業務改善まで、現場の実例を通じて自社の刷新計画に役立つヒントをお届けします。モダナイゼーション全体の進め方や手法の体系を網羅的に知りたい方は、あわせて基幹システム/ERPのモダナイゼーションの完全ガイドもご覧ください。なお本記事は新規開発ではなく、既存システムの刷新・更改という観点で事例を整理しています。

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なぜ今、基幹システム/ERPの刷新事例が注目されるのか

なぜ今、基幹システム/ERPの刷新事例が注目されるのか

基幹システムやERPの刷新事例が近年これほど注目を集めている背景には、複数の構造的な要因が重なっています。多くの企業が1990年代から2000年代にかけて構築したシステムを20年以上にわたり使い続けており、ハードウェアの保守期限切れ、開発言語やOSのサポート終了、そして当時の開発担当者の退職による技術の属人化が同時に進行しています。これらの課題が臨界点に達したことで、刷新を成功させた企業の取り組みが「自社でも実現可能なモデルケース」として参照されるようになっているのです。

「2025年の崖」とレガシー化の現実

経済産業省が公表したDXレポートでは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムを放置し続けた場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があると警鐘が鳴らされています(出典:経済産業省)。これがいわゆる「2025年の崖」です。実際、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査では約7割の企業がレガシーシステムの課題を抱えていると報告されており、刷新は一部の先進企業だけの話ではなく、日本企業全体に共通する経営課題となっています。

レガシー化が進むと、保守できる人材の不足、機能追加のたびに膨らむ改修コスト、セキュリティリスクの増大という三重の負担が企業にのしかかります。刷新事例が注目されるのは、こうした課題を実際に乗り越えた企業が、どのような判断と手順で成果を出したのかという「再現可能な道筋」を示してくれるからです。

SAP ERPの2027年問題というタイムリミット

ERP領域で刷新の機運をさらに高めているのが、いわゆる「SAP 2027年問題」です。多くの日本企業が導入している「SAP ERP 6.0(旧称ECC)」の標準保守が2027年末に終了する予定であり、後継製品である「SAP S/4HANA」への移行が事実上の必須課題となっています。S/4HANAへの移行は単なるバージョンアップではなく、インメモリデータベース「HANA」への対応、業務プロセスの再設計、アドオン(追加開発)の整理を伴う大規模なモダナイゼーションプロジェクトです。

このタイムリミットがあるからこそ、S/4HANA移行を計画的に進めた企業の事例は、同じ課題を抱える多くの企業にとって極めて実践的な参考材料になります。移行方式の選択(グリーンフィールド・ブラウンフィールド・セレクティブ)や、移行に伴う業務標準化の進め方を実例から学ぶことで、自社プロジェクトの精度を高められるのです。

基幹システム/ERPモダナイゼーションの成功事例

基幹システム/ERPモダナイゼーションの成功事例

ここからは、実際に基幹システムやERPの刷新で成果を上げた具体的な事例を紹介します。成功事例に共通するのは、現状の課題を定量的に把握したうえで適切な手法を選び、効果を数字で検証している点です。漠然と「新しくしたい」ではなく、「何を、どれだけ改善したいのか」を明確にしたプロジェクトが成果につながっています。

製造業のCOBOL基幹系刷新:保守費65%削減

従業員約1,200名の製造業では、長年稼働してきたCOBOLベースの基幹システムが深刻なレガシー化の課題を抱えていました。夜間バッチ処理に毎晩8時間を要し、翌朝の業務開始までに処理が終わらないリスクが常態化していたほか、メインフレームの保守費が年間2,400万円に達し、経営を圧迫していたのです。さらに、COBOLを扱えるエンジニアの高齢化により、システム改修のたびに外部委託費が膨らむという属人化の問題も抱えていました。

この企業は16ヶ月をかけて基幹システムを刷新し、夜間バッチ処理を8時間から90分へと約80%短縮することに成功しました。さらにメインフレームからオープン系への移行により、サーバー保守費を年間2,400万円から850万円へと約65%削減しています。処理時間の短縮は、月次決算の早期化やデータ分析の即時性向上といった副次的な効果も生み、単なるコスト削減にとどまらない経営インパクトをもたらしました。この事例が示すのは、刷新の効果は「保守費」「処理時間」「属人化解消」という複数の軸で測定すべきだということです。

業務プロセス分析を徹底したRPA活用:月700時間の削減

基幹システムのモダナイゼーションは、必ずしもシステムを丸ごと再構築する大規模プロジェクトだけを指すわけではありません。大手流通グループでは、基幹システム周辺の定型業務に対してRPA(業務自動化)を導入する取り組みを進めました。注目すべきは、ツールをいきなり導入するのではなく、まず業務プロセスの分析を徹底して行った点です。どの業務が自動化に適しているか、どこに無駄なフローが潜んでいるかを可視化したうえで自動化対象を選定しています。

その結果、月間700時間もの業務削減を実現しました。この事例の教訓は、「ツール導入が目的化すると効果は出ない」ということです。基幹システムの刷新でも同様に、現状業務の棚卸しと無駄の特定を先に行うことが、刷新後の効果を最大化する鍵となります。既存業務をそのままシステムに載せ替えるのではなく、刷新を機に業務そのものを見直す姿勢が成功事例に共通しています。

インフラ資産の可視化による数億円のコスト最適化

大規模なITインフラを抱える企業では、200種類・約30,000台のネットワーク機器と約10,000台のサーバーから、1日あたり10億件にのぼる通信ログを集計・分析する取り組みを行いました。膨大なインフラ資産のうち、保守費が高いにもかかわらず実際の利用率が低い機器を特定し、可視化したのです。これにより運用作業の負担を従来の5分の1に軽減し、結果として数億円規模の投資対効果を生み出しました。

この事例が示すのは、モダナイゼーションの第一歩は「現状資産の可視化」だということです。何がどれだけ稼働し、どこにコストがかかっているのかが見えなければ、刷新の優先順位も投資対効果も判断できません。基幹システムの刷新を検討する際も、まずは保有資産とその利用状況を定量的に把握することが、無駄のない投資計画につながります。

刷新の失敗事例から学ぶ教訓

刷新の失敗事例から学ぶ教訓

成功事例だけでなく、失敗事例から学ぶことも刷新プロジェクトを成功させるうえで欠かせません。実際に発生した失敗事例は、どこに落とし穴があるのかを具体的に教えてくれます。ここでは代表的な失敗パターンと、そこから導き出される実践的な教訓を紹介します。

基幹切り替え時の障害による出荷停止という痛手

食品メーカーである江崎グリコでは、基幹システムの切り替え時に発生した障害により、チルド商品の全品出荷が停止するという深刻な事態に陥りました。これは移行計画の不備が原因とされており、新システムへの切り替え直後に物流・受発注に関わる処理が正常に機能せず、商品が出荷できない状態が続いたのです。出荷停止は売上機会の損失だけでなく、取引先や消費者からの信頼にも影響する重大な経営リスクとなりました。

この事例の教訓は、移行計画とテストの徹底がいかに重要かということです。特に基幹システムは企業活動の心臓部であり、切り替え時の障害が即座に業務停止につながります。新旧システムの並行稼働期間を十分に確保する、本番に近い環境でのリハーサルを繰り返す、障害発生時に旧システムへ切り戻せる体制を整えておくといった備えが、こうした事態を防ぐためには不可欠です。一度に全てを切り替える「ビッグバンアプローチ」の高いリスクを象徴する事例と言えます。

SAP導入の「3大疾病」が示すERP刷新の難所

ERP刷新、特にSAP導入の現場では、繰り返し発生する典型的な失敗パターンが「3大疾病」と呼ばれることがあります。1つ目は「ユーザー部門のやる気がない」こと、2つ目は「大量のアドオン開発が発生する」こと、3つ目は「データ移行がうまくいかない」ことです。これらはいずれもプロジェクトの遅延・予算超過・品質低下を引き起こす根深い要因となります。

特にS/4HANA移行では、現行システムで作り込んだ独自のアドオンをそのまま新環境に持ち込もうとすると、移行工数とコストが膨れ上がります。標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の発想で、アドオンを思い切って削減できるかどうかが成否を分けます。また、長年蓄積されたマスタデータの品質が低いまま移行すると、新システム稼働後に不整合が頻発します。ユーザー部門を早期から巻き込み、データクレンジングとアドオン整理を計画段階から織り込むことが、ERP刷新を成功させる現実的なアプローチです。

事例を自社の刷新に活かすための着眼点

事例を自社の刷新に活かすための着眼点

これまで紹介してきた成功事例と失敗事例には、自社の刷新計画に転用できる共通の着眼点があります。事例をそのまま真似るのではなく、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかという構造を理解することが、自社プロジェクトの成功確率を高めます。

効果を数字で定義する

成功事例に共通するのは、刷新前の課題と刷新後の効果がいずれも数字で語られている点です。「夜間バッチ8時間→90分」「保守費2,400万円→850万円」「月700時間削減」というように、定量的な目標と実績が明確だからこそ、投資判断と効果検証が可能になります。自社の刷新を計画する際も、まず現状のコストや処理時間を測定し、刷新によってどの指標をどれだけ改善したいのかを数値で定義することが出発点です。この数値目標が、後のベンダー選定やプロジェクト評価の判断基準にもなります。

段階的移行でリスクを抑える

失敗事例の多くは、移行時の障害やデータ移行の不備に起因しています。これを避けるための定石が、機能単位で新旧を並行稼働させながら少しずつ置き換える「ストラングラーパターン(段階的置き換え)」です。基幹システムを一度に全て入れ替えるビッグバンアプローチは、切り替え時に障害が発生すると業務全体が停止する高いリスクを伴います。段階的移行であれば、問題が起きても影響範囲を限定でき、切り戻しも容易です。江崎グリコの事例が示すように、移行計画の入念さこそが基幹刷新の成否を分ける最大の要素なのです。

ユーザー部門を早期に巻き込む

SAP導入の3大疾病が示すように、ユーザー部門の主体的な参画なしにERP刷新は成功しません。情報システム部門やベンダーだけでプロジェクトを進めると、現場の実態と乖離したシステムが出来上がり、稼働後に「使えない」という声が噴出します。要件定義の段階から現場のキーパーソンを巻き込み、業務標準化やデータクレンジングを一緒に進めることが、刷新後の定着を左右します。成功事例の流通グループが業務プロセス分析を徹底したように、現場を起点とした取り組みが効果を生むのです。

まとめ

基幹システム/ERPモダナイゼーション事例のまとめ

本記事では、基幹システム/ERPのモダナイゼーションについて、実際の成功事例と失敗事例を中心に解説しました。製造業のCOBOL基幹系刷新による保守費65%削減や夜間バッチ80%短縮、業務プロセス分析を徹底したRPA活用による月700時間削減、インフラ資産可視化による数億円のコスト最適化といった成功事例からは、効果を数字で定義し、現状を可視化することの重要性が見えてきます。一方、江崎グリコの出荷停止事例やSAP導入の3大疾病といった失敗事例は、移行計画の徹底とユーザー部門の巻き込みがいかに不可欠かを教えてくれます。

これらの事例に共通する成功の鍵は、効果の数値化、段階的移行によるリスク低減、そしてユーザー部門の早期参画の3点です。2025年の崖やSAP 2027年問題というタイムリミットが迫るなか、刷新は先送りできない経営課題となっています。自社の基幹システムやERPの刷新を検討する際は、まず現状資産と課題を定量的に把握し、適切な手法と移行方式を選定することから始めてください。具体的なプロジェクトの進め方や手法の選定でお悩みの際は、豊富な刷新支援の知見を持つパートナーへの相談をご検討いただくことをお勧めします。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。