人事評価システムは、MBO(目標管理制度)やOKRによる目標設定から進捗管理、期末の達成度評価、360度評価、評価会議でのキャリブレーション、評価結果の昇給・賞与への反映までの「評価という周期的な業務プロセス」をワークフロー化するシステムです。社員の氏名・所属といった静的な基盤データ(社員マスタ)を管理する人事管理システムとは異なり、人事評価システムは人事管理システムから連携された社員マスタをもとに、自社固有の評価制度を運用することに特化しています。このシステムを手に入れる方法には、クラウドSaaSを契約する、パッケージを導入する、パッケージをカスタマイズするオーダーメイド開発、そしてゼロから独自に作り上げるフルスクラッチ開発など、いくつかの選択肢があります。特に「自社独自の複雑な評価制度をそのまま再現したい」というニーズから、フルスクラッチやオーダーメイドを検討する企業は少なくありませんが、「どこまで独自開発すべきか」「本当にフルスクラッチが必要か」といった判断に迷う担当者は多いものです。
本記事では、人事評価システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、開発手法別の比較、フルスクラッチ・オーダーメイド・ノーコードそれぞれの特徴と費用、フルスクラッチを避けるべき理由と正当化されるケース、メリット・デメリットとベンダーロックイン、そして現実解としてのハイブリッド構成までを体系的に解説します。人事評価ならではの「評価制度は頻繁に変わり、独自開発すればその改定もすべて自社で背負うことになる」という特性を理解することで、独自開発とSaaS活用の適切な線引きができるようになります。これから人事評価システムの導入・開発を検討している方はもちろん、フルスクラッチかSaaSかで迷っている方にとっても、判断の軸となる情報をお届けします。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・人事評価システム開発の完全ガイド
人事評価システムの開発手法の全体像

人事評価システムを導入・構築する手法は、大きく分けてSaaS(クラウド型)、パッケージ・オンプレミス、オーダーメイド(パッケージ+カスタマイズ)、ノーコード・ローコード、フルスクラッチの5つがあります。それぞれ初期費用・月額や保守費用・自由度が大きく異なります。SaaS(クラウド型)は、インターネット経由で提供されるサービスで、導入が早く初期費用が安く、アップデートが自動で行われます。初期費用は無料〜数十万円程度(設定・データ移行費など)、月額は1名あたり300円〜1,500円程度、または月額定額で数万〜数十万円が相場です。パッケージ・オンプレミスは、自社サーバーにソフトウェアをインストールし、既存フローに合わせた柔軟な構成が可能な手法で、初期費用は数百万円〜数千万円規模、年間保守費用は初期導入費用の10%〜20%程度が目安です。
オーダーメイド(パッケージ+カスタマイズ)は、パッケージソフトをベースに自社の独自要件に合わせて改修する手法で、ベースの初期費用に加えて数十万〜数百万円の改修費用がかかり、保守もカスタマイズ部分が上乗せされます。ノーコード・ローコードは、プログラミングを最小限に抑え、用意されたパーツを組み合わせて開発する手法で、SaaSより自由度が高く、初期費用は数百万円程度から、月額のプラットフォーム利用料や保守費が発生します。そしてフルスクラッチは、ゼロからシステムを自社専用に開発する手法で、完全な自由度を持つ一方、初期費用は1,500万円〜数千万円以上、年間保守費用は初期費用の10〜20%程度に加えてインフラ維持費がかかり、コストと期間が最も大きくなります。
これらの手法は「自由度が高いほどコストと期間が膨らむ」というトレードオフの関係にあります。人事評価システムを選ぶ際に重要なのは、自社の評価制度の独自性が本当にフルスクラッチやオーダーメイドを必要とするほど特殊なのか、それともSaaSの標準機能で十分にカバーできるのかを見極めることです。次章以降で、フルスクラッチ・オーダーメイドの詳細と、どのような場合に独自開発が正当化されるのかを解説していきます。
フルスクラッチ・オーダーメイドとは(特徴と費用)

独自開発を検討する際には、フルスクラッチ、オーダーメイド、ノーコード・ローコードという3つの手法の違いを正しく理解することが大切です。ここでは、それぞれの特徴と費用感を解説します。自社の要件と予算に照らして、どの手法が現実的かを見極める材料としてください。
フルスクラッチの特徴と費用
フルスクラッチは、既存のパッケージやSaaSを一切使わず、ゼロからシステムを自社専用に設計・開発する手法です。完全な自由度を持つため、自社独自の評価制度、多段階の承認ワークフロー、独自のキャリブレーションロジックなど、どんなに複雑な要件でも思いどおりに実現できます。その一方で、初期費用は1,500万円〜数千万円以上と高額になり、開発期間も長期化します。さらに、稼働後の年間保守費用として初期費用の10〜20%程度に加えて、サーバーなどのインフラ維持費が継続的にかかります。人事評価システムをフルスクラッチで作る場合に特に注意すべきなのは、評価制度が将来変わるたびに、その改修をすべて自社の責任と費用で行わなければならない点です。評価項目の変更、等級制度の見直し、報酬テーブルの改定といった制度変更のたびに開発コストが発生するため、初期費用の高さだけでなく、長期にわたる保守負担まで見据えて判断する必要があります。フルスクラッチは自由度が最も高い反面、最もコストと責任を伴う選択肢です。
オーダーメイド(パッケージ+カスタマイズ)
オーダーメイド開発は、既存のパッケージソフトやSaaSをベースに、自社の独自要件に合わせて一部をカスタマイズ(改修)する手法です。フルスクラッチのようにゼロから作るのではなく、標準機能で対応できる部分はそのまま活用し、自社独自の評価ロジックや帳票、特殊な承認フローだけを追加開発するため、フルスクラッチよりも初期費用と期間を抑えられます。費用の目安は、ベースとなるパッケージやSaaSの初期費用に加えて、数十万〜数百万円程度の改修費用がかかり、保守費も基本の保守費にカスタマイズ部分の保守が上乗せされる形になります。オーダーメイドの利点は、実績のあるパッケージの土台を使うことで開発リスクを抑えつつ、自社ならではの要件も満たせる点にあります。ただし、カスタマイズの範囲が大きくなりすぎると、パッケージ本体のバージョンアップに追従できなくなったり、改修部分の保守が重荷になったりするため、「どこまでを標準機能で受け入れ、どこを独自化するか」の線引きが重要です。標準機能で対応できる部分は極力そのまま使い、独自化は本当に必要な部分に絞るのが、オーダーメイド成功の鍵となります。
ノーコード・ローコードという選択肢
近年、フルスクラッチとSaaSの中間的な選択肢として注目されているのが、ノーコード・ローコードによる開発です。これは、プログラミングを最小限に抑え、あらかじめ用意されたパーツを組み合わせてシステムを構築する手法で、SaaSより自由度が高く、フルスクラッチより早く安く作れるという特徴があります。初期費用は数百万円程度からで、月額のプラットフォーム利用料や保守費が発生します。人事評価システムの領域では、評価シートの項目や承認フローを比較的柔軟に組めるため、SaaSの標準機能では少し足りないが、フルスクラッチほどの投資はしたくないという企業に向いています。ただし、ノーコード・ローコードのプラットフォームに依存するため、そのプラットフォームの制約の範囲内でしか作れないことや、プラットフォーム自体の料金改定やサービス終了のリスクがある点には注意が必要です。自社の要件がノーコード・ローコードの表現力の範囲に収まるかを見極めたうえで、選択肢の一つとして検討する価値があります。SaaS・オーダーメイド・ノーコード・フルスクラッチのそれぞれの特性を理解し、自社の要件と予算に最も合う手法を選ぶことが重要です。
フルスクラッチを避けるべき理由と正当化されるケース

人事評価システムは、原則としてSaaSやパッケージの活用が推奨され、フルスクラッチは慎重に検討すべき選択肢です。ここでは、なぜ原則SaaSが推奨されるのか、そしてどのような場合にフルスクラッチが正当化されるのかを解説します。
なぜ原則SaaSが推奨されるのか
人事評価システムでフルスクラッチを避けるべき最大の理由は、評価制度が頻繁に変わり続けることにあります。企業の評価制度は、組織改編、等級制度や報酬設計の見直し、評価手法のトレンドの変化などによって、比較的短いサイクルで改定されます。フルスクラッチでゼロから自社の評価運用に合わせてシステムを作ると、以後の制度改定のたびに、その変更をすべて自社の費用と責任で行い続けることになります。これは、多くの企業が共通して必要とする評価機能を、わざわざ自前で作り直し、保守し続ける「車輪の再発明」に他なりません。一方、SaaSは多くの企業の評価運用を想定して作られており、評価シートのテンプレート、目標管理、360度評価、評価分布の可視化といった機能が標準で用意され、ベンダーが継続的に機能を改善してくれます。制度が未整備な企業向けに、評価パッケージ(評価制度のテンプレート)や、評価者の基準を合わせる研修動画(通常1回30万円ほどかかるような内容)を提供している製品もあります。極めて特殊な要件や数万名規模のコストメリットがない限り、HRBrain、カオナビ、ジンジャー人事評価、sai*reco といったSaaS型人事評価システムの無料トライアルを活用し、まず自社の評価制度が既存のSaaSでどの程度実現できるか(フィット&ギャップ)を検証することが強く推奨されます。
フルスクラッチが正当化されるケース
もっとも、フルスクラッチが合理的な選択となるケースも存在します。第一に、数千名〜数万名規模の大企業で、SaaSの従業員数課金が莫大になる場合です。たとえば従業員10,000名がSaaS(月額1,000円/名)を利用すると年間1億2,000万円になり、この規模では数千万円をかけてフルスクラッチで開発し、自社保有として固定費化した方が、数年でトータルコスト(TCO)が安くなる計算になります。第二に、パッケージやSaaSでは到底対応できない、極めて複雑な独自の評価ロジックが絶対に必要な場合です。独自の等級制度と連動した特殊な評価計算や、他に例のない多段階・多面的な承認・調整プロセスを完全に再現する必要があるなら、フルスクラッチでなければ実現できないことがあります。第三に、既存の基幹システムやタレントマネジメントシステムとデータベースレベルで密結合し、評価データを他の人材情報と深く統合して高度な分析を行いたい場合です。これらのケースに当てはまらない、数百名規模までの企業や、評価制度が一般的な範囲に収まる企業であれば、フルスクラッチの高いコストと保守負担は割に合わないことが多く、SaaSやオーダーメイドの方が合理的です。自社がこれらの正当化条件に本当に該当するかを冷静に見極めることが大切です。
メリット・デメリットとベンダーロックイン

フルスクラッチとSaaSのどちらを選ぶかを判断するには、それぞれのメリット・デメリットに加えて、ベンダーロックイン(特定のベンダーや仕組みに縛られること)のリスクも理解しておく必要があります。ここでは、両者のトレードオフを解説します。
フルスクラッチのメリットとデメリット
フルスクラッチの最大のメリットは、自由度の高さです。自社独自の複雑な評価制度、独自の多段階承認ワークフロー、独自のキャリブレーションロジックなどを完全に再現でき、既存の基幹システムやタレントマネジメントシステムともシームレスに連携させられます。評価という自社の人事戦略の根幹に関わる仕組みを、思いどおりに設計できる点は、大企業や特殊な評価制度を持つ企業にとって大きな価値があります。一方、デメリットは明確です。第一に、初期費用が1,500万円〜数千万円以上と高額で、開発期間も長期化します。第二に、稼働後の評価制度の改定やUIの改善、他システムとの連携仕様の変更といったアップデートを、すべて自社の責任とコストで継続しなければなりません。評価制度は変わり続けるため、この保守負担は長期にわたって重くのしかかります。第三に、開発を特定のベンダーに委託した場合、その後の改修もそのベンダーに依存しやすくなります。フルスクラッチは、自由度と引き換えに、高いコストと長期の保守責任を負う選択肢であることを理解したうえで判断する必要があります。
ベンダーロックインのリスク
システムの選択においては、ベンダーロックインのリスクも見過ごせません。SaaSを利用する場合、そのベンダーの仕様や料金改定、サービス終了のリスクに依存することになります。ベンダーが値上げをしたり、サービスを終了したりすると、別のシステムへの乗り換えを迫られる可能性があります。このリスクを軽減するには、評価データをCSVで出力できるか、API連携でデータを取り出せるかといった、データのエクスポートが容易なシステムを選ぶことが重要です。一方、フルスクラッチでベンダーに開発を委託した場合には、別の種類のロックインが生じます。そのベンダー独自の技術やコードでシステムが構築されるため、数年後に別の開発会社へ改修を依頼しようとしても、中身がブラックボックス化していて対応が困難になり、技術負債となってしまう大きなリスクがあります。SaaSもフルスクラッチも、それぞれ異なる形でロックインのリスクを抱えているため、契約前にデータの持ち出しやすさ、開発ドキュメントの整備、他社への引き継ぎのしやすさといった観点で、将来の選択肢を狭めない備えをしておくことが賢明です。
現実解としてのハイブリッド構成

多くの企業にとって現実的な解となるのが、SaaSやパッケージをコアに据えつつ、自社ならではの要件だけを独自開発で補うハイブリッド構成です。ここでは、その考え方と進め方を解説します。フルスクラッチかSaaSかの二者択一ではなく、両者の良いところを組み合わせるアプローチです。
SaaSをコアに独自要件だけをアドオンする
ハイブリッド構成の基本的な考え方は、SaaSやパッケージをシステムのコアとして活用し、標準機能で対応できない独自の評価ロジックや特殊な連携インターフェース、社内独自の帳票といった部分だけを、アドオンやノーコード、あるいは小規模なスクラッチ開発で作り、API連携で組み合わせるというものです。これにより、評価シートのテンプレートや360度評価、評価分布の可視化といった一般的な機能はSaaSの標準機能とベンダーのアップデートに任せながら、自社ならではの要件だけを安価に充足できます。評価制度の一般的な部分の保守はベンダーに任せられるため、自社が背負う保守負担を最小限に抑えられる点が大きな利点です。すべてをフルスクラッチで作ると、一般的な機能まで自社で保守し続けることになりますが、ハイブリッドなら「作るべき部分」と「借りるべき部分」を切り分けられます。人事評価システムのように、機能の大半が多くの企業で共通し、一部だけが自社固有であるという領域では、このハイブリッド構成が最もバランスの取れた現実解となることが多いのです。
スモールスタートで段階的に拡張する
ハイブリッド構成を成功させるには、最初からすべての独自要件を作り込むのではなく、スモールスタートで段階的に拡張していくことが重要です。まずは「評価シートのデジタル化」といった必須機能(Must Have)に絞ってSaaSを導入し、現場での運用が定着してから、上位プランへの切り替えや連携機能の追加、独自要件のアドオン開発へと段階的に広げていきます。このアプローチの利点は、無駄な開発コストを防げることに加えて、現場が使い慣れてから機能を増やすため、定着の失敗リスクを下げられる点にあります。最初から独自機能を盛り込みすぎると、開発コストが膨らむだけでなく、現場が使いこなせずに形骸化する恐れがあります。まずシンプルに始めて成功体験を積み、本当に必要だと分かった独自要件だけを後から追加していくことで、コストを抑えつつ、着実に定着する人事評価システムを構築できます。独自開発は「最初に全部作る」のではなく、「運用しながら本当に必要な部分を見極めて足していく」という発想が、失敗を避ける鍵となります。
まとめ

本記事では、人事評価システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について解説しました。開発手法にはSaaS、パッケージ・オンプレミス、オーダーメイド、ノーコード・ローコード、フルスクラッチがあり、自由度が高いほどコストと期間が膨らむトレードオフの関係にあります。フルスクラッチは初期1,500万円〜数千万円以上と高額で、評価制度が変わるたびに改修を自社の責任と費用で背負うことになるため、原則としてはHRBrain・カオナビ・ジンジャー人事評価・sai*recoといったSaaSの無料トライアルでフィット&ギャップを検証することが推奨されます。フルスクラッチが正当化されるのは、従業員10,000名でSaaSが年1.2億円に達するような大企業、SaaSでは対応できない極めて複雑な独自評価ロジックが必要な場合、既存基幹・タレントマネジメントと密結合したい場合などに限られます。ベンダーロックインはSaaS・フルスクラッチの双方に異なる形で存在するため、データの持ち出しやすさや引き継ぎのしやすさに備えておくことが重要です。多くの企業にとっての現実解は、SaaSをコアに据え、独自要件だけをアドオンで補うハイブリッド構成であり、必須機能に絞ってスモールスタートし段階的に拡張していくのが、コストと定着の両面で理にかなった進め方です。人事評価システムの開発を検討されている方は、自社の評価制度の独自性と従業員規模を整理したうえで、複数の会社に相談することをお勧めします。
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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
