大手企業向けのシステム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

大手企業がフルスクラッチ(オーダーメイド)開発を選ぶ背景には、組織文化、既存システムとの整合、統制要件といった事情が関わる場合があります。

技術面だけでは説明しきれず、組織や商習慣の影響も見ておく必要があります。全体像は大手企業向けシステム開発の完全ガイドもご覧ください。

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大手企業がフルスクラッチを選ぶ組織的な理由

維持管理コストを抑えるには、業務を標準パッケージやSaaSに合わせるFit to Standardが合理的です。それでも大手企業がフルスクラッチを選ぶ背景には、技術的な必要性だけでは説明しきれない、組織や商習慣の事情があります。

独自業務・企業風土・現場の抵抗

歴史のある企業では、独自の業務手順や社内制度が長年根付いていることがあります。現場には「今のやり方には理由がある」「手順を変えると混乱する」といった抵抗感が生まれます。

こうした抵抗が強いと、既存の仕事をそのままシステム化するフルスクラッチが選ばれる場合があります。ただし、独自業務が競争力の源泉である場合もあれば、合理性のない慣習にすぎない場合もあります。

  • 独自業務:競争力に関わるなら、独自開発の価値があります。
  • 慣習的な手順:抵抗だけで残すと、非効率な業務までシステム化する恐れがあります。
  • 開発会社の姿勢:「本当に独自である必要があるか」を、発注側と一緒に確かめられるかどうかが分かれ目です。

要望をそのまま受け入れると、費用に見合う効果が得られない場合があります。だからこそ、組織文化や現場の抵抗が選択に与える影響を先に理解しておくことが、大手企業向け開発の出発点になります。

「大規模システム」でのフルスクラッチとの視点の違い

大規模システムでは、技術要件を既製品で満たせず、フルスクラッチを選ぶ場合があります。たとえば、独自業務ロジックや、膨大な取引を処理する高可用性が必要になる場合です。ほかにも、大規模連携や厳格な法規制への対応が挙げられます。一方で、大手企業向けシステムでは、技術面より組織や商習慣が選択に影響することがあります。

  • 大規模システム:技術要件を既製品で満たせないことが、選択理由になる場合があります。
  • 大手企業向け:企業風土や現場の抵抗、既存環境との整合が影響します。
  • 重なるケース:技術的な必要性と組織上の事情が同時に存在することもあります。

投資が妥当かどうかを見極めるには、技術的な必要性と組織的な事情を分けて考えることが欠かせません。さらに、日本のSIビジネスの構造も、選択に影響します。

ポイント

フルスクラッチを選ぶ理由が技術面か組織面かを分けて見ると、判断の筋道を立てられます。組織の事情が強いときは、その事情が本当に作り込みを必要とするかを、あわせて確かめることが大切です。

日本のSIビジネスの商習慣とフルスクラッチ

大手企業がフルスクラッチを選びやすい背景には、開発を担ってきた日本のSI業界の商習慣もあります。

ユーザー企業が開発を委託し、ベンダーが個別に作り込む関係が続いた結果、受託開発が一般的になりました。この構造は、ユーザー企業のIT自律性低下や丸投げ体質にもつながります。

受託・作り込みの低リスク長期安定ビジネス

ユーザー企業がデジタル投資をベンダーに委託する構造の中で、日本のソフトウェア産業は発展してきました。汎用サービスの開発は、売れれば大きな収益になりますが、売れない場合は損失を抱えるリスクがあります。一方、受託開発は発注が先に確定するため、ベンダーにとって比較的低リスクで安定した収益を得やすい形です。

  • 汎用サービス:広く販売できる一方、需要がなければ損失につながります。
  • 個別の受託開発:発注確定後に顧客ごとのシステムを作り込みます。
  • 提案への影響:業務を標準に合わせるより、要望どおりの開発が提案されやすい傾向があります。

受託・作り込みの慣行が続いてきたことは、日本の大手企業でフルスクラッチが根強く選ばれる一因です。さらに、選択は技術判断だけでなく、業界の商習慣にも支えられています。

ユーザー企業のIT自律性低下と丸投げ体質

委託と個別開発を前提とするSI構造は、大手企業側のIT自律性を弱め、「丸投げ体質」を招いてきました。このため、要件や技術を判断できる人材も育ちにくくなります。その結果、自社で仕様を固められず、ベンダーに任せきりにする傾向が強まることがあります。

標準パッケージに業務を合わせるには、変えてよい業務と重要な業務を発注側が判断する必要があります。

  • 要件の判断:IT自律性が低いと、自社で仕様を決めにくくなります。
  • フルスクラッチへの傾斜:「今のやり方をそのまま作る」選択に傾きがちです。
  • 稼働後の依存:運用や改修もベンダーに頼り、ロックインに陥る恐れがあります。

発注側が中身を理解していないと、要件を満たすか検証できず、リリース直前になって不一致が判明することがあります。そのため、健全に活用するには、発注側が要件とシステムの中身に主体的に関わることが欠かせません。

ポイント

受託開発の慣行では、要望どおりの作り込みが提案されやすい点を前提にします。発注側が要件を理解し、ベンダー任せにしない体制を先に整えることが、判断の目安になります。

レガシー基幹との共存・グループ統制という制約

現行機能保証、会社間連携、内部統制への対応を設計制約として並べた図解。
3つの制約を設計の初期段階で並べて確認できます。

大手企業の開発は、既存の基幹システムやグループ統制の制約を踏まえて進めます。現行機能の保証や会社間連携、内部統制への対応が重なると、要件が複雑になり、開発も難しくなります。

現行踏襲・現行機能保証とアドオンの罠

現行機能保証や現行踏襲の要望に引きずられると、独自のアドオン開発が次々と発生します。要望が積み重なるとシステムが複雑になり、開発コストが増えて期間も長期化します。さらに、独自機能が増えたシステムは、数年後に全体を把握できない新たなレガシーになることがあります。

  • 機能移植:「既存にある」ことを理由にせず、本当に必要かを見極めます。
  • 影響の確認:機能をなくすとどんな支障があるかを、洗い出しておく必要があります。
  • 作り込みの線引き:標準的な作りに寄せる範囲を、発注側と開発会社で事前に合意しておきます。

過度なカスタマイズは、導入費だけでなく運用・保守費も押し上げます。特に、独自機能が多いほど改修や障害対応に手間がかかり、対応できる人材も限られます。

グループ会社間連携・内部統制を満たす作り込み

グループ企業では、各社のデータを統合し、整合性を保つ仕組みが必要です。会社ごとにシステムが異なると、二重入力や転記ミスが起きやすく、経営状況の把握も難しくなります。

さらに、子会社ごとに業務手順やマスタデータが異なるため、統合設計は容易ではありません。上場企業では、財務報告の正確性を担保する内部統制(J-SOX)への対応も必要です。

  • アクセス制御:職務分掌に沿って、データへのアクセス権を管理します。
  • 変更管理:仕様変更を承認プロセスに沿って反映します。
  • 監査証跡:いつ、誰が、どの処理をしたかを追跡できるログを残します。

こうした仕組みは業務機能そのものではないものの、大手企業のシステムには欠かせません。そのため、設計段階から織り込む必要があります。

子会社任せにすると、J-SOXを満たさない運用になる恐れがあります。そこで、親会社の情報システム部門が主導します。

ポイント

現行機能の保証や内部統制への要望は、それぞれ本当に必要かを個別に見直し、残す範囲を決めることが判断の目安になります。

厳格なセキュリティ規定・監査への準拠

内部統制を担保する仕組みとして、特権アクセス・変更管理・監査証跡を示した図解。
3つの統制要素が、設計から監査までを支えます。

フルスクラッチを選ぶ理由の一つに、自社の厳格なセキュリティ規定に合わせて設計できることがあります。パッケージやSaaSでは、独自のセキュリティ要件や監査要件を満たせないことがあるためです。

自社専用の強固なセキュリティ設計

金融や公共に近い業種では、厳格な基準と強固なIT統制が構築の前提となります。一方で、既製品の標準仕様が、自社規定に合わない場合があります。

たとえば、機密データの保管場所や外部通信の許容範囲、認証方式が検討対象になります。フルスクラッチなら、こうした要件を設計に織り込み、自社に合う形を実現できます。

  • クラウドの選択:パブリック利用の可否を、慎重に見極めます。
  • 環境の構成:必要に応じて、ハイブリッドやプライベートクラウドを選ぶ形です。
  • ネットワーク設計:ゼロトラストネットワークなど、規定に合う構成で組み上げます。

部門ごとにレガシー環境が分かれ、外部サービスとの連携が難しい企業もあります。こうした制約の下で安全に動かすには、細かな要件に対応できる開発が適すると判断される場合があります。

すべてを独自開発すると費用と複雑さが増すため、標準機能で満たせる範囲は切り分けておきます。

特権アクセス管理・変更管理・監査証跡の実装

システム監査に備えるには、内部統制を担保する仕組みを確実に実装しておく必要があります。管理者権限は強力なので、誰が持ち、いつ使ったのかを厳密に押さえておくことが求められます。こうした仕組みが弱いと、現場による不適切な変更や不正利用を防げず、統制が崩れてしまいます。

  • 特権アクセス:申請と承認を経て利用し、履歴を記録します。
  • 変更管理:妥当性やリスクを確認し、承認後に反映します。
  • 監査証跡:監査時に統制の証拠として提示できるログを残します。

変更管理では、仕様や設定の変更をレビューし、承認後に反映する手順を組み込みます。さらに、監査証跡では、処理の日時、実施者、内容を追跡できるログを残しておきます。

特に、手作業でのデータ修正など、追跡できない操作を残さないことが、統制を保つうえで欠かせません。既製品では標準機能に限界がある場合もあるため、フルスクラッチなら、自社の統制方針に沿って各要件を細かく作り込めます。設計の初期段階から統制を組み込んでおけば、稼働後の監査にも備えられます。

ポイント

セキュリティや監査の要件は、既製品で満たせない部分がどこかを洗い出すと、フルスクラッチが必要な範囲を絞れます。

フルスクラッチの「新たなレガシー」化を防ぐ工夫

業務そのものの必要性、不要な仕事や非効率な手順、本当に必要な部分を確認する3枚のチェックカード。
標準で足りる業務を見極める視点が並びます。

現行踏襲と過度なカスタマイズは、新たなレガシーを生むことがあります。そこで、フルスクラッチを価値あるものにするには、組織として使い分けを判断する規律が必要です。

Fit to Standardとの使い分けとBPR

維持管理コストを抑えるには、SaaSや標準パッケージに業務を合わせる方法があります。標準で対応できる業務は標準に合わせ、競争力に関わる部分を独自開発するかどうかを、業務ごとに判断します。この判断を支えるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)は、業務自体を見直す考え方です。

  • 必要性を問う:「既存にある」ことを理由に、機能を移植しないことが出発点です。
  • 業務を整理する:不要な仕事や非効率な手順を、廃止や簡素化の対象にします。
  • 開発範囲を絞る:作り込みは、本当に必要な部分だけに限ります。

現場の「今まで通り」という要望を見直すと、標準に寄せられる業務が増えます。また、BPRで業務をスリム化すれば、独自開発の範囲が狭まり、保守しやすいシステムにつながります。

Fit to Standardとフルスクラッチは対立せず、組み合わせて使えます。そのうえで、作り込む前に業務の必要性を問う姿勢が、将来のレガシー化を防ぎます。

コアと周辺の分離と本質議論のリーダーシップ

システムは、競争力に直結する「コア」と標準で足りる「周辺」に分けて考えます。周辺まで独自開発すると費用と複雑さが増すため、標準サービスを活用する方法があります。コアに絞って作り込めば、独自開発の価値を高めながら全体の複雑化を抑えられます。

  • 経営層の役割:標準化の検討を現場任せにせず、判断を主導します。
  • 本質的な議論:機能の有無だけでなく、業務そのものの必要性を問うことです。
  • ガバナンス:情報システム部門と連携し、現場要望を選別します。

現場任せでは現行踏襲が優先され、すべてを独自開発する方向に流れることがあります。そのため、何を独自にし、何を標準に合わせるかを決めるには、経営層の関与が欠かせません。加えて、技術力だけでなく、組織のガバナンスとリーダーシップも、長く価値を生むシステムを左右します。

ポイント

作り込みの前に、その機能が本当に必要かを問い直し、標準で足りる部分を切り分けることが、新たなレガシー化を防ぐ判断になります。

まとめ

大手企業がフルスクラッチを選ぶ理由には、組織文化や商習慣、統制上の制約があります。独自業務や高可用性といった技術的な必然性だけが、選択理由とは限りません。企業風土や現場の抵抗、日本の受託慣行、IT自律性の低下も、選択に影響します。

レガシー基幹との共存、グループ統制、監査やセキュリティの要件も、開発に関わります。フルスクラッチは柔軟に対応できる一方、要望どおりに作り込むと費用や複雑さが増し、新たなレガシーになり得ます。

そこで、標準化やBPR、コアと周辺の分離を進め、組織の事情と本当の必要性を区別することが大切です。経営層の判断で作り込む範囲を絞ることも、そのために欠かせません。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。