人事管理システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

人事管理システムのフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、独自の人事制度や複雑な連携、発令ルールを実現し、社員マスタを自社の人事運用に合わせる進め方です。

方式の違い、選ばれるケース、費用、SaaSとの使い分けを順に説明します。全体像は人事管理システム開発の完全ガイドをご覧ください。

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人事管理システムにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発

社員マスタを中心に採用管理、勤怠管理、給与計算、人事評価がつながる人事情報の基盤図
採用から給与計算、人事評価までを社員マスタでつなぎます。

人事管理システムは、社員情報を集めておく人事情報の基盤(HRIS)です。採用管理(応募者管理を担うATS)や勤怠管理、給与計算、人事評価などは、この社員マスタを参照します。

社員マスタには、氏名・住所・扶養家族・マイナンバーなどの個人情報と、人事異動の履歴が入ります。組織図や部署構成、資格やスキル、雇用契約の条件も含まれます。

フルスクラッチ開発は、既存のパッケージやSaaSを使わず、自社要件に合わせてシステムをゼロから設計・開発する方式です。具体的には、データモデルや組織・権限、発令ワークフロー、周辺連携を作り込みます。

独自の組織構造や複雑な人事制度、既存基幹システムとの密な連携が必要な企業では、標準サービスで要件を満たせない場合があります。社員マスタは周辺システムのハブになるため、自社の人事運用に合わせたいというニーズも生まれます。

SmartHRやカオナビ、ジンジャーなどのクラウドサービスがあります。freee人事労務も含め、多くの企業はSaaSやパッケージで社員マスタを管理しています。一方で、フルスクラッチは初期費用と保守負担が大きいため、必要性を見極めることが欠かせません。

フルスクラッチ・パッケージ・SaaSの違い

方式を比べるときは、初期費用と自由度に加えて、導入の速さや保守負担を見ていきます。

  • SaaS:クラウドサービスを利用し、初期費用を抑えて速く導入できます。
  • パッケージ:既製ソフトを基に、一定のカスタマイズを加えて使います。
  • フルスクラッチ:自社専用にゼロから作るため、自由度が最も高くなります。

SaaSでは、標準機能やデータモデルに自社の運用を合わせることになります。一方、フルスクラッチは初期費用、開発期間、保守負担が最も大きくなります。

多くの企業は、SaaSかパッケージで要件を満たせます。ただし、独自性の強い制度や、社員マスタを全社の中核ハブとして作り込みたい企業では、フルスクラッチが検討されます。

方式は、自由度の高さよりも、要件と自社の体力に合うかで選ぶ必要があります。明確な理由があって初めて、フルスクラッチが適した選択になります。

社員マスタ基盤をフルスクラッチする意味

フルスクラッチの意義は、社員マスタ基盤を自社の人事戦略に合わせられることにあります。社員マスタは、情報を保管するだけでなく、人事業務の中心として働きます。

  • 人事情報の中核:採用・給与・勤怠・社内ポータルなどをつなぎます。
  • 独自制度の反映:等級制度や配置戦略、複雑な組織運営を落とし込めます。
  • 柔軟な変更:変わらない強みは作り込み、制度や組織の変化は設定変更で対応できるように設計します。

SaaSでは標準データモデルに合わせるため、独自の運用を諦めたり、業務をシステムに合わせたりすることがあります。フルスクラッチなら、こうした制約を避けられます。

一方で、作り込むほど保守は重くなります。人事領域では法改正が頻繁に起こり、組織も変わり続けるため、固定的な設計では変更のたびに費用がかさみます。

ポイント

社員マスタに持たせる情報と周辺システムとの連携範囲を先に確かめ、そのうえでフルスクラッチとSaaSを比べることが判断の出発点になります。

フルスクラッチが選ばれる典型ケース

組織構造、基幹システム連携、発令ワークフローの3つの人事要件を示すパネル図
3ケースは組織・連携・承認の違いとして整理できます。

SaaSやパッケージは優れた標準機能を備えています。しかし、データモデルや権限管理などの仕様で吸収できない要件が重なると、フルスクラッチが選ばれることがあります。

社員マスタ基盤で典型的に見られるのは、組織構造、既存基幹システムとの連携、発令ワークフローの3つです。自社が各ケースに当てはまるかを確かめると、方式を選ぶときの指針になります。

独自の組織構造・複雑な手当や雇用形態

標準的なデータ構造に当てはめきれない人事制度では、制度を正確に表現できるかどうかを、まず確かめる必要があります。

  • 組織:複数事業をまたぐマトリクス組織や、複数社間の出向・兼務があります。
  • 制度:独自の等級制度や、職種・地域・役職別の手当テーブル。

SaaSは、多くの企業に共通する人事運用を前提にしています。そのため、独自制度を無理に当てはめようとすると、データモデルの制約にぶつかり、運用では補えない部分が残ります。

社員マスタで制度を正確に表せないと、給与計算や配置管理など、マスタを参照する業務にも歪みが生じます。制度そのものが競争力の源泉で、業務をシステムに合わせられない企業では、制度を忠実に再現する意義があります。

既存基幹システムとの密連携とハブ機能

既存基幹システムと密に連携させる場合や、人事管理システムを全社の中核ハブとして高度に機能させたい場合は、標準サービスの対応範囲を超えることがあります。

  • 特殊な連携:基幹・生産管理システムと、標準APIのない方式で接続します。
  • 中核ハブ:複雑なデータ変換や配信をシステム内部で処理します。

独自のレガシー基幹システムなどと、リアルタイムかつ双方向に連携する場合は、SaaSの汎用機能では対応しきれないことがあります。採用から給与、勤怠、社内ポータルまでをつなぐときは、社員マスタから最新情報を正確に配信します。あわせて、各システムからの更新も受け止めます。

連携先が多く、ロジックが自社固有で複雑なほど、フルスクラッチの必要性は高まります。

独自の異動・発令ワークフロー

異動・昇進・発令の承認ルートが条件によって分かれる場合は、標準のワークフローで設定できるかを確認します。

  • 複数承認:等級や異動先によって複数の承認者が必要です。
  • グループ横断:グループ会社や事業部をまたぐ決裁ルールがあります。

たとえば、特定等級の社員が異動する際は、A部門長とB子会社の役員の両方が承認するルールがあります。こうした分岐は、SaaSの標準機能では設定しきれないことがあります。

異動履歴や発令情報は社員マスタの一部です。承認とマスタ更新は密接につながっているため、運用に合わせて正確に作り込む必要性が高い企業では、ワークフローの複雑さが、標準サービスとフルスクラッチを分ける判断材料になります。

特に、グループ会社間の人事や、事業部制で複雑な決裁ルールを持つ大企業では、独自の発令ワークフローが選定の決め手になることがあります。

ポイント

独自の組織や手当、基幹連携、発令ワークフローを標準機能で表せない場合にだけ、フルスクラッチを検討する価値があります。その前に、要件を標準機能で代替できるかを確かめます。

フルスクラッチのメリット・デメリット

フルスクラッチには自由度の高さという利点がある一方で、コストや保守の負担もあります。長期にわたって使う基盤システムだからこそ、両面を理解して判断する必要があります。

メリット:自社要件への完全適合とガバナンス

最大の強みは、自社特有の要件に完全に合わせられることです。業務や人事制度を妥協せずに反映できるほか、管理体制も自社の基準で設計できます。

  • 要件への適合:業務フローや既存システムに合わせて構成し、他システムとの連携にも対応できます。
  • 制度の反映:等級、組織、発令ワークフローを人事戦略に合わせ、社員マスタに反映します。
  • ガバナンス:オンプレミスではデータを社内にとどめて管理します。

人事管理システムは、マイナンバーや評価情報など機密性の高いデータを扱います。オンプレミスなら、外部ネットワークに依存しない厳格な管理が可能です。

クラウドに機密データを預けることに強い懸念がある企業にとって、自社内で完結するガバナンスは、方式を選ぶ動機になります。

デメリット:初期費用・保守負担・法改正追随

デメリットは、導入時の費用と、導入後の負担の両方に現れます。人事管理システムでは、法改正への追随も特に重い負担になります。

  • 導入負担:サーバー準備や独自構築で初期費用が高くなります。
  • 運用負担:保守やセキュリティ対策、更新を自社側で行います。
  • 法改正対応:改正のたびに要件定義と改修が必要です。

運用には、専門知識を持つIT担当者の確保が必要で、人的コストも相応にかかります。税制や社会保険、労働法の改正は頻繁です。

雇用保険料率やマイナンバー制度、育児・介護休業法への対応も発生します。SaaSではベンダーが無償で更新する一方、フルスクラッチでは改修費が都度かかります。

法改正は避けられず、時期や規模も読みにくいため、予算計画が難しくなります。継続的な負担を担える体制が必要です。

ポイント

自社要件への適合やガバナンスの利点と、初期費用や保守、法改正対応の負担を並べ、長く使う基盤として、その負担を自社が担い続けられるかで判断します。

フルスクラッチ開発の費用感

オンプレミス型の初期費用、大規模な完全開発、初期導入費用に対する年間保守の3項目を示す図
開発規模が大きくなると初期投資の幅も広がります。

フルスクラッチを検討するうえで、費用は避けて通れない問題です。初期投資がSaaSより大きく保守費も続くため、比較には総所有コスト(TCO)を使います。

初期費用とランニングコストの目安

費用は、開発規模や方式によって幅があります。比べるときは、初期費用と定常保守、追加改修を分けて考えることが大切です。

  • オンプレミス型の初期費用:ライセンス、サーバー構築、カスタマイズ込みで数百万円〜数千万円規模です。
  • 大規模な完全開発:社員マスタ基盤をゼロから作る場合、数千万円から数億円にのぼることもあります。
  • 年間保守:初期導入費用の10%から20%程度が継続します。
  • SaaS・パッケージ:初期10万円から30万円未満、月額1名あたり300円から1,000円程度、または月額固定で数万円からが目安です。

たとえば初期費用3,000万円のシステムでは、年間保守費を300万円から600万円程度と見込みます。法改正や組織改編に伴う改修費は、定常保守とは別に、その都度発生します。

SaaSなどのクラウド型は初期投資を抑えられます。ただし、利用料は月額で継続して支払うことになります。月額利用料には、従業員1名あたりで課金する方式と、固定額の方式があります。初期費用の桁違いの差も、フルスクラッチを選ぶかどうかを左右する判断材料です。

SaaSとのTCO比較と損益分岐

損益分岐は、社員規模と利用期間によって変わります。そのため、利用料と初期費用、保守費を同じ期間で試算することが欠かせません。

  • 大規模・長期利用:SaaSの累積利用料が膨らみ、フルスクラッチが安くなる場合があります。
  • 数十名から数百名:SaaSの累積費用が初期投資を上回ることはまれで、SaaSが圧倒的に有利です。

SaaSは従業員数に応じた月額課金が中心です。特に、数万名規模で複数のグループ会社を抱える超大手では、従量課金の5年・10年TCOが莫大になることがあります。数千万円以上を投じて自社資産として持つほうが、安く済む場合もあります。

自社の社員規模と想定する利用年数をもとに、SaaSの累積利用料とフルスクラッチの初期費用・保守費を、具体的に試算します。感覚に頼らず、TCOで損益分岐を見極めます。

ポイント

費用は初期費用だけでなく、保守やSaaSの累積利用料を同じ期間で比べたTCOで見ます。社員規模と利用年数によって損益分岐が変わるため、自社の数字で試算することが欠かせません。

パッケージ・SaaSとの使い分け基準

各方式が向く企業の特徴を、自社の要件や体制、人事制度の独自性に照らして見ていきます。

SaaS・パッケージが向いているケース

コストや導入の速さ、法改正への対応を重視し、標準化で業務を効率化したい企業には、SaaSやパッケージが合っています。

  • 法改正への対応:ベンダーによる更新を継続して受けたい企業。
  • ITリソース:システムの維持管理に人員を割けない企業。
  • 運用の標準化:独自ルールを見直しても、効率化を進めたい企業。

人事制度の標準化は、妥協に見えることもあります。しかし、業務の属人化を解消し、管理しやすい運用へ移るきっかけにもなります。

中小企業や標準的な人事運用の企業は、社員マスタを一つにまとめて管理できます。まずSaaSを使い、標準機能で満たせない要件が明確になった段階で、カスタマイズやフルスクラッチを検討する進め方が堅実です。

フルスクラッチが向いているケース

独自の人事戦略が競争力である企業や、超大手・グループ企業は候補になります。標準仕様に合わせると、独自の評価や配置が損なわれる場合があります。その強みを守るには、フルスクラッチで社員マスタ基盤を作り込む価値があります。

  • 独自の人事戦略:評価や配置の仕組みが競争力の一部になっている企業。
  • 大規模な利用:数万名規模で複数グループ会社を抱える企業。

大規模企業では、従量課金の5年・10年TCOが莫大になり、数千万円以上の投資で自社資産化したほうが安いと判断される場合があります。

全面的な自社開発へ進む前に、SaaSの必須機能(Must要件)を洗い出します。そのうえで、標準機能で代替できないかを検証し、費用対効果に見合う場合に限って開発します。

「本当にフルスクラッチでなければ実現できないのか」を確かめることが、後悔のない選択につながります。

ポイント

自社の人事制度の独自性と体制に照らし、まずSaaSで標準機能の範囲を確かめ、足りない要件が明確になった段階でフルスクラッチを検討するのが無理のない判断です。

まとめ

人事管理システムは、社員情報をまとめて管理し、採用・勤怠・給与・評価などをつなぐ人事情報の基盤(HRIS)です。フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、その基盤を自社の制度に合わせて作り込む方式です。

独自の組織や手当、基幹連携、発令ワークフローは、フルスクラッチを検討する要因になります。利点は自社要件への適合とガバナンスで、負担は初期費用や年間保守、法改正対応です。

オンプレミスの初期費用は数百万円から数千万円規模で、大規模な完全開発では数千万円から数億円に及ぶ場合があります。年間保守費は初期費用の10%から20%程度です。

SaaS・パッケージは初期10万円から30万円未満、月額1名あたり300円から1,000円程度、または月額固定で数万円からが目安です。社員規模と利用年数によって、TCOの損益が分かれます。

SaaSのMust要件を確認し、標準機能で代替できないか、費用対効果に見合うかを検証してから方式を決めます。複数の開発会社に相談し、TCOを試算することから始めてください。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。