総務システムは、オフィス備品や消耗品の発注、会議室やフリーアドレス席の予約、契約書への押印申請、総務ヘルプデスク(社内問い合わせ)、防災用備蓄の管理、名刺発注や郵便物の管理といった「どの部署の管轄にも収まりきらない雑多な庶務・ファシリティ管理業務」をまとめて効率化する、総務部門の”何でも屋”的なシステムです。人事管理システムが「人のマスタ」を、資産管理システムが「会計上の固定資産台帳」を管理するのに対し、総務システムが担うのは「社員が働く環境と体験そのものの運用」です。そして、この総務システムの費用を考えるうえで見落とされがちなのが、開発時の初期費用ではなく、稼働後にかかり続ける保守・運用費用(ランニングコスト)です。総務システムは「全社員が毎日使う」「業務が絶えず変化し増え続ける」という特性を持つため、運用フェーズでの継続的な手当てが他のシステム以上に重くなりやすいのです。
本記事では、総務システム開発の「保守・運用費用・ランニングコスト」に焦点を当て、初期費用とランニングコストをTCO(総保有コスト)で捉える考え方、クラウドSaaS型とフルスクラッチ型でのコスト構造の違い、備品カタログや会議室・承認ルートといったマスタ的な情報のメンテナンス工数、組織改編やオフィス移転のたびに発生する設定変更、そして見落とされがちな”隠れコスト”とその対策までを具体的に解説します。総務システムの導入を検討している総務部門・情報システム部門の担当者が、稼働後まで見据えた予算計画を立て、後から「思ったより維持費がかかる」と慌てないための判断材料となる内容です。
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総務システムのランニングコストがなぜ重くなりやすいのか

総務システムの費用を語るとき、多くの企業は開発時の初期費用に目を奪われがちですが、実際に効いてくるのは稼働後のランニングコストです。総務システムのランニングコストが他のシステムより重くなりやすいのには、明確な理由があります。第一に、全社員が日常的に使うシステムであるため、問い合わせ対応やサポートの負荷が高いこと。第二に、備品カタログ・会議室・承認ルートといった「運用しながら育てていくマスタ的な情報」が多く、そのメンテナンスに継続的な工数がかかること。第三に、組織改編・オフィス移転・レイアウト変更・法改正といった外部要因のたびに設定変更や改修が発生すること。総務システムは”何でも屋”であるがゆえに業務が絶えず変化し、それに追随し続ける必要があるのです。だからこそ、総務システムの費用は「作って終わり」ではなく「使い続ける総コスト」で捉えることが欠かせません。
初期費用とランニングコストをTCOで捉える
総務システムの費用を正しく判断するには、TCO(Total Cost of Ownership=総保有コスト)という考え方が有効です。TCOとは、初期の開発・導入費用だけでなく、システムを一定期間(一般的には5年程度)使い続けるあいだにかかる保守・運用・インフラ・ライセンス・運用工数のすべてを合算した総コストのことです。総務システムでは、初期費用が比較的安く見えても、運用フェーズでのマスタメンテナンスや設定変更、問い合わせ対応の人件費が積み重なり、5年間で見ると初期費用を上回るランニングコストがかかるケースが少なくありません。逆に、初期費用をかけて自動化や連携を作り込んでおけば、運用工数が減ってTCOでは有利になることもあります。「初期費用がいくらか」ではなく「5年間の総額でいくらか」で比較することが、総務システムの費用判断の基本です。以下では、そのランニングコストを構成する要素を具体的に見ていきます。
ランニングコストは誰が負担するのか——総務と情シスの分担
総務システムのランニングコストを考えるうえで見落としがちなのが、「コストを誰が負担・実行するのか」という運用体制の問題です。会議室の追加、備品カタログの更新、承認ルートの変更といった日常的なマスタメンテナンスは、システムに詳しい情報システム部門ではなく、業務を理解している総務部門自身が行うのが理想です。しかし総務担当者がシステム設定に不慣れだと、些細な変更のたびにベンダーや情シスに依頼することになり、その都度の作業費や社内工数が積み上がります。したがって総務システムの運用設計では、「どこまでを総務が自分で設定変更でき、どこからをベンダー・情シスに頼るのか」を明確にし、総務担当者でも扱える管理画面を用意しておくことが、ランニングコストを抑える重要な設計判断になります。ここを曖昧にしたまま導入すると、目に見えない社内工数という形でコストが膨らみ続けます。
導入形態別のコスト構造——SaaS型とフルスクラッチ型

総務システムのランニングコストの構造は、SaaS型を利用するのか、フルスクラッチ・オンプレミス型で構築するのかによって大きく異なります。それぞれのコストの発生の仕方を理解しておくことで、自社にとってどちらが有利かを判断できます。
SaaS型:月額利用料に保守が内包される
会議室予約や備品管理、ワークフローといった総務向けSaaSを利用する場合、ランニングコストは主に月額利用料の形で発生します。料金体系は「1ユーザーあたり月額」「会議室数や拠点数に応じた課金」「利用するモジュール数に応じた課金」などさまざまです。SaaSの利点は、システムのバージョンアップ・セキュリティ対応・インフラ保守がすべて月額料金に内包されており、自社で保守要員を抱える必要がないことです。総務システムは全社員が使うため、ユーザー数課金のSaaSでは従業員数に比例して月額が膨らむ点に注意が必要ですが、それでも保守を丸ごとベンダーに任せられる安心感と、常に最新機能を使える点は大きなメリットです。マスタメンテナンスの多くも管理画面から総務担当者自身で行えるため、運用の内製化がしやすいのも特徴です。標準的な庶務業務が中心で、独自要件が少ない企業に向いた形態と言えます。
フルスクラッチ・オンプレミス型:年間保守は初期費用の10〜20%が目安
フルスクラッチで開発した総務システムや、オンプレミスで運用するシステムの場合、ランニングコストは複数の項目に分かれます。まず、開発ベンダーとの保守契約費用で、これは一般に初期開発費用の年間10〜20%程度が相場とされます。たとえば初期費用が1,000万円なら、年間の保守費用は100万〜200万円が目安です。この保守契約には、障害対応、軽微な修正、問い合わせ対応、セキュリティパッチの適用などが含まれるのが一般的ですが、契約範囲は事前によく確認しておく必要があります。加えて、サーバーやクラウドインフラの費用、セキュリティ対策や監査の費用、そして機能追加や大きな改修が発生した際の別途開発費用がかかります。フルスクラッチは自社要件に完全適合できる反面、こうした保守負担を自社で背負うことになるため、TCOで見るとSaaSより高くなるケースもあります。独自ワークフローや統合が本当に必要かを見極めたうえで選ぶことが重要です。
総務システム特有のランニングコスト項目

総務システムには、他のシステムにはない固有のランニングコスト項目があります。これらは”何でも屋”としての総務業務の性質から生じるもので、予算計画の段階で織り込んでおかないと、稼働後に想定外の負担として顕在化します。ここでは代表的な3つの項目を取り上げます。
マスタ的な情報のメンテナンス工数
総務システムには、備品カタログ、消耗品の発注点、会議室・座席のレイアウト、サプライヤ情報、承認ルート、総務ヘルプデスクのFAQといった「運用しながら更新し続けるマスタ的な情報」が数多く存在します。新しい備品が追加されればカタログを更新し、サプライヤが変われば発注先を差し替え、規程が改定されればFAQを書き直す——こうした地道なメンテナンスは日常的に発生し、その工数がランニングコストの中核を占めます。人事管理システムの社員マスタや資産管理システムの資産台帳のように、明確な一つのマスタを維持するのとは異なり、総務システムでは多種多様なマスタ的情報が併存するため、メンテナンス対象が広く、担当者の運用負荷が高くなりがちです。この工数を見込まずに導入すると、「システムはあるのに情報が古くて使えない」という形骸化を招きます。メンテナンスしやすい管理画面の設計と、運用担当・更新頻度をあらかじめ決めておくことが、このコストをコントロールする鍵です。具体的には、備品カタログなら「新製品の追加や単価変更が発生するたび」「四半期に一度の棚卸のタイミングで一括見直し」、会議室・座席レイアウトなら「フロア変更やフリーアドレス範囲の見直しのたび」、FAQなら「規程改定や問い合わせ傾向の変化を受けて月次で更新」といったように、対象ごとに更新のトリガーと頻度を運用ルールとして定めておくと、メンテナンス漏れによる形骸化を防ぎつつ工数の平準化ができます。さらに、こうした更新作業をベンダー任せにせず総務担当者自身が完結できるよう、CSVでの一括登録・更新や、権限を絞った編集画面を用意しておくと、都度の外注費という形の隠れたランニングコストを大きく削減できます。総務システムのTCOは、この「日常的なマスタメンテナンスをいかに内製で軽く回せるか」で長期的に大きく変わってきます。
組織改編・オフィス移転・レイアウト変更への追随
総務システム特有の変動費として大きいのが、組織改編やオフィス移転、レイアウト変更への追随です。企業では毎年のように部署の統廃合や人事異動が行われ、それに伴って承認ルートや権限設定を見直す必要があります。オフィスを移転したり、フロアのレイアウトを変更したりすれば、会議室や座席のマスタを全面的に作り直すことになります。フリーアドレスを導入・変更する場合は、座席予約の仕組みそのものの設定変更が必要です。こうした変更は総務業務そのものと連動して不定期に発生するため、年間の保守予算に「変更対応の枠」を確保しておくのが現実的です。特に成長企業や、拠点の統廃合が多い企業では、この追随コストが無視できない規模になります。SaaSであれば管理画面から自社で対応できる範囲が広く、フルスクラッチであればベンダーへの改修依頼が発生しやすいという違いも、TCOを左右する要素になります。実務では、こうした変更対応を「年に何回・どの程度の規模で発生するか」を過去の組織改編や移転の頻度から見積もり、あらかじめ年間保守予算の中に変更対応枠として確保しておくと、突発的な追加費用に慌てずに済みます。特に、拠点の新設や統廃合が頻繁な成長企業では、この変更対応コストが保守費用の大きな割合を占めることもあるため、初期の予算計画の段階から織り込んでおくことが重要です。
周辺システム連携・法改正への維持コスト
総務システムが入退室管理、電子契約、グループウェアのカレンダー、チャットツール、会計システムなどと連携している場合、それらの連携を維持し続けるためのコストが発生します。連携先のサービスがAPI仕様を変更したり、バージョンアップしたりすれば、こちら側も追随して改修する必要があります。とりわけ、押印・契約書管理に関わる部分は、電子帳簿保存法や電子契約に関する法制度の改正の影響を受けるため、法改正のたびに機能を見直す必要が生じます。防災備蓄の管理であれば消費期限のルール変更、株主総会運営であれば会社法や関連手続きの変更など、総務が扱う業務は法令・制度と結びついているものが多く、それらへの追随が継続コストとして効いてきます。こうした外部要因による維持コストは予測が難しいため、保守契約の中で「法改正対応がどこまで含まれるか」を明確にしておくことが、後々のトラブルを防ぐうえで重要です。
見落としがちな隠れコストとその対策

総務システムのランニングコストには、契約書に明記されないまま発生する”隠れコスト”がいくつもあります。これらを事前に把握し、対策を講じておくことで、予算超過を防ぎ、費用対効果の高い運用が実現できます。
隠れコスト:全社員向けサポートと繁忙期のスポット対応
総務システム最大の隠れコストは、全社員向けのサポート負荷です。会議室予約や備品申請、押印依頼は全従業員が使うため、「使い方が分からない」「エラーが出た」という問い合わせが日常的に総務部門へ寄せられます。この一次対応の工数は、システムの保守費用には現れませんが、確実に総務担当者の時間を奪います。特に、新入社員が大量に入る年度替わりや、株主総会・年末調整といった繁忙期には問い合わせが集中し、スポット的な対応負荷が跳ね上がります。対策としては、システム内にFAQやヘルプを充実させて自己解決を促すこと、総務ヘルプデスク機能そのものを整備して問い合わせを一元管理・ナレッジ化すること、そして導入時に丁寧な説明会とマニュアルを用意して「分からない」を減らすことが有効です。皮肉なことに、総務ヘルプデスクの効率化こそが、総務システム自体のサポートコストを下げる近道になるのです。
対策:保守契約範囲の明確化とモジュール膨張の抑制
隠れコストを抑える二つ目の対策は、保守契約範囲の明確化と、モジュール膨張のコントロールです。保守契約では、「どこまでが月額(または年額)に含まれ、どこからが別途費用になるのか」を事前に明確にしておくことが重要です。障害対応は含まれるが機能追加は別料金、軽微な設定変更は含まれるがマスタの大量更新は別、といった線引きを曖昧にしたまま契約すると、想定外の請求が発生します。また、総務システムは”何でも屋”であるがゆえに「あの業務も乗せよう」とモジュールが際限なく増えやすく、その一つひとつが保守対象となってランニングコストを押し上げます。新しいモジュールを追加する際は、「その業務をシステム化することで削減できる工数」と「増える保守コスト」を天秤にかけ、費用対効果が見合うものだけを追加する規律が必要です。SaaSとフルスクラッチのTCO比較を定期的に見直し、業務の成長に合わせて最適な形態を選び直していく姿勢も、長期的なコスト最適化につながります。
まとめ

本記事では、総務システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて解説しました。総務システムは、備品発注・会議室予約・押印申請・総務ヘルプデスクといった雑多な庶務・ファシリティ管理業務を効率化する”何でも屋”的なシステムであり、「全社員が使う」「業務が絶えず変化し増え続ける」という特性から、稼働後のランニングコストが重くなりやすいのが特徴です。費用は初期費用だけでなくTCO(総保有コスト)で捉え、SaaS型なら月額利用料に保守が内包される一方でユーザー数に比例して膨らむ点、フルスクラッチ型なら年間保守が初期費用の10〜20%を目安に発生する点を理解しておく必要があります。総務システム特有のランニングコストとして、備品カタログや承認ルートといったマスタ的情報のメンテナンス工数、組織改編・オフィス移転への追随、周辺システム連携や法改正への維持コストが挙げられ、さらに全社員向けサポートという隠れコストも見逃せません。これらを抑えるには、総務担当者自身が扱える管理画面を用意し、保守契約範囲を明確にし、モジュールの膨張を費用対効果で規律することが鍵となります。総務システムの導入を検討されている方は、初期費用だけでなく5年間のTCOを見据えたうえで、複数の開発会社・サービスを比較検討することをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
