運行管理システム開発のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

運行管理システムの開発では、まず1営業所・1車種でPoCを行い、3〜6ヶ月程度のトライアルで課題を改善したうえで、段階的に展開します。本開発の前に、現場への定着と法令要件への対応も確かめます。

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運行管理システムでPoC・プロトタイプが重視される理由

PoCで確認する現場の反発要因と、負担軽減の実感を示す4枚のカード図。
負担や懸念への対応が、現場に受け入れられる条件を形づくります。

運行管理システムは現場の運用と法令順守に深く関わるため、机上の要件定義だけで大規模に作り込むと、使われないおそれがあります。特に、営業所ごとの点呼や、出発前・帰着後の短時間で行う記録の方法は、現場で使ってもらわなければ検証できません。

TMS(輸配送管理システム)は荷主・配送先ごとのルート最適化を担います。一方で、運行管理システムは法令順守と安全管理を担います。さらに、対象となる法令には、貨物自動車運送事業法、道路運送法、改善基準告示があります。

運行管理システムでは、デジタコの日報や乗務前後の点呼・アルコールチェックを扱います。さらに、法定点検・整備記録や乗務員の労務も対象に含みます。そのため、作れるかどうかに加えて、現場で使い続けられ、監査に耐える記録を残せるかも確かめる必要があります。

現場(ドライバー・運行管理者)の反発と定着の壁

現場の反発は、入力の手間や監視への受け止め方から生じやすく、PoCの段階で負担が軽くなったとドライバーや運行管理者が実感できるかを確かめておく必要があります。

  • 入力の負担:紙・Excel・口頭確認から移る際、繁忙な乗務前後の操作に手間取ると、記録漏れや形だけの入力が起きやすくなります。
  • 監視への懸念:運行管理者が監視されていると感じることがあります。
  • 作業増への反発:ドライバーが余計な作業だと受け止めることがあります。
  • 導入中止の可能性:反発が強い場合は、システムそのものがお蔵入りになるケースもあります。
  • 負担軽減の実感:点呼簿の記入や日報作成の時間が減ったと感じられることが、本開発と全社展開後の定着を後押しします。

法令要件の検証では、予定の管理にとどまらず、拘束時間・休息期間、点呼・アルコールチェック、法定点検を管理して、法令や監査に対応できるかを確かめます。

  • 時間管理:拘束時間と休息期間を、きちんと管理できるかを見ます。
  • 記録の保存:点呼・アルコールチェックの記録が、改ざんできない形で残るかを確かめます。
  • 帳票の出力:運輸支局への提出や監査を想定した帳票が、正しく出るかを検証します。

要件の不足が本開発の後で判明すると、設計を大きくやり直すことになります。このため、PoCで先に確かめておけば、後工程のリスクを減らせます。

ポイント

判断の目安は、作れるかどうかよりも、現場で使い続けられ、監査に耐える記録を残せるかどうかです。机上の要件定義だけで大規模に作り込む前に、PoCで確かめておくと後工程の手戻りを減らせます。

PoCの進め方・期間・費用感

1営業所・1車種のMVPからトライアル、優先課題の改善、他の営業所や車種への展開判断へ進む流れ図。
小さな範囲で得た結果を、改善と次の展開判断につなげます。

PoCは、全営業所や全機能を対象にせず、課題の大きい1営業所・1車種の最小構成から始めます。そのうえで、MVP(Minimum Viable Product)を使い、机上の検討だけでなく実際の乗務データでシナリオを検証すると、現場の課題を洗い出せます。

進め方のステップ

進めるときは、1営業所・1車種のMVPを出すところから始め、紙の運用と並行したトライアルで現場の定着を確かめたうえで、改善と展開の判断に進みます。

  1. 1営業所・1車種に絞ってMVPをリリースし、点呼・アルコールチェック・日報作成が動くかを確かめます。
  2. 紙の運用と並行して3〜6ヶ月程度トライアルし、使い勝手、記録の正確性、監査向け帳票を検証します。
  3. 新規開発をいったん止め、トライアル中は現場への定着と課題の洗い出しに集中します。
  4. デジタコ連携の精度向上やGPS動態管理の追加など、優先課題をアジャイルで改善します。
  5. 改善後に、他の営業所や車種へ展開するかを判断します。

期間・費用の目安

PoCの期間と費用は、何を検証するかと、機器連携をどこまで含めるかで変わります。画面の操作性だけを試すのか、デジタコなどの機器とつなぐのかで、見込む金額は大きく違います。

  • 期間:PoC・モックアップ開発は1〜2ヶ月程度で、その後のトライアル運用は3〜6ヶ月程度です。
  • PoC費用:数十万〜300万円程度が一般的で、小規模スクラッチの本開発(300万〜700万円程度)より安価です。
  • 操作性の検証:Figmaなどで画面の使い勝手だけを試す場合は、数十万円程度に収まることもあります。
  • 機器連携の試作:デジタコやアルコール検知器とつなぐ場合は、機器調達費を含めて100万〜300万円程度を見込みます。

ポイント

判断の目安は、1営業所・1車種の最小構成から始め、トライアルで現場への定着を確かめられるかどうかです。PoCは1〜2ヶ月程度、トライアルは3〜6ヶ月程度が目安で、費用も検証内容と機器連携の範囲で変わります。

モックアップ開発で検証すべきポイント

運行管理システムのモックアップで確認する操作性、通信環境、機器連携、法令帳票のチェック項目。
画面上の使いやすさから記録や帳票の正確さまで、確認範囲を一覧できます。

本開発のリスクを減らすため、操作性と機器・帳票の正確性を、実際の運用に沿って確かめます。

UI/UX(運転中の操作性とオフライン対応)

乗務前後の慌ただしい時間帯でも、ドライバーがすぐに操作できるかどうかで、現場に受け入れられるかは左右されます。画面の見やすさに加えて、通信の状態が悪い場所でも使えるかを確かめます。

  • ドライバー画面:スマートフォンやタブレットで、点呼・確認・出発・帰着の操作を完了できるかを見ます。
  • 管理者画面:点呼漏れや遅延、アルコールチェックの未実施を一目で把握できる、一覧性の高い画面かを確かめます。
  • 通信が不安定な場所:営業所や郊外の駐車場で、操作できるかを試します。
  • オフライン対応:通信ができないときもデータを一時保存し、後から同期できるかを確認します。

機器との連携と法令帳票の出力は、PoCの間に確かめておけば、法令要件に合わせて設計を直す時間を取れます。確かめるのは、データの受け渡しと記録、帳票の3つの面です。

  • データ連携:単独では使われることの少ない機器との間で、データ形式が合うか、API連携が確実に動くかを検証します。
  • 記録の正確さ:確認数値や点呼日時が正しく反映され、改ざんできない形で保存されるかを見ます。
  • 帳票の実用性:日報・点呼記録・運転記録・事故報告書が、実務や行政監査に耐える形式で出るかを試します。

ポイント

判断の目安は、操作性、通信環境、機器連携、法令帳票の正確性を、実際の運用に沿って確かめられるかどうかです。画面の操作だけで終わらせず、通信や帳票まで含めて見ることが欠かせません。

PoCを成功させるための体制づくり

開発チームだけでは、現場に定着しません。そのため、運行管理者・ドライバー代表・労務担当者を加えて進めます。法令順守と現場の使いやすさの両面から検証できる体制が、PoC成功の前提です。

現場代表者を巻き込んだ推進体制

企画の段階から、点呼を受けるドライバー代表と、点呼・日報を確認する運行管理者に参加してもらいます。

  • 現場の参加:システム部門や経営層だけで決めると、実際の点呼と仕様がずれ、トライアルで手戻りが起きます。
  • 運用の整理:営業所ごとの違いを把握したうえで、標準化する部分と固有運用を分けます。
  • 労務との確認:拘束時間・休息期間の自動計算が、給与計算や勤怠管理と整合するかを確かめます。

特に、推進体制の中心に運行管理者を置くと、後の全社展開を進めやすくなります。

工程ごとのKPI設定と効果測定

使いやすさの評価に加えて、定量的なKPIを決め、PoCの成果を客観的に判断します。測る項目を、次に示します。

  • 時間の変化:トライアルの前後で、点呼時間の短縮率と日報作成時間の削減率を比べます。
  • 記録の状況:記録漏れや入力漏れの件数と、アルコールチェックの実施率を比べます。
  • 投資判断:効果が想定より3割程度低い場合でも投資回収できるかと、その安全マージンを見ます。
  • 定期的な振り返り:運用中の会議でKPIを確認し、想定外の結果を早めに見つけて、本開発の要件に反映します。

KPIを事前に合意しておけば、実施者の主観に頼らず、本開発へ進むかを判断できます。

ポイント

判断の目安は、システム部門だけでなく、運行管理者やドライバー代表、労務担当者が検証に加わっているかどうかです。KPIを事前に合意しておけば、本開発へ進むかを主観に頼らず判断できます。

PoCから本開発へ移行する際の注意点

PoCの結果を契約と開発計画に反映させれば、手戻りやコストの超過を抑えられます。

契約形態のミスマッチ回避

法改正や現場の要望によって仕様が変わるため、仕様を完全に固定した請負契約では、変更への対応が難しく、追加費用が膨らむおそれがあります。そこで、PoCで必須機能と将来拡張するかもしれない機能を分け、契約を段階的に設計します。

  • 初期リリース:最初に出す部分は、請負契約にする方法があります。
  • 拡張フェーズ:後から広げる部分は、準委任契約で進める方法もあります。

失敗しやすいポイントと対策

失敗は、運用ルールの整理や機器連携の検証を後回しにしたときに起きやすくなります。どちらもPoCの段階から並行して確かめておくと、本開発に入ってからの手戻りを減らせます。

  • 運用整理の不足:営業所ごとの点呼・日報の違いが見えないまま進むと、仕様変更が重なり、期間と費用が膨らみます。
  • 連携検証の後回し:機器連携を確かめないまま、単体の操作だけで本開発に進んでしまうケースがあります。
  • 稼働の遅れ:本稼働の直前に機器の不具合が見つかると、開始日が大きくずれ込むおそれがあります。
  • 並行検証と合意形成:ルールの整理と連携の検証を進めながら、記録や監査対応の負担軽減につなげます。

現場での成功体験を重ねることが、本開発への社内合意を支えます。

ポイント

判断の目安は、PoCの結果を契約と開発計画に反映させ、必須機能と拡張部分を分けて段階的に契約できているかどうかです。法改正や現場の要望で仕様が変わる部分を分けておくと、追加費用が膨らむおそれを抑えられます。

まとめ

PoCでは、現場への定着と法令要件への適合を、本開発の前に確かめます。運行管理システムは、TMSとは異なり、安全運行と法令順守を担います。

ここまで、PoC・プロトタイプ・モックアップを使う理由、進め方・期間・費用、検証項目、本開発へ移る際の注意点を取り上げてきました。まず1営業所・1車種で試し、1〜2ヶ月程度のPoCと3〜6ヶ月程度のトライアルを経て、段階的に広げます。バス・タクシー・自社便トラックへの導入でも、現場の声を取り入れながら展開する方法があります。

費用は数十万〜300万円程度が目安です。また、操作性、機器連携、法令帳票を検証しておけば、本開発での手戻りを避けやすくなります。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。