配送管理システムのモダナイゼーションの事例/成功事例について

配送管理システムの刷新は、現場の課題を把握し、対象範囲を絞り込み、段階的に移行することで、配送を止めずに業務効率化を目指せます。

手書き伝票の電子化、表計算の属人的な配車表、サポート終了のオンプレミスTMS(輸送管理システム)といった課題を抱える現場では、工夫を重ねても改修のたびに費用と時間が膨らむ例は珍しくありません。刷新の事例、成功に共通する要因、事例から読み取る視点を取り上げます。全体像は配送管理システムのモダナイゼーションの完全ガイドもご覧ください。

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配送管理システムの刷新事例を学ぶ意義

配送管理システムの刷新は、新規開発とは性質が異なります。毎日トラックが動き、伝票が発行され、ドライバーが運行する業務を、止めずに作り替える必要があるからです。

長年の運用で配車ロジックや料金計算が複雑になり、当初の設計意図が失われたケースも多くあります。こうした状況では、計画段階で参考にできる先行事例の価値が高くなります。

他社の課題や手法、意思決定、成果を知ることは、自社の刷新計画の精度を左右します。事例からは、自社でも再現できる判断と、備えるべきリスクの両方を読み取れます。

今のタイミングで事例から学ぶ意義は、刷新を取り巻く二つの背景から見えてきます。

「2025年の崖」と物流2024年問題による刷新の後押し

配送管理システム刷新の必要性は、国レベルで定量化された二つの背景から高まっています。

  • 2025年の崖:老朽化したシステムを残すと、2025年以降の経済損失が懸念されます。
  • 物流2024年問題:労働時間の上限規制で輸送力不足が懸念されています。

老朽化したシステムを刷新しないまま2025年を迎えると、その後に生じうる経済損失は年間最大12兆円とされています。

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査では、約7割の企業が既存システムの老朽化を経営課題と認識しています。

限られた人員と労働時間で配送を維持するには、配車の最適化や運行の可視化が欠かせません。一方で、老朽化したシステムでは、その土台が追いつかない場合があります。そのため、コンプライアンス対応と業務効率化の両面から、配送基盤の刷新が急がれています。

ただし、全社の配送基盤を一度に切り替えると、出荷停止を招きかねません。事例からは、急ぐ理由と、急ぎすぎることの危険の両方を学べます。

適切なスピードを見極めることが大切です。たとえば、次章以降の企業は、このバランスを丁寧に取っていました。

事例から読み取る3つの視点

成功事例は、3つの視点で読むと学びの質が変わります。成果の紹介として読むより、自社の計画に活かせる判断が見えてきます。

  • 現場の課題:刷新の出発点になった配送現場の問題
  • 意思決定:課題に対して、どの手法と進め方を選んだか
  • 得られた効果:刷新の結果として生じた定量・定性の変化

特に見落とされやすいのが、2つめの意思決定です。同じ保守費や配車時間の課題でも、サーバーの載せ替えを選ぶか、配車ロジックを作り直すか、業務プロセスを見直すかによって、期間・費用・リスクが変わります。

成功した企業は、自社の制約と目的に照らして、実施しないことも明確にしていました。以降の各事例も、この3つの視点で読み解きます。

ポイント

刷新計画で迷ったときは、業務を止めずに作り替える難しさを前提に、先行事例で何が判断され、どんなリスクが残ったかを確かめてください。

事例1:COBOL基幹系刷新で夜間バッチを8時間から90分に短縮

COBOL基幹系刷新による夜間バッチの8時間から90分への短縮と、サーバー保守費の年2,400万円から850万円への削減を示す図。
処理時間と保守費の両方に改善が表れています。

従業員約1,200名の製造業が、COBOLで構築した基幹システムを16ヶ月かけて刷新しました。受注から出荷指示、配送手配までを、一つの基幹系で処理していました。

刷新前は夜間バッチに8時間かかり、翌朝の出荷準備や配車計画の確定が遅れていました。さらに、夜間処理の遅れは翌日のトラック手配にも影響していました。

刷新後、夜間バッチは90分に短縮され、処理時間を約80%削減しました。その結果、出荷指示データが早朝に確定し、配車担当者は当日の積み合わせや配送ルートを余裕を持って組めるようになりました。

ドライバーへの指示も前倒しで出せるようになりました。加えて、サーバー保守費は年2,400万円から850万円となり、約65%削減されました。

保守費の削減により、刷新の投資効果を費用面でも明確に説明できる結果となりました。

意思決定:全面再構築を避けた処理基盤の作り替え

夜間バッチの遅れを解消するため、処理性能のボトルネックに対象を絞りました。

  • 対象:配送・出荷に直結するバッチ処理の基盤の置き換え
  • 範囲:長年の業務ロジックをすべて作り直さないこと

処理基盤を現代的な構成に変え、最小限の改修で大きな効果を狙いました。また、16ヶ月という期間は、対象を絞ったからこそ現実的に収まりました。

配送管理の刷新では、すべてを一度に整えたくなるものです。そこで、発注側と開発会社は、効果が出る箇所と費用がかさむ箇所を分け、優先度の高い処理から着手します。

自社の配送業務で、どの処理が遅れると現場が止まるのかを起点に範囲を定める考え方は、多くの企業に応用できます。

ポイント

出荷や配送に直結する処理がどこで遅れているかを先に確かめ、その基盤に絞って刷新範囲を決めるのが目安です。

事例2:業務プロセス分析を徹底し月700時間を削減

業務プロセス分析で現状の業務フローを可視化し、重複作業と自動化に向く作業を見極め、月間700時間を削減した内容を示す図。
システム化の前に作業を整理する順序が見て取れます。

イオングループは、システム刷新やRPA導入の前段で業務プロセス分析を徹底しました。その結果、月間700時間の業務削減を実現しました。

ツールを入れる前に、現状の業務フローを可視化しました。そのうえで、重複する作業と自動化に向く作業を見極めた点が重要です。

配送管理にも、出荷指示の転記や配送伝票の手入力といった定型業務があります。運賃計算やドライバーへの連絡も、定型業務に含まれます。これらをシステムやRPAに移す前に、作業自体の必要性を問い直せます。

見直しによって、単なるシステム置き換えにとどまらない効果が生まれます。特に、月700時間という削減は、配送現場の残業削減や2024年問題への対応にも直結する規模です。

意思決定:システム化の前の業務の整流化

老朽化した配送管理システムを業務ごと移すと、非効率な流れもそのまま引き継いでしまいます。そこで、刷新前に業務を見直すことで、その引き継ぎを防げます。

  • 手順の棚卸し:地域・荷主・商品特性ごとの細かなルールが積み上がり、属人化しやすい配送業務の手順
  • 標準化の判断:手順の理由を確かめ、標準化できる部分を見極めること

業務プロセスを先に整えると、刷新後のシステムがシンプルになります。これにより、開発費用や運用負荷も下げられます。

可視化と整流化への投資は目に見えにくいものの、後工程の費用とリスクを左右します。刷新を業務改革と位置づけることで、こうした投資の意味が見えてきます。

事例2は、刷新を業務改革の機会として捉える意味を、月700時間という数字で示しています。

ポイント

システムに移す前に、現状の業務フローを可視化し、重複する作業を洗い出してください。移すべき作業かを先に問い直すと、後工程の費用とリスクを抑えやすくなります。

事例3:運行・機器データの可視化で数億円規模の効果

ユニリタは、200種類・約30,000台のネットワーク機器と10,000台のサーバーの通信ログを集計・分析しました。そのログは1日10億件にのぼります。

保守費の高い機器を可視化し、作業負担を5分の1に軽減しました。さらに、数億円規模の投資対効果も生み出しています。

膨大なデータを蓄積するだけでなく、意思決定に使える形に可視化したことが成果につながりました。この考え方は、配送管理システムのモダナイゼーションにも応用できます。

GPSやデジタコ(デジタルタコグラフ)の運行データは、多くの企業で蓄積されています。車両ごとの稼働率やルートごとの遅延傾向、燃料消費といったデータも、日々の業務で得られています。一方で、活用しきれていないデータもあります。

刷新を機にデータを可視化できれば、非効率なルートや稼働の低い車両を特定できます。そこから、配車計画やコスト構造の改善にもつなげられます。

意思決定:刷新後に活きるデータ基盤の設計

配送管理システムの刷新では、「今の業務をそのまま動かす」にとどめず、運行データを改善に活かす仕組みも設計に含めます。

  • 蓄積方法:運行データを後から分析・活用できる形で保存すること
  • 資産として扱う:刷新で得られるデータを、将来の資産として扱う点

データ基盤があれば、刷新自体の効果に加えて、継続的な改善の土台も得られます。

目先の機能だけを移し、データ活用を後回しにすると、数年後に分析用のデータが取れない負債になる場合があります。事例3は、刷新判断にデータ活用を組み込むことの長期的な価値を示しています。

配送現場では、可視化した運行データが2024年問題への対応策を立てる根拠にもなります。

ポイント

刷新の設計段階で、運行データを後から分析できる形で残すかを決めてください。目先の機能だけを移すと、数年後に分析用のデータが取れなくなるおそれがあります。

成功事例に共通する要因

配送基盤の刷新で共通する範囲の絞り込み、段階的な展開、並行稼働、着手前の効果の数値化を並べた図。
対象範囲、移行方法、効果測定の観点がそろっています。

3つの事例には、業界や規模を超えた共通点があります。特に再現性が高いのは、範囲の絞り込みと段階的な移行、そして効果を数値で握ってから着手する姿勢です。

範囲の絞り込みと段階的な移行

成功企業は効果の高い領域に絞り、全社一斉のビッグバンアプローチを避けていました。移行方法を選ぶ際は、段階的な展開と並行稼働の違いを踏まえます。

  • 段階的な展開:一部の営業所やルートから稼働させ、問題がなければ順次広げる方法
  • 並行稼働:新旧の両方を動かしながら置き換える方法

並行稼働の方式は、ストラングラーパターンとも呼ばれます。この方式では、不具合が全配送に広がるリスクを抑えられます。

配送が止まれば、荷主や消費者にすぐ影響します。そのため、移行計画は安全を重視して組みます。

事例に共通する「急ぐが焦らない」姿勢は、配送基盤の刷新で強く意識したい原則です。

着手前の効果の数値化

事例では、夜間バッチを8時間から90分に短縮し、保守費を65%削減しました。ほかにも、月700時間の削減や数億円の投資対効果も示されています。

こうした成果は、刷新前に改善目標を明確にしていたから測れました。配送管理でも、配車時間や誤配率といった指標を着手前に定めておきます。車両稼働率や保守費も、あわせて押さえておくと、刷新後の変化を比べやすくなります。

刷新後の変化を確認できるようにしておくと、投資判断と社内の合意の両方で役立ちます。さらに、数値目標があれば、刷新範囲と優先順位も論理的に決められます。

ポイント

範囲を絞って段階的に移行する方法と、効果を数値で定めてから着手する姿勢を、自社の計画に当てはめて確かめてください。

まとめ

ここまで、配送管理システムのモダナイゼーション事例を3つの一次データから読み解いてきました。COBOL刷新では、夜間バッチを8時間から90分に短縮し、保守費を65%削減しました。

業務プロセス分析では月700時間を削減し、運行・機器データの可視化では数億円規模の効果を得ました。範囲の絞り込みと段階的移行、効果を数値で定めて着手する姿勢も共通要因です。

「2025年の崖」と物流2024年問題が迫るなか、配送基盤の刷新は先送りしにくいテーマです。他社の成功をそのままなぞるより、自社の配送業務で効果の高い課題を見極めることが出発点になります。

効果を数値で定め、安全を重視した移行計画を描くことが大切です。事例から得た視点を起点に、無理のない第一歩を設計します。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。