基幹システムやERPの成功事例に共通するのは、現状を把握して効果を数値化し、段階的に移行していることです。それが業務改善とリスク低減につながっています。
成功事例と失敗事例、着眼点を順に取り上げます。全体像は基幹システム/ERPのモダナイゼーションの完全ガイドもご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・基幹システム/ERPのモダナイゼーションの完全ガイド
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基幹システム/ERPの刷新事例が注目される背景
刷新事例が近年注目される背景には、複数の構造的な要因が重なっています。
基幹システムやERPを長く使う企業では、保守費の増加やブラックボックス化に悩むことがあります。「2025年の崖」が心配でも、どこから着手すればよいか分からないケースもあります。
多くの企業が、1990年代から2000年代に構築したシステムを20年以上使い続けています。さらに、ハードウェアの保守期限切れや、開発言語・OSのサポート終了も進んでいます。
当時の開発担当者の退職で技術が属人化し、複数の課題が重なっています。こうした課題が限界に近づいた企業の刷新事例は、自社でも実現できるモデルケースとして参照されています。
「2025年の崖」とレガシー化の現実
経済産業省のDXレポートは、レガシーシステムを放置すると、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を指摘しています(出典:経済産業省)。
この指摘が「2025年の崖」と呼ばれるものです。また、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査では、約7割の企業がレガシーシステムの課題を抱えると報告されています。
レガシー化が進むと、保守人材の不足や改修コストの増加、セキュリティリスクが生じます。刷新事例は、課題を乗り越えた企業の判断や手順を示すため、再現可能な道筋を知る手がかりになります。
SAP ERPの2027年問題というタイムリミット
ERP刷新を促すものの一つが「SAP 2027年問題」です。多くの日本企業が使うSAP ERP 6.0(旧称ECC)は2027年末に標準保守が終わるため、S/4HANAへの移行が事実上必須です。
S/4HANAへの移行では、インメモリデータベース「HANA」への対応が必要です。また、業務プロセスの再設計やアドオン(追加開発)の整理も伴います。
移行方式は、グリーンフィールド、ブラウンフィールド、セレクティブから選びます。実例から業務標準化の進め方を学んでおくと、自社プロジェクトの精度を高められます。
基幹システム/ERPモダナイゼーションの成功事例

以下に挙げるのは、新規開発ではなく、既存システムの刷新・更改で成果を上げた基幹システムやERPの具体例です。
成功事例に共通するのは、課題を数字で捉えて手法を選び、効果を検証している点です。「何をどれだけ改善するか」を定めたことが、成果につながっています。
製造業のCOBOL基幹系刷新:保守費65%削減
従業員約1,200名の製造業では、長年稼働してきたCOBOL基幹システムがレガシー化していました。
夜間バッチは毎晩8時間かかり、翌朝の業務開始までに終わらないリスクが常態化していました。
メインフレームの保守費は年間2,400万円に達していました。さらに、COBOLエンジニアの高齢化により、改修の外部委託費も膨らんでいました。
16ヶ月の刷新を経て、夜間処理の短縮と保守費の削減を実現しました。
- 夜間バッチ:8時間から90分へ約80%短縮
- サーバー保守費:メインフレームからオープン系への移行で、年間2,400万円から850万円へ約65%削減
処理時間が短くなったことで、月次決算の早期化やデータ分析の即時性向上にもつながりました。
刷新の効果は、保守費、処理時間、属人化の解消という観点で測れます。
業務プロセス分析を徹底したRPA活用:月700時間の削減
モダナイゼーションは、システム全体の再構築に限りません。大手流通グループは、基幹システム周辺の定型業務にRPA(業務自動化)を導入し、その前に業務を分析しました。
自動化に適した業務と無駄なフローを一覧にし、自動化の対象を選びました。その結果、月間700時間の業務削減を実現しました。
ツールの導入そのものを目的にすると、効果は出ません。既存業務をそのまま載せ替えるのではなく、現状の業務を棚卸しして無駄を特定し、刷新時に業務そのものを見直します。
インフラ資産の可視化による数億円のコスト最適化
大規模なITインフラを持つ企業では、200種類・約30,000台のネットワーク機器と約10,000台のサーバーを分析しました。あわせて、1日あたり10億件の通信ログを集計しています。
保守費が高く利用率の低い機器を見つけ、状況が分かるようにしました。また、運用作業の負担を従来の5分の1に減らし、数億円規模の投資対効果を生みました。
モダナイゼーションの第一歩は、保有資産の状況を把握することです。稼働状況やコストが見えなければ、優先順位や投資対効果を判断できず、無駄のない投資計画にはつながりません。
刷新の失敗事例から学ぶ教訓

実際の失敗事例は、刷新プロジェクトの落とし穴を具体的に示しています。代表的な失敗パターンと、そこから得られる教訓を紹介します。
基幹切り替え時の障害による出荷停止という痛手
食品メーカーの江崎グリコでは、基幹システムの切り替え障害により、チルド商品の全品出荷が停止しました。原因は、移行計画の不備とされています。
この事例から得られる教訓は、移行計画とテストを徹底することです。切り替え時のリスクと、再発を防ぐ備えを、項目ごとに見ておきます。
- 業務停止のリスク:基幹システムの切り替えに障害が起きると、すぐに事業が止まります。
- 事業への影響:出荷停止は、売上の機会と、取引先や消費者からの信頼を損ねます。
- 並行稼働と訓練:新旧システムを一定期間同時に動かし、本番相当の環境でリハーサルを重ねます。
- 切り戻し体制:障害が起きたときは、旧システムへ戻せるよう備えておきます。
- 一斉切替のリスク:全てを一度に切り替える「ビッグバンアプローチ」は、影響が大きくなりやすい進め方です。
SAP導入の「3大疾病」が示すERP刷新の難所
ERP刷新、特にSAP導入では、典型的な失敗を「3大疾病」と呼ぶことがあります。
- ユーザー部門の参画不足:「やる気がない」状態では、現場の協力を得られません。
- 大量のアドオン開発:S/4HANA移行で既存の独自の追加機能を持ち込むと、工数とコストが膨らみます。
- データ移行の失敗:マスタの品質が低いまま切り替えると、稼働後に不整合が頻発します。
こうした失敗は、プロジェクトの遅延や予算超過、品質低下を招きます。
標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」で、アドオンを減らせるかが成否を左右します。そのためには、ユーザー部門を早期に巻き込み、計画段階からデータクレンジングとアドオン整理を組み込んでおくことが大切です。
事例を自社の刷新に活かすための着眼点

紹介した成功事例と失敗事例には、自社の刷新計画に活かせる共通の着眼点があります。事例の構造を理解しておくと、プロジェクトの成功確率を高められます。
効果の数字による定義
成功事例では、刷新前の課題と刷新後の効果が数字で示されています。たとえば、夜間バッチは8時間から90分に、保守費は2,400万円から850万円に、業務は月700時間削減されました。
自社でも、現状のコストや処理時間を測り、どの指標をどれだけ改善するかを数値で定めます。その目標は、ベンダー選定やプロジェクト評価の基準になります。
段階的移行によるリスクの抑制
移行時の障害やデータ移行の不備を避ける方法の一つに、機能単位で新旧を並行稼働させる「ストラングラーパターン(段階的置き換え)」があります。
ビッグバンアプローチは一度に全てを切り替えるため、障害が起きると業務全体が止まるリスクがあります。一方、段階的移行なら影響範囲を限定でき、切り戻しも容易です。
江崎グリコの事例が示すように、入念な移行計画が基幹刷新の成否を分けます。
ユーザー部門の早期参画
SAP導入の失敗例が示すように、ユーザー部門が主体的に関わらないままERP刷新を成功させるのは困難です。情報システム部門やベンダーだけでは、現場の実態とずれるおそれがあります。
要件定義の段階から現場のキーパーソンを巻き込み、業務標準化やデータクレンジングを一緒に進めます。現場が参画できるかが、刷新後の定着を左右します。
流通グループの事例では、業務プロセスの分析を徹底しました。現場を起点に取り組んだことが、刷新の効果につながっています。
まとめ
基幹システム/ERPのモダナイゼーションについて、実際の成功事例と失敗事例を中心に紹介しました。
製造業のCOBOL刷新では保守費を65%削減し、夜間バッチを約80%短縮しました。RPA活用では月700時間、インフラ資産の可視化では数億円規模の成果がありました。
成功の鍵は、効果の数値化、段階的移行、ユーザー部門の早期参画です。
江崎グリコの出荷停止やSAP導入の「3大疾病」は、移行計画の徹底とユーザー部門の参画が欠かせないことを示しています。
2025年の崖やSAP 2027年問題を踏まえると、刷新は先送りできない経営課題です。まず現状の資産と課題を数字で把握し、そのうえで適切な手法と移行方式を選びます。
進め方や手法の選定に悩む場合は、刷新支援の知見を持つパートナーへの相談も検討できます。
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