総務システムは、オフィス備品や消耗品の発注、会議室やフリーアドレス席の予約、契約書への押印申請、総務ヘルプデスク(社内問い合わせ)、防災備蓄の管理、名刺発注や郵便物管理、株主総会・取締役会の運営、オフィス賃貸・リース契約の管理といった「どの部署の管轄にも収まりきらない雑多な庶務・ファシリティ管理業務」をまとめて効率化する、総務部門の”何でも屋”的なシステムです。人のマスタを扱う人事管理システムや、会計上の固定資産を扱う資産管理システム、ファイル基盤の情報共有システム、エンゲージメント向上の社内ポータルとは異なり、総務システムが担うのは「社員が働く環境と体験そのものの運用」であり、対象がモノ・場所・手続き・問い合わせと多岐にわたる点が最大の特徴です。この総務システムを構築する方法には、既製のSaaSを利用する、グループウェアなどのパッケージをカスタマイズする、そして自社専用にゼロから作るフルスクラッチ・オーダーメイド開発という選択肢があります。本記事では、そのフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当てて解説します。
総務システムは標準的な庶務業務が多いため、多くの企業ではSaaSやパッケージで十分に対応できます。しかし、独自の複雑な押印・回付ワークフローがある、複数拠点の多数のファシリティやサプライヤを統合的に管理したい、既存の基幹システムや入退室・IoT機器と密に連携させたい、分断された複数のSaaSやExcel管理を一つに統合したい——こうした要件を持つ企業にとっては、フルスクラッチが有力な選択肢になります。本記事では、フルスクラッチとSaaS・パッケージの違い、総務システムをフルスクラッチする意味とメリット・デメリット、初期費用とランニングコストの目安、そしてフルスクラッチが向いているケースとSaaS・パッケージが向いているケースの見極め方までを解説します。総務システムの構築方法を検討している総務部門・情報システム部門の担当者が、自社に最適な選択をするための判断材料となる内容です。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・総務システム開発の完全ガイド
フルスクラッチ・パッケージ・SaaSの違い

総務システムを構築する方法は、大きく3つに分けられます。それぞれ自由度・費用・導入スピードのバランスが異なるため、まずはこの違いを理解しておくことが、適切な選択の出発点になります。
3つの構築方法の特徴
まずSaaSは、会議室予約や備品管理、ワークフローといった総務向けの既製サービスをインターネット経由で利用する方法です。導入が速く、初期費用も抑えられ、保守もベンダーに任せられますが、機能は提供される標準の範囲に限られます。総務業務のうち「よくある標準的な部分」を素早くデジタル化するのに適しています。次にパッケージ(グループウェア)カスタマイズは、承認ワークフローや設備予約、掲示板といった機能を備えたグループウェアやワークフロー製品をベースに、自社の業務に合わせてカスタマイズする方法です。ゼロから作るより開発量を減らしつつ、ある程度の自社要件を反映できます。そしてフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、自社の総務業務に完全に合わせて、システムをゼロから設計・開発する方法です。既製品の制約に縛られず、独自のワークフローや連携を自由に実現できる反面、初期費用と開発期間、そして保守負担が大きくなります。この3つは「自由度は SaaS < パッケージ < フルスクラッチ」、「導入スピードとコストの手軽さは逆順」という関係にあり、自社の要件がどこに位置するかを見極めることが選択の要になります。
“何でも屋”の総務をフルスクラッチする意味
総務システムをフルスクラッチする意味は、”何でも屋”であるがゆえの分断を統合できる点にあります。総務業務をSaaSで個別に対応していくと、会議室予約はA社のサービス、備品発注はB社、押印はC社の電子契約、問い合わせはチャットツール、というように、業務ごとにツールが分かれてしまいます。これは手軽に始められる反面、データが分散し、全体を横断した管理や分析ができず、社員も「どの業務はどのツールを使うのか」を覚えなければなりません。フルスクラッチであれば、これら多岐にわたる総務業務を一つのシステムに統合し、共通のUI・共通の権限管理・共通のデータ基盤の上で扱えます。総務担当者は一つの管理画面ですべてを把握でき、社員は一つの入口からあらゆる総務手続きにアクセスできます。”何でも屋”だからこそバラバラになりがちな総務業務を、自社のプロセスに合わせて一貫した体験として設計できることが、フルスクラッチならではの価値です。ただし、その価値がコストに見合うかは、企業の規模や要件の独自性によって変わります。
総務システムをフルスクラッチする代表的なケース

総務システムをフルスクラッチで開発する意味が特に大きいのは、既製品では対応しきれない独自要件や統合ニーズを持つケースです。ここでは代表的な2つのパターンを取り上げます。逆に言えば、これらに当てはまらない場合は、SaaSやパッケージで十分に対応できる可能性が高いということでもあります。
独自の複雑な押印・回付ワークフローがある
大企業や歴史のある企業では、押印や稟議、契約書の回付に独自の複雑なルールが根付いていることがあります。「金額や契約の種類によって承認ルートが細かく分岐する」「押印の種類(代表印・銀行印・部門印)ごとに保管者と回付先が異なる」「複数部門を並行して回付し、全員の承認が揃ってから押印する」といった、その企業ならではのワークフローです。こうした独自プロセスを既製のSaaSやパッケージの標準機能に無理やり当てはめようとすると、業務のほうを製品に合わせて変えるか、実現できずに一部を手作業で残すことになります。フルスクラッチであれば、自社の押印・回付ワークフローをそのまま忠実にシステム化でき、監査証跡や押印台帳の要件も自社のガバナンス基準に合わせて作り込めます。コンプライアンスや内部統制の観点から、承認プロセスを厳格に自社ルール通りに運用したい企業にとって、この自由度は大きな価値を持ちます。
複数拠点・多数のファシリティを統合するハブが必要
もう一つの代表的なケースは、複数の拠点やオフィスにまたがる多数のファシリティ・サプライヤ・契約を、統合的に管理するハブが必要な場合です。全国・海外に拠点を持つ企業では、各拠点の会議室・座席、備品・什器、賃貸やリースの契約、防災備蓄などが膨大な数になり、拠点ごとにバラバラに管理していると全社での可視化や最適化ができません。フルスクラッチで統合的な総務システムを構築すれば、全拠点のファシリティ稼働状況や契約更新期日、備品在庫を一元的に把握し、拠点横断での分析や意思決定が可能になります。さらに、既存の基幹システム(会計・購買)、入退室管理システム、IoTセンサー(座席の利用状況検知など)、電子契約サービスと密に連携させ、総務業務全体を貫くデータ基盤を作り上げることもできます。SaaSの寄せ集めでは実現できない、こうした全社統合とシステム間の密連携こそ、大企業がフルスクラッチを選ぶ主要な動機になります。たとえば、座席の稼働状況をIoTセンサーで検知して会議室・フリーアドレスの利用率を可視化し、そのデータをもとにオフィスの面積や賃貸契約を最適化する、といった取り組みは、総務システムが入退室・IoT・契約管理を一気通貫でつないでいて初めて実現します。個別のSaaSをつなぎ合わせるだけでは、データの粒度や連携のタイミングがそろわず、こうした横断的な分析は難しくなります。また、拠点ごとに異なる備品の発注ルールや承認権限を、全社共通の基盤の上で拠点別に柔軟に設定できるようにするなど、「統一しつつ拠点の個別事情も吸収する」という一見相反する要件を満たせるのも、フルスクラッチならではの強みです。総務が扱うファシリティは企業のコストと働き方に直結するため、その最適化を全社レベルで進めたい大企業にとって、統合されたデータ基盤の価値は投資に見合うものになります。
フルスクラッチのメリット・デメリットとコストの目安

フルスクラッチには明確なメリットとデメリットがあり、費用も相応にかかります。これらを正しく理解したうえで、自社の要件と照らし合わせて判断することが重要です。
メリット:自社要件への完全適合・統合・ガバナンス
フルスクラッチの最大のメリットは、自社の総務業務に完全に適合したシステムを作れることです。既製品の制約に業務を合わせるのではなく、業務のあるべき姿にシステムを合わせられます。独自のワークフローや帳票、承認ルールをそのまま再現でき、”何でも屋”としてバラバラだった総務業務を一つのシステムに統合できます。これにより、総務担当者は複数のツールを行き来する必要がなくなり、社員も一つの入口からすべての総務手続きにアクセスできます。また、権限管理や監査証跡を自社のガバナンス基準に合わせて厳密に設計できるため、内部統制やコンプライアンスの要件が厳しい企業でも安心して運用できます。さらに、既存システムとの密な連携により、総務データを全社のデータ基盤の一部として活用でき、ファシリティコストの最適化や業務改善の分析にもつなげられます。SaaSでは「できないこと」に妥協する必要がありますが、フルスクラッチでは「やりたいこと」をそのまま形にできる——これが最大の魅力です。
デメリット:初期費用・保守負担・法改正への追随
一方でフルスクラッチのデメリットは、初期費用と開発期間、そして継続的な保守負担が大きいことです。ゼロから設計・開発するため、SaaSのように即日使い始めることはできず、要件定義から本番稼働まで半年から1年以上かかることも珍しくありません。初期費用は対象モジュールの数と要件の複雑さに大きく左右されますが、複数の業務を統合する規模になれば数百万円から数千万円規模になります。さらに、稼働後の保守も自社で背負うことになり、一般に年間保守費用は初期開発費の10〜20%程度が目安です。加えて見落としてはならないのが、法改正やオフィス移転・組織改編への追随を自力で行う必要がある点です。押印・契約書管理は電子帳簿保存法や電子契約に関する制度改正の影響を受け、株主総会運営は会社法と結びついています。SaaSであればこうした制度変更にベンダーが自動で対応してくれますが、フルスクラッチでは自社が改修費用を負担して追随しなければなりません。この保守と追随の負担が、フルスクラッチのTCOを押し上げる要因になります。
初期費用とランニングコスト・SaaSとのTCO比較
フルスクラッチを検討する際は、SaaSとのTCO(総保有コスト)比較が判断の軸になります。SaaSは初期費用が小さく月額料金で使えますが、全社員が使う総務システムではユーザー数に比例して月額が積み上がり、長期間・大人数で使うほど累計コストが膨らみます。一方フルスクラッチは初期費用こそ大きいものの、月額のユーザー課金がなく、長期間使えば一人あたりのコストは相対的に下がっていきます。この関係から、「利用人数が多く、長く使い続ける」大企業ほど、フルスクラッチが損益分岐点を超えてTCOで有利になる可能性があります。逆に、利用人数が限られ、要件も標準的で、短中期での利用であれば、SaaSのほうがTCOで有利です。判断にあたっては、5年程度の期間で「SaaSの累計月額」と「フルスクラッチの初期費用+年間保守×年数」を試算して比較するのが実践的です。ただし、コストだけでなく、独自要件をどうしても実現したいか、複数業務を統合したいかといった定性的な価値も含めて総合的に判断することが大切です。
フルスクラッチとSaaS・パッケージの使い分け

最後に、総務システムをフルスクラッチで作るべきか、SaaS・パッケージを選ぶべきかの見極め方を整理します。判断を誤ると、過剰な投資をしてしまったり、逆に必要な要件を実現できずに中途半端なシステムになったりします。自社がどちらに当てはまるかを冷静に見極めましょう。
SaaS・パッケージが向いているケース
まず、SaaS・パッケージが向いているのは、総務業務が標準的な範囲に収まる企業です。会議室予約や備品管理、一般的な承認ワークフローなど、多くの企業に共通する庶務業務であれば、既製のSaaSやグループウェアの標準機能で十分に対応できます。導入を急いでいる場合、初期費用を抑えたい場合、社内に保守を担う体制がない場合も、SaaS・パッケージが適しています。また、中小企業や、利用人数がそれほど多くない企業では、フルスクラッチの初期投資を回収しにくいため、SaaSのほうがコスト効率が良いのが一般的です。「総務業務をまずは手軽にデジタル化したい」「特殊な要件は特にない」という企業は、無理にフルスクラッチを選ぶ必要はありません。まずSaaSやパッケージで始めて、運用しながら本当に足りない部分が見えてきたら、その部分だけを個別に開発・連携するという段階的なアプローチも現実的です。
フルスクラッチが向いているケース
一方、フルスクラッチが向いているのは、既製品では実現できない独自要件や統合ニーズを持つ企業です。具体的には、独自の複雑な押印・稟議・回付ワークフローを忠実に再現したい、複数拠点の多数のファシリティやサプライヤ・契約を一元的に統合管理したい、既存の基幹システムや入退室・IoT機器と密に連携させたい、分断された複数のSaaSやExcel管理を一つのシステムに統合したい、といったケースです。こうした要件を持つのは、多くの場合、拠点数や従業員数が多く、ガバナンス要件も厳しい大企業です。利用人数が多く長期利用が前提であれば、TCOでもフルスクラッチが有利になりやすく、独自要件の実現という定性的価値も加わって、投資が正当化されます。判断に迷う場合は、いきなりフルスクラッチに踏み切るのではなく、PoCやプロトタイプで独自要件の実現可能性と効果を検証してから本開発に進むと、リスクを抑えられます。総務システムは”何でも屋”で対象が広いからこそ、自社の要件の独自性と規模を見極めて、最適な構築方法を選ぶことが成功の鍵になります。
まとめ

本記事では、総務システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について解説しました。総務システムは、備品発注・会議室予約・押印申請・総務ヘルプデスクといった雑多な庶務・ファシリティ管理業務を効率化する”何でも屋”的なシステムであり、その構築方法にはSaaS・パッケージカスタマイズ・フルスクラッチという選択肢があります。フルスクラッチは、独自の複雑な押印・回付ワークフローを忠実に再現したい、複数拠点の多数のファシリティを統合管理したい、既存の基幹システムや入退室・IoT機器と密連携させたい、分断されたSaaSやExcel管理を一つに統合したいといった、既製品では対応しきれない要件を持つ企業に向いています。メリットは自社要件への完全適合・業務の統合・ガバナンスの作り込みであり、デメリットは初期費用と開発期間、保守負担、そして法改正・組織改編への自力追随の負担です。SaaSとのTCO比較では、利用人数が多く長期利用が前提の大企業ほどフルスクラッチが有利になりやすい一方、標準業務が中心で利用人数が限られる企業はSaaS・パッケージが適しています。自社の要件の独自性と規模を冷静に見極め、必要に応じてPoCで検証してから判断することが、総務システム構築を成功に導く鍵です。総務システムの構築方法を検討されている方は、まず自社の要件が標準的か独自かを整理したうえで、複数の開発会社に相談することをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
