基幹システム/ERP更改の失敗/課題/注意点/リスクについて

基幹システム・ERP更改は、現状把握、段階的な移行、業務部門の参画によって、業務停止や遅延のリスクを抑えて進められます。

長年使う基幹システムやERPは、保守期限やサポート終了(EOL)、保守契約の満了を迎えると、更改が避けられません。全体像は基幹システム/ERP更改の完全ガイドもご覧ください。

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基幹/ERP更改が失敗する典型パターン

基幹/ERP更改の失敗要因を、移行計画、業務部門の参画、アドオン、現行仕様の4つのカードで整理した図です。
技術面だけでなく、体制や現行業務の把握も失敗要因になります。

更改の失敗は、特殊な偶発事象ではありません。更改は、稼働中の仕組みを止めずに基盤を置き換える難度の高い作業ですが、そのなかで起きる失敗は、業界や規模を問わず似た形で繰り返されます。

どこで何が崩れるかを知ることが、回避の第一歩です。

現場で繰り返される代表的な失敗の構造を、順に見ていきます。

失敗の多くは、技術よりプロジェクトの進め方や関係者の関わり方に起因します。そのため、技術担当者だけでなく、経営層や業務部門も典型例を把握しておく必要があります。

江崎グリコの出荷停止が示す移行計画の甘さ

江崎グリコは、基幹システムの切り替え時に障害が起き、チルド(冷蔵)商品の出荷が全面停止しました。プリンや乳飲料などの主力商品が長期にわたって店頭から消え、事業に影響が出ました。

この事例が示すのは、更改がIT部門の作業にとどまらず、事業継続を左右する経営リスクだということです。受発注、在庫、物流が止まれば、商品を作れても届けられず、「モノが動かない」事業停止に直結します。

トラブルの根本には、多くの場合、移行計画の作り込み不足があります。新システムが机上の想定どおり動くことに意識が向き、本番切り替えや切り戻しの検証が後回しになりがちです。

  • 切り替え時の検証:本番切り替えで起こりうる事象の確認
  • 切り戻しの検証:問題発生時に元へ戻す方法の見極め
  • 移行設計:派手な技術的ミス以外の、地道な設計不足の防止

SAP導入で語られる「3大疾病」

SAP導入では、失敗の典型を「3大疾病」と呼ぶことがあります。

SAPに限らず、基幹システム更改でも起こりうる落とし穴です。

SAP更改では、業務部門の参画、標準機能の活用、データ移行が成否を分けます。

  • 業務部門の参画不足:ユーザー側の意欲や参加が足りない
  • 大量のアドオン:標準機能を使わず、追加開発が膨らむ
  • データ移行の失敗:古いデータを新システムに正しく載せられない

業務部門が要件を語らず、テストにも加わらなければ、現場で使えないシステムになるおそれがあります。

業務部門をIT部門やベンダーに任せきりにしないことが大切です。

「自分たちの仕事ではない」という受け身の姿勢も、稼働後の混乱を招きます。

標準機能で対応できる業務まで従来のやり方に合わせると、アドオンが増えます。そのぶん開発費とテスト範囲が膨らみ、将来のバージョンアップも難しくなります。

データ移行の問題は、次の章で扱います。

3つの問題には、現場を巻き込まないことと、現行業務をそのまま持ち込むという共通点があります。

要件定義の甘さとブラックボックス化

後工程での炎上は、上流の要件定義に原因があることも少なくありません。

長年使ったシステムでは、仕様書の紛失や度重なる改修によって、仕様が複雑になりがちです。

現行システムの処理が、誰も正確に説明できないブラックボックス状態になることがあります。

現行仕様のブラックボックス化は、要件の確定から費用や日程まで後工程に影響します。

  • 要件の未確定:現行仕様を把握できず、要件をまとめきれない
  • 処理や業務フローの漏れ:設計や開発の後になって、重要な処理や例外業務が見つかる
  • 手戻り:スケジュールの遅れと追加費用が同時に生じる

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査では、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題と認識しています。

老朽化が進むほどブラックボックス化は深刻になり、その影響は要件定義の段階で一気に表面化します。

ポイント

移行計画の作り込み、業務部門の参画、現行仕様の把握が足りているかを、更改の初期に点検することが判断の目安になります。

データ移行とベンダー丸投げのリスク

データベースを中心に、データ構造、文字コード、マスタ情報、本番データの4項目を注釈線で示した図です。
本番に近いデータで試すと、テストデータでは見えない例外も表面化します。

データ移行とベンダーへの丸投げは、多くの更改プロジェクトを苦しめます。どちらも更改の山場であり、泥臭い作業が多く、トラブルも起きやすい領域です。

データ移行に潜む泥臭い落とし穴

データ移行は、古いデータを新システムに入れるだけの作業と軽く見られがちです。しかし実際には、更改のなかで最も難航しやすい工程です。

新旧でデータの持ち方が異なるため、移行作業は想像以上に手間がかかります。項目を取り違えると、稼働後の業務全体に影響することがあります。さらに、長年蓄積したデータには、次のような課題も潜んでいます。

  • データ構造:新旧で異なり、マッピングが複雑になる
  • 文字コード:違いから、文字化けや欠落が起きる
  • マスタ情報:取引先などの重複や表記ゆれがあり、名寄せが要る
  • 本番データ:テストデータでは見えない例外が含まれる

データ移行の課題は事前にすべて洗い出すのが難しく、本番に近いデータで試して初めて表面化することがあります。

移行リハーサルや切り戻し手順が不足すると、問題が深刻になりがちです。本番に近い移行を繰り返していなければ、当日に想定外のエラーに直面します。

旧システムへ戻す手順がない場合、業務が止まったまま復旧の見通しが立たない事態になりかねません。

江崎グリコの事例のような影響を避けるには、事前の備えが欠かせません。

ベンダー丸投げが招く認識齟齬と追加費用

ベンダーへの丸投げは認識ずれや追加負担を招くため、発注側が要件を把握し、主体性を保つ必要があります。

  • 認識の齟齬:現行業務を説明できないまま、ベンダーが推測で進める
  • 認識齟齬の発覚:開発後半やテストの段階で「思っていたものと違う」と分かる
  • 発注側の主体性:実現したいことや譲れない業務を言葉にして、役割を明らかにする

仕様変更は追加費用と遅延を伴い、当初の見積もりを大きく超えることがあります。

丸投げは手軽に見えても、最もコストの高い進め方になりかねません。

現状把握はベンダーに代行できません。

ベンダーの力を借りる場合も、自社がオーナーシップを持つことが大切です。

2027年問題による駆け込み更改のリスク

ERP更改では「SAP ERPの2027年問題」がリスクとして注目されています。

旧来のSAP ERP製品が保守サポート期限を迎えるため、多くの企業が更改を迫られています。

経済産業省のDXレポート「2025年の崖」は、老朽化したシステムを放置した場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じるリスクを示しました。そのため、更改は待ったなしの経営課題です。

期限前の駆け込みには、次の問題があります。

  • 人材やベンダーの不足:案件が集中し、人材やベンダーが逼迫して、優秀な人材を奪い合う
  • スケジュールの遅れ:必要な人材を確保できず、計画が後ろ倒しになる
  • 品質への影響:体制が組めず、品質を犠牲にして進めてしまう場合がある

期限ぎりぎりまで先送りせず、急ぐ理由と焦る危険の両方を踏まえて、早めに計画し着手することが安全です。

ポイント

データ移行を本番に近いデータで試せているか、また発注側が担う範囲を決めているかが、判断の目安になります。ベンダーに任せきりの範囲が残ると、認識齟齬や追加費用を招きかねません。

失敗を避けるためのプロジェクト設計

業務停止を防ぐ切り替え準備として、移行リハーサル、切り替え手順、切り戻し手順を並べたチェックリスト図です。
旧システムへ戻す備えも、切り替え作業の計画に含まれます。

これまでの失敗パターンやリスクは、回避策を考える材料になります。ただし、リスクを列挙して不安をあおるだけでは意味がありません。炎上・遅延・業務停止を避けるには、プロジェクトの設計を具体的に組み立てる必要があります。

ビッグバン回避とストラングラーパターン

移行方法の選択は、失敗を避けるうえで最も重要な意思決定の一つです。ビッグバン型とストラングラーパターンには、次の違いがあります。

  • ビッグバン型:全社一斉に切り替えるため、障害の影響が全社に及ぶ
  • ストラングラーパターン:機能や対象を区切り、新旧を並行稼働させて段階移行する
  • 移行期間と影響:時間がかかる場合もあるが、手戻りや業務停止を抑えやすい

ビッグバン型は速く分かりやすい一方、江崎グリコの出荷停止のように、一度の障害で事業全体が止まるリスクがあります。

段階移行では影響を局所にとどめられ、問題を解消しながら次へ進めます。このため、急ぎつつも一気に切り替えない方法が、全体として安全で確実な更改につながります。

現状把握・移行リハーサル・切り戻し設計

段階的な移行の土台は、現状把握です。要件定義の甘さやブラックボックス化を防ぐため、現行システムが何をしているか(AS-IS)を一覧にします。

資産を一つずつ確認し、不要な機能を洗い出せば、必要な処理だけを新基盤へ引き継げます。

資産の確認は、アドオンの肥大化を抑えることにもつながります。

データ移行に備えるには、リハーサルと切り戻し設計が欠かせません。業務停止を防ぐ最低限の備えは、次の3点です。

  • 移行リハーサル:本番に近いデータで、複数回繰り返す
  • 切り替え手順:当日の手順とタイムラインを、細かく決めておく
  • 切り戻し手順:トラブル時に旧システムへ戻す方法の用意

切り戻し手順がないこと自体が、重大なリスクです。戻せる安全網があってこそ、切り替えに踏み切れます。

リハーサルで見つけた問題を解消し、本番当日の成功基準と切り戻し基準を決めます。これにより、当日の混乱を抑えられます。

移行設計に時間をかけるのは遠回りに見えても、業務停止による最大の損失を避けるための投資です。

ユーザー巻き込みとアドオン最小化

SAPの3大疾病が示す参画不足とアドオン肥大化は、更改失敗の中核です。

発注側は、現場を巻き込み、丸投げを避ける対策が必要です。

  • 業務部門の参画:初期の段階から現場を巻き込み、要件定義やテストに加わってもらう
  • Fit to Standard:業務をシステムに合わせ、標準機能をできるだけ使う
  • 役割分担:契約の段階で、自社とベンダーの担当範囲を定めておく

現場担当者が主体的に関わることで、稼働後も使えるシステムに近づけます。

標準機能を使うと開発コストとテスト範囲が縮小し、将来のバージョンアップも容易になります。さらに、業務側でも過剰なカスタマイズを見直せます。

現状把握とオーナーシップは自社が担い、専門的な実装はベンダーに委ねます。この分業が、認識齟齬と追加費用を防ぎます。

ポイント

ビッグバンか段階移行か、切り戻し手順を用意したか、業務部門が参画しているかが、回避策の具体性を測る目安になります。

まとめ

基幹システム・ERP更改の失敗や課題、注意点、リスクと、その回避策を整理してきました。移行計画の甘さは、業務停止につながることがあります。

SAPの「3大疾病」は、業務部門の参画不足、大量のアドオン、データ移行の失敗です。

要件定義の甘さやブラックボックス化、ベンダー丸投げもリスクです。

2027年問題による駆け込みは、リソース不足を招くおそれがあります。

失敗を避ける鍵は、プロジェクトの設計にあります。回避には、ビッグバンを避けて段階的に移行し、現状を一覧にすることが欠かせません。

移行リハーサルと切り戻し手順も、事前に整えておきます。

業務部門を巻き込み、Fit to Standardでアドオンを抑えます。ベンダーとの役割分担も明確にして、丸投げを避けます。

これらはいずれも、失敗パターンを裏返した回避策です。老朽化したシステムの放置にはリスクがあります。一方で、焦って進める更改も炎上につながります。

リスクを理解し、早めに計画して着手することが大切です。手法選定や費用感、進め方は完全ガイドで確認し、本記事の回避策を自社の設計に反映させてください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。