大手企業向けのシステム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

「大手企業向けのシステムは、なぜパッケージではなくフルスクラッチで作られることが多いのか」「大企業からオーダーメイド開発を求められたが、その背景にある事情を理解しておきたい」——大手企業を発注者とするシステム開発では、既製のパッケージやSaaSではなく、ゼロから作り込むフルスクラッチ・オーダーメイド開発が選ばれる場面が今なお多くあります。その理由は、単に「独自の高度な機能が必要だから」という技術的なものだけではありません。大手企業特有の古い企業風土、現場部門の根強い抵抗、既存レガシー基幹システムとの整合、グループ会社間の統制、厳格なセキュリティ規定への準拠、そして日本のSIビジネスに根付いた商習慣——こうした「大手企業という発注者側の組織文化・商習慣・ガバナンス」が、フルスクラッチという選択を後押ししています。

本記事では、競争優位の源泉となる独自業務のシステム化や超高可用性といった技術的スケールの話ではなく、「大手企業という顧客特有の組織的・商習慣的な要件」がフルスクラッチという選択にどう結びつくかに焦点を当てて解説します。大手企業がフルスクラッチを選ぶ組織的な理由、日本のSIビジネスの商習慣との関係、レガシー基幹との共存やグループ統制という制約、セキュリティ規定・監査への準拠、そしてフルスクラッチを「新たなレガシー」にしないための考え方まで、大手企業ならではの論点を具体的に整理しました。なお、大手企業向けのシステムは大規模システムと重なる場合もありますが、「技術的な作り込みの必要性」と「組織的な事情」は別の視点であり、本記事は後者に絞っています。大手企業を相手にフルスクラッチ開発を検討している方の参考になれば幸いです。

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大手企業がフルスクラッチを選ぶ組織的な理由

大手企業がフルスクラッチを選ぶ組織的な理由

システムの維持管理コストを抑えるという観点では、標準パッケージやSaaSに自社の業務を合わせる「Fit to Standard」のアプローチが合理的だとされています。それでも大手企業が、あえてゼロから作り込むフルスクラッチを選ぶのはなぜでしょうか。その背景には、技術的な必要性だけでは説明できない、組織的・商習慣的な事情があります。ここではまず、大手企業がフルスクラッチを選ぶ組織的な理由——独自業務・企業風土・現場の抵抗——を整理し、「大規模システム」でフルスクラッチが選ばれる理由との視点の違いを確認します。

独自業務・企業風土・現場の抵抗

大手企業がフルスクラッチを選ぶ大きな理由の一つが、長年にわたって築き上げてきた独自の業務プロセスと、それを変えることへの現場の抵抗です。歴史のある大手企業ほど、昔ながらの業務のやり方や社内制度が深く根付いており、それらを標準的なパッケージの型に合わせて変更することに、現場から強い抵抗感が生まれます。「今のやり方には理由がある」「この業務手順を変えると現場が混乱する」といった声が上がり、結果として、既存の業務をそのままシステム化するフルスクラッチが選ばれることになります。ここで重要なのは、その業務プロセスが本当に競争力の源泉であるケースもあれば、単に慣習として続いているだけで合理性を欠いているケースもある、という点です。前者であれば独自開発の価値がありますが、後者の場合、現場の抵抗に押されて非効率な業務をそのままシステムに写し取ってしまうと、コストばかりかかって効果の乏しいシステムになりかねません。大手企業では、こうした企業風土や現場の抵抗が、必ずしも合理的とは言えない理由でフルスクラッチを選ばせてしまうことがあります。開発会社としては、発注側の「今まで通りにしてほしい」という要望をそのまま受けるのではなく、「その業務は本当に独自である必要があるのか」を一緒に問い直す姿勢が、良いシステムづくりにつながります。組織文化が生むフルスクラッチへの傾斜を理解することが、大手企業向け開発の出発点になります。

「大規模システム」でのフルスクラッチとの視点の違い

ここで、「大手企業向けのシステム」でフルスクラッチが選ばれる理由と、「大規模システム」でフルスクラッチが選ばれる理由を区別しておくことが大切です。大規模システムでフルスクラッチが選ばれるのは、多くの場合、技術的な必然性からです。競争優位の源泉となる独自の業務ロジックをシステム化する、膨大なトランザクションをさばく超高可用性が求められる、他社にない大規模なシステム連携が必要になる、厳格な法規制に対応する——こうした要件が、既製のパッケージでは満たせないためにフルスクラッチを選ばせます。一方、大手企業向けのシステムでフルスクラッチが選ばれるのは、技術的な必然性というより、組織的・商習慣的な事情によることが少なくありません。企業風土、現場の抵抗、既存システムとの整合、そして後述する日本のSIビジネスの構造といった要因が、パッケージへの適合よりも独自開発を選ばせるのです。つまり、大規模システムのフルスクラッチが「技術要件が既製品では満たせない」ことに由来するのに対し、大手企業向けのフルスクラッチは「組織の事情が既製品への適合を難しくする」ことに由来する場合が多いのです。もちろん両者が重なるケースもありますが、フルスクラッチを選ぶ理由が「本当に技術的に必要だから」なのか「組織の事情で結果的にそうなっている」だけなのかを見極めることは、投資の妥当性を判断するうえで重要です。本記事で扱うのは後者、すなわち大手企業の組織文化・商習慣がフルスクラッチを選ばせる構造です。

日本のSIビジネスの商習慣とフルスクラッチ

日本のSIビジネスの商習慣とフルスクラッチ

大手企業がフルスクラッチを選びやすい背景には、企業側の事情だけでなく、それを提供してきた日本のシステムインテグレーション(SI)業界の商習慣もあります。長年にわたり、ユーザー企業がシステム開発をベンダーに委託し、ベンダーが個別に作り込むという関係が続いてきた結果、フルスクラッチが「当たり前」の選択肢として定着してきました。ここでは、受託・作り込みを前提とした低リスク長期安定のSIビジネスの構造と、それがユーザー企業のIT自律性の低下・丸投げ体質を生む仕組みを見ていきます。

受託・作り込みの低リスク長期安定ビジネス

日本のソフトウェア産業は、ユーザー企業が業務効率化のためのデジタル投資をベンダーに委託し、ベンダー企業は受託によって「低リスク・長期安定ビジネス」を享受するという構造の中で発展してきました。ベンダーにとって、汎用的な標準サービスを開発して広く販売するモデルは、当たれば大きいものの外れれば損失を抱えるリスクがあります。これに対し、ユーザー企業ごとに個別のシステムを作り込む受託開発は、あらかじめ発注が確定しているため、比較的低リスクで安定した収益を得られます。その結果、ベンダー企業は標準サービスを磨き上げるよりも、顧客ごとに個別にシステムを作り込むことが常態化してきました。この構造は、大手企業がフルスクラッチを選びやすい土壌を作ってきました。ベンダーの側に「顧客の要望に合わせて何でも作り込む」文化が根付いているため、大手企業が「うちの業務に合わせて作ってほしい」と求めれば、それに応じた個別開発が提案されやすいのです。パッケージへの業務の適合を促すよりも、要望通りに作り込むほうが、ベンダーにとっても受注につながりやすいという事情もあります。こうしたSIビジネスの構造が、日本の大手企業においてフルスクラッチが根強く選ばれ続けてきた一因になっています。この背景を理解しておくと、フルスクラッチという選択が、純粋な技術的判断だけでなく、業界の商習慣にも支えられていることが見えてきます。

ユーザー企業のIT自律性低下と丸投げ体質

ベンダーへの委託と作り込みを前提とするSIビジネスの構造は、ユーザー企業である大手企業側に、IT自律性の低下と「丸投げ体質」をもたらしてきました。システムの開発をベンダーに任せきりにすることで、ユーザー企業内にシステムの中身を理解し、自ら要件を定義し、技術的な判断を下せる人材が育ちにくくなります。その結果、新しいシステムが必要になっても、自社で仕様を固めきれず、「あとはよろしく」とベンダーに委ねてしまう傾向が強まります。丸投げ体質は、フルスクラッチをさらに選ばせやすくします。自社の業務を標準パッケージに合わせるには、どの業務を変えてよいか、どの業務が本当に重要かを自ら判断する必要がありますが、IT自律性が低いと、その判断ができません。結果として「今のやり方をそのまま作ってもらう」フルスクラッチに流れやすくなります。しかし、丸投げによるフルスクラッチには大きなリスクが伴います。発注側がシステムの中身を理解していないと、ベンダーが作ったものが本当に要件を満たしているかを検証できず、リリース直前になって「求めていたものと違う」ことが発覚するといった失敗を招きます。また、システムの内容を自社で把握できていないと、稼働後の運用や改修でも常にベンダーに依存せざるを得ず、ベンダーロックインに陥ります。大手企業がフルスクラッチを健全に活用するには、丸投げをやめ、発注側自身がシステムの要件と中身に主体的に関与する姿勢を取り戻すことが不可欠です。IT自律性を高めることが、フルスクラッチの成否を分ける前提になります。

レガシー基幹との共存・グループ統制という制約

レガシー基幹との共存・グループ統制という制約

大手企業のフルスクラッチ開発は、まっさらな状態から作れるわけではありません。長年使ってきたレガシー基幹システムとの共存や、グループ会社間の統制・内部統制といった制約の中で作り込む必要があります。これらの制約が、フルスクラッチの要件を複雑にし、開発を難しくします。ここでは、現行踏襲・現行機能保証とアドオンの罠、そしてグループ会社間連携・内部統制を満たす作り込みについて見ていきます。

現行踏襲・現行機能保証とアドオンの罠

大手企業のフルスクラッチ・オーダーメイド開発で最も陥りやすいのが、現場からの「現行機能保証」「現行踏襲」の要望に引きずられて、際限なく作り込んでしまう罠です。既存システムの機能をそのまま新システムで再現しようとすると、標準的な作りから外れた独自の作り込み(アドオン開発)が次々と発生します。一つひとつの要望は小さくても、それが積み重なると、システムは複雑で分かりにくいものになり、開発コストは膨らみ、開発期間も長期化します。しかも、こうして苦労して作り込んだ独自機能の塊は、数年後には「誰も全体を把握できない」新たなレガシーシステムへと変わってしまいます。つまり、レガシーを刷新するために現行踏襲でフルスクラッチした結果、また新しいレガシーを生み出してしまうという皮肉な事態に陥るのです。加えて、過度なカスタマイズは、導入時のコストだけでなく、稼働後の運用・保守コストも押し上げます。独自の作り込みが多いほど、改修や障害対応に手間がかかり、対応できる人材も限られるためです。この現行踏襲とアドオンの罠を避けるには、「既存システムにこの機能があるから」という理由だけで機能を移植するのではなく、「その機能は本当に必要か」「なくすとどんな支障があるのか」を一つずつ吟味する必要があります。大手企業のフルスクラッチでは、現場の要望をすべて受け入れるのではなく、どこまで作り込み、どこで標準的な作りに寄せるかの線引きが、システムの将来を左右する重要な判断になります。

グループ会社間連携・内部統制を満たす作り込み

大手企業のフルスクラッチ開発では、単体の業務を作り込むだけでなく、グループ会社間の連携や内部統制の要件を満たすことが求められます。グループ経営を行う大手企業では、各社がバラバラのシステムを使っているとデータ連携ができず、二重入力や転記ミスが常態化し、リアルタイムな経営把握が困難になります。そのため、フルスクラッチで作るシステムにも、グループ各社のデータを統合し、整合性を保ちながら統制するための仕組みを組み込む必要があります。各子会社は業務プロセスやマスタデータの持ち方が異なるため、それらを吸収しながら統合する設計は容易ではなく、作り込みの複雑さを増します。さらに、上場している大手企業では、内部統制(J-SOX)に対応した作り込みが必須です。財務報告の正確性を担保するために、誰がどのデータにアクセスできるかを職務分掌に基づいて制御し、仕様変更を適切な承認プロセスを経て反映する変更管理を実装し、いつ・誰が・どんな処理を行ったかを追跡できる監査証跡(ログ)を確保しなければなりません。これらは業務機能そのものではありませんが、大手企業のシステムには不可欠な要素であり、フルスクラッチであれば設計段階からこれらの統制要件を織り込む必要があります。子会社にシステム導入を任せきりにすると、J-SOX要件を満たさない運用に陥る危険もあるため、親会社の情報システム部門が主導してガバナンスを効かせながら作り込むことが求められます。グループ統制と内部統制という制約は、大手企業のフルスクラッチを、単なる業務システムの開発以上に複雑なものにしています。

厳格なセキュリティ規定・監査への準拠

厳格なセキュリティ規定・監査への準拠

大手企業がフルスクラッチを選ぶ理由の一つに、自社の厳格なセキュリティ規定に合わせた作り込みができるという点があります。既製のパッケージやSaaSでは、自社独自の厳しいセキュリティ要件や監査要件を完全には満たせないことがあり、それがフルスクラッチという選択につながります。ここでは、自社専用の強固なセキュリティ設計と、特権アクセス管理・変更管理・監査証跡の実装について見ていきます。

自社専用の強固なセキュリティ設計

大手企業、とくに金融や公共に近い業種では、厳格なセキュリティ基準の遵守と強固なIT統制の確立がシステム構築の前提条件となります。こうした企業が独自の厳しいセキュリティ規定を持っている場合、既製のパッケージやSaaSでは、その規定を完全に満たせないことがあります。たとえば、機密性の高い業務データをどこに保管するか、外部との通信をどこまで許容するか、認証をどの方式で行うか、といった点で、自社の規定が既製品の標準仕様と合わないケースです。フルスクラッチであれば、これらの要件を最初から設計に織り込み、自社専用の強固なセキュリティ設計を実現できます。パブリッククラウドを利用してよいかを慎重に判断し、必要に応じてハイブリッドクラウドやプライベートクラウドを選択し、ゼロトラストネットワークを構築するなど、自社の規定に合わせたアーキテクチャを自由に設計できる点が、大手企業がフルスクラッチを選ぶ動機になります。既存のレガシー環境が部門ごとに分断され、厳格なセキュリティ・ガバナンス制約が敷かれている大手企業では、新しいクラウド技術や外部サービスとのデータ連携が難しいことも多く、その制約の中で安全に動くシステムを作るには、細かな要件に対応できるフルスクラッチが適していると判断されることがあります。ただし、セキュリティ要件を理由にすべてを独自開発すると、コストと複雑さが増すため、標準的な仕組みで満たせる部分と、独自設計が本当に必要な部分を切り分ける視点も欠かせません。

特権アクセス管理・変更管理・監査証跡の実装

大手企業のフルスクラッチ開発では、システム監査で不適合を指摘されないよう、内部統制を担保する仕組みを確実に実装することが求められます。その中核となるのが、特権アクセスの適切な管理です。システムの管理者権限は、あらゆる操作が可能な強力な権限であるため、誰がその権限を持ち、いつ何に使ったのかを厳密に管理・記録しなければなりません。特権IDの貸与や利用を申請・承認制にし、利用状況を記録して不正利用を防ぐ仕組みを、フルスクラッチであれば要件に応じて作り込めます。次に、変更管理の実装です。システムの仕様変更や設定変更を、現場が勝手に行うのではなく、変更の妥当性やリスクをレビューし、承認を経てから反映するプロセスを組み込みます。これにより、不適切な変更による統制の破綻を防ぎます。そして、監査証跡の実装です。いつ・誰が・どのような処理を行ったかをシステム上で追跡できるログを確実に記録し、監査の際に統制が有効に機能していた証拠として提示できるようにします。手作業でのデータ修正のような、追跡できない操作が入り込む余地を減らすことも重要です。これらの特権アクセス管理・変更管理・監査証跡は、大手企業のシステムが監査に耐えるために不可欠な要素であり、フルスクラッチであれば自社の統制方針に沿って細かく作り込めます。既製品では標準機能で対応できる範囲に限界がある場合もあり、こうした統制要件の作り込みやすさが、大手企業がフルスクラッチを選ぶ実務的な理由の一つになっています。設計の初期段階からこれらを組み込んでおくことが、稼働後の監査対応をスムーズにする鍵です。

フルスクラッチを「新たなレガシー」にしないために

フルスクラッチを新たなレガシーにしないために

大手企業のフルスクラッチ開発は、放っておくと現行踏襲と過度なカスタマイズによって「新たなレガシー」を生み出してしまいます。これを避け、フルスクラッチを本当に価値あるものにするには、組織としての規律が必要です。ここでは、Fit to Standard との使い分けとBPR(業務改革)、そしてコアと周辺の分離と本質議論を推進するリーダーシップについて整理します。

Fit to Standardとの使い分けとBPR

フルスクラッチを新たなレガシーにしないための第一歩は、すべてを独自開発するのではなく、標準的な仕組みに業務を合わせる「Fit to Standard」と、独自に作り込むフルスクラッチを適切に使い分けることです。維持管理コストを最小限に抑えるには、SaaSや標準パッケージの機能に自社の業務を合わせるアプローチが推奨されます。すべての業務を独自要件として抱え込むのではなく、標準で対応できる業務は標準に合わせ、本当に自社の競争力に関わる部分だけを独自に作り込むという判断が重要です。この判断を支えるのが、業務そのものを見直すBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の発想です。「既存システムにこの機能があるから移植する」のではなく、「そもそもこの業務プロセス自体が本当に必要なのか」という本質的な問いを立て、不要な業務や非効率な手順を廃止・簡素化してから、システム化を考えます。現場の「今まで通り」という要望に流されず、業務の必要性そのものを問い直すことで、過度なカスタマイズを抑え、標準に寄せられる部分を増やせます。BPRを経て業務をスリム化しておけば、フルスクラッチで作り込む範囲を最小限に抑えられ、システムがシンプルで保守しやすいものになります。大手企業のフルスクラッチでは、「作り込む前に、その業務は本当に必要かを問う」という規律を持つことが、将来のレガシー化を防ぐ最も効果的な対策になります。Fit to Standardとフルスクラッチは対立するものではなく、賢く組み合わせるべき選択肢です。

コアと周辺の分離と本質議論のリーダーシップ

フルスクラッチを健全に活用するもう一つの鍵は、システムを「コア(自社の競争力に直結する中核)」と「周辺(標準的な仕組みで足りる部分)」に分離して考えることです。コアの部分は独自にしっかり作り込む価値がありますが、周辺の部分まで独自開発すると、コストと複雑さが無駄に増えます。コアと周辺を明確に分け、周辺は標準的なパッケージやサービスを活用し、コアだけをフルスクラッチで作り込むという設計にすれば、独自開発の価値を最大化しつつ、システム全体を過度に複雑化させずに済みます。そして、この切り分けを実現するには、経営層の強力なリーダーシップが欠かせません。経営層が標準化の検討を現場部門に丸投げしてしまうと、現場は現行機能保証や現行踏襲を優先しがちで、結局すべてを独自に作り込む方向に流れてしまいます。これを避けるには、機能の有無を現場と議論するのではなく、「その業務プロセス自体が本当に必要か」という本質的な議論を推進できる経営層のリーダーシップとコミットメントが必要です。さらに、情報システム部門と経営層が一体となってガバナンスを効かせ、現場の要望を適切に取捨選択できる体制を整えることが求められます。大手企業のフルスクラッチが成功するかどうかは、技術力以上に、こうした「何を独自にし、何を標準に合わせるか」を組織として決められるガバナンスとリーダーシップにかかっています。現場任せにせず、経営層が本質的な判断に踏み込むことこそが、フルスクラッチを新たなレガシーにせず、長く価値を生むシステムに育てる決め手になります。

まとめ

大手企業向けのシステム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発まとめ

本記事では、大手企業向けのシステム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、「大手企業という発注者の組織文化・商習慣・ガバナンス」に焦点を当てて解説しました。大手企業がフルスクラッチを選ぶのは、競争優位の源泉となる独自業務のシステム化や超高可用性といった技術的必然性(=大規模システムの論点)だけが理由ではなく、古い企業風土や現場の抵抗、日本のSIビジネスに根付いた受託・作り込みの商習慣、ユーザー企業のIT自律性の低下と丸投げ体質といった組織的・商習慣的な事情が大きく影響しています。そして、フルスクラッチの作り込みは、レガシー基幹との共存、現行踏襲とアドオンの罠、グループ会社間連携・内部統制、そして厳格なセキュリティ規定・監査への準拠といった、大手企業特有の制約の中で行われます。これらの制約に応えられる柔軟さがフルスクラッチの利点である一方、現場の要望のままに作り込めば「新たなレガシー」を生み、コストと複雑さが膨らみます。これを避けるには、Fit to Standardとの使い分けとBPRによる業務のスリム化、コアと周辺の分離、そして「その業務は本当に必要か」を問える経営層のリーダーシップとガバナンスが不可欠です。大手企業向けのフルスクラッチ開発を検討されている方は、独自開発を選ぶ理由が組織の事情によるものか本当の必要性によるものかを見極めたうえで、作り込む範囲を賢く絞り込むことをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。