観光アプリの導入/開発事例や活用/成功事例について

観光アプリの導入を検討する自治体やDMO、観光事業者が知りたいのは、どんな課題に対し、どんなアプリで、どれだけの成果が出たかです。国内外の事例では、直販や予約の一元化、住民も使う機能の統合が成果につながっています。

全体像を把握していない方は、まず観光アプリ開発の完全ガイドをご覧ください。

国内自治体・DMOの観光アプリ成功事例

国内の観光アプリ事例に共通する地域課題と設計視点を4枚のカードで示した図解。
地域単位の課題が、アプリの役割を形づくります。

観光アプリの事例で、まず参考になるのは国内の自治体・DMO・観光協会が主導した取り組みです。これらは補助金や地域予算で構築されることが多く、単なる集客ツールではなく「地域全体のデータ基盤」として設計されている点に学びがあります。また、共通するのは、オフシーズンの稼働率向上やポータル依存からの脱却という、地域固有の経営課題を起点にしている点です。

志賀高原・ニセコの直販と予約一元化で売上を伸ばした事例

長野県山ノ内町(志賀高原)の「CLUB SHIGA KOGEN」は、観光アプリやデジタル基盤を活用して直販を強めた好例です。

OTA(オンライン旅行会社)に頼っていた送客を自前のチャネルへ取り込んだことで、直販シーズン売上5,388万円、メール開封率60%超という成果を出しています。

一般的なメールマーケティングの開封率が20%前後であることを踏まえると、開封率60%超という数字は、ファン化した来訪者と直接つながる仕組みがいかに強力かを示しています。つまり、観光アプリは「新規集客の窓口」だけでなく、「リピーターとの関係を太くする資産」として機能します。

北海道ニセコでは、RoomBossなどを使った予約の一元化により、23-24シーズン冬の販売総額70億円超を実現しました。さらに、閑散期の稼働率を20%から43%へと倍以上に引き上げています。

ニセコの事例が示すのは、予約データを地域全体で扱うことで空室が見えやすくなり、閑散期に集中した施策を打てるという、構造的な効果です。特に、観光アプリや予約基盤は、個別施設の販促ツールとしてではなく、地域全体の在庫を配分するインフラとして設計するほど、投資対効果が高まります。

この「地域全体最適」の視点は、要件定義の段階で必ず織り込むべき論点です。詳しくは『観光アプリのRFP/要件定義書/提案依頼書について』もあわせてご覧ください。

志賀高原とニセコの取り組みは、どちらも売上や稼働率の動きを地域の単位で追える点が強みです。

  • 送客の切り替え:OTAへの依存を減らせたかを、自前の窓口の伸びで測る
  • 来訪者との接点:一度の予約で終わらず、次の来訪につなげる仕組み

箱根・あわら温泉のデジタルマップとデータ自動収集の事例

神奈川県箱根の「箱根観光デジタルマップ」は、回遊性の向上を主な目的にした観光アプリ・Webサービスの代表例です。月次で6,985人が利用し、旅ナカ(旅行中)の行動変容が月271回計測されています。

ここで重要なのは、行動変容を計測できている点です。地図を表示するだけでなく、利用者がどのスポットを見て、どこへ動いたかをデータとして取得し、回遊ルートの改善やイベント設計に生かせる構造になっています。さらに、観光アプリの真価は、紙のパンフレットでは得られない「来訪者の行動データ」を取得し、次の施策に回せる点にあります。

福井県あわら温泉などでは、各施設のPMS(宿泊管理システム)からRPAで稼働データを自動収集しています。また、オープンデータ化する取り組みにより、稼働率が前年比プラス6.2ポイントの72.0%に改善しています。

一方で、手作業で各旅館の稼働を集計していたのでは、地域全体の需要を把握するのに時間がかかり、施策が後手に回ります。データ収集を自動化することで、地域のDMOが「今どこが空いているか」をリアルタイムに把握でき、的確な送客や価格戦略を打てるようになります。

観光アプリ単体ではなく、こうしたバックヤードのデータ自動化とセットで設計することが、持続的な成果につながります。

箱根とあわら温泉の取り組みは、回遊と稼働の両方を、データで追える形にしている点が特徴です。

  • 回遊の計測:どのスポットを見て、どこへ動いたかを取れる設計
  • 稼働データの集め方:施設ごとの数字を、バックヤードで自動的に集める仕組み

ポイント

国内の事例は、オフシーズンの稼働率やポータル依存といった地域の経営課題から出発しています。自地域の課題に直結する機能から検討するかどうかが、判断の目安になります。

住民生活機能の統合で「消されない」アプリにした事例

住民が日常的に使うアプリ機能として、防災情報、ごみ収集日、行政のお知らせを示した図解。
毎日の暮らしに接点を持つ機能が並びます。

観光アプリの最大の弱点は、旅行が終わるとアンインストールされてしまうことです。

30日リテンション率の業界平均は約5.8%という厳しい数字があり、観光客だけを対象にしたアプリは、せっかく作っても継続利用をほとんど得られません。

この壁を越えた事例に共通するのは、「住民の日常生活で使う機能」を統合し、観光客が帰った後も地元で使われ続けるアプリにする発想です。

長野原町公式アプリが住民普及率67%を達成した事例

群馬県長野原町の公式アプリは、ModuleApps2.0などのプラットフォームを活用し、リリースから約2年で住民普及率67%を達成しました。

観光情報に加えて、住民の生活に密着した機能を統合したことで、観光客だけでなく地元住民が日常的に開くアプリになりました。住民が使い続けるからこそ、観光イベントやキャンペーンの告知が確実に届き、地域内消費を押し上げる効果が生まれます。

この事例が示すのは、観光アプリを「観光客専用」と狭く決めつけないことです。普及率67%という数字は、自治体が広報の手段として使える強力なチャネルを手にしたことを意味します。

観光アプリの企画段階で「観光客の周遊」だけを目的に据えると、リテンションの壁に阻まれて投資が回収できません。住民の生活利便と観光振興を両立させる設計こそが、長期的に消えないアプリにつながります。

観光固有の機能とその裏側にある要件は『観光アプリの必要機能や標準機能の一覧について』で詳しく整理しています。

長野原町の取り組みは、普及と告知の両方を、住民が毎日使う機能で支えている点が特徴です。

  • 生活機能の中身:防災情報やごみ収集日、行政のお知らせなど、毎日開かれる内容
  • 土台の作り:ModuleApps2.0などのプラットフォームを使って公式アプリを組み立てる構成

スタンプラリーと位置情報で周遊を促した事例

来訪者の滞在時間と回遊範囲を広げる仕掛けとして、多くの観光アプリがデジタルスタンプラリーを採用しています。GPSやWi-Fiに屋内ビーコン(BLE)を組み合わせたハイブリッド測位を用いると、来訪者が実際にそのスポットを訪れたことを検知し、スタンプを付与できます。

これにより、これまで素通りされていた周辺スポットへの送客が可能になり、地域内の消費を分散させることができます。ゲーム性を持たせると、来訪者は自分から地域を歩き回るようになり、結果として滞在時間と消費額が伸びます。

位置情報を使った周遊の事例で見落とせないのは、取得した行動データの使い方です。どのスタンプスポットが人気で、どこが素通りされているかをデータで把握できれば、イベントの配置や案内サインの改善に直結します。

スタンプラリーは、集客の催しで終わらせず、地域の人流データを継続して蓄える仕組みとして設計すると、効果が大きくなります。位置情報や周遊ルート提案は観光アプリならではの差別化機能であり、Webサイトやチラシでは代替できない価値の中核です。

スタンプラリーの事例は、周遊の仕掛けとデータの使い道に分けて見ると整理しやすいものです。

  • 周遊の仕掛け:実際の訪問を検知してスタンプを付与できる測位の仕組み
  • データの使い道:人気と素通りのスポットを、次の企画の材料として見る流れ

ポイント

観光客向けの機能だけでは、利用が続きにくいと考えてください。住民の生活に使われる機能をどこまで入れられるかが、企画時の判断の目安になります。

インバウンド・多言語・AR観光で成果を出した事例

訪日客の通信と言語の壁に対する対応を、地図データの事前キャッシュと直感的な情報表現で対比した図解。
異なる壁に合わせて、情報の届け方も変わります。

インバウンド需要の回復に伴い、多言語対応とオフライン機能を備えた観光アプリの重要性が高まっています。

訪日外国人は、通信環境が不安定なことや現地の文字情報が読めないことから、オフラインで使える多言語ガイドへのニーズが特に強い層です。

雲南省の2,870万ダウンロードとバルセロナの混雑制御の事例

中国・雲南省がテンセントと組んで開発した「雲南旅行」は、2,870万ダウンロード超を達成し、観光客からのクレームを62.4%削減しました。このアプリは予約、決済、ナビ、苦情受付までを一気通貫で提供するスーパーアプリ型で、観光客の困りごとをアプリ内で即座に解決できる体制を作り上げました。

クレーム62.4%減という数字は、観光アプリが「集客」だけでなく「来訪後の体験品質」を底上げし、地域のブランド価値を守る仕組みにもなり得ることを示しています。

スペイン・バルセロナでは、サグラダ・ファミリアの入場を1時間1,500人上限としてデジタル予約で制御し、来訪者満足度8.8点を実現しました。オーバーツーリズム(観光公害)が世界的な課題となるなか、デジタル予約による入場制御は、混雑を緩和しながら満足度を高める有効な手段です。

日本でも人気観光地での混雑が問題になっており、予約・整理券機能を備えた観光アプリは、来訪体験の質を保つ土台として注目されています。イタリア・ロンバルディア州では、API規格「E015」を整備したことで100を超えるアプリが生まれています。さらに、地域がデータ連携の共通基盤を用意することの波及効果も示されています。

雲南省とバルセロナの事例は、混雑と来訪後の体験をアプリで扱った点に特徴があります。

  • 機能の範囲:予約、決済、ナビ、苦情受付のうち、自地域で必要なものから選ぶ
  • 混雑の見込み:入場を制限する場所と上限を、事前に決めておくこと

オフライン地図・多言語をどう実装したかの事例

インバウンド向け観光アプリの中核となるのが、オフラインでも使える地図と多言語ガイドです。実装事例では、Mapbox SDKなどを用いて地図データを事前にキャッシュし、通信が不安定な山間部や地下でも、地図を開けるようにしています。

さらに、海外SIMの来訪者でも、ダウンロード済みエリアであれば地図と周遊ルートを表示できるようにしています。観光地は電波が届きにくい場所も多く、「現地で地図が開けない」ことは致命的な体験低下につながります。オフライン対応は、観光アプリならではの差別化要素であり、Webサイトでは実現しにくい価値です。

多言語対応は、翻訳を載せれば済むものではありません。AR(拡張現実)を使った事例では、スマートフォンのカメラを史跡や案内板にかざすと、利用者の言語で解説が重なって表示される仕組みを実装しています。

文字が読めない来訪者でも直感的に理解できる体験を提供しています。また、多言語とAR観光を組み合わせると、限られた現地スタッフでは対応しきれない多様な国籍の来訪者にも、同じ水準の情報を届けられます。こうした機能は、観光体験の付加価値を高めるとともに、運用コストの削減にも寄与します。これらをどう要件に落とし込むかは、要件定義の出来に左右されます。

オフライン地図と多言語の事例では、通信環境と言語という、訪日客の2つの壁をどう越えたかが焦点です。

  • 通信の壁:地図データを事前に保存し、電波の届かない場所でも表示できる設計
  • 言語の壁:翻訳の表示だけでなく、文字を読めない人にも伝わる表現の工夫

ポイント

多言語とオフライン対応は、訪日客の通信や文字の壁を越えるための前提です。雲南省やバルセロナの事例のように、混雑や苦情への対応も含めて要件を考えることが、判断の目安になります。

失敗から軌道修正した観光アプリ事例

事例の価値は、成功談だけにあるわけではありません。むしろ発注側がもっとも学べるのは、「なぜ使われなくなったのか」「どう立て直したのか」というリアルな経験です。

観光アプリには、補助金で華々しくリリースしたものの、運用が続かず放置に至った事例が数多く存在します。この失敗から得られる教訓は、これから投資する自治体・事業者にとって何よりの備えになります。

補助金リリースだけで放置されたアプリの教訓

観光アプリでもっとも多い失敗は、補助金を使ってリリースまでは達成したものの、運用予算と体制を確保しなかったために放置されるパターンです。

30日リテンション率の業界平均が約5.8%という現実を踏まえると、リリースはスタート地点にすぎません。継続的なコンテンツ更新や機能改善がなければ、ダウンロードされてもすぐにアンインストールされます。情報が古いまま放置された観光アプリは、かえって地域の印象を損ね、「使えないアプリ」という評判だけが残ってしまいます。

この失敗の本質は、技術や予算の額ではなく、「作って終わり」にしてしまい、運用を設計していないことにあります。観光アプリはGoogle Maps APIの利用料がMAU1万人超で月10万円以上かかるなど、利用が伸びるほどランニングコストも増える構造です。

初期費用だけを見て補助金で構築し、運用費の手当てを忘れると、人気が出た途端に費用が膨らんで継続を断念する、という皮肉な結果に陥ります。失敗・リスクの観点は別記事で体系的に整理しているため、『観光アプリ開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて』もあわせてご覧ください。

放置を防ぐうえで見ておきたいのは、費用と体制の2つです。

  • 運用の費用:利用が増えたときの地図APIなどの料金を、初期費用とは別に見込むこと
  • 運用の体制:情報の更新や機能改善を続ける担当者

運用設計とデータ還元で立て直した事例

失敗から立て直した事例では、アプリを成果物として終わらせず、運用するサービスとして捉え直した点が共通しています。

立て直しに成功した地域は、住民の生活機能を統合してリテンションを確保し、取得した人流データをDMP(データ管理基盤)として地域に還元する仕組みを作りました。データを地元の事業者に共有し、需要に応じた営業時間や品揃えの改善につなげることで、アプリが地域経済に具体的な価値をもたらすようになります。

地域還元が、観光アプリを単なるコストから資産へと変える分岐点になります。

もう一つの立て直しのポイントは、MVP(最小実用製品)から始めて効果を確かめながら広げる、段階的な進め方です。最初から多機能なアプリを大きな予算で作ると、どの機能が本当に使われるか分からないまま、費用だけが膨らみます。

立て直しに成功した事例では、まずオフライン地図と多言語ガイドといった核となる機能に絞り、300万〜600万円規模で構築しています。そのうえで、利用データを見ながら、AR・決済・スタンプラリーを段階的に追加していきました。riplaは、フルスクラッチ受託とノーコードの両方を扱う立場から、この「核から始めて段階的に育てる」進め方を一貫して重視しています。

立て直しの事例は、運用の考え方と進め方の2つの面から見ておきたいところです。

  • 運用の考え方:作って終わりにせず、データを地域に還元する仕組み
  • 進め方:核となる機能から始め、利用データを見て段階的に広げる流れ

ポイント

失敗例の多くは、リリース後の運用費と体制が決まっていないことが原因になっています。初期費用だけでなく、更新や運用を誰が担うかを決めてから進めることが、判断の目安になります。

まとめ

観光アプリの導入事例・成功事例を振り返ると、成果を出した地域に共通するのは、「多言語・オフライン・位置情報という観光固有の価値を地域課題に結びつけ、住民利用とデータ還元で継続利用を生み出している」という一点です。

志賀高原では直販売上5,388万円、ニセコでは販売総額70億円超を実現し、閑散期の稼働率を20%から43%へ高めました。箱根では行動変容を計測し、長野原町では住民普及率67%に達しています。

雲南省の2,870万ダウンロードとクレーム62.4%減といった一次データは、観光アプリが集客にとどまらず、来訪体験の質と地域経済を底上げする仕組みになり得ることを示しています。

補助金でリリースするだけで運用を組まなかったアプリは、リテンション率約5.8%という壁に阻まれて放置されます。

事例を読むときに大切なのは、「どれだけ華やかに作ったか」ではなく「なぜ使われ続けたのか」という視点です。

自地域の来訪者層と課題に照らし、まずはオフライン地図や多言語といった核機能から、現地で本当に使われる一歩を踏み出してください。

riplaはフルスクラッチ受託とノーコードを組み合わせ、地域の課題から逆算した要件整理と、運用まで定着するアプリづくりを一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。