業務システム更改の事例/成功事例について

販売管理、在庫管理、会計、勤怠といった日々の業務を支えるシステムには、ハードウェアの保守期限やソフトウェアのサポート終了(EOL)、保守契約の満了といった「期限」が必ず訪れます。これらの期限が近づくと、企業は「いまの仕組みをそのまま延命するのか、新しいものへ更改するのか」という判断を迫られます。業務システム更改とは、こうしたEOL・保守期限・契約満了といった契機をきっかけに、既存の業務システムを新しい基盤や製品へ更新・置換する取り組みのことです。

とはいえ、更改は「期限が来たから入れ替える」という単純な作業ではありません。せっかく多額の費用と人手をかけるなら、業務効率やコストにもしっかり効果を出したいと考えるのは当然です。本記事では、業務システム更改の事例・成功事例について、製造業の基幹系更改やイオングループ・ユニリタといった実在の取り組みの一次データをもとに、「どんな期限・課題を契機に、どの判断を下し、どれだけの効果を得たか」を業務システムごとに掘り下げて解説します。更改の判断基準や手法、費用感を体系的に整理した業務システム更改の完全ガイドもあわせてご覧いただくと、本記事の事例を全体像の中で位置づけやすくなります。

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・業務システム更改の完全ガイド

業務システム更改の事例から学ぶべき理由

業務システム更改の事例から学ぶべき理由

業務システムの更改は、すでに業務が回っている仕組みを止めずに新しいものへ置き換えるという、難易度の高い取り組みです。新規にゼロから作る開発とは異なり、現行の販売管理や会計のデータ・業務ルールを引き継ぎながら入れ替える必要があります。そのため、計画段階で参考にできる先行事例の価値が非常に高い領域です。

他社がどんな期限・課題を契機に、どの製品・手法を選び、どんな成果を出したのかを知ることは、自社の更改計画の精度を大きく左右します。事例は単なる成功談ではなく、「自社の業務システムに置き換えると、どの判断が再現でき、どのリスクに備えるべきか」を読み取る教材として活用すべきものです。本章では、更改という文脈で事例を学ぶ意義を整理します。

更改の契機はEOL・保守期限・契約満了

業務システム更改の最大の特徴は、「期限」という明確な引き金があることです。サーバーやストレージといったハードウェアの保守期限、OSやミドルウェア・パッケージ製品のサポート終了(EOL)、そしてリースや保守の契約満了。これらの期限が重なるタイミングで、企業は「延命するか、更改するか」を判断します。期限があるからこそ、更改は計画的に準備できる反面、先送りすると保守切れのまま業務を続けるリスクを抱えます。

この背景には、経済産業省のDXレポートが指摘した「2025年の崖」があります。老朽化・ブラックボックス化したシステムを放置すると、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じるリスクが示されました。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査でも、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題として認識しています。販売管理や会計のような基幹的な業務システムほど長く使われ、結果として保守期限やEOLを迎えやすい構造にあります。

つまり更改は、一部の先進企業だけのテーマではなく、期限を抱えるすべての企業に共通する経営課題です。期限という制約がある以上、「いつまでに、どの業務システムを、どう更改するか」を逆算して計画することが欠かせません。事例を学ぶ意義は、この逆算をどう進めればよいかを具体的にイメージできる点にあります。

事例から読み取るべき3つの視点

更改事例を「成果が出た話」として消費するだけでは、自社の計画には活かせません。読むときには3つの視点を意識すると学びの質が変わります。第一に「更改の契機となった期限・課題」、第二に「延命ではなく更改を選んだ意思決定と、選んだ手法」、第三に「結果として得られた定量・定性の効果」です。

とくに見落とされがちなのが2つめの意思決定です。同じ「保守期限が近い」という状況でも、ハードウェアだけ載せ替えるのか、パッケージごと新製品へ切り替えるのか、業務プロセスから見直すのかで、必要な期間・費用・リスクは大きく変わります。成功した企業は、自社の業務と制約に照らして「どこまでやるか」を明確に決めていました。

第三の効果については、「夜間処理が何分短縮された」「保守費が何割減った」「月何時間の業務が削減された」といった定量データと、「属人化が解消した」「保守切れの不安がなくなった」といった定性効果の両面を見ることが重要です。本記事の事例も、この3つの視点で読み解いていきます。

業務システム別に見る更改の成功事例

業務システム別に見る更改の成功事例

ここからは、保守期限やサポート終了を契機に業務システムを更改し、明確な成果を出した取り組みを具体的に見ていきます。いずれも「契機・課題」「更改の進め方」「効果」という3つの視点で整理しているので、自社の販売管理・在庫管理・会計・勤怠などに置き換えながら読み進めてください。数字の裏側にある判断にこそ、再現可能なヒントが詰まっています。

製造業の基幹系更改:保守費を年2,400万円から850万円へ

まず取り上げるのは、従業員約1,200名規模の製造業における基幹系更改の事例です。この企業ではCOBOLで構築された生産・販売の基幹システムを長年使い続けており、ハードウェアの保守期限が迫るとともに、夜間バッチ処理に約8時間を要していました。処理が翌朝の業務開始に間に合わないリスクが常につきまとい、保守費も年2,400万円規模に達するなど、保守期限と運用負荷の両面で限界に近づいていました。

この企業が選んだのは、保守期限に合わせてハードウェアだけを延命する「現状維持の更改」ではなく、土台から作り直す更改でした。起点に置いたのは資産の棚卸しです。現行システムにどんな機能・データ・依存関係が存在するかを丁寧に洗い出し、不要になった処理を削ぎ落としたうえで、本当に必要な機能だけを新しい基盤に載せ替えました。期限を「単なる延命のきっかけ」ではなく「無駄を整理する好機」と捉えた点が、判断の分かれ目でした。

その結果、更改は約16ヶ月で完了し、夜間バッチ処理は8時間から90分へと約80%短縮されました。さらにサーバー保守費は年2,400万円から850万円へと約65%削減されています。処理時間の短縮は翌朝の業務開始前に確実に処理を終えられる安心感をもたらし、保守期限切れの不安も解消しました。「期限だから仕方なく入れ替える」を「効果を出す更改」に転換した代表例といえます。

小売・流通:イオングループの業務見直しで月700時間を削減

次に紹介するのは、小売・流通の大手であるイオングループの事例です。業務システムの更改というと、製品やハードウェアの入れ替えばかりに目が向きがちですが、この事例が示すのは「業務プロセスの見直しを伴う更改」の効果です。多くの企業が自動化ツールを導入する際、「とにかくツールを入れれば楽になる」と考えがちですが、イオングループのアプローチはその逆でした。

イオングループは、自動化ツールを導入する前に、まず対象となる業務プロセスの分析を徹底しました。業務を可視化すると、そもそも不要な作業や重複した手順、自動化に向かない属人的な判断が浮かび上がります。ここを整理しないまま更改を進めると、「ムダな作業をそのまま新しい仕組みに移し替える」という典型的な失敗に陥ります。先に業務を可視化したことで、効果を最大化できる対象を見極められました。

この取り組みによって、月あたり700時間規模の業務削減を実現しています。販売管理や在庫管理のような業務システムを更改するときも、「製品を新しくする」だけでなく「業務のやり方そのものを見直す」ことで効果が大きく変わることを示す好例です。手法の派手さではなく、進め方の順序が成果を決めるという教訓は、業務システムの種類を問わず応用できます。

インフラ運用:ユニリタの可視化で更改対象を見極め数億円の効果

3つめは、大規模なITインフラの更改を可視化によって進めたユニリタの事例です。多数の業務システムを支えるインフラには、それぞれ異なる保守期限が存在し、「どの機器から更改すべきか」の優先順位づけが大きな課題になります。この取り組みでは、200種・約30,000台のネットワーク機器と約10,000台のサーバーから、1日あたり10億件にのぼる通信ログを集計・可視化しました。

ログを可視化したことで、保守費が高くつく機器や、すでに役割を終えつつある機器を具体的に特定できるようになりました。期限が来た順に機械的に更改するのではなく、「コストや負荷の観点でどこを優先して更改し、どこを統廃合するか」をデータに基づいて判断できる状態をつくった点が、この事例の本質です。可視化は目的ではなく、合理的な更改計画を支える土台として機能しました。

その結果、運用にかかる作業負担は5分の1にまで軽減され、投資対効果は数億円規模に達しました。多数の業務システムを抱える企業ほど、更改の優先順位づけが投資効率を左右します。「測れないものは改善できない」という原則を体現し、限られた予算を効果の高い更改へ集中させた好例といえるでしょう。

成功事例に共通する更改の進め方のパターン

成功事例に共通する更改の進め方のパターン

製造業の基幹系・小売の業務プロセス・インフラ運用という異なる更改の事例を並べてみると、成功した取り組みにはいくつかの共通したパターンが浮かび上がります。対象となる業務システムが違っても、更改の成否を分ける判断軸は驚くほど似ています。本章では、事例から抽出できる再現性の高いパターンを整理します。

期限が来ても「現状把握」から始める

成功事例に共通する第一のパターンは、期限が迫っていても「いきなり製品を選び始めない」ことです。製造業の事例では資産の棚卸しが、イオングループでは業務プロセスの分析が、ユニリタではログの可視化が、それぞれ更改の起点になっていました。いずれも「まず現状を正確に把握し、それから何をどう更改するかを決める」という順序を守っています。

期限という制約があると、つい「とにかく後継製品に入れ替えればいい」と考えがちです。しかし現状を把握せずに進めると、本来不要だった機能まで引き継いだり、逆に重要な業務ルールを取りこぼしたりします。成功企業は、保守期限という締め切りを意識しつつも、現状把握の工程を省きませんでした。むしろ期限を「現行システムの棚卸しを行う良い機会」として活用していたのです。

また、更改の進め方そのものも意思決定の対象です。販売管理や会計を一度に全部切り替える「ビッグバン」型は一見スピーディーですが、トラブル時の影響範囲が極めて大きくなります。多くの成功事例では、業務や対象を区切って段階的に新しい仕組みへ置き換える進め方が選ばれていました。期限に追われつつも一気にやらない、という絶妙な舵取りが成功企業に共通しています。

更改を業務改革とセットにし、定量で管理する

第二のパターンは、更改を「業務の改革」とセットで進めていることです。イオングループが自動化前に業務を可視化したように、成功した企業は業務システムを入れ替える前後で業務のやり方そのものを見直しています。古い業務手順をそのまま新システムへ移すだけでは、せっかくの更改が「速くなった旧来業務」で終わってしまいます。

第三のパターンは、効果を定量的に管理していることです。製造業の事例では夜間バッチの処理時間と保守費、イオングループでは削減した業務時間、ユニリタでは作業負担と投資対効果という具体的な指標で成果が語られていました。「期限だから更改する」だけでなく、「何を、どれだけ改善するのか」を数値目標として置いたからこそ、更改後にその達成度を評価できたのです。

こうした定量管理の発想は、投資判断の段階から組み込むことが理想です。たとえばトヨタ自動車は、IT投資をQCDS(Quality・Cost・Delivery・Safety)という複数の観点から多角的に評価する考え方を採り入れています。保守費という単一指標だけでなく、品質や納期・安全性といった複数の軸で更改の効果を捉えることで、その投資が本当に事業に貢献しているかを立体的に評価できます。

一括切り替えのリスクを避けた段階移行

ここまで成功事例を見てきましたが、すべての更改がうまくいくわけではありません。対比として知っておきたいのが、江崎グリコの基幹システム切り替えで発生したトラブルです。切り替え時の障害により、チルド商品の全品出荷が停止する事態に至りました。この一件は、移行計画の作り込みが不十分だと、業務システムだけでなく事業そのものが止まりかねないことを示しています。

更改の成功と失敗を分ける分岐点は、多くの場合「移行の設計と検証にどれだけ手間をかけたか」にあります。成功企業が現状把握や段階的な置き換えに時間をかけていたのに対し、トラブルに陥るケースでは移行時の影響範囲の見積もりや切り戻し手順の準備が甘くなりがちです。販売管理や会計のように日々動いている業務システムほど、止まったときの影響が大きいため、移行設計の丁寧さがそのまま成否を左右します。

言い換えれば、成功のパターンはそのまま「失敗を避けるためのチェックリスト」になります。期限が来ても現状把握から始める、更改を業務改革とセットで進める、効果を定量で管理する、そして一気に切り替えず段階的に移行する。この4点を押さえているかどうかが、業務システムの種類を問わず更改の成否を大きく左右するのです。

まとめ

業務システム更改事例のまとめ

本記事では、EOL・保守期限・契約満了を契機とする業務システム更改の事例・成功事例について、業務システム別の視点で解説してきました。製造業の基幹系更改では資産棚卸しを起点に必要な機能だけを載せ替え、夜間バッチを8時間から90分へ約80%短縮し、保守費を年2,400万円から850万円へ約65%削減しました。イオングループはツール導入前の業務可視化を伴う更改で月700時間の業務を削減し、ユニリタは大規模なログ可視化で更改の優先順位を見極め、作業負担を5分の1に軽減し数億円規模の投資対効果を実現しています。

これらの事例から読み取れる成功のパターンは、(1)期限が来ても現状把握から始める、(2)更改を業務改革とセットで進める、(3)効果を定量で管理する、(4)一気に切り替えず段階的に移行する、という4点に集約できます。トヨタ自動車のQCDS視点のように複数の軸で投資効果を評価する姿勢も重要でした。一方で江崎グリコのトラブルが示すように、移行設計の甘さは事業停止という深刻な結果を招きます。更改の成否を分けるのは、期限に追われた拙速さではなく進め方の丁寧さです。

自社の業務システム更改を検討する際は、まず本記事の事例を「自社の販売管理・在庫・会計・勤怠に置き換えるとどうか」という視点で読み返すことをおすすめします。そのうえで、更改の手法や費用感、判断基準を体系的に整理したい場合は、完全ガイドもあわせて活用してください。期限という制約を効果につなげる判断軸を自社の計画に落とし込むことが、更改を成功へ導く確かな一歩になります。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。