設備保全管理システム(CMMS)開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

CMMSのフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、既製品では回らない独自の保全業務があり、開発範囲を絞って段階的に進める場合に現場に合います。

その背景には、設備を壊さず稼働させる保全で、設備の種類や点検周期、故障対応が各社で長年独自に形づくられてきた事情があります。

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CMMSにおけるフルスクラッチ・オーダーメイドの定義

設備保全管理システム(CMMS:Computerized Maintenance Management System)には、クラウド(SaaS)型、パッケージ型、フルスクラッチ型の方式があります。

フルスクラッチは、既製品に業務を合わせる代わりに、自社の保全業務に合わせてシステムをゼロから設計・開発する方式です。オーダーメイドとも呼ばれます。

自社固有の点検周期や設備構成、保全フローを反映できるのが特徴です。一方で、費用と期間、失敗のリスクも大きくなります。

方式を選ぶ際にまず見るのは、自社の保全業務にどれほど独自性があり、標準的なパッケージで表現できないかです。パッケージで足りる業務まで開発すると、投資に見合う効果を得られない可能性があります。

逆に、業務の独自性が高く、パッケージでは業務が回らない場合には、フルスクラッチが現場に根ざしたシステムを実現する選択肢になります。

パッケージ/SaaSとフルスクラッチの違いと費用感

費用と期間は方式によって異なるため、発注側は、標準機能に業務を合わせられるかをまず見極めます。

  • クラウド型:月額数万円から導入できます。
  • パッケージ型:比較的抑えた初期費用で始められる形です。
  • フルスクラッチ型:1,000万円から数億円に達することもあります。

フルスクラッチは、要件定義から一連の工程を自社向けに行います。その中には設計、開発、テストも含まれます。そのぶん費用は規模や連携の複雑さで変わり、開発期間も半年から数年に及びます。

パッケージ型やSaaS型は、設備台帳、点検スケジュール、ワークオーダーといった標準機能に、自社の運用を合わせる形です。このため、短期間かつ低コストで導入できるのが利点です。

費用の差は機能の量ではなく、自社業務に合わせる自由度の対価だと捉えると分かりやすいです。パッケージは業務をシステムに合わせるのに対し、フルスクラッチはシステムを業務に合わせて作るぶん、高額になります。

選定の前に確かめたいのは、独自性が数千万円の投資に見合うかどうかです。あわせて、パッケージのカスタマイズで代替できないかも見極めます。

フルスクラッチを選ぶべきケースと避けるべきケース

判断では、独自の要件が投資に見合うか、標準機能やカスタマイズで対応できるかを、発注側が確かめます。

  • 独自の保全業務:独自の点検周期や複雑な設備構成、特殊な保全プロセスが競争力や安全性の源泉で、標準機能では表現しにくいケースです。
  • 独自の設備連携:新旧メーカーの設備からデータを取り込む必要があります。
  • 判断ロジック:熟練保全員の判断を独自のアルゴリズムとして組み込みたい場合です。
  • 標準的な管理:一般的な予防保全や設備台帳の管理なら、パッケージやSaaSで十分な場合があります。

「せっかく作るなら自社専用がよい」という漠然とした理由は、フルスクラッチを選ぶ根拠としては不十分です。まず標準機能やカスタマイズで足りるかを確認し、残る独自要件が投資に見合う場合に選びます。

ポイント

自社の保全業務が標準的なパッケージで表せるかを先に確かめ、表せない独自性があるかで方式を選びます。パッケージで足りる業務まで作り込まないことが、投資を無駄にしない目安になります。

パッケージCMMSでは合わない理由

パッケージCMMSで対応しにくい独自性として、保全業務フロー、設備連携、熟練保全員のノウハウを示す図。
独自性が生まれる場所を3つの領域に分けて捉えられます。

パッケージCMMSで対応しにくい独自性には、保全業務フロー、設備連携、熟練保全員の暗黙知があります。

パッケージは標準機能に業務を合わせる方式なので、独自性の高い業務とは相性が悪くなります。カスタマイズを重ねると費用が膨らみ、フルスクラッチより高くつくこともあります。

自社固有の保全業務フロー(独自の点検周期・設備BOM階層)

パッケージCMMSでは、自社固有の保全業務フローが課題になります。点検周期や設備BOM階層は工場ごとに異なるため、標準機能では表せないことがあります。

  • 点検周期:予防保全では暦日だけでなく、稼働時間や生産量などを組み合わせた独自ロジックで運用する工場もあります。
  • 設備BOM階層:部品表の構成として、親装置、子ユニット、部品の組み方や管理単位が工場ごとに異なります。
  • 管理情報の紐付け:点検基準や交換部品を、設備のどの位置に結び付けるかも工場によって違います。

たとえば、稼働時間や生産量を組み合わせた点検周期は、標準的なパッケージのカレンダー機能では表しきれないことがあります。

増改築を重ねた工場では設備階層が入り組むため、標準的な設備階層に押し込むと、現場の感覚と合わない台帳になり、使われなくなることがあります。

業務フローと設備BOM階層を実態のまま表したいという要求こそ、フルスクラッチを選ぶ本質的な動機です。

新旧メーカー混在設備の多様なプロトコル連携

設備連携の難しさも、パッケージCMMSが合わない理由になります。工場では導入年代やメーカーの異なる設備が混在し、それぞれ異なる通信プロトコルを持つのが一般的です。

  • 新しい設備:標準的な方式でデータを出せる場合があります。
  • 古い制御装置(PLC):外部連携を想定しておらず、独自方式でしかデータを取り出せないことがあります。
  • 個別インターフェース:稼働・停止信号やセンサー値を集めるには、設備ごとに合った取得方法が欠かせません。

取得したデータは、保全KPIや予知保全に活用できます。一方で、パッケージは対応済みの連携方式の範囲でしかつながれません。

レガシー装置が多い設備群では、標準機能で対応しきれない場合があります。特に、新旧混在設備から確実にデータを取り込む独自基盤は、フルスクラッチでなければ満たしにくい典型例です。

熟練保全員のノウハウ(音・振動の暗黙知)のルール化

第三の理由は、熟練保全員が長年培った経験知の形式化です。システムに活かすには、発注側と開発会社がその価値と難しさを把握しておく必要があります。

  • 察知の手掛かり:音や振動、わずかな温度変化から、部品の異常を見分けています。
  • 活用方法:独自の判定基準やアルゴリズムとして、技能伝承や予知保全に役立ちます。
  • 形式化の難しさ:熟練工ごとに判断基準や勘所が異なり、例外が増えて要件がまとまらないことがあります。

こうした独自の判断は汎用パッケージには収まりにくいため、フルスクラッチ開発の対象になります。ただし、暗黙知の形式化はフルスクラッチ最大の落とし穴でもあります。

範囲を絞らないと、開発期間が年単位に延び、費用が当初予算の数倍に膨らむ失敗も起きています。暗黙知のルール化は価値の源泉である一方、際限なく広がりやすいため、対象を先に区切っておく必要があります。

ポイント

熟練保全員の判断や独自の点検周期、新旧設備の連携が標準機能で収まるかが分かれ目です。収まらない独自性が中心なら、フルスクラッチを候補に入れて費用と効果を比べます。

フルスクラッチ開発の進め方と設計の勘所

CMMSのデータモデル設計を、設備の階層、保全情報、将来の拡張、設計の合意の4観点で整理した図。
4つの観点を揃えることで、追加機能の土台を組み立てられます。

CMMS開発では、設計段階で自由度を活かしつつ、失敗を防ぐ勘所を押さえることが大切です。とりわけ、データモデルと現場で使うUIが、投資を成果につなげる要になります。

設備BOM・保全マスタのデータモデル設計の重視

設備BOMと保全マスタのデータモデル設計が、フルスクラッチCMMSの品質を大きく左右します。

  • 設備の階層:親装置、子ユニット、部品をどの単位に分けるかを、あらかじめ決めておきます。
  • 保全情報:点検基準や交換部品と、故障履歴や稼働情報との紐付けを設計します。
  • 将来の拡張:設備追加や保全手法の高度化に備え、後から手を入れられる余地を残します。
  • 設計の合意:現場、生産技術、開発が納得できる構造に練り上げます。

この構造は追加機能の土台になります。そのため、自社の実態に合わせて柔軟かつ拡張しやすく設計することが強みで、誤ると大規模な作り直しにつながります。

会計上の固定資産台帳とは目的が異なるため、金額よりも、物理的な保全情報を追える粒度で設計します。

データモデルは一度固めると変更が難しいので、検討に時間をかけることが、長く使えるCMMSの条件になります。

現場が使い続けられるUI・モバイル設計の優先

現場で使い続けられなければ、高度な機能を作っても投資が活きません。そのため、UIとモバイルの使いやすさを優先して設計します。

  • 入力操作:油や粉塵のある現場で、手袋をしたままタブレットから点検やワークオーダーを数タップで登録できます。
  • 画面の見やすさ:屋外や暗所でも画面を確認できる状態にします。
  • 片手操作:現場で片手でも操作できること。

機能を盛り込みすぎると画面が複雑になり、現場の入力離れを招きます。だからこそ、機能の豊富さよりも現場基準の使い勝手を優先します。

実際に使う保全員を設計に巻き込み、試作を触ってもらいながら現場基準に磨き上げる進め方を、開発の中心に置きます。そうすると、使われるCMMSにつながります。

自由度の高さを、機能の多さではなく現場適合の深さに活かすことが、フルスクラッチを成功させる鍵です。

ポイント

設備BOMと保全マスタのデータモデルを先に固め、現場で使い続けられるUIを優先して設計できるかが、成果を左右します。一度固めると変更が難しいため、検討に時間をかける価値があります。

フルスクラッチ特有のリスクと回避策

フルスクラッチは自由度と引き換えに、要件が固まらず費用・期間が膨らむリスクと、完成後に自社が特定ベンダーに縛られるリスクを伴います。

こうした失敗はフルスクラッチで繰り返し報告されています。そのため、事前に対策を講じておけば、リスクを大きく減らせます。

要件が固まらず費用・期間が膨張するリスク

要件が固まらないまま開発すると、費用と期間が当初計画から膨らみます。たとえば、熟練工のノウハウをすべて形式化しようとして開発が年単位に延び、予算が数倍になる失敗もあります。

何でも作れる分、「あれも欲しい、これも入れたい」と要望が膨らみ、収拾がつかなくなることも要因になります。

最も有効な対策は、初期リリースと次フェーズ以降の対象範囲を、最初に厳格に分けておくことです。

  1. 客観的に判断できる点検項目や中核の保全フローから着手します。
  2. 経験に依存する高度なノウハウのルール化は、後回しにします。
  3. 要件定義に期限を設け、変更時は影響範囲と費用を見積もって合意する仕組みを決めます。
  4. 全体予算に一定のバッファを確保し、想定外に備えます。

ベンダーロックイン・将来の設備追加時の改修コスト

もう一つのリスクは、ベンダーロックインと、将来の変化に伴う改修コストです。特殊な設備BOM構造や独自ロジックを作り込むほど、後からの変更が難しくなります。

  • 改修の発生:新設備の導入や保全運用の変更のたびに改修が必要になることがあります。
  • 依頼先と費用:開発したベンダーにしか改修を頼めず、保守・改修費用が大きくなる場合があります。
  • 設定での変更:設備追加や点検周期の変更を、プログラム改修ではなくマスタ設定で吸収する設計にします。
  • 引き継ぎ体制:標準的な技術を選んだうえで、ソースコード、ドキュメント、設計情報を自社で保有します。

長く使う前提なら、変化に強い設計と他社へ引き継げる体制を、契約時点で確保しておきます。

ポイント

要件の範囲を初期リリースと次フェーズに分け、変更時の影響と費用を合意する仕組みを持つことが、膨張を抑える目安になります。契約時に他社へ引き継げる体制を確保することも、ロックインを避ける目安です。

失敗しないための進め方

設備台帳や点検などの中核機能を現場で稼働させ、知見を得て対象設備や機能を段階的に広げる流れを示す図。
稼働後の学びが、次に広げる範囲を決める手掛かりになります。

ここまでのリスクを踏まえると、CMMS開発は一度に完成させず、段階的に進めるのが現実的です。あわせて、長く伴走できるパートナーを選ぶことも、大きな投資を成果につなげる鍵になります。

スモールスタートと段階開発によるリスクの抑制

失敗を避けるには、全機能・全設備を一度に目指さず、重要設備や特定ラインから段階的に開発します。

  1. 設備台帳、点検、ワークオーダーなどの中核機能から作り、現場で稼働させます。
  2. 稼働から得た知見を踏まえ、対象の設備や機能を段階的に広げていきます。
  3. 予知保全やノウハウのルール化など不確実性の高い要素は、本開発の前に小さな検証(PoC)で実現性を確かめ、範囲を決めておきます。

段階開発なら、早期に現場の価値を生み出せるうえ、各段階の学びを次の段階に反映できます。また、問題が起きた場合も、影響を一部に留められます。

特に、優先順位を付けて進める規律が、費用と期間の膨張を防ぎ、投資を成果につなげます。

パートナー選定と保守・拡張体制の見極め

CMMSは開発後も使い続けて育てるシステムです。そのため、パートナーは開発力だけでなく、現場業務への理解と稼働後の対応力で選びます。

  • 現場理解:製造現場や設備保全の業務を理解しているか。
  • 継続体制:稼働後の保守や機能追加に継続して対応できるか。
  • 引き継ぎ:ソースコードや設計情報の帰属と、他社へ渡せるかどうか。
  • 契約条件:拡張時の費用や自社が主導権を保てる条件を、契約段階で明確にできるか。

保全業務の機微を理解しないパートナーだと、要件調整に手間がかかり、現場に馴染まないシステムになることがあります。

発注側は、複数の候補を比べ、費用だけでなく業務理解、長期的な伴走姿勢、契約条件を合わせて見極めます。

ポイント

段階開発を前提に、中核機能から稼働させて範囲を広げる進め方を選びます。稼働後まで伴走できるパートナーかを比べることが、投資を成果につなげる目安です。

まとめ

ここまで、CMMSのフルスクラッチ開発について、パッケージとの費用差や選ぶべきケース、標準機能で合わない理由を見てきました。加えて、設計の要点、特有のリスク対策、失敗を避ける進め方も取り上げました。

費用は1,000万円から数億円規模で、要件の膨張やベンダーロックインのリスクも伴います。そのため、まずパッケージで代替できないかを見極めることが出発点になります。

採用する場合は、設備BOMのデータモデルと現場で使えるUIを設計の土台にします。そのうえで、対象を絞った段階開発と、長く伴走できるパートナーの選定が成功につながります。

フルスクラッチを検討する際は、自社の保全の独自性と投資対効果を見極めたうえで、経験のある開発パートナーに相談します。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。