人事管理システムは、社員の氏名・住所・扶養家族・マイナンバーといった基本情報、入社から異動・昇進・退職に至る人事異動の履歴、組織図や部署構成、保有資格やスキルの台帳、雇用契約の条件などを一つのデータベースに集約して一元管理する、人事情報の基盤(HRIS)です。採用管理(応募者管理を担うATS)、勤怠管理(労働時間の集計)、給与計算(賃金の算定)、人事評価(考課プロセス)といった個別の人事関連システムは、この社員マスタを参照・連携しながら動いており、人事管理システムはそれらの中核となる「ハブ」の役割を担います。近年はSmartHRやカオナビ、ジンジャー、freee人事労務といった優れたクラウドサービスが数多く登場し、多くの企業がこれらのSaaSやパッケージで社員マスタの管理を実現しています。しかし、独自の組織構造や複雑な人事制度、既存基幹システムとの密な連携を必要とする企業では、標準的なサービスでは要件を満たしきれず、自社専用にゼロから作り込むフルスクラッチ・オーダーメイド開発が選択肢に上がります。
本記事では、人事管理システム開発における「フルスクラッチ・オーダーメイド開発」に焦点を当て、フルスクラッチ・パッケージ・SaaSの違い、SaaSでは対応しきれずフルスクラッチが選ばれる典型ケース、フルスクラッチのメリット・デメリット、費用感、そしてパッケージ・SaaSとの使い分け基準までを、具体的に解説します。これから社員マスタ基盤の構築や刷新を検討している人事部門・情報システム部門の担当者はもちろん、SaaSとフルスクラッチのどちらを選ぶべきか迷っている方にとっても、自社に最適な選択を見極めるための判断軸となる内容です。
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人事管理システムにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発とは

フルスクラッチ・オーダーメイド開発とは、既存のパッケージやSaaSを使わず、自社の要件に合わせて社員マスタのデータモデル、組織・権限、発令ワークフロー、周辺システム連携までをゼロから設計・開発する方式です。人事管理システムにおいては、社員に関するあらゆる情報の基盤であり、他の人事関連システムのハブとなる存在だからこそ、自社の人事運用に完全にフィットさせたいというニーズが生まれます。ただし、フルスクラッチは自由度が高い反面、初期費用も保守負担も大きくなるため、安易に選ぶべきものではありません。まずは、フルスクラッチ・パッケージ・SaaSという3つの選択肢の違いを正しく理解し、自社にとってフルスクラッチが本当に必要かを見極めることが出発点になります。
フルスクラッチ・パッケージ・SaaSの違い
人事管理システムを導入する方式は、大きくSaaS、パッケージ、フルスクラッチの3つに分けられます。SaaSは、ベンダーが提供するクラウドサービスをそのまま利用する方式で、初期費用が安く導入が速い一方、標準の機能やデータモデルに自社の運用を合わせる必要があります。パッケージは、既製のソフトウェアをベースに一定のカスタマイズを加えて導入する方式で、SaaSより自由度が高く、フルスクラッチより安価に収まります。フルスクラッチは、すべてをゼロから自社専用に作る方式で、自由度が最も高い代わりに、初期費用と開発期間、保守負担が最も大きくなります。人事管理システムの場合、多くの企業はSaaSかパッケージで要件を満たせますが、独自性の強い人事制度を持つ企業や、社員マスタを全社システムの中核ハブとして高度に作り込みたい企業では、フルスクラッチが検討されます。重要なのは、「自由度が高い=良い」ではなく、自社の要件と体力に見合った方式を選ぶことです。フルスクラッチは、それを選ぶだけの明確な理由があって初めて正解になります。
社員マスタ基盤をフルスクラッチする意味
人事管理システムをフルスクラッチで開発する意味は、社員マスタという基盤を自社の人事戦略に完全に一致させられる点にあります。人事管理システムは単なるマスタ情報の保管庫ではなく、採用から給与、勤怠、社内ポータルまで、全てのシステムの中核(ハブ)として機能します。この中核部分を自社専用に設計できれば、独自の等級制度や配置戦略、複雑な組織運営を、そのままシステムに落とし込めます。SaaSでは、標準のデータモデルに合わせるために、自社独自の運用を諦めたり、システムに業務を合わせたりする必要がありますが、フルスクラッチであればその制約がありません。ただし、この自由度は「作り込むほど保守が重くなる」という代償を伴います。人事領域は法改正が頻繁で、組織も変わり続けるため、フルスクラッチで固定的に作り込むと、変更対応のたびにコストがかさみます。社員マスタ基盤をフルスクラッチする際は、変わらない自社の強みは作り込み、変わりやすい制度や組織は柔軟に設定変更できる構造にするという、メリハリのある設計が求められます。
フルスクラッチが選ばれる典型ケース

SaaSやパッケージは優れた標準機能を持っていますが、いくつかの要件が重なると、標準の仕様(データモデルや権限管理)では吸収しきれず、フルスクラッチ開発が選ばれる要因となります。ここでは、人事管理システムをフルスクラッチで開発する判断に至る典型的なケースを、社員マスタ基盤ならではの観点から整理します。自社がこれらのケースに当てはまるかを確認することが、方式選択の指針になります。
独自の組織構造・複雑な手当や雇用形態
フルスクラッチが選ばれる最も典型的なケースが、SaaSの標準的なデータベース構造では当てはめきれない、独自の組織構造や複雑な人事制度を持つ企業です。たとえば、複数の事業をまたぐマトリクス組織や、複数社にわたる出向・兼務が常態化している企業、独自の等級制度や、職種・地域・役職ごとに細分化された手当テーブルを運用している企業などが該当します。SaaSは多くの企業に共通する標準的な人事運用を前提に設計されているため、こうした独自性の強い制度を無理に当てはめようとすると、データモデルの制約にぶつかり、運用でカバーしきれない部分が残ります。社員マスタは全社の人事情報の土台であるため、ここで自社の制度を正確に表現できないと、給与計算や配置管理など、マスタを参照する下流の業務すべてに歪みが生じます。自社の人事制度が競争力の源泉であり、それをシステムに合わせて変えることができない場合には、フルスクラッチで制度を忠実に再現できる社員マスタを構築する意義が大きくなります。
既存基幹システムとの密連携とハブ機能
2つ目の典型ケースは、既存の基幹システムとの密な連携が求められる場合や、人事管理システムを全社システムの中核ハブとして高度に機能させたい場合です。独自のレガシー基幹システムや生産管理システムと、標準的なAPIが用意されていない特殊なインターフェースで、リアルタイムかつ双方向のデータ連携を行わなければならないケースでは、SaaSの汎用的な連携機能では対応しきれません。また、人事管理システムが単なるマスタの保管庫ではなく、採用から給与、勤怠、社内ポータルまで全てのシステムの中核として、複雑なデータ変換や配信のロジックをシステム内部で処理する必要がある場合も、フルスクラッチが適しています。社員マスタをハブとして、各システムへ最新の情報を正確に配信し、各システムからの更新を受け止めるという役割を、自社の複雑な業務要件に合わせて作り込めるのがフルスクラッチの強みです。連携先が多く、かつその連携ロジックが自社固有で複雑であるほど、標準サービスでは限界があり、フルスクラッチで中核基盤を構築する必然性が高まります。
独自の異動・発令ワークフロー
3つ目の典型ケースは、独自の異動・発令ワークフローを持つ企業です。人事異動や昇進、発令の承認プロセスは、企業によって大きく異なります。たとえば「この等級の社員がこの部署に異動する場合は、A部門長とB子会社の役員の両方の承認が必要」といった、複数の承認ルートが条件によって分岐する複雑なルールを持つ企業では、SaaSの標準的なワークフロー機能では設定しきれないことがあります。人事管理システムは異動履歴や発令情報を社員マスタの一部として管理するため、承認ワークフローがマスタ更新と密接に結びついており、この部分を自社の運用に合わせて正確に作り込む必要性が高い企業ほど、フルスクラッチが選ばれやすくなります。特に、グループ会社をまたぐ人事や、事業部制のもとでの複雑な決裁ルールを持つ大企業では、発令ワークフローの独自性が、フルスクラッチを選ぶ決め手になることがあります。ワークフローの複雑さは、標準サービスとフルスクラッチを分ける重要な判断ポイントの一つです。
フルスクラッチのメリット・デメリット

フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、自由度の高さという大きなメリットがある一方で、コストや保守負担といった無視できないデメリットも抱えています。人事管理システムのように長期にわたって使い続ける基盤システムでは、これらのメリット・デメリットを正確に理解したうえで判断することが不可欠です。ここでは、両面を具体的に整理します。
メリット:自社要件への完全適合とガバナンス
フルスクラッチの最大のメリットは、自社特有の要件へ完全に適合させられる点です。自社の業務フローや既存システムに合わせて柔軟に構成を調整でき、他システムとの連携もしやすいため、自社の人事運用に最適な環境を構築できます。独自の等級制度や複雑な組織構造、固有の発令ワークフローを、運用で妥協することなくシステムに落とし込めるため、社員マスタを自社の人事戦略と完全に一致させられます。もう一つの重要なメリットが、セキュリティとガバナンスの観点です。人事管理システムはマイナンバーや評価情報といった極めて機密性の高いデータを扱うため、データの管理体制を自社の基準で厳格にコントロールしたいというニーズがあります。フルスクラッチでオンプレミス環境に構築する場合、すべてを社内で管理でき、外部ネットワークに依存しない厳格なセキュリティ管理が可能になります。機密性の高い人事データを社外のクラウドに預けることに強い懸念がある企業にとって、この自社完結のガバナンスは、フルスクラッチを選ぶ大きな動機になります。
デメリット:初期費用・保守負担・法改正追随
フルスクラッチのデメリットは、まず初期費用の高額化と保守負担の大きさです。サーバーの準備や独自のシステム構築が必要になるため、導入コストが跳ね上がります。さらに、サーバーの運用保守、セキュリティ対策、システムアップデートをすべて自社(または委託先)で実施しなければならず、専門知識を持つIT担当者の確保が必須となり、人的コストも相応に高くなります。人事管理システム特有のデメリットとして特に重いのが、法改正への追随です。人事領域は税制や社会保険、労働法の改正が頻繁にあり、雇用保険料率の変更やマイナンバー制度のアップデート、育児・介護休業法の改正などが毎年のように発生します。SaaSであればベンダーがシステムを無償でアップデートしてくれますが、フルスクラッチの場合は、法改正のたびに自社で要件定義とシステム改修を行う必要があり、都度追加費用が発生します。この法改正対応は避けられないうえ、発生時期や規模を読みにくいため、予算計画を難しくします。フルスクラッチを選ぶなら、こうした継続的な負担を担い続けられる体制があるかどうかを、事前に冷静に見極める必要があります。
フルスクラッチ開発の費用感

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討するうえで、避けて通れないのが費用の問題です。SaaSと比べて初期投資が大きく、その後の保守費も継続的に発生するため、長期的な総所有コスト(TCO)で捉えることが重要になります。ここでは、フルスクラッチの初期費用とランニングコストの目安、そしてSaaSとのTCO比較の考え方を解説します。
初期費用とランニングコストの目安
フルスクラッチ・オンプレミス型の人事管理システムの初期費用は、ソフトウェアライセンス、サーバー構築、カスタマイズ費用などを含めて、数百万円から数千万円規模になるのが一般的です。完全なフルスクラッチで、大規模な社員マスタ基盤をゼロから開発する場合には、数千万円から数億円にのぼることも珍しくありません。ランニングコストとしては、SaaSのような月額のシステム利用料はないものの、サーバー維持やシステム保守契約として、初期導入費用の10%から20%程度が年間で継続的に発生します。たとえば初期費用が3,000万円のシステムであれば、年間保守費として300万円から600万円程度を見込む必要があります。加えて、前述の法改正対応や組織改編に伴う改修費が、この定常保守とは別に都度発生します。一方、比較対象となるSaaS・パッケージ型は、クラウド型であれば初期投資を抑えられ、初期費用は10万円から30万円未満、月額利用料は従業員1名あたり300円から1,000円程度、あるいは月額固定で数万円からが目安です。この初期費用の桁違いの差が、フルスクラッチを選ぶかどうかの重い判断材料になります。
SaaSとのTCO比較と損益分岐
フルスクラッチとSaaSのどちらが割安かは、社員規模と利用期間によって変わります。SaaSは従業員数に応じた月額課金が中心のため、社員数が多いほど、また長く使うほど、累積の利用料が膨らみます。一方フルスクラッチは、初期投資こそ大きいものの、その後は自社資産として大きな月額費用なく使い続けられます。このため、数万名規模かつ複数のグループ会社を抱える超大手企業の場合、SaaSの従量課金プランでは5年・10年スパンでのTCOが莫大になり、数千万円以上の初期投資をしてフルスクラッチ開発(自社資産化)したほうが、結果的に安く済むという損益分岐点を超えることがあります。逆に、社員数が数十名から数百名規模の企業では、SaaSの累積コストがフルスクラッチの初期投資を上回ることはまれで、SaaSの方が圧倒的に有利です。判断にあたっては、自社の社員規模と想定利用年数を前提に、SaaSの累積利用料とフルスクラッチの初期費用+保守費を具体的な数字で試算し、どこで損益が分岐するかを見極めることが欠かせません。感覚ではなく、TCOの試算に基づいて選択することが重要です。
パッケージ・SaaSとの使い分け基準

フルスクラッチとSaaS・パッケージのどちらを選ぶべきかは、自社の要件、体制、そして人事制度の独自性をどう捉えるかによって決まります。ここでは、それぞれがどのような企業に向いているのかという使い分けの基準を整理します。この基準に自社を照らし合わせることで、最適な方式が見えてきます。
SaaS・パッケージが向いているケース
SaaS・パッケージが向いているのは、コストとスピード、法改正対応を重視する企業です。常に最新の法制度に対応したシステムを使いたい企業や、システムの維持管理にITリソースを割く余裕がない企業にとって、ベンダーが法改正対応やセキュリティ更新を継続してくれるSaaSは、大きな安心と効率をもたらします。また、自社独自の複雑な人事ルールを、運用の見直しによってでも標準化・効率化したいと考えられる企業にも、SaaSは適しています。人事制度をシステムに合わせて標準化することは、一見すると妥協のように見えますが、実際には業務の属人化を解消し、シンプルで管理しやすい運用へと転換する好機にもなります。多くの中小企業や、標準的な人事運用を行っている企業では、SaaS・パッケージで社員マスタの一元管理という目的は十分に達成でき、フルスクラッチの初期投資や保守負担を負う必要はありません。まずはSaaSで始め、どうしても標準機能で満たせない要件が明確になった段階で、初めてカスタマイズやフルスクラッチを検討するというアプローチが、堅実で失敗の少ない進め方です。
フルスクラッチが向いているケース
フルスクラッチが向いているのは、独自の人事戦略が絶対的な競争力である企業と、超大手・グループ企業群です。SaaSの標準仕様に業務を合わせることで、自社の強みである独自の人事評価や配置の仕組みが損なわれてしまう企業では、その強みを守るためにフルスクラッチで社員マスタ基盤を作り込む価値があります。また、数万名規模かつ複数のグループ会社を抱える企業では、SaaSの従量課金プランでは5年・10年スパンのTCOが莫大になるため、数千万円以上の初期投資をしてフルスクラッチで自社資産化したほうが、結果的に安く済むと判断される場合があります。ただし、フルスクラッチが向いているケースであっても、いきなり全面的な自社開発に踏み切るのは得策ではありません。推奨されるアプローチは、まずSaaSの必須機能(Must要件)を洗い出し、自社の要件が標準機能でどうしても代替できないかを検証したうえで、費用対効果に見合う場合にのみフルスクラッチに踏み切るという段階的な判断です。「本当にフルスクラッチでなければ実現できないのか」を突き詰めて検証することが、後悔のない選択につながります。
まとめ

本記事では、社員の基本情報・マスタデータを一元管理する人事情報の基盤(HRIS)としての人事管理システムについて、フルスクラッチ・オーダーメイド開発の観点から解説しました。人事管理システムは採用・勤怠・給与・評価といった周辺システムがマスタを参照・連携するハブであり、その中核を自社の人事戦略に完全に一致させたい場合にフルスクラッチが選択肢となります。SaaSでは吸収しきれない独自の組織構造や複雑な手当・雇用形態、既存基幹システムとの密連携、独自の発令ワークフローを持つ企業が、フルスクラッチの典型的な候補です。メリットは自社要件への完全適合と自社完結のガバナンス、デメリットは数百万〜数億円規模の初期費用・年間保守費(初期の10〜20%)・法改正への自社対応です。SaaSは初期10万〜30万円・月額1名あたり数百円が目安で、社員規模と利用年数によってはフルスクラッチとの損益が分岐します。まずはSaaSのMust要件を洗い出し、標準機能で代替できないかを検証したうえで、費用対効果に見合う場合にのみフルスクラッチに踏み切ることをお勧めします。最適な方式を見極めるためにも、複数の開発会社に相談し、TCOを試算することから始めてください。
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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
