基幹システム/ERP刷新の事例/成功事例について

会計・販売・購買・在庫・生産といった企業の中核業務を支える基幹システムやERPは、一度導入すると10年、15年と使い続けられることが珍しくありません。その結果、長年の追加開発で仕組みが複雑化し、保守費が膨らみ、新しい事業環境への追従が難しくなっている企業が業種を問わず増えています。とくにSAP ERP(ECC6.0)の標準保守が2027年末に終了する、いわゆる「2027年問題」を契機に、SAP S/4HANAへの移行を含めた基幹システム/ERP刷新を本格的に検討し始めた企業は数多く存在します。

とはいえ、いざ刷新に踏み出そうとすると、「本当に投資に見合う効果が出るのか」「どんな進め方なら成功するのか」が見えず、稟議も計画も前に進まないという悩みを抱える経営者・情報システム部門の方は少なくありません。本記事では、基幹システム/ERP刷新の事例・成功事例について、製造業の基幹系刷新やイオングループ・ユニリタといった実在の取り組みの一次データをもとに、「どんな課題に対してどの判断を下し、どれだけの定量・定性効果を得たか」を掘り下げて解説します。手法選定から費用相場、進め方までを体系的に整理した基幹システム/ERP刷新の完全ガイドもあわせてご覧いただくと、本記事の事例を全体像の中で位置づけやすくなります。ここでは、完全ガイドでは触れきれない「現場で実際に何が起きたか」を、できるだけ具体的な数字とともにご紹介します。

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・基幹システム/ERP刷新の完全ガイド

なぜ今、基幹システム/ERP刷新の事例から学ぶべきなのか

なぜ今、基幹システム/ERP刷新の事例から学ぶべきなのか

基幹システム/ERPの刷新は、何もないところから新しいシステムを作る新規開発とは性質が大きく異なります。会計や販売、在庫といった止められない業務を稼働させたまま作り替える必要があり、しかも長年の追加開発で仕様が複雑化し、当初の設計意図が失われているケースが少なくありません。そのため、計画段階で参考にできる「先行事例」の価値が、ほかのIT施策に比べて格段に高い領域だといえます。

他社がどの課題に対してどの手法を選び、どこに意思決定の分岐点があり、どんな成果を出したのかを知ることは、自社の刷新計画の精度を大きく左右します。事例は単なる成功談として読むものではなく、「自社の状況に置き換えると、どの判断が再現でき、どのリスクに備えるべきか」を読み取るための教材です。本章では、なぜ今このタイミングで事例から学ぶ意義が高まっているのかを整理します。

「2027年問題」と「2025年の崖」が迫る刷新の期限

基幹システム/ERP刷新には、ほかのIT投資にはない明確な「期限」が存在します。代表的なのが、SAP ERP(ECC6.0)の標準保守が2027年末に終了する「2027年問題」です。多くの大手・中堅企業がSAPを基幹システムとして採用しており、保守終了までにSAP S/4HANAへの移行を完了させるか、別の選択肢を取るかの意思決定を迫られています。後ろに動かせない締め切りがあるという点で、ERP刷新は計画的に進めなければ間に合わないテーマです。

もう一つの背景が、経済産業省のDXレポートが指摘した「2025年の崖」です。老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを刷新しないまま放置すると、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じるリスクがあると示されました。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査でも、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題として認識しています。2027年問題と2025年の崖は別々の論点ですが、いずれも「基幹システムを先送りにできない理由」を裏付けています。

期限が明確である一方で、焦って全社を一度に切り替えると重大なトラブルを招きかねません。事例を学ぶ意義のひとつは、「急ぐべき理由」と「急ぎすぎることの危険」を同時に理解し、適切なスピードで刷新を進める感覚を養うことにあります。次の章以降で見る成功企業は、いずれもこのバランスを丁寧に取っていました。

ERP刷新事例から読み取るべき3つの視点

事例を「すごい成果が出た話」として消費するだけでは、自社の計画には活かせません。基幹システム/ERP刷新の成功事例を読むときには、少なくとも3つの視点を意識すると学びの質が大きく変わります。第一に「出発点となった課題」、第二に「その課題に対してどの手法・進め方を選んだかという意思決定」、第三に「結果として得られた定量・定性の効果」です。

とくに見落とされがちなのが2つめの意思決定の部分です。同じ「保守費が高い」という課題でも、ERPパッケージを標準機能に寄せて作り直すのか、土台だけ載せ替えるのか、業務プロセス自体を見直すのかで、必要な期間・費用・リスクは大きく変わります。成功した企業は、自社の制約と目的に照らして「何を標準に合わせ、何を残すか」を明確に決めていました。

第三の効果については、「夜間処理が何分短縮された」「保守費が何割減った」「月何時間の業務が削減された」といった定量データと、「属人化が解消した」「新しい施策に着手しやすくなった」といった定性効果の両面を見ることが重要です。本記事で取り上げる事例も、この3つの視点に沿って読み解いていきます。

基幹システム/ERP刷新で成果を出した具体的な成功事例

基幹システム/ERP刷新で成果を出した具体的な成功事例

ここからは、実際に基幹システム/ERP刷新で明確な成果を出した取り組みを、具体的に見ていきます。いずれも「課題」「アプローチ」「効果」という3つの視点で整理しているので、自社に置き換えながら読み進めてください。数字の裏側にある判断にこそ、再現可能なヒントが詰まっています。

製造業:COBOL基幹系の刷新で夜間バッチ8時間を90分に短縮

まず取り上げるのは、従業員約1,200名規模の製造業における基幹系刷新の事例です。この企業ではCOBOLで構築された基幹システムを長年使い続けており、夜間バッチ処理に約8時間を要していました。処理が翌朝の業務開始に間に合わないリスクが常につきまとい、保守費も年2,400万円規模に達するなど、運用負荷とコストの両面で限界に近づいていました。

この企業が選んだアプローチの起点は、いきなりシステムを作り始めることではなく「資産の棚卸し」でした。現行の基幹システムにどんな機能・データ・依存関係が存在するかを丁寧に洗い出したうえで、土台から作り直すリビルド型の刷新を選択しています。棚卸しを起点に置いたことで、不要になった機能を削ぎ落とし、本当に必要な処理だけを新しい基盤に載せ替える判断ができた点が成功の鍵でした。

その結果、刷新は約16ヶ月で完了し、夜間バッチ処理は8時間から90分へと約80%短縮されました。さらにサーバー保守費は年2,400万円から850万円へと約65%削減されています。処理時間の短縮は単なるスピード向上にとどまらず、翌朝の業務開始前に確実に処理を終えられるという事業上の安心感をもたらしました。定量効果と定性効果が両立した、リビルド型による基幹システム刷新の代表的な成功例といえます。

小売・流通:イオングループの業務可視化で月700時間を削減

次に紹介するのは、小売・流通の大手であるイオングループの事例です。基幹システムやERPを刷新する際、多くの企業は「新しい仕組みを入れれば業務が楽になる」と考えがちですが、イオングループのアプローチはその逆でした。自動化ツールを導入する前に、まず対象となる業務プロセスの分析を徹底したのです。基幹業務の刷新においても、システムより先に業務そのものを見直す姿勢が成果を分けます。

業務を可視化すると、そもそも不要な作業や重複した手順、自動化に向かない属人的な判断などが浮かび上がります。ここを整理しないまま新しい仕組みを導入すると、「ムダな作業をそのまま自動化してしまう」という典型的な失敗に陥ります。イオングループは「導入前に業務を可視化する」という順序を守ったことで、効果を最大化できる対象を見極められました。これはERPの標準機能に業務を寄せる「Fit to Standard」の発想とも通じます。

この取り組みによって、月あたり700時間規模の業務削減を実現しています。基幹システム/ERP刷新というと全面的なパッケージ入れ替えを思い浮かべがちですが、この事例は「業務プロセスの見直しと部分的な自動化」も立派な刷新の一形態であることを示しています。手法の派手さではなく、進め方の順序が成果を決めるという教訓は、業界を問わず応用できます。

インフラ運用:ユニリタのログ可視化で作業負担を5分の1に

3つめは、基幹システムを支えるITインフラを可視化によって刷新したユニリタの事例です。この取り組みでは、200種・約30,000台のネットワーク機器と約10,000台のサーバーから、1日あたり10億件にのぼる通信ログを集計・可視化しました。基幹システムが大規模化するほど、どの機器がどれだけのコストや負荷を生んでいるかを把握すること自体が大きな課題になります。

ログを可視化したことで、保守費が高くつく機器や、すでに役割を終えつつある機器を具体的に特定できるようになりました。勘や経験ではなくデータに基づいて「どこを残し、どこを整理するか」を判断できる状態をつくった点が、この事例の本質です。可視化はそれ自体が目的ではなく、合理的な刷新の意思決定を支える土台として機能しました。

その結果、運用にかかる作業負担は5分の1にまで軽減され、投資対効果は数億円規模に達しました。基幹インフラのモダナイゼーションは華やかさに欠けると思われがちですが、可視化と定量管理を組み合わせることで、これだけ大きな成果を生み出せます。「測れないものは改善できない」という原則を体現した好例といえるでしょう。

事例から抽出する基幹システム/ERP刷新成功のパターン

事例から抽出する基幹システム/ERP刷新成功のパターン

製造業・小売・インフラ運用という異なる業界の事例を並べてみると、成功した基幹システム/ERP刷新にはいくつかの共通したパターンが浮かび上がってきます。業界や扱うシステムが違っても、成功と失敗を分ける判断軸は驚くほど似ています。本章では、事例から抽出できる再現性の高いパターンを整理します。

現状把握を起点に手法を選ぶという意思決定

成功事例に共通する第一のパターンは、「いきなり作り始めない」ことです。製造業の事例では資産の棚卸しが、イオングループでは業務プロセスの分析が、ユニリタではログの可視化が、それぞれ刷新の起点になっていました。いずれも「まず現状を正確に把握し、それから手法を選ぶ」という順序を守っています。基幹システムは依存関係が複雑なため、現状把握を飛ばすと刷新範囲の見積もりそのものが狂います。

手法そのものに唯一の正解はありません。ERPパッケージの標準機能に業務を寄せて作り直す方法もあれば、土台だけ載せ替える方法、業務プロセスの見直しや部分的な自動化が最適な場合もあります。重要なのは、自社の課題と制約に照らして「どの手法を選ぶか」を意思決定すること、そしてその判断材料を現状把握によって揃えることです。手法ありきで進めた刷新は、たいてい途中で目的を見失います。

また、移行の進め方そのものも意思決定の対象です。全社の基幹システムを一度に切り替える「ビッグバン」型は一見スピーディーですが、トラブル時の影響範囲が極めて大きくなります。多くの成功事例では、機能や対象を区切って段階的に新しい仕組みへ置き換えていく進め方が選ばれており、これは「ストラングラーパターン」と呼ばれる考え方に通じます。急ぎつつも一気にやらないという絶妙な舵取りが、成功企業に共通していました。

標準化を意識し、効果を定量で管理する

第二のパターンは、刷新を「業務の標準化」とセットで進めていることです。イオングループが導入前に業務を可視化したように、成功した企業は基幹システムを入れ替える前後で業務のやり方そのものを見直しています。古い業務手順をそのまま新システムに移し替えるだけでは、せっかくの刷新が「速くなった旧来業務」で終わってしまいます。とくにERPは独自カスタマイズを増やすほど保守が重くなるため、標準機能への寄せ方が将来のコストを左右します。

第三のパターンは、効果を定量的に管理していることです。製造業の事例では夜間バッチの処理時間と保守費、イオングループでは削減した業務時間、ユニリタでは作業負担と投資対効果という具体的な指標で成果が語られていました。最初に「何を、どれだけ改善するのか」を数値目標として置いたからこそ、刷新後にその達成度を評価できたのです。

こうした定量管理の発想は、投資判断の段階から組み込むことが理想です。たとえばトヨタ自動車は、IT投資をQCDS(Quality・Cost・Delivery・Safety)という複数の観点から多角的に評価する考え方を採り入れています。コストだけ、あるいは品質だけといった単一指標で判断するのではなく、複数の軸でバランスを見ることで、基幹システム刷新が本当に事業に貢献しているかを立体的に捉えられます。

成功と失敗を分ける分岐点はどこにあるか

ここまで成功事例を見てきましたが、すべての基幹システム刷新がうまくいくわけではありません。対比として知っておきたいのが、江崎グリコの基幹システム切り替えで発生したトラブルです。切り替え時の障害により、チルド商品の全品出荷が停止する事態に至りました。この一件は、移行計画の作り込みが不十分だと、システムだけでなく事業そのものが止まりかねないことを示しています。

成功事例と失敗事例の分岐点は、多くの場合「移行の設計と検証にどれだけ手間をかけたか」にあります。成功した企業が現状把握や段階的な置き換えに時間をかけていたのに対し、トラブルに陥るケースでは移行時の影響範囲の見積もりや切り戻し手順の準備が甘くなりがちです。とくに基幹システムは止まると全社の業務が止まるため、ほかのシステム以上に移行設計の精度が問われます。

言い換えれば、成功のパターンはそのまま「失敗を避けるためのチェックリスト」にもなります。現状を把握してから手法を選ぶ、業務標準化とセットで進める、効果を定量で管理する、そして一気に切り替えず段階的に移行する。この4点を押さえているかどうかが、業界を問わず基幹システム/ERP刷新の成否を大きく左右するのです。

まとめ

基幹システム/ERP刷新事例のまとめ

本記事では、基幹システム/ERP刷新の事例・成功事例について解説してきました。製造業のCOBOL基幹系刷新では資産棚卸しを起点としたリビルド型の刷新により、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮し、保守費を年2,400万円から850万円へ約65%削減しました。イオングループは導入前の業務可視化で月700時間の業務を削減し、ユニリタは大規模なログ可視化で作業負担を5分の1に軽減し数億円規模の投資対効果を実現しています。

これらの事例から読み取れる成功のパターンは、(1)現状把握を起点に手法を選ぶ、(2)業務標準化とセットで進める、(3)効果を定量で管理する、(4)一気に切り替えず段階的に移行する、という4点に集約できます。SAPの2027年問題や2025年の崖という期限が迫るなかでも、トヨタ自動車のQCDS視点のように複数の軸で投資効果を評価する姿勢が、刷新を事業貢献につなげる鍵でした。一方で江崎グリコのトラブルが示すように、移行設計の甘さは事業停止という深刻な結果を招きます。成功と失敗を分けるのは、手法の派手さではなく進め方の丁寧さです。

自社の基幹システム/ERP刷新を検討する際は、まず本記事の事例を「自社の状況に置き換えるとどうか」という視点で読み返すことをおすすめします。そのうえで、手法の全体像や費用感、進め方の選択肢を体系的に整理したい場合は、完全ガイドもあわせて活用してください。事例から学んだ判断軸を自社の計画に落とし込むことが、刷新を成功へ導く確かな一歩になります。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。