受託開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

受託開発は、外部の開発会社に作ってもらう発注の形です。フルスクラッチは、既製品に頼らずゼロから独自に作る実装の方法です。二つは別々に考えるので、要件の独自性、予算・納期、保守体制を見て作り方を選びます。

受託開発の全体像については、完全ガイドもあわせてご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・受託開発の完全ガイド

受託開発とフルスクラッチ開発の違い

受託開発とフルスクラッチ開発は、発注の形と実装の方法という、性質の違う概念です。

発注形態としての受託開発と、実装アプローチとしてのフルスクラッチ

二つの言葉は、それぞれ違う問いに答えるものです。

  • 受託開発:「誰が作るか」に答える発注の形です。
  • フルスクラッチ:「どう作るか」に答える実装の方法です。
  • 既存製品の活用:製品やツールを土台に、必要な部分を作り込みます。

受託開発は、自社で内製せず外部の開発会社に委託する枠組みです。一方、フルスクラッチは、パッケージやSaaSを使わずゼロから独自に作る方法です。

この二つは独立しているので、外部のベンダーにフルスクラッチで作ってもらう形もあれば、Salesforceやkintoneを使って自社向けに構築してもらう形もあります。後者も外部に委託するため受託開発です。既存のECパッケージをカスタマイズして納品してもらう形も、受託開発に含まれます。この関係を理解しておくと、無駄の少ない発注につながります。

「受託開発=必ずフルスクラッチ」という誤解

受託開発を、プログラムを一行ずつゼロから作ることだと考えると、高くつくという前提で判断することになります。本来なら安く早く実現できるシステムに、不要な費用や時間をかけるおそれがあります。

  • ローコード:ツールを使って、自社向けの業務システムを組み立てます。
  • パッケージ:既存製品を業務に合わせてカスタマイズする方法です。
  • フルスクラッチ以外:要件に応じて、費用や納期を抑える提案もあります。

ベンダーは要件を確認したうえで、パッケージで足りる部分や、ローコードのほうが早く安く済む部分を提案することがあります。既存の資産を活かせば、そのぶんコストと納期を抑えられます。ローコードや既存パッケージを使う委託も一般的で、どちらも受託開発に含まれます。

フルスクラッチにこだわると、数百万円・数週間で実現できたものに、数千万円・数ヶ月をかけるという判断ミスにつながる場合があります。そこで、発注者は複数の実装方法を理解して、自社の要件に合う方法をベンダーと選ぶことが大切です。

ポイント

発注の形と実装の方法は、別々に決めるものです。「受託開発だから必ずフルスクラッチ」と思い込まず、既製品の活用も含めてベンダーに提案を求めるとよいでしょう。

受託開発における2つの実装アプローチの比較

フルスクラッチ開発の柔軟性と、カスタマイズ開発の初期費用の抑えやすさを示す図解
自由度と導入しやすさに、それぞれ異なる強みがあります。

受託開発の実装方法は、主に二つあります。一つは、ゼロから独自に作るフルスクラッチ開発です。もう一つは、パッケージ・ローコード・OSSを土台にして、必要な部分を作り込むカスタマイズ開発です。

費用や期間、柔軟性、保守性の面で違いがあるため、それぞれの特徴を知っておくと、ベンダーの提案を評価しやすくなります。

フルスクラッチ開発(完全ゼロから独自開発)の特徴

フルスクラッチは、既製のパッケージやテンプレートを使わず、要件に合わせてシステムを作る方法です。

  • 柔軟性・拡張性:既製品に縛られず、独自業務や将来の機能、UI/UXを実現できます。
  • 開発費:小規模は300万〜1,000万円、中規模は1,000万〜5,000万円、大規模は5,000万円〜1億円以上が目安です。
  • 開発期間:小規模は3〜6ヶ月、中規模は6〜12ヶ月、大規模は12ヶ月〜2年以上が目安となります。
  • 保守:個別の対応と継続費用が発生します。

開発費の約8割は、エンジニアの人月単価に工数を掛けた人件費です。その人月単価は、おおむね65万〜150万円程度です。

外部サービスに依存しないため、月額のライセンス料などはかかりません。一方、OSやフレームワークの更新、法改正への対応は、自社か委託先が行います。

保守・運用には専門知識が必要で、継続費用は年間で開発費の15〜25%程度が目安となります。そのため、フルスクラッチは自由度の高さと引き換えに、費用・期間・保守の負担が大きくなる方法と捉えておくとよいでしょう。

パッケージ・ローコード・OSSをベースにしたカスタマイズ開発の特徴

既存のパッケージ、ローコード基盤、OSS(オープンソースソフトウェア)を土台に、必要な部分を設定・カスタマイズします。そのため、初期費用を抑えやすく、短期間で稼働できるのが強みです。

  • 初期費用:SaaSなら20万〜60万円程度から導入できる場合があります。
  • 期間と保守:数週間〜数ヶ月で稼働しやすい点が特徴です。
  • 自由度:標準機能や基盤の仕様に左右され、低〜中程度にとどまります。
  • アドオン:標準の外側に作る追加開発で、扱いに注意が必要です。

パッケージ導入では、ライセンス料として数十万〜数百万円に加え、設定やカスタマイズの費用がかかります。一方、ゼロから設計しないため、開発期間を短縮できます。加えて、バグ修正や法改正、機能更新の多くを提供元が担うので、自社の保守負担も軽くなります。

標準機能で対応できない要件を無理にアドオンで補うと、更新時に動かなくなり、改修費が膨らむことがあります。そのうえ、更新を適用できなくなるリスクも高まります。利点が生きるのは、標準機能に業務を合わせられる場合です。

ポイント

迷ったときは、費用・期間・柔軟性・保守の負担のうち、どれを優先するかで比べます。自由度を求めるほど費用と保守の負担が増えるため、優先順位を先に決めておけば、ベンダーの提案を公平に比べられます。

フルスクラッチかパッケージカスタマイズかの判断軸

受託開発では、ベンダーと一緒に、フルスクラッチとパッケージのどちらが合うかを検討します。その判断は、独自に作りたい気持ちや見栄ではなく、自社の要件や事業上の制約など、複数の観点を総合して行います。

要件の独自性とFit&Gap分析

要件の独自性は、方法を決めるうえで重要な判断材料です。業務が標準化されているなら、Fit to Standardが選択肢になります。

  • 業務を標準に合わせられる:パッケージカスタマイズが適します。
  • 独自業務が競争力になる:フルスクラッチを選ぶ理由になります。
  • 適合度を確かめる:Fit&Gap分析で、不足する部分を見極めます。

Fit to Standardとは、既存パッケージの基本機能に自社の業務を合わせる考え方です。たとえば経理や人事、在庫、顧客管理では、標準的な業務と大きく変わらない企業も多くあります。

標準的な業務なら、パッケージに合わせることで費用・期間・保守負担を抑えられます。一方で、独自の業務が競争力の源泉なら、標準機能に合わせると強みを失うおそれがあります。

Fit&Gap分析は、自社の要件と標準機能を比べて、適合する部分(Fit)と不足する部分(Gap)を洗い出す分析です。Gapが小さければ、パッケージで対応できます。反対に、Gapが大きく競争力に直結するなら、フルスクラッチを検討します。

また、ベンダーに分析を依頼し、既存製品で要件をどこまで満たせるかを客観的に確かめてから選びます。

予算・納期制約と長期の保守体制

予算と納期、拡張性、長期の保守体制も、判断の材料になります。要件の独自性と合わせて、総合的に検討します。

  • 予算・納期が厳しい:パッケージやローコードが有力です。
  • 拡張や複雑な連携が必要:システムの作り込みが求められる場面です。
  • 保守を外部に委ねたい:パッケージやSaaSが有利です。
  • 保守を自社で管理したい:フルスクラッチも選択肢です。

数週間〜数ヶ月で稼働させる必要がある場合は、既存製品やローコードの活用がほぼ必須になります。フルスクラッチは数百万円〜数千万円と、数ヶ月〜1年以上を要するため、安く早くという制約がある場合には選びにくくなります。

事業規模が大きく変わる可能性や複雑な外部連携がある場合は、パッケージの仕様が制約になりやすく、そのときにフルスクラッチが選ばれることがあります。

IT人材が不足していて、維持や更新を外部に任せる前提なら、提供元が保守を担う製品が合いやすくなります。一方で、自社で保守を管理したい場合や、特定のベンダー・ツールに依存したくない場合は、フルスクラッチも選べます。

独自性は高いものの予算・納期が厳しい場合には、独自部分だけを開発し、それ以外をパッケージで補う折衷案もあります。

ベンダーと対話を重ねながら、自社に合うバランスを探していきます。

ポイント

要件の独自性、予算・納期、保守体制を合わせて見ます。業務が標準的であれば、パッケージに業務を合わせる案を先に比べ、独自の部分が競争力に関わるときだけフルスクラッチを検討します。

真にフルスクラッチが必要になるケース

フルスクラッチが選択肢となる独自業務、連携・負荷、セキュリティ、UI/UXの条件を示す図解
パッケージの制約が事業上の障害になる場面が分かります。

パッケージが有効な場面は多くありますが、対応できずにフルスクラッチが必要になる場合もあります。自社に本当に必要かを見極めるため、代表的なケースを挙げておきます。

独自業務が競争力の源泉となっている場合

独自の業務プロセスが競争力の源泉になっているなら、フルスクラッチが必要になる代表的なケースです。

  • 製造業:独自の生産工程を管理する方法があります。
  • 物流業:特殊な配送ルールに合わせて配送を組む仕組みがあります。
  • 判断の要点:独自性が顧客に選ばれる理由かどうかです。

独自業務を標準フローに合わせると、企業の強みを損なうおそれがあります。パッケージは多くの企業に共通する機能を提供するものなので、独自の競争力を支える業務には合わないことがあります。

ただし、独自だと思っている業務が本当に競争力なのか、それとも長年の慣習で非効率になっているだけなのかを見極める必要があります。慣習であれば、パッケージの標準的なやり方に業務を合わせることで、改善できる場合があります。

独自業務のロジックを忠実にシステム化したい場合は、フルスクラッチが適しています。特に、その独自性が他社にまねされにくい強みにつながるなら、選ぶ価値があります。

判断にあたっては、ベンダーの客観的な視点も交えるとよいでしょう。

大規模連携・高負荷・厳格なセキュリティが求められる場合

技術要件や顧客体験の面でも、パッケージでは対応が難しいことがあります。

  • 大規模連携・高負荷:独自の設計や、性能の作り込みが必要な場合です。
  • 厳格なセキュリティ:標準機能で法令や業界基準を満たせないときです。
  • UI/UX:独自の画面や導線が、売上に直結するときです。

多数の基幹システム(ERPなど)と、リアルタイムで複雑に連携するケースもあります。また、アクセスが急増する大規模ECサイトでは、高い性能が求められます。

こうした要件では、独自のデータベース設計や性能の調整が欠かせないことがあります。パッケージでは対応しきれないため、作り込みが必要になる場合があります。

医療・金融・公共機関では、強固な個人情報保護、独自のアクセス制御、詳細な監査ログが、法令や業界基準で義務付けられることがあります。そのため、法令や業界基準の要件を完全に満たすには、標準機能では足りず、独自開発が求められる場合があります。

顧客向けの予約サイトやECサイトでは、ブランドデザインや、数クリックで完了する導線が競争力になることがあります。

共通するのは、パッケージの制約が事業上の致命的な障害になることです。技術要件、法規制、顧客体験のどれかで、パッケージでは満たせない要件がある場合に、フルスクラッチが選択肢になります。

ポイント

フルスクラッチが必要かは、独自業務が競争力になるか、パッケージの制約が事業上の障害になるかで見ます。慣習による非効率であれば、標準的なやり方に業務を合わせる余地があります。

Fit&Gap分析の進め方とハイブリッド構成という選択肢

標準業務、独自機能、APIによるシステム連携で構成するハイブリッド構成の図解
標準部分と独自部分を分けると、両方の長所を組み合わせられます。

実務では、フルスクラッチかパッケージかの二択ではなく、両者を組み合わせるハイブリッド構成が近年推奨されています。両者を組み合わせるのが有効な場面も多く、極端な選択を避けることで、ベンダーとバランスのよい構成を設計できます。

Fit&Gap分析の進め方とアドオン開発の注意点

Fit&Gap分析は、自社の要件とパッケージの標準機能を比べて、適合度(Fit)と不足(Gap)を調べる作業です。

  1. 現状の業務フローと、システム化したい要件を書き出します。
  2. 要件とパッケージの標準機能を、一つずつ照らし合わせます。
  3. 不足部分をアドオンで補うか、業務を標準機能に合わせるかを決めます。

Gapをアドオンで無理に埋めると、システムが複雑になります。その結果、定期更新を適用できなくなったり、更新のたびに高額な改修費がかかったりするリスクがあります。

こうなると技術的負債につながり、保守や更新を提供元が担うという利点を損ないかねません。

業務はできる限り標準に合わせ、譲れないGapだけを慎重に追加開発するのが基本です。そのうえで、アドオンがパッケージの利点を保てる範囲かを確かめます。

標準機能+個別開発をAPI連携するハイブリッド構成

Fit&Gap分析で、標準業務に合わせる部分と独自開発が必要な部分を分けると、ハイブリッド構成が選択肢になります。

  • 標準業務:パッケージの標準機能を使う部分です。
  • 独自機能:別のシステムとして個別に開発します。
  • システム連携:APIなどで疎結合に接続する仕組みです。

パッケージの部分には提供元の更新やセキュリティパッチを適用しながら、競争力に必要な部分を自由に作り込めます。

たとえば、基幹業務の共通部分をパッケージで構築すれば、法改正や更新に追従しやすい状態を保てます。一方、独自業務や顧客接点は個別に開発できます。

実際に、基幹業務パッケージを標準機能に絞り、法改正や更新に柔軟に対応する体制を実現した企業もあります。

二者択一を超えて長所を組み合わせる方法で、より成熟したアプローチといえます。作り方は一つに決まっておらず、要件に応じて組み合わせていきます。

ベンダーに提案してもらえば、費用や保守負担を抑えつつ、必要な独自性を確保できます。

ポイント

Fit&Gap分析で不足部分を洗い出し、アドオンで埋める部分と業務を標準に合わせる部分を分けます。Gapを無理に埋めるほど更新が難しくなるため、譲れない部分だけを追加開発します。

まとめ

受託開発は「誰が作るか」を、フルスクラッチは「どう作るか」を示す、別々の概念です。

選ぶときは、要件の独自性と予算・納期、長期の保守体制を総合的に見ます。また、Fit&Gap分析で既存製品との適合を確かめ、拡張性も見ておきます。

独自業務が競争力になる場合や、高度な連携・性能・セキュリティが必要な場合は、フルスクラッチが候補になります。ただし、UI/UXが売上に直結する場合も含め、フルスクラッチを選ぶのは、パッケージの制約が事業上の障害になるケースに限られます。

受託開発でも、フルスクラッチとパッケージカスタマイズのどちらも選べます。逆に、「必ずフルスクラッチ」と思い込むと、不要な費用や時間を招きます。

実務では、標準機能をパッケージで使い、独自部分を個別に開発してAPIで連携する方法もあります。要件に合う作り方をベンダーと選ぶことが、成功の鍵になります。

▼全体ガイドの記事
・受託開発の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。