受発注のFAX・電話・メールをやめてWeb化したい、得意先からの注文をBtoB通販サイトで受けられるようにしたい。こうした構想は多くの事業会社で持ち上がりますが、いざ蓋を開けてみると「作ったのに誰も使ってくれない」「結局これまで通りFAXで注文が来る」という結末にたどり着くケースが後を絶ちません。BtoB通販・ECサイトの導入は、実は失敗事例が非常に多い領域です。BtoC向けの一般的なネットショップと違い、得意先別の価格設定や掛売り、社内の承認フロー、基幹システム(ERP)との連携といった「業務そのもの」を作り込む必要があり、ここでつまずく発注企業が驚くほど多いのです。
本記事は、BtoB通販・ECサイトの開発や導入で実際に起きている失敗・課題・注意点・リスクを、発注側であるEC担当者・経営者の目線で、具体的な数値と一次データを伴って正面から解説します。きれいごとではなく、1億円かけたサイトが使われずに廃止された話、連携費用をケチって手作業地獄に陥った話、営業のプレゼンに惑わされて泥沼化した話など、生々しい現実を扱います。読み終えるころには「自社で同じ失敗をしないために、発注前に何を確認し、契約や運用でどこに気をつけるべきか」がはっきり見えるはずです。なお、BtoB EC構築の全体像をまだ把握していない方は、まずBtoB通販・EC構築の完全ガイドから読むことをおすすめします。
BtoB通販/EC導入でよくある失敗パターン

BtoB通販・ECサイトの失敗には、業界や企業規模を問わず繰り返し現れる典型的なパターンがあります。共通するのは「サイトを作ること」が目的化し、「現場が使う」「業務が回る」という本来のゴールが置き去りにされる構図です。ここでは、発注企業が陥りやすい二大失敗パターンを、実例とともに見ていきます。
現場に使われず廃止(1億円が消えた事例)
もっとも痛ましく、そしてもっとも多いのが「作ったのに現場に使われず、最終的に廃止される」というパターンです。実際にriplaが見聞きした事例では、ある企業が約1億円を投じてBtoBサイトを構築したにもかかわらず、現場での利用がまったく定着せず、2年間ほぼ放置されたあげく廃止に至りました。1億円という投資が、まるごと失われた計算です。これは特殊なケースではなく、規模の大小こそあれ、同じ構図の失敗はあちこちで起きています。
原因ははっきりしています。第一に、現場ヒアリングを怠ったことです。実際に注文を受ける営業や、受注処理をする業務担当が日々どう動いているかを把握しないまま、机上の理想で仕様を決めてしまいました。第二に、ToBe(あるべき業務の姿)モデルを作らなかったことです。「ECで何をどう改善するのか」という設計図がないまま、第三に、ベンダーへ丸投げしてしまったのです。ベンダーは言われた通りのものを作りますが、業務の当事者でない以上、現場が本当に必要とする形にはなりません。
BtoBの注文は、得意先ごとの価格、過去の発注履歴からの再注文、まとめ買いや定期発注といった「その会社固有の業務」と密接に絡みます。これを無視して一般的なECの形を当てはめると、現場は「FAXのほうが早い」と感じ、新システムを使わなくなります。取引先や社内営業に浸透しないBtoB ECは、どれだけ高機能でも価値を生みません。発注側がやるべきは、ベンダー選定の前に、自社で現場ヒアリングとToBeモデルづくりに時間を割くことです。ここを省くと、1億円が消える可能性すらあるのです。
連携をケチって手作業崩壊
次に多いのが、目先のカスタマイズ費・連携費を削った結果、運用が手作業で崩壊するパターンです。BtoB ECの肝は、受注データを基幹システム(ERP・販売管理)へどう流すかにあります。ところが見積もりを見て「連携開発は高いから、まずは手入力で運用しよう」と判断してしまう企業が少なくありません。これが地獄の入口です。
実際にあった例では、基幹連携のカスタマイズ費を削ったために、ECサイトに入った1日100件超の注文を、担当者が一件ずつ基幹システムへ手入力し続ける運用になりました。EC化で楽になるどころか、注文確認・転記・チェックという作業が新たに発生し、現場の労力はむしろ増加。しかも人手での転記はヒューマンエラーの温床で、数量の打ち間違いや得意先の取り違えといったミスが多発しました。BtoBでは1件の誤りが大口取引の信頼を損ない、クレームや返品対応に発展します。
連携費を「削れるコスト」と捉えるのは、発注側の典型的な誤解です。連携は、EC導入の効果を生み出す本体部分であり、ここをケチると「自動化のためのシステムを入れたのに、手作業が増えた」という本末転倒に陥ります。発注時には、初期費用の安さだけで判断せず、「連携を入れない場合に発生する手作業の人件費・エラーコスト」まで含めて比較すべきです。多くの場合、連携開発への投資は数カ月の手作業人件費で十分に回収できます。
ベンダー選定・契約に潜むリスク

要件をしっかり固めたつもりでも、発注先のベンダー選定や契約の段階で失敗すると、プロジェクトは一気に泥沼化します。BtoB ECは業務との結合度が高く、開発の難易度も読みづらいため、ベンダーの「見せ方」と「実力」のギャップに足をすくわれやすい領域です。ここでは、選定・契約で発注側が踏みやすい地雷を解説します。
プレゼン力だけで選んで泥沼化
ベンダー選定でもっとも危険なのが、「提案プレゼンの上手さ」だけで発注先を決めてしまうことです。あるケースでは、エース営業の流暢で説得力あるプレゼンに惹かれて発注したものの、実際に開発を担当した部隊の技術力が低く、リリース後に障害が多発。注文が通らない、価格が正しく計算されない、基幹にデータが流れないといったトラブルが続き、プロジェクトは泥沼化しました。営業が見せた未来と、現実に納品されたものとの落差は深刻でした。
この失敗の根は「提案する人と作る人が違う」という業界構造にあります。営業担当が優秀でも、その人がコードを書くわけではありません。発注側が見るべきは、プレゼンの巧みさではなく、実際に手を動かす開発チームの実績と技術力です。選定時には「今回のプロジェクトを担当する具体的なエンジニアは誰か」「過去に同種のBtoB EC・基幹連携を手がけた事例はあるか」「その開発体制は自社か外注の再委託か」を必ず確認してください。BtoBの業務ロジックを正しく実装できる技術力こそが、成否を分けます。
体制図・検収基準で丸投げを防ぐ
泥沼化を防ぐ実務的な武器が、契約段階での「体制図」と「検収基準」の明文化です。体制図では、プロジェクトに関わる人員の役割・スキル・稼働率を明示してもらいます。とくに「実装を担当するエンジニアが社内人材か、再委託先か」は重要な確認点です。再委託が何層にも重なると、責任の所在が曖昧になり、トラブル時の対応が遅れます。発注側は、誰が責任を持って作るのかを契約書レベルで縛っておくべきです。
検収基準とは、「どの状態になれば完成と認めるか」を発注前に具体的に定義しておくことです。「得意先別価格が正しく表示・計算される」「承認フローが設定通りに動く」「基幹へ受注データが欠落なく連携される」といった、業務上の合否ラインを数値や条件で書き出します。これがないと、ベンダーは「画面が表示されれば完成」と主張し、発注側は「業務が回らないから未完成」と主張する水掛け論になります。検収基準を明確にすることは、ベンダーへの丸投げを防ぎ、発注側が主体性を保つ最良の手段です。riplaはフルスクラッチ受託の立場から、この体制と検収の透明性を重視し、丸投げにならない協働を前提に開発を進めています。
リプレイス・移行に特有の課題

新規構築だけでなく、既存のBtoBサイトを別システムへ作り変えるリプレイス(移行)にも、独自の落とし穴があります。「今あるものを作り直すだけだから簡単」という思い込みが、もっとも危険です。実際には、新規構築では発生しない移行特有のコストと、取引先離脱のリスクが潜んでいます。ここを見落とすと、せっかくのリニューアルが既存顧客の離反を招きかねません。
パスワード再設定で取引先が離脱
リプレイスで意外なほど多くの企業がつまずくのが、ログイン情報の移行です。セキュリティ上の理由から、旧システムに保存された顧客のパスワードは暗号化されており、新システムへそのまま移すことができません。その結果、リニューアル後はすべての取引先に「パスワードを再設定してください」と告知し、再ログインを強いることになります。BtoBではこれが想像以上に深刻な浸透阻害要因となります。
BtoCの個人ユーザーであれば再設定もそれなりに進みますが、BtoBの取引先は「発注担当者が忙しい」「ログイン情報を管理しているのが別の人」「そもそも再設定の告知に気づかない」といった事情で、再ログインのハードルが格段に高くなります。せっかく旧システムで定着していた取引先が、再設定の手間を機にWeb発注をやめてFAXや電話に戻ってしまう、最悪の場合は競合の発注システムへ流れてしまう、という離脱が起きます。リプレイスのつもりが、既存顧客のWeb利用率を下げてしまっては本末転倒です。
対策としては、移行スケジュールに「再設定をいかにスムーズに促すか」のコミュニケーション設計を必ず組み込むことです。営業担当からの個別案内、再設定手順の丁寧なマニュアル、旧システムとの並行稼働期間の確保など、取引先に負担を感じさせない導線づくりが欠かせません。発注の段階で「パスワードは移行できない」という制約を前提に、離脱を防ぐ計画まで含めてベンダーと握っておくことが、移行成功の分かれ目になります。
データ移行・リダイレクトの隠れ費用20〜50%
リプレイスでもう一つ見落とされがちなのが、「移行作業そのものにかかる隠れ費用」です。リプレイスは新規構築と同程度の費用で済むと考える発注担当者が多いのですが、実際には新規構築費に対して20〜50%もの追加費用が、移行特有の作業として発生します。具体的には、旧システムからの顧客データ・商品データ・受注履歴のデータ移行、旧URLから新URLへのリダイレクト設定、そして前述のパスワード再設定の告知・サポート対応などです。
これらは「目に見えにくい作業」であるため、発注側が見積もり時に予算化を忘れがちです。とくにデータ移行は、旧システムのデータ構造が新システムと一致しないことが多く、変換・クレンジング・検証に相応の工数がかかります。URLリダイレクトを怠れば、既存のブックマークや検索流入が切れ、取引先がサイトにたどり着けなくなります。これらを軽視すると、移行直後に「サイトに入れない」「過去の発注履歴が見られない」といった混乱が噴出します。
発注時の鉄則は、リプレイスの予算を「新規構築費+移行費20〜50%」で組むことです。見積もりにデータ移行・リダイレクト・告知サポートが明記されているかを確認し、なければ必ず追加で見積もりを依頼してください。安く見える提案ほど、これらの隠れ費用が含まれていない可能性が高く、後から追加請求で膨らむか、作業が雑になって移行トラブルを招きます。移行費を正しく織り込むことが、リプレイス成功の前提条件です。
運用フェーズと補助金の落とし穴

無事にリリースできても、失敗のリスクは終わりません。むしろ運用フェーズにこそ、長期的にプロジェクトを破綻させる落とし穴が潜んでいます。また、初期費用を抑えようと補助金を活用する企業も多いですが、補助金には知らないと取り返しのつかない制度上の罠があります。発注側として、運用と補助金の両面で押さえるべき注意点を解説します。
運用費を見積もれず破綻する(構築費の3倍)
運用フェーズで最大の失敗は、「運用費を見積もっていなかった」ことによる予算破綻です。発注時には構築費にばかり目が向きがちですが、システムはリリースしてからが本番です。サーバー・ドメイン・SSLなどのインフラ維持、セキュリティパッチやライブラリのバージョンアップ、不具合対応、機能改善、取引先からの問い合わせ対応など、運用には継続的なコストがかかります。
目安として、システムの寿命全体で見れば構築費用の約3倍の年間運用費がかかると言われ、少なくとも制作費と同額以上の年間運用予算を想定しておくべきです。たとえば構築に1,000万円かけたなら、運用も年間で相応の予算を確保しておかなければ、「お金がなくてバージョンアップできない」「不具合があっても直せない」という状態に陥ります。放置されたBtoB ECはセキュリティリスクの温床となり、最悪の場合、取引先情報の漏えいという信用失墜につながります。
発注の段階で、ベンダーに「年間の運用費・保守費はいくらか」「どこまでが保守範囲で、どこからが追加費用か」を必ず確認してください。運用体制を社内で持つのか、ベンダーに継続委託するのかも含めて、リリース後の数年間を見据えた総予算で投資判断をすることが、破綻を避ける唯一の道です。「作って終わり」ではなく「育て続ける」前提で予算を組むのが、BtoB EC成功の鉄則です。
補助金の交付決定前発注・補助率の誤解
BtoB EC構築では、IT導入補助金や事業再構築系の補助金を使う企業が多くいます。しかし補助金には、知らないと致命傷になる二大ルールがあります。一つ目は「交付決定前の発注は補助対象外」という鉄則です。補助金は申請して交付が決定する前に契約・発注・支払いをしてしまうと、その費用は一切補助されません。「採択されたら遡って補助される」と誤解して先に発注し、数百万円が自己負担になった、という失敗が後を絶ちません。必ず交付決定の通知を受けてから発注してください。
二つ目は「上限額と補助率の混同」です。たとえば補助上限300万円・補助率2分の1の補助金で、400万円の事業を申請したとします。このとき「上限が300万円だから300万円もらえる」と考えるのは誤りです。補助率は2分の1なので、400万円に対して補助されるのは200万円までです。上限300万円は「200万円が上限を超えない限り全額」という意味であって、上限まで満額出るわけではありません。この混同で資金計画が崩れ、自己負担が想定の倍になる失敗が頻発します。
補助金を前提に予算を組む場合は、必ず「補助率を掛けた実際の補助額」で自己負担を計算し、交付決定前は一切発注しないこと。そして、補助金の対象経費に運用費・保守費が含まれないことも多いため、運用フェーズの予算は補助金とは別に確保しておく必要があります。補助金は強力な味方ですが、制度を正しく理解せずに頼ると、かえって資金繰りを圧迫するリスクになります。
まとめ

BtoB通販・ECサイトの失敗・課題・注意点・リスクを振り返ると、その多くは「業務とユーザーを起点にしていない」という一点に集約されます。現場ヒアリングとToBeモデルを怠った丸投げは1億円の廃止を招き、連携をケチれば1日100件超の注文を手入力する手作業崩壊に陥ります。ベンダーをプレゼンで選べば泥沼化し、リプレイスではパスワード再設定による取引先離脱や、新規比20〜50%の移行隠れ費用が待っています。運用費は構築費の約3倍規模を見込まねば破綻し、補助金は交付決定前発注や補助率の誤解で自己負担が膨らみます。
BtoBは得意先別価格・掛売り・承認フロー・ERP連携が必須なため、同規模BtoCより30〜100%費用が増え、寿命は3〜5年です。だからこそ、構築費・運用費・移行費・補助の実額まで含めた総額で投資判断し、何より発注側が責任を持って業務とユーザーを描き切ることが、失敗回避の王道です。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、炎上案件のリカバリーや要件整理の受け皿として、事業から逆算したBtoB EC構築を一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
