稟議システム開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて

稟議システムの失敗は、形骸化、コスト超過、業務分断などに表れます。これらの失敗は、現場に沿った設計、費用の試算、導入後の運用管理で防ぎやすくなります。成功事例と同じか、それ以上に失敗事例から学ぶ必要があります。全体像は稟議システムの完全ガイドもご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・稟議システムの完全ガイド

現場で使われず形骸化するリスク

現場ヒアリングから承認フローの整理、あるべき姿の設計、段階的な展開へ進む図解
例外や滞留箇所の把握が、要件設計の出発点になります。

稟議システム導入で多い失敗は、現場で使われず形骸化することです。現場が自分たちのやり方と合わない、手間が増えると感じると、従来どおり紙やメールで稟議を回し続けてしまいます。

形骸化の背景は、技術や予算だけではありません。現場とどう向き合うかも、形骸化を左右します。

現場の実態を無視した導入が招く形骸化

現場へのヒアリングが不十分なまま、ベンダー標準の承認フローを当てはめると、形骸化を招きます。

  • 部門独自のルール:紙の運用には、規程にない例外処理が含まれることがあります。
  • 実態との乖離:現場の事情を無視すると、従来のやり方に戻ってしまいます。
  • 課題の広がり:導入後の課題調査では、約8割が課題感を抱えているという結果です。

導入前には現場ヒアリングを行い、現状の承認フロー(AsIs)を一覧にします。そのうえで、あるべき姿(ToBe)を設計します。

申請者、各階層の承認者、経理、内部監査へ、起案の流れや滞留箇所、例外を聞き取ります。その内容をもとに、システムで再現する要件を固めます。

この手間を省くと、高機能なシステムでも形骸化してしまいます。現場の実態から逆算して設計することが、形骸化を防ぐ予防策になります。

運用ルールとマニュアルで定着させる回避策

形骸化を防ぐには、導入後の定着活動(チェンジマネジメント)が欠かせません。定着活動では、取引先への説明だけでなく、自社内での定着も視野に入れます。

  • ルールの文書化:権限設定と承認ルートの運用を明文化します。
  • マニュアル整備:現場が迷わず使える社内マニュアルを用意します。
  • 段階的な展開:全種別を一度に電子化せず、件数が多く効果の大きい申請から始めます。

導入直後に放置すると、現場は不安から従来のやり方に戻ってしまいます。そこで、初めから全種別を電子化せず、一部の部門や稟議種別で先行導入します。

現場が楽になったと実感できる小さな成功を積み重ねてから、全社へ展開します。さらに、定期的に運用状況を振り返り、使いにくい点を改善する体制も、定着につながります。

riplaは、フルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、運用ルールやマニュアルの整備、段階的な展開まで含めた定着支援を重視しています。

ポイント

導入の進め方は、現場ヒアリングで承認フローの実態を押さえ、その結果を要件に反映できているかで判断します。定着は、運用ルールと段階的な展開で支えます。

想定外のコスト超過というリスク

稟議システム導入時に確認する従量課金、連携開発費、カスタマイズ費、運用保守費の図解
費目を並べると、月額料金だけでは見えない負担を捉えられます。

稟議・契約システムでは、想定外のコスト超過が起こることがあります。月額基本料が安くても、従量課金や連携開発費、相手方の負担費用が重なるからです。

予算超過を避けるには、導入前にコスト構造を把握しておくことが欠かせません。

従量課金で総額が膨らむリスクと回避策

電子契約を伴う稟議では、送信料の従量課金が総額を押し上げることがあります。送信料の相場は、1件あたり税込110〜220円程度です。

  • クラウドサイン:基本11,000円に送信料220円が加わります。
  • マネーフォワードクラウド契約:送信・保管が無料で、一律約7,128円/月です。

クラウドサインは月200件の場合、約55,000円に達します。件数によって月額が変わり、送信・保管が無料のプランは、件数が多い企業ほど割安になります。

まず月間件数を見積もり、複数製品の実質コストを件数別に比較します。たとえば、月5件・50件・200件の3パターンで試算すると、自社の件数帯で有利なプランが見えてきます。

当事者型の電子署名では、相手方にも電子証明書の発行費が1万円前後かかります。現在の件数だけでなく将来の件数増も見据えて選べば、想定外の課金を避けられます。

連携・カスタマイズに潜む隠れコスト

クラウド型には初期費用0円をうたう製品が多くあります。ただし、連携開発とカスタマイズは見落としやすい費用です。

  • 既存システムとの連携:会計・基幹システムとの個別連携で、追加費用が生じることがあります。
  • 付加機能:AI-OCRやAIレビューが、月額数万円の追加オプションとなる場合があります。

個別の連携やカスタマイズでは、数十万〜数百万円の追加費用が発生することがあります。機能を盛り込むほど、月額も膨らみます。

要件定義では、標準機能・標準連携と個別開発の境界を決め、総保有コストで比較します。試算は数年単位で行い、初期費用と月額費用に加えて、連携開発費やカスタマイズ費、運用保守費も含めます。

見かけの安いパッケージでも、自社向けのカスタマイズが重なると割高になることがあります。そのため、隠れコストを洗い出しておくことが、想定外の予算超過を防ぐ実務的な対策です。

ROIの過大見積もりで投資判断を誤るリスク

導入効果を過大に見積もると、投資判断を誤ります。たとえば、月20件の電子化で年約96万円削減という試算は、高額契約の印紙税や郵送費がかかる運用を前提にしています。

  • 少額契約が中心:印紙税がほとんど発生しない場合があります。
  • オンライン取引が中心:もともと郵送がほぼない場合があります。

このような場合は、一般的なROIモデルと同じ削減額を得られるとは限りません。そのため、想定した効果が出ず、投資に見合わない結果になることもあります。

ROIは、自社の実数値に置き換えて再計算します。まず、月間の契約・稟議件数と契約金額の分布を確認し、郵送・印刷・保管コストや申請にかかる人件費も数字で押さえます。

印紙税は、5,000万円超〜1億円以下の契約で1件3万円不要になるなど、金額帯によって効果が変わります。そのため、楽観的な前提を避けて保守的に見積もることが、期待外れを防ぐ堅実な判断につながります。

ポイント

費用は月額基本料だけでなく、従量課金や連携開発費を含めた総額で比べます。件数の増加も前提に入れ、数年単位で見ると判断を誤りにくくなります。

業務分断と紙データ未処理のリスク

導入後の課題調査に挙がった情報の非一元化39.5%、システム間の業務分断38%、導入前の紙データ未処理33.6%を並べた図解
連携の設計と紙資料の移行は、導入後の課題として並んでいます。

稟議システムを導入しても、周辺システムと連携できず業務が分断されることがあります。過去の紙データを未処理のまま残すリスクもあります。

これらは導入後に表面化しやすく、一元管理というメリットを損ないます。実際、導入後の課題調査でも、これらの問題が上位を占めています。

システム間の業務分断と情報非一元化のリスク

導入後の課題調査(ContractS 2023/10)では、「情報を一元管理できない」が39.5%、「システム間で業務が分割され非効率」が38%でした。

  • 情報の非一元化:稟議システムだけでは、周辺業務のデータが分かれる場合があります。
  • 業務の非効率:システムごとの入力やデータの突き合わせが残ります。

会計や契約と連携できないと、システムごとにデータを入力し、突き合わせる手間が続きます。電子化したあとも、かえって業務が分断される結果になり得ます。

導入時から、契約・会計・経費までを含めた業務フロー全体を設計します。承認データが次の処理へ自動で流れれば、二重入力や突き合わせを減らせます。

KEC関西電子工業振興センターの事例では、会計転記やダブルチェックを減らして、申請処理業務を約4割削減しました。連携を前提にした設計が、この成果につながっています。

riplaは、フルスクラッチ受託の立場から、契約から帳票までを貫く業務フロー全体の再設計を中心に支援しています。

紙データ未処理と移行の泥臭いリスク

同じ調査では、「導入前の紙データが未処理のまま残っている」が33.6%でした。過去の稟議書や契約書の扱いを決めておかないと、紙の棚を探しながら、デジタルと紙の二重運用が続きます。

  • 移行範囲:膨大な紙契約をすべてスキャンするのは現実的ではありません。
  • 優先順位:有効期限が残る契約や、更新が近い稟議を先にデジタル化します。
  • 検索情報:契約日・当事者・金額のメタデータを保持します。

一元管理の効果は、紙データが残ると半減します。多くの比較記事は新規導入を前提としているため、移行の実務は見落とされがちです。

優先対象以外は、段階的に対応する方針を立てます。さらに、他社システムから乗り換える場合は、解約と新規契約のタイミングを合わせることも必要です。

移行範囲を決め、実務まで見据えておくことが、未処理のリスクを防ぎます。

ポイント

導入後に業務が分断されないよう、連携の範囲を導入前に決めておきます。紙データの移行は優先順位をつけ、範囲を絞って進めるのが現実的です。

権限放置・シャドーITというガバナンスリスク

稟議システムは内部統制を支える一方で、運用を誤るとガバナンス上のリスクを生みます。権限の管理不足、承認情報の鮮度低下、現場による別ツールの利用を放置すると、統制が効かなくなります。

導入後も運用を続ける視点が欠かせません。

権限放置と承認情報の鮮度低下リスク

権限の放置は見落とされやすいものの、深刻なリスクです。異動や退職、組織変更のあとも設定を更新しないと、実態と合わない権限が残ってしまいます。

  • 退職者の権限:アカウントが有効なまま残ることがあります。
  • 異動後の権限:元部署の機密稟議を閲覧できる場合があります。
  • 古い承認ルート:更新されないまま使うと、不適切な決裁が通る恐れがあります。

権限は設定したら終わりにせず、定期的に洗い出して見直します。人事システムと連携して、異動や退職に応じて自動で更新する方法もあります。

権限の妥当性を定期的にレビューし、組織変更のたびに承認ルートを見直します。こうした見直しを継続的な運用設計に組み込むことが、ガバナンスを保つ条件です。

シャドーITと取引先同意不可のリスク

使いにくいシステムでは、現場がメールやチャット、独自のExcelで稟議を回す、いわゆるシャドーITが起こり得ます。正式な承認の証跡が残らず、内部統制を損なう状態です。

  • 利用状況を確認:正規ルートが使われない理由を把握し、改善します。
  • 電子化の例外:書面が必要な契約は、例外運用として分けます。

シャドーITは、システムが現場に合っていないサインでもあります。したがって、使いやすさを追求することが、結果としてガバナンスを守ります。

電子契約を伴う稟議では、取引先の同意が得られないこともあります。相手方が電子化に消極的だと、その取引だけ紙に戻るため、運用が二重になります。

定期借地契約や任意後見契約のように、法律で書面が義務づけられた契約は電子化できません。そのため、電子化できる取引から段階的に進めます。

riplaは、フルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、こうしたリスクを踏まえた運用設計と、現場・取引先の双方への定着支援を重視しています。

法令対応の漏れとセキュリティ設定不備のリスク

見過ごされやすいリスクとして、法令対応の漏れがあります。稟議に関わる契約や証憑を電子保存する際は、法令要件への対応が必要です。

要件を満たさないまま運用すると、保存方法のやり直しや、監査での指摘につながるおそれがあります。

  • 電子帳簿保存法:改ざん防止措置、検索要件、タイムスタンプ付与の有無
  • 電子署名法:第3条の要件と、立会人型・当事者型の証拠力の違いを確認します。
  • アクセス管理:人事や投資など機密性の高い稟議について、閲覧を制限します。

また、二要素認証がない状態も、情報漏洩につながります。導入時に法令・セキュリティ要件をチェックリストにまとめ、設定漏れがないかを確かめます。

稼働前に、法令とセキュリティの両面を点検する工程を組み込みます。稼働後は設定の見直しが後回しになりやすいため、稼働前の点検が欠かせません。

ベンダー丸投げと目的不明確というプロジェクトリスク

プロジェクトの進め方にも、ベンダーへの丸投げというリスクがあります。自社の承認業務を整理しないまま開発を任せると、現場の実態とずれたシステムになり、使われない結果を招きます。

  • 要件を主体的に整理:業務を言語化する責任は発注側にあります。
  • 目的を数値化:削減額や短縮する日数など、定量的な目標を設定します。

現場ヒアリング不足による形骸化と、同じ原因から生じる問題です。ベンダーは自社業務の細部を知り得ないため、発注側が主体的に要件を固めることが成否を分けます。

導入目的が不明確なまま始めることも、プロジェクトのリスクです。成功基準がないため、効果を検証できません。「他社も導入している」「ペーパーレス化したい」といった動機だけで始める場合が、これに当たります。

年間の削減額や短縮するリードタイムを目標にし、稼働後に実績と照らし合わせます。目的を数値で定義しておくと、プロジェクトの方向がぶれにくくなり、関係者の認識も揃います。

riplaは、フルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、目的の明確化と要件整理を発注側と進め、丸投げによる失敗を防ぐ伴走を重視しています。

ポイント

権限と承認ルートは、導入後も異動や組織変更に合わせて見直す必要があります。現場が別ツールで稟議を回していないかも、運用の中で把握しておくことが大切です。

まとめ

稟議システム導入の失敗は、形骸化やコスト超過、業務分断として表れます。紙データの未処理やガバナンスの低下も、導入後に起こり得る失敗です。さらに、導入後の課題調査では約8割が課題感を抱えています。

同調査では、情報を一元管理できない課題が39.5%、業務分断が38%、紙データ未処理が33.6%でした。現場に沿った設計と継続的な運用によって、これらのリスクは避けられます。

ゴールは、現場への定着と業務フロー全体の改善に置きます。ツールの導入は、その手段です。現場ヒアリングで現状の承認フロー(AsIs)を一覧にしたうえで、契約・会計までの連携、移行範囲、権限管理のルールを設計します。

riplaは、フルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、契約から帳票までの業務フロー再設計と社内定着を一貫して支援します。全体像は完全ガイドをご覧ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。