宿泊・ホテル業界のシステムのRFP/要件定義書/提案依頼書について

宿泊施設のシステムの要件定義は、現場業務、ハード・工事・連携、運用・法令の順に整理すると、現場に定着するシステムにつながります。

施設運営者向けに、RFP(提案依頼書)と要件定義書の作り方を、現場、見積り、運用の観点から解説します。全体像は宿泊・ホテル業界の完全ガイドもご覧ください。

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現場業務の可視化から始める要件整理

予約から会計までの業務と繁忙期の例外対応を4つのパネルで整理した図
部門を横断して並べると、機能を考える前に確認すべき範囲が見えてきます。

宿泊施設の要件定義は、まずフロント・予約・客室・清掃・会計の業務を見える形にするところから始めます。欲しい機能を挙げるのは、その後の作業です。

宿泊施設の運営には長年の慣行や繁忙期の例外対応があるため、それらを無視して理想論で機能を決めると、現場と噛み合わないシステムになります。

予約から清掃までの現状フローの洗い出し

部門をまたいで業務フローを洗い出し、予約から会計までの流れを確かめます。また、関係者へのヒアリングで、マニュアルに載っていない運用や例外も拾います。

  • 予約:自社サイト、複数OTA、電話、FAXからの受付と記録方法
  • フロント・清掃:チェックイン・アウトと清掃指示の運用
  • 会計:会計・精算の締め方

現場には、常連客の電話予約を手帳に控える慣行や、繁忙期だけ客室を融通する例外があります。これを見落とすと、移行後に二重管理やダブルブッキングが起きるおそれがあります。

現状把握には手間がかかります。一方で、実態を正確につかむことは、要件漏れを防ぎ、現場で使われるシステムの土台になります。

あるべき業務の姿と省人化目標の定義

現状を把握したら、実現したい業務フローを描き、そこから必要な機能を逆算します。機能を先に決めてしまうと、機能同士がつながらない事態になりかねません。

  • 予約:電話・FAX中心の受付から、Web受付と一元管理への移行
  • フロント:セルフチェックインによる省人化
  • 清掃:客室の状態と清掃手配の連動

省人化や売上向上の目標は、数値で定めます。たとえば「夜間フロントの常駐をなくす」「予約担当の転記作業を月◯時間削減する」などが挙げられます。

また、ノーショー率を◯%下げる目標も設定できます。その根拠には、受付自動化による年約576万円の人件費削減や、リマインド導入によるノーショー率30〜50%削減の一次データを使い、自施設の規模に当てはめます。

ポイント

機能を挙げる前に、予約から会計までの現場の流れと慣行を洗い出せているかを確かめます。例外と数値目標まで押さえておけば、必要な機能を逆算できます。

ハードウェアと工事費を含めたRFPの作り方

外部連携の対象や障害対応など責任分界を決める4項目を示した図
連携先と障害時の対応条件を並べることで、見積もりと復旧時の認識をそろえられます。

宿泊施設のシステムでは、ソフトウェアに加えて機器と物理工事も要件になります。機器や設置範囲を定めておかないと、ソフトが完成しても運用を始められないことがあります。

ソフトウェアの機能だけを書いたRFPでは、ハード・工事・連携の責任範囲が抜けやすく、想定外の追加費用やトラブルにつながりがちです。

機器の選定・設置工事と給電・防犯の要件

RFPに機器の設置条件を含めておくと、ベンダー間で見積もりの前提をそろえられます。設備投資や工事費は、ソフトウェア開発費とは別に膨らむことがあります。

  • 連携・工事:スマートロック、自動ドア、フラッパーゲートの配線と設置
  • 設置場所:無人エリアのタブレット固定と常時給電
  • 見積り:機器費、設置工事費、既存改修費の区分

RFPには、対象の客室数と出入口数、電源やネットワーク配線の有無、既存設備との取り合いを記載します。さらに、故障時の交換対応と保証範囲も要件に含めます。

対象機器には、セルフチェックイン機、スマートロック、自動ドアがあります。このほか、タブレット端末や防犯カメラなどもあります。

ハードと工事の総コストは、競合の解説で触れられにくい領域です。だからこそ、要件に丁寧に書き込むことが、後の予算超過を防ぐ分かれ目になります。

外部連携における責任分界の明記

宿泊施設では、OTA、サイトコントローラー、スマートロックなどが連携します。さらに、決済代行やPMSも関わります。障害時の責任分界を契約で定めておかないと、復旧が遅れ、売上を失うおそれがあります。

  • 対象・方式:外部サービス名とAPI・CSVなどの連携方式
  • 障害対応:一次切り分けの担当と復旧目標時間

在庫同期の不具合では、PMSとサイトコントローラーのどちらが原因かを切り分けます。担当を決めておけば、各社が責任を押し付け合う事態を避けやすくなります。

連携の作り込みには費用がかかり、CRMなどの独自連携では初期で20万〜100万円以上かかる場合があります。そこで、範囲と費用、障害時の修理担当を要件段階で明文化します。

特に責任分界の設計は、宿泊システムのRFPで競合が踏み込めていない核心です。

ポイント

ソフトの機能に加えて、機器と工事の範囲、外部連携の障害時の担当まで要件に書けているかを見ます。曖昧な箇所は、各社の見積もりの前提がずれる原因になります。

非機能要件と見積りの妥当性を判断する軸

機能とハードの要件を固めたら、安定稼働、障害対応、データ保護などの非機能要件も定めます。宿泊施設は365日24時間稼働するため、非機能要件は後回しにできません。要件が曖昧なままだと、稼働後に夜間の停止へ誰も対応しない事態に直面するおそれがあります。

稼働率・SLA・多言語・高齢者UDの要件

RFPでは稼働率とサポートのSLA(サービス品質保証)を定め、各社に同じ条件で回答を求めます。無人運営の施設では、夜間・休日の障害対応が特に重要になります。

  • 稼働・サポート:目標稼働率、連絡窓口、対応時間帯、復旧目標時間
  • セキュリティ:ISMSなどの情報セキュリティ認証の有無
  • 利用者対応:予約・チェックイン画面の言語、海外決済、高齢者向けUI

宿泊施設ならではの非機能要件は、多言語対応と高齢者向けのユニバーサルデザイン(UD)です。訪日客向けの画面言語や海外決済、高齢者が迷わず使える設計を確認します。

多言語UI、海外決済、高齢者UDは、競合の解説で深掘りが不足しがちな領域です。これらを要件にできるかどうかが、幅広い客層を取り込めるかを左右します。

初期費用・保守・隠れコストによる見積りの精査

RFPへの回答が集まったら、見積りの妥当性を複数の軸で精査します。導入形態ごとの金額を目安にしながら、要件への対応と費用のバランスを見ます。

  • クラウド型(SaaS):初期0〜数十万円、月額数千〜10万円程度
  • パッケージ:初期50〜300万円、年保守5〜15万円
  • 自社開発(スクラッチ):中〜大規模で300万〜2,000万円以上

初期費用には表れない運用費も確認します。たとえば、決済手数料は2.5〜4.5%、SMS送信料は1通10〜20円です。このほか、OTA送客手数料や予約超過時の従量課金もあります。

CRMなどの連携費用や月額保守費も含めて、ランニングコストの内訳をすべて開示するよう各社に求めます。そのうえで、初期費用と運用費を合わせたTCO(総保有コスト)で比較します。

総額の安さだけでなく、隠れコストまで透明に示された提案かを評価することが、後悔しないベンダー選定につながります。

ポイント

見積りは、初期費用だけでなく保守費や隠れコストを含めたTCOで比べます。非機能要件を同じ条件で回答させておくと、各社の金額を並べて比較できます。

プロジェクト体制とデータ移行・運用設計の要件

導入を成功させるには、プロジェクトの進め方と稼働後の運用も要件に含めます。体制や日程に加え、データ移行や保守など稼働後の運用についても、施設側とベンダーの役割を明確にします。

体制・スケジュールと繁忙期を避けた稼働計画

RFPでは推進体制と日程を定めます。施設側の窓口を置くほか、フロント・予約・清掃・経理からの意見をどう集めるかを決めます。ベンダーとの会議をどの頻度で開くかも、あらかじめ決めておきます。

宿泊施設は通常業務を止められないため、本業の合間に進める体制が欠かせません。そのうえで、誰がどこまで決めるかを明確にしておきます。意思決定権が曖昧だと、要件の確定が遅れ、開発の手戻りが膨らみます。

宿泊業では、稼働を始める時期も重要です。繁忙期に切り替えると、障害時の影響が大きくなります。そのため、閑散期に稼働させ、テストと並行運用の期間を確保します。

  1. 稼働日から逆算して、テスト・教育・並行運用の期間を決める
  2. 必要な期間と役割を要件段階で合意してRFPに記載すると、ベンダーが現実的な計画を提案できます

既存データ移行と稼働後の運用・保守要件

既存データの移行と稼働後の運用については、RFPに範囲と役割を記載します。

  • 移行対象:予約・顧客情報・宿泊履歴と、既存予約を遡る範囲
  • 移行方法:紙台帳の電子化を現場と相談し、方式と整合性確認の責任を明記
  • 運用準備:スタッフ教育、マニュアル提供、稼働直後のサポート

移行対象を定めておかないと、稼働初日に既存予約の取りこぼしやダブルブッキングが起きます。

月額保守の内容と費用は明示させ、TCO(総保有コスト)の一部として評価します。保守費は稼働後も継続して発生するため、欠かせない確認項目です。

体制・移行・運用まで要件に含めると、開発から定着まで見通したプロジェクトになります。

ポイント

体制やデータ移行、保守の役割を、施設側とベンダーのどちらが担うかまで要件に書けているかを見ます。稼働日から逆算した準備期間があれば、繁忙期を避けた計画を立てやすくなります。

セキュリティ・法令対応とRFP記載項目の整理

個人情報と決済情報を中心に、保護方法と宿泊者名簿の要件を示した図
情報の保護措置と法令上の記録管理を、要件定義の同じ段階で確認できます。

宿泊施設は、宿泊者の個人情報や決済情報など、機微なデータを大量に扱います。そのため、セキュリティと法令対応も機能と同じくらい重視します。

これらをRFPで曖昧にすると、情報漏えいや法令違反など、事業の存続に関わるリスクに直結します。

個人情報・決済情報の保護と法令対応の要件

RFPには、個人情報と決済情報の保護方法を記載します。無人運営やセルフチェックインを導入する施設では、本人確認と取得情報の扱いも定めておきます。

  • 情報保護:データ暗号化とアクセス権限の管理
  • 認証・決済:ベンダーのISMSなどの認証と、決済情報のセキュリティ基準
  • 本人確認:取得情報の保管・廃棄ルール

業態に応じて、法令の要件を確認します。対象となるのは、旅館業法上の宿泊者名簿の記載・保存、訪日客の本人確認、民泊の住宅宿泊事業法に基づく届出や宿泊者管理です。

自施設に適用される法令を洗い出し、システムでどう満たすかを要件定義で決めます。これを後回しにすると、稼働後に法令へ適合しない手戻りが生じます。

RFPに盛り込む項目の一覧

RFPの項目を次のように整理すると、提案各社が同じ前提で見積もれます。現場業務から費用まで、抜けなく記載しておきます。

  • 背景・現状:プロジェクトの目的と数値目標、現状業務と課題
  • システム要件:機能、ハード・工事、非機能要件
  • 連携・進行:外部連携と責任分界、体制・日程・移行・運用保守
  • 費用:見積条件

要件には、予約やフロント、会計などの機能に加え、非機能要件も含めます。項目が不足すると、各社の前提が異なり、見積りを比較しにくくなります。

RFPは、自施設が求める内容をベンダーに伝える設計図です。riplaは、フルスクラッチ受託と国内開発の立場から、項目を網羅したRFP作りと、現場業務から逆算した要件整理を一貫して支援しています。

現場業務への理解に加えて、ハード・連携・法令まで織り込めるかが、提案の質と最終的な成功を左右します。

ポイント

個人情報や決済情報の保護方法と、自施設に適用される法令への対応を、要件定義の段階で書き込めているかが判断の目安です。後回しにすると、稼働後の手戻りにつながります。

まとめ

現場業務を部門をまたいで洗い出し、省人化や売上向上の目標を数値で定めます。次に、ハード・工事・連携の責任分界を要件に落とし込みます。

稼働率やSLAなどの非機能要件を定め、隠れコストまで明らかにした見積りで各社を比べます。

ハードと工事費、連携の責任分界は、競合の解説で手薄な領域です。丁寧に詰めることが、予算超過やトラブルの予防につながります。

出発点は、機能リストより先に現場のあるべき業務を描くことです。

riplaは、宿泊現場から逆算した要件整理、ハードと工事を含む全体設計、責任分界を踏まえたRFP作りを支援しています。

RFPの骨子を固める前に、完全ガイドで全体像をあらためてご確認ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。