経理のAIエージェント開発/構築の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

経理のAIエージェント開発は、AIに仕訳を丸投げすることではなく、社内データを根拠に判断案を作り、必要な処理を実行し、最後は人が確認できる業務基盤を段階的に構築することです。

請求書処理や自動仕訳だけでなく、3-Wayマッチング、月次決算、GL Flux分析、独自Excel台帳の解読まで視野に入れる場合、成功の分かれ目はモデルの性能だけではありません。データクレンジング、ERP連携、Human-in-the-Loop(HITL)、監査証跡、継続的な精度検証を最初から設計する必要があります。本記事では、経理のAIエージェントを開発・構築する流れ、技術要件、費用相場、見積もりの見方を2026年時点の情報に基づいて解説します。

経理のAIエージェントとは何ですか?

経理業務を支援するAIエージェントの全体像

経理のAIエージェントとは、経理担当者の指示や定型ルールを受け取り、必要なデータを検索し、複数の処理を計画して、結果を人に提示または承認後に実行するソフトウェアです。単なるチャットボットやOCRではなく、会計ソフト、ERP、銀行、文書管理、社内規程などをツールとして使い分ける点に特徴があります。

従来のRPA・AI-OCRと何が違いますか?

RPAは決められた画面操作や分岐を高速に再現する仕組みで、AI-OCRは帳票の文字や項目を読み取る仕組みです。どちらもルールが明確な業務には有効ですが、取引先ごとの表現の違い、過去仕訳との照合、勘定科目の判断、例外時の次の行動まで自律的に進めることは苦手です。画面レイアウトや帳票の変更で止まりやすく、判断業務が担当者に戻ると、メンテナンス負荷も高くなります。

AIエージェントは、入力文書を読み取った後に過去データや規程を検索し、判断理由と信頼度を付けた処理案を作り、承認が必要なら担当者へエスカレーションします。承認後に仕訳登録や照合結果の更新まで行う設計にすれば、RPAの操作自動化と生成AIの文脈理解を組み合わせられます。ただし、金額の確定や税務判断を無条件で任せるものではありません。

AIエージェントを構成する4つの要素

実装を考えるときは、AIエージェントを「プロファイル」「記憶」「計画」「行動」の4要素に分解すると整理しやすくなります。プロファイルは経理担当としての役割や権限、記憶は社内規程・マスタ・過去の確定仕訳、計画は処理をどの順番で行うか、行動はAPI呼び出しや通知・登録です。

例えば「この請求書を処理してください」という依頼に対して、エージェントは請求書を読み、発注書と受領記録を探し、取引先と部門を特定し、3-Wayマッチングの結果を判定します。一致しなければ差異の原因を示して担当者へ回し、一致した場合も金額や税区分が閾値を超えていれば承認を待つという流れです。このような権限と分岐を業務設計書に落とすことが、開発の出発点になります。

経理のAIエージェントで自動化できる業務範囲

請求書や決算業務を自動化するイメージ

最初から全業務を自動化するのではなく、件数が多く、判断基準を言語化しやすく、誤処理時に人が止められる業務から始めます。請求書処理や照合はPoCに向きますが、連結決算の最終判断や税務申告書の確定は、当面は人の承認を必須にするのが安全です。

請求書処理・自動仕訳・3-Wayマッチング

請求書の読み取り、取引先の同定、税区分の候補提示、勘定科目・部門・プロジェクトの推定、重複請求の検出を一連のワークフローにできます。発注書・物品受領書・請求書を突き合わせる3-Wayマッチングでは、単純な完全一致ではなく、取引先ごとの品名や表記揺れを解釈する必要があります。リサーチノートの検証例では、この構成で整合精度98%以上を目指せる設計が示されていますが、自社データで同じ結果が出るとは限らないため、PoCで検証します。

判定結果には「一致」「要確認」「不一致」の3段階を持たせ、要確認の理由を画面に表示します。例えば数量差、単価差、納品日の不一致、発注番号欠落を分けて表示すれば、担当者は全文を読み直さずに済みます。承認済みの結果だけを会計システムに登録し、修正内容を後の評価データに戻すことで、運用しながら精度を改善できます。

月次決算・グループ間相殺・GL Flux分析

月次決算では、前月の残高や仕訳を参照してロールフォワードを作成し、未処理項目を洗い出し、グループ間取引を照合し、差異がある勘定を担当者へ配布する仕事にAIエージェントを使えます。GL Flux分析では、異常な増減を検知した後に明細やプロジェクト情報まで掘り下げ、経営報告用の説明文をドラフトできます。

リサーチノートの支援事例では、AWSのサーバー利用量が特定プロジェクトの開発に伴って前月比23%増加したというように、数値と背景を結びつけたナラティブを生成し、レポート作成を数日から10分以内に短縮したとされています。この種の効果は、勘定科目、部門、プロジェクト、予算のマスタが整備されている場合に発揮されやすくなります。

独自Excel台帳やロイヤリティ計算の自動化

企業独自のExcel台帳は、セルの位置、複雑な数式、マクロ、手作業の修正履歴が暗黙の業務ルールになっていることがあります。AIエージェントにシート構造と計算ロジックを読み解かせ、検証手順をコード化し、計算後も数式と監査用の履歴を保持したNative Excel形式で出力する構成が考えられます。

ここで注意したいのは、AIに「Excelを自動化して」とだけ指示しても、会計上の正解は得られないことです。入力値の出所、許容差、四捨五入、締め処理後の変更ルールを明文化し、計算前後のファイルハッシュや実行者、承認者を保存します。AIが生成したコードは、既存の正解ファイルと突き合わせる回帰テストを通過してから利用します。

経理のAIエージェント開発で押さえる技術要件

AIエージェントの技術スタックとデータ基盤

技術選定では、モデル名を先に決めるのではなく、精度、レイテンシー、データ保管場所、利用量、監査要件、障害時の代替手段を比較します。経理のAIエージェントは、LLM単体ではなく、RAG、ワークフローエンジン、権限管理、監視、ERP連携を合わせた業務システムとして設計する必要があります。

マスタ標準化とRAG用データクレンジング

RAGで過去の仕訳、社内規程、取引先情報を検索させる場合、検索前のデータ品質が回答品質を左右します。部門コード、勘定科目、取引先名、税区分、プロジェクト番号の正規化を行い、取消仕訳や入力ミス、例外的な手修正をタグ付けします。人が一度だけ行った特殊処理を標準ルールとして学習させると、同じ誤りを繰り返すためです。

リサーチノートの自社知見では、会計事務所の過去3年分の仕訳データについて、表記揺れの修正とクレンジングだけで2か月を要しました。これは開発の遅れではなく、AIが参照する正解データを作るための必要な工程です。文書はチャンク化するだけでなく、適用期間、法人、勘定科目、規程バージョン、承認状態をメタデータとして付与し、古い規程を検索結果から除外できるようにします。

基盤モデル・フレームワーク・プロンプトの選び方

基盤モデルは、複雑な文書理解を重視する高性能モデル、コストと速度を重視する小型モデル、閉域環境で運用しやすいローカルLLMなどを候補にします。LangChainやLlamaIndexはツール呼び出しやRAGの実装を組みやすく、Difyのようなノーコード基盤はPoCを早く作るのに向きます。一方、本番では、どのツールをどの権限で呼び出せるか、タイムアウトや自動リトライ、バージョン管理をコードと設定で管理する必要があります。

プロンプトには、役割、入力項目、判断ルール、禁止事項、出力JSONの形式、根拠の引用方法、確信度が低い場合のエスカレーション条件を定義します。ReActのように、計画とツール実行を分ける方式を採用する場合も、自由なループを許すのではなく、最大ステップ数、金額上限、利用可能なデータ範囲を制限します。モデルを変えても業務ルールが崩れないよう、プロンプトと評価データを別管理します。

ERP・会計ソフトとのAPI連携とレガシー対応

理想は、会計ソフトやERPのAPIを通してデータを取得・登録する構成です。APIがない場合は、データ連携基盤やCSV入出力、RPAによるUI操作を組み合わせます。ただし、画面操作を最後の手段として扱い、画面変更の検知、スクリーンショット、処理ID、失敗時のロールバックを実装します。

実務では、APIのレートリミット、タイムゾーン、締め処理中の更新禁止、同一伝票の二重登録、通信切断が問題になります。登録前に冪等キーで重複を防ぎ、失敗した処理を自動再実行する回数を決め、再実行できない場合は人へ通知します。Microsoft Foundryの2026年資料でも、エージェントはモデル推論だけでなく、ファイル検索やコード実行、基盤リソースなど複数の課金・制約を持つと説明されています。連携先の上限と費用を設計段階で確認します。

経理特有の品質保証と内部統制設計

経理AIエージェントの承認と監査証跡

経理システムの品質は、回答が自然かどうかではなく、金額、税区分、勘定科目、根拠、承認者が正しいかで評価します。NISTのAI RMF Coreは、AIの設計・開発・導入・監視を組織の責任や文書化と結びつけています(出典: NIST AI RMF Core、2026年閲覧)。経理ではこの考え方を、HITL、監査ログ、権限管理、回帰テストとして具体化します。

HITLとエスカレーション境界を決める

AIは仕訳案、照合結果、差異理由を作成し、人は例外処理、最終承認、税務・会計上の判断を担うという役割分担が基本です。例えば、過去の確定仕訳と95%以上一致し、金額が10万円未満で、取引先と税区分が検証済みなら自動承認候補にします。信頼度が低い、初回取引先、規程にない処理、一定額以上の仕訳は必ず担当者へ回します。

担当者の修正を単に上書きせず、AI案、修正前後、修正理由、承認者、日時を保存します。月次で誤りを分類し、プロンプト・RAG・ルール・元データのどこに原因があったかを確認します。人の確認を減らすことが目的ではなく、確認すべき例外に人の時間を集中させることが目的です。

監査証跡と決定ログを不変にする

監査人が確認したいのは、最終的な仕訳だけではありません。どの入力ファイルを使い、どの規程とマスタを参照し、どのモデル・プロンプト・バージョンで判断し、AIと人のどちらがどの操作を実行し、誰が承認したかです。判断根拠の引用元を画面に表示し、実行IDを会計伝票番号とひも付けます。

ログは後から編集できる通常のアプリケーションログだけに頼らず、追記専用の保存先、アクセス制御、保管期間、バックアップ、時刻同期を設計します。AIが参照した文書と生成結果のハッシュを残せば、後日の再現性を高められます。経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン」も、AIのリスクを把握し、適切なガバナンスを実装する考え方を示しています(出典: 経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン」、2024年)。

RBAC・PII保護・学習利用の制御

財務データや個人情報を扱うため、役割ベースのアクセス制御(RBAC)、多要素認証、SSO、通信・保存時の暗号化、秘密情報のマスキングを組み込みます。経理担当者でも、担当法人・部門・勘定科目によって見えるデータを分け、AIエージェントのサービスアカウントにも最小権限だけを与えます。

契約時には、入力データがモデルの再学習に使われるか、データの保存地域と削除方法、委託先、障害時の復旧、ログの閲覧者を確認します。PoCで実データを使う場合も、匿名化・サンプル化・アクセス期限を設定します。安全性は導入後に追加する機能ではなく、要件定義で合意する非機能要件です。

経理のAIエージェント開発・構築の進め方

経理AIエージェントの開発ステップ

進め方は、企画・要件定義、データ準備と設計、PoC・開発、テスト・本番移行、運用改善の順に分けます。各段階で成果物と中止条件を定めると、AIだからという理由で要件が膨らむことを防げます。特に、最初のPoCは「賢い回答」ではなく、業務KPIが改善するかを判断する場にします。

要件定義とPoC対象業務を決める

まず、経理部門の業務を、入力、判断、承認、登録、証跡の単位で可視化します。月間件数、1件当たりの処理時間、例外率、現行の誤り、締め日への影響、担当者の判断基準を記録します。そのうえで、請求書処理や照合のように効果を測りやすい業務を1つ選びます。

PoCのKPIは、正解率だけにしません。仕訳候補の適合率、見落としの再現率、要確認への振り分け精度、1件当たり処理時間、人による修正率、監査ログの完全性、API失敗時の復旧率を測ります。「完全自動化率」を唯一の目標にすると、危険な自動登録を増やす結果になり得ます。

データ準備・設計・開発を進める

次に、データ一覧、マスタの正規化ルール、RAGの参照範囲、エージェントの状態遷移、権限、承認条件、外部システムのAPI仕様を設計します。経理担当者とエンジニアが別々に仕様を書くのではなく、例外を含む業務シナリオを共同で作ります。「初回取引先」「発注番号なし」「税区分が不明」「締め処理後の訂正」などを先に書くと、実装漏れを見つけやすくなります。

開発では、文書理解、検索、ルール判定、ツール実行を分離し、各段階の入出力を検証可能にします。LLMが作る文章をそのまま会計ソフトへ渡さず、金額やコードはスキーマ検証を通します。Difyなどで検証した処理を本番へ移す場合も、環境差分、秘密情報、ログ、ロールバック手順を整理します。

テスト・本番移行・運用改善を行う

テストデータは、正常系だけでなく、表記揺れ、欠損、重複、異常金額、過去規程、複数税率、画像の傾き、APIタイムアウトを含めます。正解データを人が確定し、適合率・再現率・金額差異・誤登録件数を計測します。1円のズレも許容できない処理では、丸め処理をモデルに任せず、決定論的なプログラムで計算します。

本番移行は、並行稼働、対象範囲を限定したカナリア導入、段階的な自動化の順で進めます。初期はAIが候補を作るだけにして、既存の担当者が全件確認します。安定後に低リスク案件の自動登録を追加し、高額・初回・例外案件は人が承認します。モデルや規程を更新するたびに、固定した評価セットで自動回帰テストを実行します。

経理のAIエージェント開発の費用相場とコスト内訳

AIエージェント開発の費用と予算

経理のAIエージェントの費用は、対象業務、データ量、ERP連携、権限・監査要件、運用体制で大きく変わります。以下は2026年時点で予算を置くための実務上の目安であり、公開された一律の市場価格ではありません。小規模な文書検索と候補提示のPoCなら300万〜800万円程度、複数システムと承認フローを含む本番開発なら1,000万〜3,000万円以上を見込むケースがあります。

初期開発費は人件費・データ整備・連携で決まります

初期費用の中心は、業務整理と要件定義、データクレンジング、プロンプト・RAG設計、画面開発、API連携、テスト、セキュリティレビューです。データが未整備で、会計ソフトにAPIがなく、部門ごとに例外ルールが異なる場合は、モデルの費用よりも周辺の工数が大きくなります。見積書では、データ準備を「前提条件」として隠さず、件数・期間・品質基準を分けて記載してもらいます。

AI基盤の利用料は、処理件数とトークン量、モデル、検索インデックス、実行時間で増減します。例えばAWS Bedrockはモデルごとに入力・出力トークン単価が異なり、2026年の公式料金ページでは一部のClaudeモデルについて、1百万入力トークン3ドル、出力15ドルの標準価格が示されています(出典: AWS「Amazon Bedrock pricing」、2026年閲覧)。ただし、会計システム、ログ、監視、ストレージ、ネットワークの料金は別に発生します。

ランニングコストとSaaS導入費を分けて考えます

運用費には、モデル・ベクトル検索・クラウドの従量課金、監視、バックアップ、権限棚卸し、規程更新、評価データの追加、障害対応、プロンプトや連携先の保守が含まれます。Microsoft Foundryは、基盤モデルの推論、コード実行、ファイル検索などを別の課金要素として扱い、公開エージェントでは基盤インフラの費用を発行者が負担する仕組みも説明しています(出典: Microsoft Learn「Foundry Agent Service」、2026年)。

SaaS型の会計AIは初期開発を抑えやすい一方、独自の勘定科目、複雑な承認、レガシーERP、監査ログの保管方法が合わない場合があります。海外製品では価格を公開せず、処理量や法人規模に応じた個別見積もりにするサービスもあります。例えばVic.aiは公式ページで、価格は財務チーム固有の条件に基づくため問い合わせが必要としています(出典: Vic.ai「Request Vic.ai pricing」、2026年閲覧)。ライセンスだけでなく、導入支援と既存業務への適合費用まで比較します。

経理AIエージェントの見積もりを取る際のポイント

AIエージェントの見積もり比較

AI開発の見積もりは、機能名だけでは比較できません。「請求書を自動処理する」ではなく、対象帳票、月間件数、取引先数、正解データの有無、承認者、登録先、例外処理、目標精度、ログ保管期間まで書いて初めて同じ条件で比較できます。

要件と評価データを発注前に準備します

発注前には、代表的な正常データだけでなく、失敗しやすいデータを含むサンプルを用意します。請求書、発注書、受領書、仕訳、規程、承認履歴を匿名化し、取引先名や勘定科目の表記揺れを残したまま渡します。候補の正解、許容する差異、必ず人が確認する条件も決めておくと、PoC終了時の評価がぶれません。

成果物も確認します。要件定義書、データ辞書、プロンプト、評価セット、API仕様、権限一覧、監査ログ仕様、テスト結果、運用手順書、障害時の手動切替手順が納品範囲に含まれるかを確認します。ソースコードや設定の所有権、モデル変更時の再評価、契約終了時のデータ返却・削除も契約前に確認します。

開発パートナー・ベンダーを比較します

候補企業には、経理・会計業務の経験、ERPや会計ソフトとの連携実績、RAGのデータ整備、セキュリティ、運用保守の体制を質問します。デモでは、きれいなサンプルではなく、表記揺れ、欠損、例外、差戻しを含む自社に近いデータで試します。回答の流暢さより、根拠の提示、失敗時の止まり方、ログの残り方を確認します。

安価な提案でも、データクレンジング、API改修、テスト、運用監視が別途なら総額は上がります。反対に高額な提案でも、対象範囲やKPIが曖昧なら費用対効果を判断できません。PoC、本番開発、運用の3段階に分け、各段階の継続判断と追加費用の条件を明記した提案を選びます。

導入効果を評価するための事例とKPI

経理AIエージェント導入効果の検証

導入効果は、削減時間だけでなく、締め日短縮、差戻し率、誤登録率、担当者の集中作業時間、監査対応時間で測ります。リサーチノートでは、ZOZOの請求書100枚を3分で自動仕訳し月次決算を7営業日から3.5営業日に短縮した例、日清食品ホールディングスの請求書ペーパーレス化による年間24,000時間の削減例などが紹介されています。これらは各社の条件に基づく事例であり、自社の効果を保証する数字ではありません。

花王ビジネスアソシエのAI-OCRで確認作業を7割削減した例や、クラレのポリシー適合検証で承認・検証作業を75%削減した例も、単体のモデル性能ではなく、業務フローと人の役割を組み替えた結果として読むべきです。花王は2026年の公式発表でも、AIを中核にしたDXと基幹システムのデータ活用を推進し、AIツールの延べ利用者が5,000人/日と説明しています(出典: 花王「DX銘柄2026」に選定、2026年)。

ROIは削減時間とリスク低減を合わせて計算します

ROIを計算するときは、削減できる担当者時間に時給を掛けるだけでなく、締め処理の遅延、差戻し、監査資料の作成、採用・教育、障害対応にかかる費用も含めます。例えば月1,000件の請求書で1件10分を削減できれば、月約167時間の削減です。そこからAI利用料、保守費、人の確認時間を引き、投資回収期間を算出します。

リサーチノートでは、150回の実験分析により、GPT単体と比較してGPTとノーコードツールを統合したAIエージェントの平均実行時間を約75%削減した研究例も示されています。実験環境の結果をそのまま業務効果とみなさず、実データ、例外処理、承認時間、外部システムの待ち時間を含む自社の測定に置き換えます。

法令改正・規程変更に対応するLLMOps

経理AIエージェントの継続運用と改善

経理のAIエージェントは、導入して終わりではありません。税制、インボイス、リース会計、社内規程、勘定科目、承認権限が変わるたびに、参照文書、ルール、プロンプト、テストデータを更新します。規程をアップロードしただけで本番反映せず、適用開始日と対象法人を持った状態で承認し、段階的に有効化します。

変更の種類ごとにメンテナンス方法を選ぶ

社内規程の文言変更ならRAGの参照文書を差し替え、判断ルールの変更ならワークフローやプロンプトを改修し、モデル性能の問題ならモデル切り替えや評価データの拡充を検討します。すべてを再学習で解決しようとすると、古い知識が混ざり、説明責任も難しくなります。変更申請、影響範囲、テスト結果、承認者、リリース日時を変更管理台帳に残します。

毎月、固定した代表ケースと直近の誤りケースで回帰テストを実施します。正解率が上がっても、根拠のない回答、権限外データの参照、ログ欠落、処理時間の増加があればリリースを止めます。精度、コスト、遅延、エスカレーション率をダッシュボードで監視し、担当者が異常に気付ける運用を整えます。

経理・情シス・監査の運用体制を作る

運用責任者は情シスだけでも経理だけでも足りません。経理は正解と例外を定義し、情シスは基盤・権限・障害対応を担い、内部監査や法務は証跡・リスク・データ利用を確認します。モデル更新や規程変更を誰が承認するかを決め、担当者が異動しても業務ルールが残るようにします。

この体制を作ることで、AIエージェントが人の代替ではなく、統制された業務の実行基盤になります。経理部門で小さく始め、効果が確認できた処理だけを広げ、監査と現場の信頼を積み上げることが、長期的な定着につながります。

よくある質問(FAQ)

経理AIエージェントに関するよくある質問

経理のAIエージェントは、技術だけでなく業務責任や監査対応まで含めて判断する必要があります。ここでは、導入前に特に多い質問へ直接回答します。

経理業務をAIエージェントだけで完全自動化できますか?

高リスクの経理判断まで完全自動化することは推奨されません。AIが候補作成や定型照合を行い、人が例外・高額・初回取引を承認するHITL構成が現実的です。運用実績とテスト結果が蓄積した低リスク処理だけ、自動登録の範囲を広げます。

経理AIエージェントの開発費用はいくらですか?

小規模なPoCは300万〜800万円程度、本番で複数システム連携・監査対応まで行うと1,000万〜3,000万円以上が目安になります。ただし、これは一律価格ではなく、データ整備、連携、テスト、保守の範囲で変わります。従量課金のモデル利用料やクラウド費用も含めた3年総額で比較してください。

経理データを生成AIに渡しても情報漏えいしませんか?

リスクをゼロにはできませんが、データの学習利用、保存地域、削除、委託先、暗号化、RBAC、ログ閲覧者を契約と技術の両面で管理します。実データを使う前に匿名化し、接続先を限定し、AIの回答から個人情報をマスキングします。財務データへの書き込みは、必ず権限と承認フローを通します。

最初のPoCはどの経理業務から始めるべきですか?

月間件数が多く、判断基準を言語化しやすく、誤りを人が確認できる請求書処理や3-Wayマッチングから始めるのが適しています。月次決算の分析コメント作成も候補ですが、最終的な財務報告の確定は人が担います。対象を1つに絞り、適合率、処理時間、修正率、監査ログの完全性を測ってから拡大します。

まとめ

経理AIエージェント開発のまとめ

経理のAIエージェントを成功させるには、モデル選びより先に、対象業務、正解データ、承認境界、ERP連携、監査証跡を設計します。特に、過去仕訳や規程をRAGに使う場合は、マスタ標準化とクレンジングに十分な期間を確保します。AIは候補作成と情報整理を担い、人は例外・高リスク判断・最終承認を担う分業が安全です。

費用はPoC、本番開発、運用の3段階に分け、開発費だけでなくモデル・クラウド・監視・保守の3年総額で比較します。請求書処理や3-Wayマッチングから小さく始め、適合率、再現率、処理時間、修正率、ログ完全性を測り、結果を確認してから自動化範囲を広げることが、経理の信頼と投資対効果を両立する進め方です。

参考情報:NIST AI RMF Core経済産業省・総務省 AI Guidelines for Business Ver.1.0AWS Amazon Bedrock pricingMicrosoft Foundry Hosted agentsVic.ai pricing(いずれも2026年8月閲覧)。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。