基幹システム/ERP刷新の事例/成功事例について

基幹システム/ERP刷新は、現状把握・標準化・段階的な移行で、処理時間・保守費・作業負担を改善できます。

効果や進め方が見えず稟議が止まりがちな経営者・情シス部門へ、完全ガイドで触れきれない現場の実例を数字で示します。全体像は基幹システム/ERP刷新の完全ガイドもご覧ください。

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・基幹システム/ERP刷新の完全ガイド

今、基幹システム/ERP刷新の事例から学ぶ意義

ERP刷新事例を出発点の課題、手法と意思決定、定量・定性の効果の3視点で整理した図。
成果に至るまでの判断にも目を向けられます。

会計・販売・購買・在庫・生産などの基幹システムやERPは、導入後10年、15年と使い続けることも珍しくありません。その際は、会計や販売、在庫など止められない業務を動かしたまま作り替えることになります。さらに、長年の追加開発で仕様が複雑化し、当初の設計意図が失われている場合もあります。

計画段階で参考にできる先行事例は、ほかのIT施策と比べても価値が高い領域です。事例から課題や意思決定、成果を知ることは、計画の精度を高めることにつながります。成功談として読むだけでなく、自社で再現できる判断や備えるリスクを読み取ります。

「2027年問題」と「2025年の崖」が迫る刷新の期限

基幹システム/ERP刷新には、保守期限とシステム老朽化という、先送りできない背景があります。

刷新を急ぐ背景は、SAPの保守期限、移行先の判断、経済損失、企業の課題認識の4つの論点に表れています。

  • SAPの保守期限:SAP ERP(ECC6.0)の標準保守が終わる時期は、2027年末です。
  • 移行先の判断:大手・中堅企業は、期限までにSAP S/4HANAへ移るか、別の選択肢を取るかを決める必要に迫られています。
  • 経済損失リスク:経産省のDXレポートは、老朽化などを放置すると2025年以降、年最大12兆円の損失が出るおそれがあると指摘しました。
  • 企業の課題認識:JUASの調査では、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題として挙げています。

2027年問題と2025年の崖は別の論点ですが、どちらも刷新を先送りできない理由になります。そのため、保守期限に間に合うよう、ERP刷新は計画的に進める必要があります。

ただし、焦って全社を一度に切り替えると、トラブルを招くおそれがあります。事例から、急ぐ理由と急ぎすぎる危険の両方を学び、適切な速度で進める感覚を養えます。

また、次章以降で取り上げる成功企業も、期限への対応と慎重な移行を両立させていました。

ERP刷新事例から読み取るべき3つの視点

基幹システム/ERP刷新の事例は、少なくとも3つの視点で読むと学びが深まります。成果だけでなく、課題から結果に至るまでの判断の過程も見ておくと役立ちます。

  • 出発点の課題:刷新のきっかけになった課題
  • 手法と意思決定:どの手法を選び、どう判断したか
  • 定量・定性の効果:数値と業務上の変化

二つ目の観点は、見落とされがちな意思決定です。同じ保守費の課題でも、選ぶ手法によって期間・費用・リスクが変わります。

成功企業は、自社の制約と目的を踏まえて、標準に合わせる部分と残す部分を明確に決めていました。

第三の効果は、夜間処理を何分短縮したか、保守費を何割減らしたか、月に何時間削減したかといった定量データで見ます。

業務の属人化が解消されることや、新しい施策に着手しやすくなることも、定性の効果として押さえておきたい点です。この記事で取り上げる事例も、この3つの視点で読んでいきます。

ポイント

刷新の期限は、保守の終了時期と老朽化による損失リスクの両方から見ると、判断の目安をつかみやすくなります。急ぐ理由と急ぎすぎる危険を両方踏まえて、計画を立てることが大切です。

基幹システム/ERP刷新の具体的な成功事例

製造業、小売・流通、インフラ運用のERP刷新事例を、それぞれ夜間バッチ時間、削減業務時間、作業負担の成果で示した図。
成果指標は業界ごとに異なる形で表れています。

ここからは、刷新で成果を出した取り組みを具体的に見ていきます。取り上げるのは、製造業、小売・流通、インフラ運用の3分野です。

数字の裏側にある判断には、自社でも再現できるヒントがあります。事例ごとに課題・アプローチ・効果を分けて示すので、自社の状況に置き換えて読んでください。

製造業:COBOL基幹系の刷新で夜間バッチを8時間から90分に短縮

従業員約1,200名の製造業では、COBOL基幹システムの夜間バッチに約8時間を要し、翌朝の業務開始に間に合わない懸念がありました。さらに、保守費も年2,400万円規模でした。

  • 資産の棚卸し:構築前に、機能・データ・依存関係を洗い出しました。
  • 刷新方式:土台から作り直すリビルド型を選びました。
  • 機能の整理:不要な機能を削り、必要な処理を新しい基盤へ移しました。
  • 実施期間:刷新に要した期間は約16ヶ月です。

夜間バッチは8時間から90分へ約80%短縮し、保守費は年2,400万円から850万円へ約65%減りました。

処理時間が短くなったことで、翌朝の業務開始前に確実に処理を終えられるようになり、安心感も生まれました。定量と定性の両面で効果が出た、リビルド型刷新の代表例です。

小売・流通:イオングループの業務可視化による月700時間の削減

小売・流通大手のイオングループは、システムを入れれば業務が楽になるという考えに頼らず、導入より先に対象業務を分析して見える形にしました。

  • 不要作業の把握:可視化により、不要な作業や重複手順を見つけました。
  • 業務の適性確認:自動化に向く業務と、向かない業務を仕分けました。
  • 属人的な判断の把握:自動化に向かない業務も見つけました。

業務を整理しないまま導入すると、無駄な作業まで自動化しかねません。そこで導入前に業務を可視化し、効果を最大化できる対象を見極めました。

その結果、月あたり700時間規模の業務削減を実現しました。成果を分けたのは、システムより先に業務を見直す姿勢でした。

刷新の形は、全面的なパッケージの入れ替え以外にもあります。業務プロセスの見直しや部分的な自動化も含まれ、ERPの標準機能に業務を寄せる「Fit to Standard」にも通じます。進め方の順序が成果を左右するという教訓は、業界を問わず応用できます。

インフラ運用:ユニリタのログ可視化で作業負担を5分の1に軽減

基幹システムが大規模化すると、機器ごとのコストや負荷を把握することも課題になります。

  • 可視化した対象:200種・約30,000台のネットワーク機器と、約10,000台のサーバーです。
  • 集計したデータ:通信ログを1日10億件、集計・可視化しました。
  • 機器の状態把握:保守費が高い機器や、役割を終えつつある機器を特定しました。
  • 整理の判断:勘や経験に頼らず、データに基づいて残す対象を決められる状態にしました。

運用作業の負担は5分の1に軽減し、投資対効果は数億円規模に達しました。

可視化は、合理的な刷新判断を支える土台です。目立ちにくい基幹インフラでも、可視化と定量管理が大きな成果につながりました。「測れないものは改善できない」という原則を、形にした事例です。

ポイント

成果の数字だけでなく、そこに至った判断まで見ると、自社の刷新に応用しやすくなります。取り上げる事例は分野が違うため、数字の大きさより判断の進め方に注目すると役立ちます。

事例から抽出する基幹システム/ERP刷新成功のパターン

基幹システム刷新の判断軸として、現状把握、業務標準化、効果測定、段階的な移行を示すチェックリスト図。
4つの軸をそろえると計画の抜けを見つけやすくなります。

製造業・小売・インフラ運用と業界やシステムが異なっても、成功した刷新には共通のパターンがあり、成否を分ける判断軸も似ています。

ここでは、現状把握、標準化と効果測定、移行設計の3つの観点から、再現性の高いパターンを見ていきます。

現状把握を起点に手法を選ぶという意思決定

第一の共通点は、いきなり作り始めないことです。製造業は資産を洗い出し、イオングループは業務を分析し、ユニリタはログを可視化したうえで手法を選びました。

依存関係が複雑な基幹システムでは、現状把握を省くと刷新範囲の見積もりが狂いやすくなります。手法に決まった正解はないため、自社の課題・制約・目的に合わせて選ぶことになります。

  • 標準機能に合わせる:ERPパッケージの標準機能に業務を寄せ、作り直す方法
  • 土台を載せ替える:システムの土台だけを新しくする方法
  • 業務を見直す:プロセス変更や部分的な自動化を選ぶ場合もあります

現状把握で判断材料をそろえないまま、手法ありきで進めると、途中で刷新の目的を見失いがちです。

移行方式も検討の対象になります。全社を一度に切り替えるビッグバン型は速い一方、障害時の影響が大きくなります。それに対して、機能や対象を区切って移す段階的な移行は、ストラングラーパターンに通じます。急ぎつつも、一度に全部は切り替えない方法です。

標準化と効果の定量管理

第二のパターンは、刷新と業務標準化を組み合わせることです。第三のパターンは、効果を定量で管理することです。

  • 業務手順の見直し:古い手順をそのまま移すと、旧来の業務を速くするにとどまります。
  • ERPの標準化:独自カスタマイズが増えるほど保守負担が重くなり、標準機能へ寄せる範囲が将来コストを左右します。
  • 効果指標と目標:夜間バッチ時間、保守費、削減業務時間、作業負担、投資対効果を指標にし、数値目標を先に定めて達成度を評価します。
  • 複数の評価軸:トヨタ自動車は、QCDS(Quality・Cost・Delivery・Safety)の観点から、IT投資を多角的に見ています。

複数の軸で見ると、事業への貢献を立体的に捉えられます。また、イオングループは導入前に業務を可視化し、成功企業は入れ替えの前後にも業務の進め方を見直しています。

成功と失敗を分ける分岐点

江崎グリコの基幹システム切り替えでは障害が発生し、チルド商品の全品出荷が停止しました。移行計画が不十分だと、システムの停止にとどまらず、事業も止まりかねません。

成否を分けるのは、移行の設計と検証にどれだけ手間をかけるかです。影響範囲の見積もりや切り戻し手順の準備が不足すると、トラブルにつながります。基幹システムは停止時に全社業務へ影響するため、移行設計の精度が問われます。

失敗を避けるうえで押さえたい判断軸は、業界を問わず共通しており、4つにまとめられます。

  • 現状把握:状況を確かめたうえで、刷新手法を選ぶ。
  • 業務標準化:業務の見直しと刷新を合わせて進める。
  • 効果測定:改善効果を定量的に管理する。
  • 段階的な移行:一度に切り替えず、機能や対象を順に置き換える。

ポイント

計画に迷ったら、手法を先に決めていないか、全社を一度に切り替える前提になっていないかを確かめてください。効果を数値で測る指標がない計画は、途中で目的を見失いがちです。

まとめ

製造業のCOBOL基幹系刷新では、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮し、保守費を年2,400万円から850万円へ約65%削減しました。イオングループは業務可視化で月700時間を削減し、ユニリタはログ可視化で作業負担を5分の1にしました。

共通する成功要因は、現状を把握して手法を選び、業務を標準化し、効果を数値で管理することです。移行は一度に切り替えず段階的に進める判断も、欠かせません。

SAPの2027年問題や2025年の崖が迫るなか、トヨタ自動車のQCDSのように複数の軸で投資効果を評価する視点が役立ちます。江崎グリコの事例が示すように、移行設計の不備は事業停止につながるおそれがあります。

自社の状況に事例を照らし合わせ、判断軸を刷新計画に反映しましょう。手法の全体像や費用感、進め方を確認するときは、完全ガイドもご覧ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。