経費精算システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

経費精算システムは、従業員が立て替えた交通費・旅費・接待交際費などの経費を、申請・承認ワークフロー・領収書のOCR読み取り・会計システムへの仕訳連携という一連の流れで処理する業務システムです。導入を検討する際、多くの担当者は初期の開発費用に目を向けがちですが、経費精算システムは「作って終わり」ではなく、稼働後も継続的に費用が発生し続けます。とりわけ、電子帳簿保存法やインボイス制度といった法制度の改正への対応、領収書OCRの利用料、会計システムとの連携の維持など、経費精算システムならではのランニングコストが存在します。これらを見落としたまま導入すると、想定外の維持費に頭を抱えることになりかねません。

本記事では、経費精算システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、費用の全体像、内訳、なぜ保守を止められないのか、クラウドSaaSとフルスクラッチの費用比較、そして保守契約の形態とコスト最適化の考え方までを体系的に解説します。経費精算システム特有のコスト構造を理解することで、初期費用だけでなく5年・10年というスパンで見た総所有コスト(TCO)を見据えた意思決定ができるようになります。これから経費精算システムの導入・開発を検討している方はもちろん、すでに運用中でコストの見直しを考えている方にとっても、判断の軸となる情報をお届けします。

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経費精算システムの保守・運用費用の全体像

経費精算システムの保守・運用費用の全体像

経費精算システムの保守・運用費用は、システムの導入形態によって大きく異なります。クラウドSaaS型(楽楽精算、SAP Concur、マネーフォワードクラウド経費、ジョブカン経費精算、freee経費精算など)を利用する場合、料金体系は「月額の基本料金+従業員1人あたりの月額利用料」という形が一般的で、一般的な相場としては基本料が月額1万円〜3万円程度、1ユーザーあたり月額400円〜800円程度が目安とされます。この月額利用料の中に、法改正への対応やシステムのアップデートが含まれているのがSaaSの大きな特徴です。一方、パッケージをオンプレミスで導入したり、フルスクラッチで開発したりする場合は、初期の構築費用に加えて、年間の保守費用が別途発生します。オンプレミス型パッケージでは保守費が年間30万円〜100万円程度(月額換算で数万円)、ERP連携型やフルスクラッチの大規模開発では保守費が月額20万円〜100万円(年間240万円〜1,200万円程度)に達することもあります。

ここで注意すべきは、経費精算システムのランニングコストは、単なるシステムの稼働維持費だけではないという点です。経費精算システムは、法制度の改正、領収書OCRの利用、会計システムとの連携、組織改編に伴う承認ルートのメンテナンスなど、経費精算業務ならではの継続的なコスト要因を抱えています。SaaSであればこれらの多くが月額料金に含まれますが、オンプレミスやフルスクラッチでは、法改正のたびに自社で改修費用を負担しなければなりません。したがって、保守・運用費用を検討する際は、表面的な保守契約の金額だけでなく、こうした経費精算固有のコスト要因を含めた総額で捉えることが重要です。次の章では、これらの内訳を詳しく見ていきます。

保守・運用費用の内訳

経費精算システムの保守・運用費用の内訳

経費精算システムの保守・運用費用は、いくつかの費目に分解できます。ここでは、経費精算システム特有の3つのコスト要因を解説します。これらを個別に把握することで、自社の運用に本当に必要な費用がどこにあるのかを見極められます。

法改正対応(電帳法・インボイス・税制改正)

経費精算システムの保守費用の中で、最も重要かつ継続的に発生するのが法改正への対応費用です。経費精算は、電子帳簿保存法(タイムスタンプ・改ざん防止・検索要件など)、インボイス制度(適格請求書発行事業者の登録番号照合・経過措置に応じた消費税計算など)、そして毎年の税制改正の影響を直接受ける業務です。これらの法制度は頻繁に改正され、そのたびにシステムを対応させる必要があります。クラウドSaaSであれば、ベンダーが自動的かつ無償で法改正に対応したアップデートを提供してくれるため、この対応コストは月額料金に含まれています。これはコンプライアンスを維持するうえで非常に大きな価値です。一方、オンプレミスやフルスクラッチで運用している場合は、法改正のたびに自社の責任と費用で追加開発を行わなければなりません。改正の内容によっては数十万円から百万円単位の改修費用が発生することもあり、対応が遅れれば法令違反のリスクを負うことになります。法改正対応は、経費精算システムの保守を語るうえで避けて通れない、最大のコスト要因といえます。

領収書OCRの従量課金と精度改善

経費精算システムならではの継続コストとして見落とされがちなのが、領収書AI-OCRの利用料です。領収書を読み取るAI-OCRエンジンは、「読み取り1枚あたり数円〜数十円」といった従量課金の形態を取ることが多く、出張や経費申請が多い企業ほど、この従量課金が月額コストを押し上げる要因になります。従業員数が多く、毎月大量の領収書を処理する企業では、OCRの利用料だけで無視できない金額に膨らむこともあります。自社で開発する場合は、どのOCRエンジンを採用するか、その料金体系はどうなっているかを事前に確認し、想定される処理枚数から月額コストを試算しておくことが重要です。また、OCRは導入して終わりではなく、読み取り精度を維持・改善するための調整も継続的に必要です。新しい形式の領収書やレシートへの対応、読み取りエラーの傾向分析と改善など、精度を保つための運用工数も保守費用に含めて考える必要があります。OCRの精度が業務効率を大きく左右するため、この部分への継続的な投資は、経費精算システムの価値を維持するうえで欠かせません。

会計連携の維持・承認ルート改編対応とインフラ・問い合わせ対応

経費精算システムは会計システムや人事システムと連携して動くため、これらの連携を維持するための費用も保守コストに含まれます。連携先の会計ソフトがバージョンアップしたり、API仕様が変更されたりすると、それに追従するための改修が必要になります。また、経費精算システムの承認ワークフローは組織構造に密接に紐づいているため、人事異動や組織改編があるたびに承認ルートをメンテナンスする工数が発生します。特に大規模な組織改編があった場合、承認ルートの見直しは相応の作業量となります。加えて、サーバやインフラの維持費(オンプレミスの場合はハードウェア保守やクラウドインフラの利用料)、そして従業員からの問い合わせ対応やヘルプデスクの運用費も、運用コストの一部です。経費精算システムは全従業員が利用するため、「申請方法がわからない」「エラーが出た」といった問い合わせが日常的に発生します。これらの問い合わせ対応を情報システム部門が担うのか、外部にアウトソースするのかによっても、運用コストは変わってきます。自社開発の場合は、他システムとの連携API設定費として10万円〜50万円、独自ルールへのカスタマイズ費として20万円〜100万円超といった費用が積み上がりやすいため、隠れコストとして事前に見込んでおくことが大切です。

なぜ経費精算システムの保守は止められないのか

なぜ経費精算システムの保守は止められないのか

経費精算システムの保守費用は、コスト削減の対象として真っ先に見直されがちです。しかし、経費精算システムの保守は、他のシステム以上に「止められない」性質を持っています。その理由を2つの観点から解説します。この特性を理解しておくことが、保守費用を単なるコストではなく、必要な投資として捉える助けになります。

毎年発生する法改正・制度改正の実際

経費精算システムの保守を止められない最大の理由は、経費精算に関わる法制度が絶えず改正され続けるからです。近年だけを見ても、電子帳簿保存法の要件が段階的に強化され、電子取引データの電子保存が義務化され、インボイス制度が新たに導入されるなど、経費精算業務を取り巻く法制度は大きく変化してきました。これらの改正はいずれも、システムが対応していなければ適切な経費処理ができなくなるものばかりです。たとえば、電子帳簿保存法の保存要件を満たさなければ、電子的に受け取った領収書を適法に保存できません。インボイス制度に対応していなければ、仕入税額控除を正しく計算できません。こうした法改正は今後も継続的に発生することが確実であり、システムはそのたびに追従を求められます。この「毎年何らかの改正に対応し続けなければならない」という宿命こそが、経費精算システムの保守を止められない根本的な理由です。SaaSを選べばこの対応はベンダーに任せられますが、自社開発を選んだ場合は、この追従を永続的に自社で担う覚悟が必要になります。

月次決算の停止・追徴税リスクと業務への影響

もう一つの理由は、経費精算システムが停止したり、仕訳連携が狂ったりすると、経理業務全体に深刻な影響が及ぶからです。経費精算システムは会計システムと連携し、精算された経費を仕訳データとして流し込んでいるため、この連携が滞れば月次決算が止まってしまいます。月次決算の遅れは、経営判断に必要な数値の把握を遅らせ、企業経営に直接的な支障をきたします。さらに、経費の処理や消費税の計算に誤りがあると、税務調査で指摘を受け、追徴課税というペナルティを負うリスクもあります。特にインボイス制度の下では、適格請求書の要件を満たしているかの判定を誤ると、仕入税額控除が認められず、余計な税負担が生じることになりかねません。こうしたリスクを避けるためには、システムを常に正常な状態に保ち、法改正にも遅滞なく対応し続けることが不可欠です。保守を怠って一時的に費用を浮かせても、月次決算の停止や追徴課税という形で、かえって大きな損失を被る可能性があります。経費精算システムの保守は、こうしたリスクを未然に防ぐための保険としての側面を持っているのです。

クラウドSaaSとフルスクラッチ保守費の比較

クラウドSaaSとフルスクラッチ保守費の比較

経費精算システムの保守・運用費用を考えるうえで避けて通れないのが、クラウドSaaSとフルスクラッチ(または固定費型のオンプレミス)のどちらを選ぶかという判断です。両者はコスト構造がまったく異なり、企業の規模によって有利・不利が逆転します。ここでは、料金体系の違いと、総所有コスト(TCO)で見た選択の考え方を解説します。

クラウドSaaSの料金体系(従業員数課金+OCR従量)

クラウドSaaS型の経費精算システムは、「月額基本料+従業員1人あたりの月額利用料」という従業員数課金の料金体系が一般的です。導入初期は初期費用が安く(無料〜数十万円程度)、月額のランニングコストも比較的低く抑えられるため、スモールスタートに向いています。法改正対応やシステムアップデートが料金に含まれる点も大きなメリットです。ただし、注意すべきは経費精算システムのユーザーは「全従業員」であるという点です。給与計算や勤怠管理と同様、経費精算も原則としてすべての従業員が利用するため、従業員数が増えるほど月額利用料が積み上がります。さらに、経費精算システムでは領収書OCRの従量課金が加わるため、申請件数が多いほどコストが増える構造になっています。つまり、SaaSのコストは「従業員数×月額単価+OCR処理枚数×単価」という形で雪だるま式に増えやすい性質を持っているのです。少人数の企業であれば低コストで済みますが、従業員数が数百名を超えるような規模になると、月額利用料が高額になり、年間・累計で見ると相当な金額に膨らみます。この従量課金の逓増性を理解しておくことが、SaaSとフルスクラッチを比較する際の出発点となります。

損益分岐点とTCOで見た選択

クラウドSaaSとフルスクラッチ(固定費型)のどちらが得かは、従業員数と利用年数によって決まります。導入1年目はクラウドSaaSが圧倒的に安価ですが、月額の従量課金であるため従業員数が増えるとコストが累積し、3年・5年という長期スパンで総所有コスト(TCO)を見ると、初期費用を払って自社保有した固定費型のほうが安くなるというコスト逆転現象が起こります。関連する勤怠管理システムのTCOシミュレーションを応用すると、10名規模ではSaaSが有利、20名規模前後で損益分岐点を迎え、50名・100名と規模が大きくなるほど固定費型が圧倒的に有利になる、という傾向が見られます。経費精算システムの場合、全従業員がユーザーとなり、さらにOCR従量課金が上乗せされるため、SaaSのコストは他システム以上に逓増しやすくなります。そのため、数百名規模以上の企業では、SaaSのランニングコストが跳ね上がり、あえてフルスクラッチ開発やカスタマイズ可能な固定費型パッケージを導入したほうが、5年TCOで大幅なコスト削減につながるケースが多くなります。逆に、従業員数が少なく、標準的な運用で足りる企業であれば、法改正対応まで含めて任せられるSaaSのほうが、TCOでも運用負荷でも有利です。自社の従業員数の推移と利用予定年数を踏まえ、TCOで比較することが、後悔のない選択につながります。

保守契約の形態とコスト最適化

経費精算システムの保守契約の形態とコスト最適化

フルスクラッチや大幅なカスタマイズを伴う経費精算システムを開発した場合、稼働後の保守は開発会社との保守契約に基づいて行うのが一般的です。この保守契約の形態を理解し、自社に合った形を選ぶことが、保守費用の最適化につながります。ここでは、契約形態の違いと、内製化・ハイブリッドによるコスト削減の工夫を解説します。

契約形態(準委任・請負・ラボ型)とSLA

保守契約には、主に準委任契約、請負契約、ラボ型契約といった形態があります。準委任契約は、月額の固定費で一定の工数を確保し、バグ修正や軽微な改修、問い合わせ対応などを継続的に依頼する形態で、経費精算システムのように継続的なメンテナンスが必要なシステムに適しています。請負契約は、特定の改修案件ごとに成果物と金額を定めて発注する形態で、法改正対応のようにまとまった開発が発生する際に用いられます。ラボ型契約は、専任の開発チームを一定期間確保する形態で、頻繁に機能追加や改修を行いたい場合に向いています。また、保守契約を結ぶ際には、SLA(サービス品質保証)の内容を確認することが重要です。障害発生時の対応時間、復旧目標時間、対応可能な時間帯などを明確にしておくことで、いざというときに迅速な対応を受けられます。経費精算システムは月次決算に直結するため、決算期に障害が発生した場合の対応体制を保守契約に盛り込んでおくと安心です。契約形態とSLAを自社の運用実態に合わせて選ぶことが、無駄のない保守費用の実現につながります。

内製化・ハイブリッドによる保守費削減の工夫

保守費用を削減する工夫として、内製化とハイブリッド構成が挙げられます。内製化とは、保守の一部を自社のエンジニアが担うことで、外部委託費を抑えるアプローチです。軽微な設定変更や承認ルートのメンテナンス、従業員からの問い合わせ対応などを自社で行い、法改正対応のような専門性の高い改修だけを外部に委託すれば、保守費用全体を最適化できます。ただし、内製化には自社にエンジニアやシステムに詳しい担当者が必要であり、その人材が離職すると保守が滞るリスクもあるため、体制づくりが前提となります。もう一つの有効な工夫が、ハイブリッド構成です。これは、法改正対応が重い領収書OCRや電子帳簿保存法・インボイス制度対応といったコア機能はクラウドSaaSに任せ、自社独自の複雑な承認ワークフローや基幹システムへの仕訳連携といった部分だけを自社開発でカバーする方式です。この構成なら、法改正対応の負担をSaaS側に肩代わりしてもらいつつ、自社固有の要件は柔軟に実現できるため、保守費用と柔軟性のバランスを取れます。自社の要件と体制を踏まえ、すべてを外部に委託するのでも、すべてを内製するのでもなく、最適な組み合わせを設計することが、賢い保守費用の管理につながります。

まとめ

経費精算システム開発の保守・運用費用まとめ

本記事では、経費精算システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて解説しました。費用の全体像としては、クラウドSaaSは月額基本料に従業員1人あたりの利用料を加えた従業員数課金が一般的で、オンプレミスやフルスクラッチでは年間30万円〜100万円、大規模では月額20万円〜100万円の保守費が発生します。内訳としては、電子帳簿保存法・インボイス制度・税制改正への法改正対応、領収書OCRの従量課金と精度改善、会計連携の維持や承認ルートの改編対応、インフラ費・問い合わせ対応といった経費精算固有のコスト要因があります。経費精算システムの保守は、絶えず続く法改正への追従と、月次決算の停止・追徴税リスクの回避という観点から、止められない性質を持っています。クラウドSaaSは初期コストが低い一方で従業員数とOCR従量で逓増し、フルスクラッチは初期費用が高い代わりに規模が大きいほどTCOで有利になるため、自社の従業員数と利用年数を踏まえてTCOで比較することが重要です。保守契約の形態やSLAを自社の運用に合わせて選び、内製化やSaaSとのハイブリッド構成を活用することで、保守費用を最適化できます。経費精算システムの導入・運用を検討されている方は、初期費用だけでなく、法改正対応まで含めた長期的なランニングコストの観点から、複数の選択肢を比較検討することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。