農業のシステム開発の発注/外注/依頼/委託方法について

農業のシステム開発の外注・発注は、要件定義から始まり、テスト・リリースで終わる4段階の流れで進みます。

現場の業務課題と季節性を要件にまとめ、実績のある開発会社と費用・契約条件を確かめながら進めることが、成功の鍵になります。

農業システム開発の全体像は、次の記事で確認できます。

農業のシステム開発を外注する前の全体像

発注先の選定や見積もり依頼の前に自社の現状を正確に把握しておくと、ベンダーとの認識のズレを防ぎやすくなり、プロジェクトの成功率も高まります。

まずは、「どのような種類のシステムが農業現場に適しているか」「自社の課題は何か」を整理しておくことが欠かせません。

農業システム開発の主な種類と特徴

農業分野で開発・導入されるシステムは、生産管理システム・販売管理システム・環境制御システム・農業IoTシステムの4種類に大きく分けられます。導入目的によって種類が大きく異なるため、まず「何を解決したいか」を明確にすることが、外注を成功させる第一歩になります。

生産管理システムは、圃場ごとの作付け記録や作業ログを一元管理するもので、規模の大きい農業法人を中心に導入が進んでいます。販売管理システムは、直売所や産直ECサイトと連動して在庫・注文・出荷を管理するもので、販路拡大を目指す農家に適しています。

環境制御システムは、ハウス内の温度・湿度・CO₂濃度をセンサーで自動管理し、施設園芸農家の省力化に直結します。農業IoTシステムは、これらを組み合わせ、センサー・ドローン・AIを連携させた高度なシステムです。例として、北海道士別市の上士別北資源保全組合では、圃場水管理システム「WATARAS」を導入した結果、5月〜8月の水管理にかかる作業時間が76%削減されました。

発注前に整理すべき自社の課題

発注前に必ず整理しておくべき情報は4つで、現状の業務フロー(As-Is)と理想の業務フロー(To-Be)、利用ユーザー数と利用端末、予算の上限です。

特に農業現場では、スマートフォンやタブレットの操作に不慣れなスタッフも多いため、UIの複雑さや導入後の教育コストも含めて要件を整理することが欠かせません。さらに、既存のシステムやクラウドサービスとのデータ連携が必要かどうかも、事前に確認しておく必要があります。

農林水産省が推進する農業DXの観点からも、全ての作業・タスクを洗い出し、デジタル化によって積極的に効率化すべき部分とそうでない部分を振り分けることが、DX成功のカギとされています。発注者側がこの整理を怠ると、ベンダーへの要件伝達が不明確になり、最終的な成果物が現場のニーズからずれてしまうリスクが高まります。

ポイント

導入目的に合う種類を選べるよう、何を解決したいかを決めたうえで、現状と理想の業務フロー、利用者と予算を整理できているかが判断の目安です。

農業のシステム開発を外注・発注する流れ

農業システム開発の発注からリリースまでを4段階で示す図解。
工程を順に追うと、発注側の確認どころを見通せます。

農業システムの外注・発注は4段階で進みます。最初は要件定義・企画で、次にベンダー選定・契約、設計・開発と続き、最後がテスト・リリースです。

各フェーズで発注者が担う役割を理解していないと、プロジェクト全体が停滞したり、追加費用が発生したりするおそれがあります。

要件定義・企画フェーズ

要件定義フェーズでは、システムに実装すべき機能・性能・セキュリティ要件を詳細に文書化します。農業システムでは、現場で実際に働く農業従事者へのヒアリングが欠かせません。発注側は、そのヒアリングを通じて、「収穫量の記録をどのデバイスで行うか」「誰がどの権限でデータを閲覧・編集するか」といった具体的な運用の姿を固めます。

この段階で要件が曖昧なままだと、後工程での手戻りやコスト増加の主な原因になります。そのため、文書化と関係者間のレビューに十分な時間をかけることが重要です。

企画フェーズでは、スクラッチ開発(一から新規開発)か、パッケージ・クラウドサービスかを選びます。スクラッチ開発は、自社の業務フローに完全に合わせられる一方で、初期費用が500万円〜1,000万円以上かかるのが一般的です。パッケージ型やSaaS型なら初期費用0円〜100万円程度、月額1,000円〜9万円程度で使えるものもあるため、予算規模に応じて慎重に選ぶ必要があります。

設計・開発フェーズ

設計・開発フェーズでは、ベンダーが要件定義書をもとに、基本設計・詳細設計・実装を進めます。発注者側は、このフェーズで定期的な進捗確認(プログレスレビュー)に参加し、開発が要件どおりに進んでいるかを見ることが求められます。

特にアジャイル開発を採用している場合は、2週間〜1ヶ月ごとにスプリントレビューが行われます。そのため、農業現場の代表者が積極的にフィードバックを返すことが欠かせません。

農業システムは、圃場環境や気象データとの連携が必要なケースが多く、外部APIとの接続や通信規格の整合性も、設計段階で対処すべき課題です。異なるベンダーが開発したシステム同士の相互運用性の問題は、スマート農業の失敗事例でも多く挙げられています。そこで、データ形式や通信プロトコルの仕様を事前に統一しておくことが必要です。

テスト・リリースフェーズ

テストフェーズでは、実際の農業現場に近い環境でシステムの動作確認を行います。UAT(ユーザー受け入れテスト)では、現場スタッフが実際に操作し、業務フローに沿って正しく動くかを検証します。

農業システムは、センサーデータの取り込みやドローン連携など特殊な入力経路があるため、実環境でのテストを事前にスケジュールへ組み込んでおく必要があります。

リリース後の保守・運用体制についても、契約前に明確にしておくことが大切です。農繁期にシステムトラブルが起きた際に迅速に対応してもらえるか、バグ修正や機能追加がどのような条件で対応されるかを事前に確認しておけば、リリース後のトラブルを未然に防げます。

ポイント

各フェーズで発注側が何を決め、何を確認するかを前もって把握しておくと、手戻りや追加費用を抑えやすくなります。特に要件定義の段階で決めた内容は、後の確認で基準になります。

発注先の選び方と契約形態の基礎知識

農業システムの発注先を開発実績、コンサルティング、プロジェクト管理、保守運用、UIの5視点で見る図解。
費用以外の確認軸をそろえると、候補の見極めに役立ちます。

農業システムの発注先は、費用の安さに加えて、農業分野での開発実績・技術力・コミュニケーション体制を総合的に見て選びます。

発注者は、契約の形態によってリスクの所在が大きく変わるため、請負契約と準委任契約の違いを理解したうえで発注を進める必要があります。

ベンダー選定の具体的なポイント

発注先を選ぶ際には、次の5点を確認します。

  1. 農業・食品・生産管理の分野での具体的な開発実績があるかどうか
  2. 要件定義の段階から伴走し、コンサルティングを行ってくれるかどうか
  3. プロジェクトマネジメントの体制が整っており、進捗報告の頻度・方法が明確かどうか
  4. リリース後の保守・運用サポート体制が整っているかどうか
  5. 農業現場のスタッフが使いやすいUIを設計できる実力があるかどうか

特に重要なのは、自社のビジネスを理解しようとする実務担当者が、そのベンダーにいる点です。基幹システムの構築は、担当エンジニアの能力・意気込み・業務への理解度が成果に直結します。そのため、初回の提案やヒアリングで、農業の業務フローや季節性をどこまで理解しているかを見極めることが、失敗しない発注先選びの核心です。

請負契約と準委任契約の違いと選び方

システム開発の外注契約は、大きく「請負契約」と「準委任契約」に分かれます。請負契約は成果物の完成を約束する契約で、開発されたシステムが納品されて初めて報酬が発生します。

成果物に瑕疵があった場合は、ベンダー側が修正・補修の義務を負うため、発注者にとってはリスクが低い契約形態といえます。一方で、要件変更が生じた際には追加費用が発生しやすく、仕様変更への柔軟な対応が難しい面もあります。

準委任契約は、労働時間や工数に対して報酬が発生するもので、仕様変更に柔軟に対応できます。農業システム開発では要件が途中で変わることも多いため、要件定義の段階では準委任契約、実装フェーズでは請負契約といったハイブリッドな形態を選ぶケースも増えています。どの契約でも、認識のズレによるトラブルを防ぐため、契約前に双方で内容を丁寧に確認し合うことが不可欠です。

ポイント

発注先は、費用に加えて開発実績・技術力・コミュニケーション体制で比べ、請負と準委任のどちらでリスクをどこに置くかを確かめてから選びます。

RFPの作り方と見積もりを取る際のポイント

RFPに盛り込む会社概要、機能要件、納期、保守運用の項目をカードで示した図解。
依頼条件を項目ごとに分けると、提案内容をそろえて比較できます。

農業システムの外注を成功させるには、RFP(Request for Proposal=提案依頼書)を作ることが欠かせません。

RFPを的確に作れば、複数のベンダーに同じ条件で提案を依頼でき、比較検討もしやすくなります。さらに、発注側の意図をベンダーに正確に伝えることで、提案内容の質も高まります。

提案依頼書(RFP)の書き方と重要項目

RFPに必ず盛り込む項目は次の8つです。

  1. 会社・組織の概要と現在の業務フロー(As-Is)
  2. システム化で達成したい目標・理想の状態(To-Be)
  3. 必要な機能要件と非機能要件(性能・セキュリティ・可用性)
  4. 利用ユーザー数と利用端末の種類・台数
  5. 概算予算と優先度
  6. 希望納期・スケジュール
  7. 既存システム・外部サービスとの連携要件
  8. 保守・運用に関する要望

RFPの作成で最も大切なのは、曖昧さを排除することです。たとえば、「使いやすいUIにしてほしい」「データをリアルタイムで見たい」といった表現は、人によって解釈が異なります。

そこで、「スマートフォンの5インチ画面でも操作できること」「センサーデータを5分以内に画面反映すること」のように、数値や条件で具体的に書くことが求められます。こうした精度の高いRFPは、ベンダーとの認識のズレを防ぎ、高品質な提案を引き出すうえで大きく役立ちます。

複数社比較と費用交渉のコツ

同じ要件でも、開発会社によって提示金額が2倍〜3倍以上異なるケースは珍しくありません。

そのため、見積もりは必ず3社以上から取ることを推奨します。複数社を比べることで、適正価格を把握できます。

見積もり書を比べるときは、総額だけでなく内訳まで確認することが大切です。内訳では次の3点を見ます。

  • どの機能にどれだけの工数が計上されているか
  • 保守費用はランニングコストとして別途発生するか
  • 追加開発の単価はどう設定されているか

費用交渉では、「スコープの絞り込み」が最も効果的な手段です。初期リリースで必須の機能と将来的に追加できる機能を明確に区別し、フェーズ1の開発範囲を絞ることで、初期費用を大幅に抑えられます。

IT導入補助金やスマート農業関連の補助事業を使う場合は、補助金の申請条件を満たしているベンダーかどうかを事前に確認しておく必要があります。

ポイント

RFPに盛り込む8項目を書き、要望を数値や条件で具体的に示せているかが判断の目安です。曖昧な表現が残っていないかも、あわせて見直したいところです。

農業システム開発の外注でよくある失敗と対策

農業のシステム開発を外注する際は、同じ失敗パターンが繰り返されることが多く見られます。

発注者は、どのような失敗が起きやすいかを事前に把握し、適切な対策を取っておくことで、プロジェクトを成功に導く確率を高められます。

要件定義不足によるトラブル

農業システム開発で最も多い失敗の原因は、要件定義の段階で現場スタッフを巻き込まず、経営者や管理職だけで要件を決めてしまうことです。実際に使う農業従事者が使いにくいと感じるUIや、現場の作業フローに合わない機能が実装されても、現場に浸透せず、投資が無駄になってしまいます。

発注前にはユーザーインタビューを実施し、現場の生の声を要件に反映させることが重要です。

農業では、「農繁期に使えない」という失敗も多く見られます。この失敗は、季節による作業量の変動を要件でどう扱うかに関わります。

  • 原因:農業は季節性が強く、収穫期に作業量が急増する。負荷テストが不十分だと、農繁期に処理速度が低下したり、システムが止まったりするおそれがある。
  • 対策:要件定義の段階でピーク時の同時アクセス数・データ処理量を明示し、非機能要件として性能目標を盛り込んでおく。

ベンダーとのコミュニケーション不足

発注後に「あとはベンダーに任せればいい」という姿勢でプロジェクトから離れると、開発が要件からズレていても、発注者側が気づかないまま時間が過ぎてしまいます。

農業組合や家族経営の農業法人では、担当者が農作業と兼務しているため、プロジェクト管理に割く時間が取りにくく、この問題が起きやすい環境といえます。

そこで、コミュニケーション不足によるトラブルを未然に防ぐには、次の2つの取り決めが有効です。

  1. 定期的な進捗確認ミーティング(週次または隔週)を契約時に義務化し、定例レポートを共有してもらう
  2. 用語集を共有文書として作り、お互いの言葉の定義を統一しておく

農業現場では「圃場」「作付け」「防除」などの専門用語があり、IT側のエンジニアがこれらを正確に理解していないと、仕様の食い違いが生じます。さらに、言葉の定義のズレもトラブルの原因となります。

ポイント

よくある失敗は要件の詰め不足と発注後の関与不足で、要件定義の段階で現場を巻き込み、定例の進捗確認を契約時に決めておくことが対策になります。

補助金を活用して発注コストを抑える方法

農業システムの開発・導入には相応のコストがかかりますが、国や自治体が提供する補助金を活用すれば、実質的な負担を大幅に軽減できます。

補助金を適切に使うには、申請のタイミングや対象要件を事前に把握したうえで、補助金申請に対応しているベンダーを選ぶことが重要です。

IT導入補助金の活用方法

IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者のITツール導入を支援する制度で、農業法人も対象に含まれます。補助対象のITツールは、農林水産省が認定した「IT導入支援事業者」が提供するものに限られ、最大450万円の補助を受けられます。

営農支援システムやセンシングサービス、在庫・受発注管理システムなど、農業現場で使われるITツールも補助対象に含まれ、適切なツールを選んで申請すれば初期投資を抑えられます。活用の流れは、①IT導入支援事業者に登録されているベンダーの選定、②gBizIDプライムアカウントの取得、③SECURITY ACTIONの宣言の順に進みます。

続けて、④ベンダーと連携した申請書類の準備を行い、⑤採択後に導入を開始します。補助金の公募期間は年間を通じて複数回設けられていることが多いため、システム開発のスケジュールと補助金の申請スケジュールを事前に照合して計画を立てることが欠かせません。

スマート農業関連の補助事業

農林水産省が推進する「スマート農業・農業支援サービス事業加速化総合対策事業」では、ドローンや自動走行トラクター、環境制御システムなどのスマート農業機械の導入費用を支援しています。広域型・地域型の区分があり、農業法人や農業組合の規模に応じた補助を受けられます。

この補助事業の対象は、農業機械・IoT機器の導入で、システム開発費そのものは含まれません。そのため、クラウド連携システムの開発費用はIT導入補助金、IoT機器の導入費用はスマート農業関連の補助事業と使い分けることで、トータルのコスト削減効果を最大化できます。

このほか「ものづくり補助金」は、農業関連の設備投資や試作開発に活用でき、スマート農業に向けた独自システムの開発に充てることも可能です。補助金は毎年公募要件が更新されるため、最新情報は農林水産省や中小企業庁の公式サイト、または地域の農業支援センターで確認することを強くお勧めします。

まとめ

農業のシステム開発を外注・発注するには、まず自社課題の整理、RFPの作成、ベンダー選定を進め、そのうえで契約形態を選び、補助金を活用することが成功の鍵です。

要件定義の段階で現場スタッフを巻き込み、農業特有の季節性や現場環境を要件として文書化することが、ベンダーとのトラブルを防ぎ、現場に定着するシステムを生み出す最大のポイントです。

農業DXは、現場の声を反映しながら継続的に改善していくプロセスで、一度のシステム開発で完結するものではありません。

信頼できる開発パートナーを早期に見つけ、長期的な関係を築くことは、農業経営を持続的に支えるうえで役立ちます。

本記事で紹介した発注方法を参考に、農業のシステム化に向けた第一歩を踏み出していただければ幸いです。

農業DXのシステム例や開発方法を詳しく知りたい方は、こちらのガイドもご覧ください。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。