業務システムのモダナイゼーションの対象範囲と標準的な手法(リホスト/リプラットフォーム/リファクタリング等)の一覧について

業務システムの刷新は、対象範囲を決めてから手法を選ぶのが基本です。基盤の移行から業務ロジックの作り直しまで、7つの手法があり、費用・期間・効果・リスクがそれぞれ異なります。

刷新の対象範囲と7Rを、特徴や適用場面とあわせて一覧にしました。全体像は業務システムのモダナイゼーションの完全ガイドをご覧ください。

業務システムのモダナイゼーションが対象とする範囲

業務システム刷新の対象をアプリケーション層、データ層、インフラ層に分けた図
どの層を変えるかで、選ぶ手法の範囲も変わります。

モダナイゼーションの手法を選ぶ前に、まず何を刷新の対象とするかという範囲を明確にする必要があります。業務システムの刷新は、業務ロジックだけでなく、データ、インフラ、業務プロセスという複数の層にまたがるためです。対象範囲を曖昧にしたまま手法選定に入ると、後から想定外の範囲が浮上して、コストやスケジュールが膨らむ原因になります。

アプリ・データ・インフラの3層

業務システムの刷新範囲は、アプリケーション層、データ層、インフラ層の3つに分けると整理しやすくなります。アプリケーション層は、販売管理や在庫管理、会計といった業務ロジックそのもので、業務知識が最も色濃く埋め込まれている部分です。

データ層は商品マスタや取引先マスタ、過去の伝票データなどで、移行時にもっとも泥臭い作業が発生する領域です。インフラ層は、サーバーやネットワークなど、システムを動かす土台にあたります。

どの層をどこまで刷新するかによって、選ぶべき手法が変わります。たとえばインフラの老朽化だけが課題ならインフラ層中心の移行で済みますが、業務ロジックが複雑化して改修できない状態であれば、アプリケーション層まで踏み込む必要があります。後述する7Rは、この3層のどこに手を入れるかを整理する道具として使うと役立ちます。

刷新対象となる代表的な業務システム

モダナイゼーションの対象となる代表的な業務システムには、販売管理・受発注、在庫・倉庫管理、会計・経費があります。ほかに、次の業務システムも刷新の対象になります。

  • 生産管理
  • 購買・調達
  • 人事・勤怠・給与

これらは基幹業務(バックオフィス)を支えるシステムで、長年使い込まれているほど、業務ルールが密に作り込まれています。

特に会計や勤怠・給与は、税制改正や労働法制の変更に追従する必要があります。そのため、古い基盤のまま放置すると制度対応が難しくなるという固有の事情があります。

これらの業務システムは互いにデータ連携しているため、一つを刷新すると周辺システムへの影響が波及します。たとえば販売管理を刷新すると、売上データを受け取る会計システムや在庫を引き当てる倉庫システムとの連携も見直しが必要になります。このため、対象範囲は単体のシステムだけでなく、前後の業務とデータの流れまで含めて考える必要があります。

ポイント

刷新の対象は、アプリ・データ・インフラの3層と業務システム同士の連携まで含めて考えます。手法を選ぶ前に範囲を決めておくと、後から想定外の範囲が増えて費用や期間が膨らむのを防げます。

標準的な手法「7R」とそれぞれの特徴

7Rの手法を、基盤移行、業務ロジックの再構築、パッケージへの乗り換え、廃止・現状維持の方向性に分けた図
刷新の深さに応じて、移行から廃止まで選択肢が広がります。

モダナイゼーションの標準的な手法として広く参照されるのが、AWSが整理した「7R」です。7Rは刷新方法を7つに分類した考え方で、基盤を移すリホストや、業務ロジックを作り直すリファクタリングを含みます。残る5つは、刷新の深さが異なる手法で、環境の移し替えから乗り換え、廃止まで幅があります。

  • リロケート
  • リプラットフォーム
  • リパーチェス
  • リタイア
  • リテイン

基盤を移すだけの手法から、業務ロジックを作り直す手法、廃止や現状維持までを含みます。それぞれ刷新の深さやコスト、期間が異なるため、業務システムごとに使い分けるのが基本です。

リホスト・リロケート・リプラットフォーム

リホストは、既存のアプリケーションをほぼそのままクラウドなど新しいインフラへ移す手法で、「リフト&シフト」とも呼ばれます。業務ロジックに手を入れないため期間が短く、クラウド移行型では数百万円〜1,000万円台、3〜6ヶ月程度が目安です。サーバーの老朽化やデータセンター契約の見直しが主目的で、業務ルール自体は変えたくない販売・会計システムに適しています。

リロケートは、仮想化基盤ごと別の環境へ移す手法で、リホストよりさらに改修を抑えられるのが特徴です。リプラットフォームは、アプリケーションの基本構造は維持したまま、データベースやミドルウェアといった一部を新しいものに置き換える手法です。

たとえば、老朽化したデータベースをクラウドのマネージドサービスに切り替えるケースが該当します。リホストより手間はかかりますが、リビルドほど大規模ではないため、保守性とコストのバランスを取りたい在庫・購買システムなどに向いています。いずれも、業務ロジックを大きく変えずに基盤を新しくする点が共通しています。

リファクタリング・リパーチェス

リファクタリングは、業務ロジックそのものを再設計・再構築する、最も踏み込んだ手法です。肥大化・複雑化したコードを整理し、クラウドネイティブな構成に作り直すため、保守性や拡張性を大幅に高められます。

その分コストと期間がかかり、再構築型では2,000万円以上、12〜18ヶ月以上が目安です。改修できないほどブラックボックス化した基幹業務や、ビジネス上の差別化要素を含む独自業務に適しています。

リパーチェスは、独自開発のシステムを廃止し、市販のパッケージやSaaSに乗り換える手法です。会計や勤怠・給与のように業務ルールが法令で標準化され、各社の差が小さい領域では、自社開発を続けるよりパッケージに移行したほうが保守負担を減らせます。ただし、自社特有の業務をパッケージの標準機能に合わせる「業務側の見直し」が前提になるため、過剰なアドオン開発を避けることが大切です。

リタイア・リテイン

リタイアは、使われなくなった機能やシステムを廃止する手法です。長年運用してきた業務システムには、すでに利用されていない帳票や、業務変更で形骸化した処理が残っていることが少なくありません。

資産棚卸しの過程でこうした不要資産を見極めて廃止することで、移行対象を減らし、刷新コストそのものを圧縮できます。また、刷新は、すべてを作り直すだけでなく、「捨てる判断」も含む手法です。

リテインは、あえて現状を維持する手法で、優先度が低いシステムや、近く廃止予定で投資価値の乏しいシステムは据え置く判断が合理的です。7Rの本質は、すべてを最新化することではなく、システムごとに最適な手法を割り当てる「ポートフォリオアプローチ」にあります。基幹業務はリファクタリング、会計はリパーチェス、周辺はリホストというように組み合わせるのが現実的な進め方です。

ポイント

手法は、刷新の深さに応じて費用と期間が変わります。基盤を移すだけのリホストから業務ロジックを作り直すリファクタリングまで、業務システムごとに使い分けるのが基本です。

費用・期間から考える手法の使い分け

クラウド移行型と再構築型について、それぞれの費用と期間の目安を並べた比較図
再構築型は移行型より長い期間と大きな費用を見込みます。

手法を選ぶうえでは、規模別・手法別の費用と期間の目安を押さえ、複数の手法を組み合わせるポートフォリオの考え方で配分することが現実的な判断につながります。刷新の深さが増すほどコストも期間も大きくなるため、課題の深刻度と予算のバランスで手法を決めることになります。

規模別・手法別の費用と期間の目安

費用の一般的な目安は、クラウド移行型(リホスト等)が数百万〜1,000万円台で3〜6ヶ月、再構築型(リファクタリング等)が2,000万円以上で12〜18ヶ月以上です。費用は手法だけでなく、対象システムの数やデータ移行の複雑さにも大きく左右されます。

プロジェクト全体で見ると、単一の業務システム刷新であれば3,000万〜1.5億円、基幹に複数の周辺システムを含む中〜大規模では1.5億〜5億円規模になることもあります。さらに、これらの費用のうちシステムインテグレーション(SI)費が全体の60〜75%を占める点も特徴です。

本格的な刷新に先立って、要件定義・業務棚卸しだけを切り出して行う場合は、200万〜500万円程度が目安です。そこで、まずアセスメントや要件定義を小さく発注し、全体像とコストを見極めてから本格的な手法を決める段階的な進め方が、リスクを抑えるうえで有効です。

ポートフォリオによる手法の組み合わせ

業務システムの刷新で陥りがちなのが、「すべてをリファクタリングで作り直す」あるいは「すべてをパッケージに置き換える」といった単一手法への偏りです。実際には、システムごとに老朽化の度合いも業務上の重要度も異なるため、一律の手法では費用が過剰になったり、逆に課題が残ったりします。

差別化に直結する独自業務はリファクタリング、標準化された会計や勤怠はリパーチェス、当面維持すべき周辺はリテインというように、手法を割り当てるのが合理的です。このポートフォリオアプローチを実現するには、まず保有する業務システムを一覧にし、それぞれの老朽化度・業務重要度・連携関係を評価する作業が前提になります。

この評価がアセスメント(現状分析)にあたり、7Rの割り当てはその結果に基づいて行われます。手法の知識そのものよりも、自社のシステム群をどう評価して手法を配分するかという設計力が、刷新プロジェクトの成否を分けるといえます。

ポイント

手法は、課題の深刻度と予算のバランスで決めます。費用の目安を押さえたうえで、まずアセスメントや要件定義を小さく発注し、全体像とコストを見極めてから本格的な手法を選ぶと、リスクを抑えやすくなります。

業務システム別に見る手法の選び方

7Rは抽象的な分類であるため、実際の業務システムに当てはめると、使い分けのイメージを具体的につかめます。販売・在庫・会計・勤怠といった代表的な業務システムは、業務の標準度合いや差別化の重要度がそれぞれ異なるため、適した手法も変わります。

販売・在庫管理システムに適した手法

販売管理や在庫管理は、取引条件や引当ルール、値引き計算などに各社固有の業務知識が色濃く反映される領域です。こうした業務は競争力や顧客対応に直結するため、安易にパッケージへ寄せると現場の業務が回らなくなる恐れがあります。そのため、独自業務が多い販売・在庫はリファクタリングで作り直すか、リプラットフォームで基盤を更新しつつロジックを維持する方法が選ばれます。

ただし、販売・在庫業務のすべてを独自に作り込む必要はありません。多くの企業では、本当に差別化に効いているのは一部の処理だけで、残りは一般的なパッケージで十分まかなえます。

そこで、差別化に関わるコア業務はリファクタリングで作り込み、定型的な部分はパッケージ(リパーチェス)に寄せる、というハイブリッドな設計が現実的です。どこが自社のコアかを見極めることが、過剰投資を避ける鍵になります。

会計・勤怠・給与システムに適した手法

会計や勤怠・給与は、処理ルールが法令で定められており、各社の差が小さい領域です。仕訳のルールや所得税・社会保険の計算、労働時間の集計などは標準化されているため、自社開発を続けるメリットは小さく、リパーチェス(パッケージ・SaaSへの移行)が適しています。

さらに、市販製品は税制改正や法改正への対応をベンダーが継続的に行うため、自社で改修し続ける負担から解放される点も大きな利点です。この領域でリパーチェスを選ぶ際の注意点は、現行業務をそのまま再現しようとしてアドオン開発を増やさないことです。

このため、標準機能に業務を合わせる「フィット&ギャップ」の発想で、自社の慣習的な処理を見直すことが、保守コストを抑え、将来のバージョンアップを容易にします。会計・勤怠の刷新は、業務を標準化する好機と捉え、パッケージの思想に業務側を寄せていく姿勢が成功につながります。

ポイント

業務システムごとに、標準化の度合いと差別化の重要度を見て手法を割り当てます。差別化に効く独自業務はリファクタリング、法令で標準化された会計や勤怠・給与はリパーチェスが基本です。

まとめ

業務システムのモダナイゼーションの対象範囲と、標準的な手法である7Rを解説しました。刷新の対象は、アプリケーション・データ・インフラの3層にまたがり、販売・在庫・会計・勤怠といった基幹業務がその中心です。

基盤を移す手法にはリホスト・リロケート・リプラットフォームがあります。そのほか、業務ロジックを作り直す方法やパッケージへ乗り換える方法があり、不要な資産の廃止や現状維持も選択肢になります。重要なのは、すべてのシステムに単一の手法を当てはめるのではなく、システムごとに最適な手法を割り当てるポートフォリオアプローチを取ることです。

クラウド移行型は数百万〜1,000万円台で3〜6ヶ月、再構築型は2,000万円以上で12〜18ヶ月以上といった費用感を踏まえ、課題の深刻度と予算のバランスで手法を選ぶことが求められます。そのためには現状分析(アセスメント)が出発点となります。自社の業務システム群をどう評価し、どの手法をどう組み合わせるか、経験豊富なパートナーとともに具体化していくことをおすすめします。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。