AI翻訳/自動翻訳ツール開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

AI翻訳ツールのフルスクラッチやオーダーメイド開発は、既存の翻訳APIやOSSモデルを基に、自社向けの機能を作り込むのが基本です。特別な要件がある場合にだけ、独自モデルの構築を検討します。なお、全体像は後ろに挙げた完全ガイドの記事で扱っています。

▼全体ガイドの記事
・AI翻訳/自動翻訳ツール開発の完全ガイド

翻訳ツール開発の選択肢とフルスクラッチの位置づけ

パッケージからフルスクラッチまで、翻訳ツール開発の4方式と本文にある特徴を並べた図解。
自社仕様への調整範囲に応じて、開発方式が分かれます。

AI翻訳ツールの実現方法は、既製サービスと既存APIの組み込み、オーダーメイド、フルスクラッチの4つに分けられます。ただ、実際の案件では、これらの境目がはっきりしないこともあります。

パッケージ・既存API・オーダーメイドの違い

4つの方式は、翻訳の作り込みや既存システムとの連携範囲で選び分けます。

  • パッケージ:初期費用が最も安く、すぐ使い始められます。ただし、自社仕様への調整には限界があります。
  • 既存API:翻訳エンジンを自社システムから呼び出して使う方式。
  • オーダーメイド:既存APIやOSSを基に、自社向けの機能を作り込みます。
  • フルスクラッチ:独自NMTを構築でき、自由度が高い分、費用と期間も最大です。

汎用翻訳で足りる業務や、まず手軽に始めたい場合には、パッケージが向いています。一方、既存の翻訳APIには、DeepL、Google Cloud Translation、Amazon Translateがあり、OpenAIなどのLLMもあります。

これらの翻訳品質を活かして、自社システムに組み込めます。さらに、既存API組み込み型では、用語集の適用や翻訳結果の保存・活用も自社仕様で設計できます。

オーダーメイドでは、既存APIやOSSを自社の対訳データで調整し、専用の用語集・翻訳メモリ・ポストエディット画面を作ります。また、既存業務システムとの緊密な連携も実装できます。翻訳を業務の中核に据え、品質を継続的に高めたい企業に適しています。

既存エンジンを基に必要な部分を独自開発する方式は、品質・コスト・期間のバランスがよく、現実解として最も多く採用されています。選択肢を絞る第一歩は、自社に必要な作り込みの程度を見極めることです。

金融業では、NTTドコモビジネスの「COTOHA Translator」を導入し、運用レポートの翻訳速度を従来の10倍にした事例があります。また、Difyなどのノーコードツールでは、入力文をLLMで翻訳して返すワークフローを短期間で構築できます。

フルスクラッチ・オーダーメイドが適するケース

既製品やAPIで要件を満たせない事情があるときに、個別開発を検討します。特にフルスクラッチは、既存エンジンでは要件を満たせない場合に選びます。

  • 厳格な機密管理:外部送信を避け、自社環境で翻訳する必要があるケース。
  • 独自ドメイン:汎用エンジンでは品質が出ず、専門用語や表現を調整する場合。
  • 特殊な言語ペア:汎用サービスの対応が十分でなく、独自データが必要な場合。
  • 深い業務統合:承認、品質管理、翻訳メモリの資産化を実現する場合。

金融・医療・官公庁・特許など、外部サービスへ文書を送れない領域では、オンプレミスやプライベートクラウドでの稼働が選択肢になります。オープンソースモデルを基にする方法もあります。

特殊な専門用語や表現体系には、自社の対訳データで調整したモデルが必要な場合があります。一方、汎用翻訳で足りるなら、費用対効果の面では既存APIやパッケージが圧倒的に有利です。

フルスクラッチは、必要があって選ぶ方法です。開発そのものを目的にしないことが、何より重要です。

ポイント

標準機能で足りるか、自社仕様の作り込みや既存システムとの連携がどこまで要るかで方式を決めます。フルスクラッチは、既存エンジンでは要件を満たせない場合の選択肢です。

独自NMT構築と既存APIベースのオーダーメイド

翻訳エンジンをどう用意するかが、オーダーメイド開発の大きな分岐点です。独自構築か既存API・OSSの利用かで、費用と期間、必要なデータ量、品質が変わります。

独自NMTモデルをフルスクラッチで構築する場合

独自NMTは、翻訳エンジンを自社で保有して制御でき、機密性も自社環境で保てます。特殊な言語ペアや独自ドメインにも、合わせて最適化できます。ただし、構築には相応のハードルがあります。

  • 対訳データ:高品質なモデルには、大量のデータが必要になります。
  • 計算資源と専門性:訓練には、GPUと機械学習の知識が欠かせません。
  • 品質の実現:既存モデルを上回るには、特化した領域などの条件が必要です。

数万〜数十万文以上の対訳ペアを整備し、クレンジングするだけでも、大きな工数がかかります。GPUや専門知識も必要なため、開発費用と期間は最も大きくなります。

現在は、商用エンジンやOSSの大規模モデルの品質が高いため、ゼロから作ったモデルが上回るのは容易ではありません。独自NMTを選ぶのは、希少言語、絶対的な機密性、独自研究など、極めて特殊な要件がある場合に限られます。

既存API・OSSモデルをベースにオーダーメイドする場合

独自構築は負担が大きいため、多くの案件では既存モデルを基にする方法が選ばれます。現在の主流は、高品質なエンジンに自社ドメイン向けの機能を加える方式です。

  • 商用API:DeepL、Google、Amazon、LLMなどのエンジンを使う方式。
  • OSSモデル・LLM:自社環境で動かし、機密性と専門性を高められます。

ベースとなるエンジンは、商用APIとOSSモデルの2種類です。商用APIは汎用翻訳の品質が高く、用語集機能も備えるため、その上に自社の業務連携や用語管理を加えます。

機密要件があるならOSSモデル、自社環境での稼働が不要なら商用APIが有力です。どちらも、ゼロから構築するより必要データが少なく、開発費用と期間を抑えながら既存モデルの品質を活かせます。

RAG(検索拡張生成)型翻訳では、用語集や参考訳をLLMに文脈として与えます。また、プロンプトで文体や用語を指定する方法もあり、フルのファインチューニングなしでドメインに適応できます。

既存エンジンの品質を活かして自社独自の部分を作り込む構成は、品質・コスト・期間・機密性のバランスに優れた現実解です。

ポイント

独自NMTは、希少言語や絶対的な機密性など特殊な要件がある場合に限られます。それ以外は、既存API・OSSを基に必要な部分を作り込む方が現実的です。

オーダーメイド翻訳ツールで作り込む機能

用語集、翻訳メモリ、修正画面、進捗管理の役割を示す4つの確認カード。
用語と過去の訳文を蓄積し、人の確認状況も追える構成です。

オーダーメイドの価値は、汎用サービスにはない自社仕様の機能にあります。業務水準の品質を保つには、用語辞書と翻訳メモリ、機械翻訳を人が仕上げるポストエディットが中核になります。

専門用語辞書・翻訳メモリの作り込み

用語集と翻訳メモリ(TM)は、翻訳品質と再利用性を支えるデータです。業務部門が用語を管理し続ける運用も、品質向上につながります。

  • 用語集:原語に対応する訳語を一つに定めるための辞書。
  • 翻訳メモリ:翻訳済みの文を、再び呼び出せるように保存する仕組み。
  • 管理画面:業務部門が用語を追加・修正・承認できる画面。

用語集には、製品名や業界用語、社名などを登録します。禁止表現も、この用語集に含めます。翻訳時に用語集を強制適用する仕組みを設け、重要用語が誤訳されないようにします。

翻訳メモリは、過去に翻訳・確定した原文と訳文のペアを蓄積します。同じ文や似た文に既訳を使うことで、表現の一貫性を保ち、API呼び出しと運用コストも減らせます。さらに、ポストエディットで修正した訳を残せば、翻訳資産が育ちます。

用語集と翻訳メモリに自社のノウハウを蓄積できる点は、汎用サービスとオーダーメイドを分ける大きな違いです。

ポストエディット機能とワークフロー

誤訳が許されない用途では、人による後編集(ポストエディット)が必要になります。オーダーメイドでは、自社業務に合わせた画面とワークフローを作って、確認を効率化します。

  • 修正画面:原文、機械翻訳、修正欄を並べて表示します。
  • 参照情報:翻訳メモリの候補や用語集の該当語を強調表示。
  • 進捗管理:未処理、機械翻訳済み、ポストエディット済み、承認済みの状態を追います。
  • 分担と承認:複数人で作業し、組織内の確認を回す仕組み。

社内参考用は機械翻訳のみとし、対外公開文書や契約書は人が確認するなど、用途によって要否を分けます。そのため、全件に人手を入れずに、品質と人的コストを調整できます。自社の翻訳業務に沿って機械翻訳と人手の役割を設計できるかが、実務で使えるツールにするうえでの決め手です。

ポイント

用語集と翻訳メモリを育てながら、人が確認する流れを業務に合わせて組めるかが判断の目安です。自社のノウハウを資産として残せるかが、汎用サービスとの違いを決めます。

既存業務システムへの翻訳機能の組み込み

翻訳機能を中心に、ECサイト、マニュアル、チャット、コールセンターへの連携先と用途を配置した図解。
連携先によって、一括処理と即時処理の設計が分かれます。

開発目的の一つは、翻訳機能を既存の業務システムに統合することです。ECやマニュアル、チャットの中で翻訳を自然に行えると、業務効率が高まります。

EC・マニュアル・チャットへの組み込みパターン

組み込みのパターンは、対象システムによって異なり、翻訳の対象や処理方法も変わります。

  • ECサイト:商品情報などを翻訳し、多言語の商品ページを提供します。
  • マニュアル:文書の構成を保ったまま一括翻訳し、人が確認します。
  • チャット:会話をその場で訳す、リアルタイム処理。

ECでは、商品名と説明を多言語化するほか、カテゴリやレビューも対象になります。典型的な流れは、商品マスタに言語別の項目を設け、新商品の登録時に説明を生成し、担当者が確認・修正して公開するというものです。

翻訳量が多いECでは、翻訳メモリの再利用とバッチ処理が役立ちます。マニュアルや社内文書では、レイアウト、表、箇条書きを保つ仕組みと、バッチ翻訳やポストエディットを組み合わせます。

老舗旅館では、宿泊履歴などの業務データを翻訳して、外国人スタッフの業務習得を支援した事例があります。社内向けの多言語化も、活用方法の一つです。

チャットやコールセンターでは、応答速度が重要になります。そのため、レイテンシを抑えるエンジン選定とインフラ設計が必要です。対象業務に応じて、リアルタイムかバッチか、求める品質や連携方法を決めます。

組み込み時の設計・連携のポイント

連携設計の基本は、翻訳機能を独立したサービスとして用意し、業務システムからAPIで呼び出す構成です。翻訳機能を疎結合なAPIにしておくと、エンジンの差し替えがしやすくなります。複数のシステムから共通して利用でき、将来新しいエンジンが登場したときの切り替えの影響も抑えられます。

  • 翻訳対象:既存のデータ構造を見て、どのデータを、いつ、何語に訳すかを決める。
  • 保存と表示:翻訳結果の保存先と表示方法、更新方法を定める。
  • コスト管理:キャッシュや差分翻訳で、API利用料を抑える。
  • セキュリティ:外部APIか自社環境かを、機密要件に合わせて選ぶ。

また、翻訳メモリを共通の資産として扱えば、複数のシステムで翻訳ノウハウを蓄積できます。翻訳量に応じてAPI利用料が発生するため、更新箇所だけを訳す差分翻訳も、コストの抑制に役立ちます。

翻訳エンジンの品質に加えて、連携設計も業務効果とコストを左右します。そのため、業務とシステムの両方を理解する開発パートナーと進めることが、成功につながります。

ポイント

翻訳機能を業務システムへどう組み込むかで、設計とコストが大きく変わります。翻訳対象、保存と表示、コスト、セキュリティを一通り決められるかが判断の目安です。

費用・期間の目安と発注のポイント

発注を成功させるには、費用と期間の相場感をつかみ、適切なパートナーを選ぶことが前提です。

費用・期間の目安

費用と期間は、採用する方法と機能の範囲によって変わります。既存APIで用語集と業務連携を作る中規模開発は、期間3〜6か月、費用500万〜1,500万円程度が目安です。

  • 中規模開発:既存APIに用語集と業務連携を加える構成。
  • 機能追加:学習や複数システム連携などを含む構成。
  • 独自NMT:大量の対訳データを整備し、モデルを訓練する構成。

ファインチューニングや複数システム連携を加え、さらに多言語対応とポストエディット整備も加えると、期間6〜12か月以上、費用1,500万〜4,000万円程度に広がります。独自NMTは、これに加えて費用と期間がかかります。

費用には、対訳データ整備や用語集構築、エンジン選定と調整が含まれます。さらに、業務システムへの実装や画面開発も含まれます。実装だけでなく、データ準備と品質評価にも工数がかかります。

リリース後は、API利用料と用語集の更新、再学習の費用が続きます。加えて、ポストエディットの費用もかかります。そのため、初期費用だけでなく、数年間の総保有コスト(TCO)で予算を考えます。

まず小規模なPoCで精度と有効性を確かめ、その結果を踏まえて本開発の規模を決める進め方が合理的です。

発注・パートナー選定のポイント

パートナーの選定は、開発の成否を左右します。そのため、翻訳技術、連携実装、品質評価の3つの力を確かめます。

  • 翻訳技術:開発実績と機械翻訳・NLP・エンジン選定・RAGの専門性。
  • 連携実装:EC、マニュアル、チャットとの接続力。
  • 品質評価:指標と人手評価の組み合わせ方。

ファインチューニングやRAG構築、品質評価の専門性を確かめます。あわせて、BLEUやCOMETなどの指標と人手評価をどう組み合わせるか、機械翻訳とポストエディットをどう分担するかも、確認の対象になります。

発注前には、対応言語、翻訳対象、機密要件を整理した要件概要を作ります。処理方式や既存システム連携、求める精度も、この概要に書き加えます。そのうえで、複数社から見積もりを取ります。

大規模なフルスクラッチをすぐに契約せず、PoCで精度と有効性を確かめてから本開発へ進めば、リスクを減らせます。また、要件が固まった範囲は請負に、精度改善など試行錯誤が必要な範囲は準委任にする方法もあります。

翻訳業務を理解し、技術と業務の両面から提案できるパートナーが、開発成功の鍵です。

ポイント

費用は初期費用だけでなく、運用費用を含めた総保有コストで比べます。迷ったときは、翻訳技術、連携実装、品質評価の3点で発注先を絞ります。

まとめ

AI翻訳ツールの方式には、パッケージと既存API、オーダーメイド、フルスクラッチがあります。機密性や独自ドメインに加え、特殊な言語ペアや深いシステム連携などの要件に応じて選びます。

主流は、既存エンジンを基に、用語集と翻訳メモリ、ポストエディット、業務連携を作る方法です。独自NMTは、既存モデルでは満たせない特別な要件がある場合に検討します。

まずPoCで精度と有効性を確かめ、段階的に本開発へ進みます。翻訳ノウハウを資産化して業務に統合するため、翻訳業務を理解するパートナーへの相談から始めましょう。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。