基幹システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

基幹システムは、販売管理・生産管理・会計・人事給与・在庫管理といった業種を問わない中核業務を統合し、経営判断に必要な情報を一元管理するシステムです。導入プロジェクトが無事に本稼働を迎えた後も、システムを健全に動かし続けるための保守・運用費用は継続的に発生し続けます。基幹システムはひとたび稼働すると企業活動そのものを支える存在になるため、「月々どのくらいの保守費用を見込んでおけばよいのか」「保守費用にはどこまでの作業が含まれているのか」「クラウド型とオンプレミス型でランニングコストはどう変わるのか」といった疑問は、導入検討時から必ず整理しておくべき論点です。

本記事では、業種を問わない一般企業向けの基幹システムを対象に、リリース後の保守・運用費用・ランニングコストについて、オンプレミス型とクラウド型の費用相場、保守費用に含まれる作業内容とインフラ・ライセンス費用の内訳、バージョンアップや法改正対応にかかる追加コスト、そして内製と外注でのコスト差やベンダーロックインのリスクまで、具体的な数値や事例を交えて体系的に解説します。基幹システムの導入・刷新を検討している経営層や情報システム部門の方が、予算計画を立てるうえでの判断軸として活用できる内容です。

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基幹システムの保守・運用費用の全体像

基幹システムの保守・運用費用の全体像

基幹システムの保守・運用費用は、導入形態(オンプレミス型かクラウド型か)と企業規模によって構造そのものが大きく異なります。導入前に総額感をつかんでおくことで、初期費用だけでなく数年単位の総所有コスト(TCO)で投資判断ができるようになります。

オンプレミス型・クラウド型の月次・年次費用相場

オンプレミス型の基幹システムでは、一般的にソフトウェアライセンス費用の年間15%から22%程度が「ベンダー保守費用」として毎年継続的に発生します。社員数400名規模の企業がオンプレミス型寄りのシステムを全面リプレイスした事例では、ライセンス費用が月額115.6万円に対し、データセンター利用料を含む保守費用として月額27万円が発生しています。クラウド型は利用ユーザー数と機能範囲によって月額利用料が変動し、小規模企業(年商〜10億円・従業員〜20名程度)では月額数万円から数十万円、中小企業(年商10億〜50億円・20名〜100名程度)では月額数十万円から100万円超、中堅企業(年商50億〜400億円・100名〜500名程度)では月額100万円超から数百万円規模、大企業(年商400億円〜・500名以上)では月額数百万円以上が目安です。利用人数別の3年間総ランニングコストを試算すると、30名規模で約1,300万円から1,950万円、100名規模で約4,300万円から6,490万円、300名規模で約1.3億円から1.9億円というシミュレーション結果も報告されています。

企業規模別の費用感の目安

初期開発費用との対比で見ると、リリース後の保守・運用費用は一般的に年間で初期開発費用の15%から25%、月額換算で初期開発費の5%から15%程度が相場とされています。小規模システム(初期費用300万〜1,000万円)では月額数万円〜20万円程度で、最低限の問い合わせ対応や簡易な運用サポートが中心です。中規模システム(初期費用1,000万〜5,000万円)では月額15万円〜80万円程度となり、SLA(サービス品質保証)に基づく障害対応や定期的なアップデート、軽微な改修枠が含まれ始めます。大規模システム(初期費用5,000万円〜1億円以上)では月額数十万円〜数百万円以上となり、24時間365日の監視体制や他システムとの複雑な連携保守、厳格なセキュリティ対応などが求められるため高額になります。自社がどの規模帯に該当するかを把握したうえで、初期費用だけでなく数年単位のランニングコストまで含めた予算計画を立てることが重要です。

保守費用に含まれる作業内容とインフラ・ライセンス費用の内訳

保守費用に含まれる作業内容とインフラ・ライセンス費用の内訳

保守費用は「システムを維持する実費」と「人を動かす人件費」に大きく分けられ、この内訳を理解しておくことで、見積書の妥当性を判断できるようになります。

保守費用に含まれる作業内容(人件費)

保守費用は主にシステムを維持・管理する「エンジニアの稼働(人件費)」に対する費用であり、具体的には3段階の作業に分かれます。1つ目は問い合わせ対応(一次対応)で、現場のユーザーからの質問対応や不具合発生時の原因調査を担います。2つ目は障害対応・バグ修正で、システム停止時の初動対応(例:15分以内の着手)、暫定復旧、恒久対策プログラムの適用などが含まれます。3つ目は運用作業・軽微な改修で、データバックアップの取得と復旧テスト、OSやセキュリティのアップデート対応、定例リリース枠を用いた使い勝手の改善などが該当します。これに加えて、稼働後の設定変更やユーザーへの操作教育といった「伴走支援」も、パートナーへの委託費用として発生することが多く、これらの人件費相当の作業が保守費用の大部分を占めます。

インフラ・ライセンス費用(実費)との違い

保守費用が「人」に対するコストであるのに対し、インフラ費用はシステムを稼働させるための「物理的・ソフトウェア的な場所代(実費)」を指します。開発・運用に関わる全体の費用のうち、20%から30%程度をこれら諸経費が占めることもあります。主な内訳は、クラウドサーバー利用料(月額数万円〜)、データベースやストレージの利用料、各種ソフトウェアのライセンス費用、外部API・連携ツールの利用料、ドメイン維持費、SSL証明書費用などです。オンプレミス型ではこれに加えてサーバーの電気代やハードウェアの定期メンテナンス・リプレイス費用がかかり、これらを監視・管理する情報システム部門の人件費という「隠れコスト」も継続的に発生します。一方クラウド型では、サーバーインフラの維持管理やセキュリティ対応はベンダー側で行われ、ライセンス費用に組み込まれているため、インフラ関連の追加費用が発生しにくい点が特徴です。これらはシステムが存在する限り毎月・毎年固定で発生し、アクセス数やデータ量が増えれば従量課金でさらに上がっていきます。

バージョンアップ・法改正対応にかかる追加コスト

バージョンアップ・法改正対応にかかる追加コスト

基幹システムは会計・人事・販売など法制度の影響を強く受ける業務を扱うため、法改正のたびに一定の対応コストが発生します。この対応コストの大きさは、導入形態によって大きく異なります。

オンプレミス型とクラウド型でのバージョンアップコストの差

オンプレミス型でメジャーバージョンアップを行う場合、既存のカスタマイズ(アドオン)が影響し、追加の開発や再設定が必要となって、数百万円から数千万円規模の大規模なコストが都度発生するリスクがあります。既存のオンプレミス型基幹システムに独自の連携用アドオン開発を重ねていると、システムが老朽化・ブラックボックス化し、本体のメジャーバージョンアップ時にさらに追加の改修や再設定が必要となる悪循環に陥りやすくなります。一方、クラウド型の場合は法改正や機能改善のアップデートがベンダー側で自動的に行われるため、バージョンアップに伴う追加費用は原則として発生しません。ただし、法改正や自社の組織変更に合わせたシステム上の設定変更や業務フローの見直しという実作業自体は発生するため、これらに対応する社内リソースや運用予算は確保しておく必要があります。

インボイス制度・電子帳簿保存法など法改正対応

インボイス制度(適格請求書等保存方式)や電子帳簿保存法への対応では、適格請求書の発行要件や、控えの検索・保存要件を法的に満たす必要があります。基幹システムがブラックボックス化している場合、これらの新しい法要件に対応するための改修に多大な工数がかかることになります。また、代理店や取引先からの入金データを会計モジュールへ連携させる場合、振込名義の相違、振込手数料の差額処理、複数案件の合算入金といったイレギュラー処理を自動化できるかどうかも、法改正対応と並行して整備すべき実務要件です。こうした法改正への追随コストを見込んでおくことは、基幹システムのランニングコストを正確に見積もるうえで欠かせない視点です。

内製と外注のコスト差とベンダーロックインのリスク

内製と外注のコスト差とベンダーロックインのリスク

運用保守を外部ベンダーに依存するか、自社でコントロールするかで、長期的なコストは大きく変わります。ここでは内製・外注それぞれのコスト構造と、注意すべきリスクを見ていきます。

外注による保守と内製化によるコスト削減の比較

多くの企業では運用保守をSIerに外注しており、年間で数千万円の保守費用が発生するケースも珍しくありません。外注はSLAを結ぶことで障害時の対応スピードを担保できる安心感がある一方、システムがブラックボックス化して特定のベンダーに依存すると、ちょっとした改修のたびに高額な追加見積もりが発生し、将来的な改修費用が高騰するリスクがあります。これに対して、プロジェクト初期から社内メンバーを教育し、設定変更や簡単なテストを内製化することで、外部コンサルタント費用を抑え、長期的な保守費用の削減につなげられます。ただし、すべてを内製に置き換えられるわけではなく、業務責任はあくまでユーザー側にあるため、社内体制とパートナー支援のバランス設計が重要になります。

過度なカスタマイズによるベンダーロックインのリスク

自社の特殊な業務に合わせてシステムを過度にカスタマイズ(アドオン開発)すると、システムの内部構造がブラックボックス化しやすくなります。これにより、保守や改修を特定のベンダーに依存せざるを得ない「ベンダーロックイン」状態に陥り、バージョンアップや法改正のたびに高額な追加開発費を言い値で請求され、保守費用が高止まりする重大なリスクを抱えることになります。これを防ぐためには、業務をシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard」のアプローチを基本方針とし、保守・運用とSLA(バグ修正の範囲、障害時の初動対応時間、恒久対策の提出期限など)が契約前に明確に提示されているかを確認することが、コスト最適化とロックイン回避の両立につながります。

保守・運用コストを最適化する実務的なポイント

保守・運用コストを最適化する実務的なポイント

ここまで見てきた費用構造を踏まえると、保守・運用コストを必要以上に膨らませないためには、契約段階での見極めと、稼働後の中長期的な予算管理の両面から手を打つことが有効です。ここでは、保守契約を結ぶ際にチェックすべき点と、総所有コスト(TCO)の視点で費用を最適化するための考え方を整理します。

保守契約・SLAを見極めるチェックポイント

保守費用の妥当性は、金額の多寡だけでなく「その金額で何がどこまで保証されるのか」を契約前に見極めることで判断できます。確認すべき代表的な項目は、(1) バグ修正の対象範囲(無償で対応される不具合と、別途見積もりとなる改修との線引き)、(2) 障害発生時の初動対応時間(例:15分以内の着手といったSLA)と恒久対策プログラムの提出期限、(3) 問い合わせ対応の受付時間帯・チャネル・月間の対応上限、(4) 軽微な改修枠が月次の保守費用に含まれているか否か、(5) 障害の切り分けや復旧に関するベンダーと自社の責任分界点、の5点です。特に基幹システムは業務停止の影響が甚大であるため、これらのSLA項目が契約書に明文化されているかどうかは、稼働後のトラブル時における追加費用と対応スピードを大きく左右します。「保守費用が安い」という理由だけで契約すると、いざという時に対応範囲外として高額な別途見積もりを提示され、結果的にTCOが膨らむリスクがあります。金額とSLAの内容を必ずセットで比較検討することが、コスト最適化の第一歩となります。

TCO視点での中長期の予算計画とコスト削減策

基幹システムのコストは、初期開発費用と単年度の保守費用だけで判断するのではなく、5年間なら5年間の総所有コスト(TCO)で捉えることが重要です。TCOには、初期費用・毎年の保守費用・インフラ/ライセンス費用に加えて、法改正対応やバージョンアップに伴う追加改修費用、情報システム部門の運用工数といった「隠れコスト」まで含めて試算します。前述の通り、利用人数別の3年間総ランニングコストは30名規模で約1,300万円から1,950万円、100名規模で約4,300万円から6,490万円という試算例もあり、こうした中長期の総額を可視化しておくことで、単年度では見えにくいコストの膨張を早期に察知できます。コスト削減策としては、オンプレミス型からクラウド型への移行によってインフラ維持やバージョンアップの負担を軽減する、設定変更や簡単なテストを段階的に内製化して外部委託費を抑える、過度なカスタマイズを避けてFit to Standardを徹底する、といった打ち手が有効です。導入時点で数年先までのコスト推移をシミュレーションし、定期的に保守契約の内容と実際の利用状況を照らし合わせて見直していくことが、基幹システムを無理なく維持し続けるためのランニングコスト管理の要諦となります。

まとめ

基幹システム開発の保守・運用費用のまとめ

基幹システムの保守・運用費用は、オンプレミス型であればライセンス費用の年間15%〜22%程度、クラウド型であれば企業規模に応じて月額数万円から数百万円までと、導入形態によって構造が大きく異なります。保守費用は問い合わせ対応・障害対応・軽微な改修といった人件費が中心である一方、インフラ・ライセンス費用は実費として別途発生し、両者を合わせて全体費用の20%〜30%程度を占めることもあります。バージョンアップや法改正対応のコストは、オンプレミス型で高額になりやすく、クラウド型では抑えやすいという明確な違いがあり、内製化の推進と過度なカスタマイズの回避が、長期的なコスト最適化とベンダーロックイン回避の鍵となります。加えて、契約段階でSLA(バグ修正範囲・初動対応時間・責任分界点など)を見極め、総所有コスト(TCO)の視点で数年先までのコスト推移をシミュレーションしておくことが、稼働後の費用膨張を防ぐうえで有効です。導入検討時から初期費用だけでなく数年単位のランニングコストまで見据えた予算計画を立てることが、基幹システムを長く安定して活用するための重要な一歩です。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。