人事管理システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

人事管理システムは、社員の氏名・住所・扶養家族・マイナンバーといった基本情報、入社から異動・昇進・退職に至る人事異動の履歴、組織図や部署構成、保有資格・スキルの台帳、雇用契約の条件などを一つのデータベースに集約して一元管理する、人事情報の基盤(HRIS)です。採用管理(応募者管理を担うATS)、勤怠管理(労働時間の集計)、給与計算(賃金の算定)、人事評価(考課プロセス)といった個別の人事関連システムは、この社員マスタを参照・連携しながら動いており、人事管理システムはそれらの中核となる「ハブ」の役割を担います。この基盤としての位置づけは、導入時の初期開発だけでなく、稼働後の保守・運用にも大きな意味を持ちます。社員マスタは組織改編や人事異動、法制度の改正に合わせて常に更新し続けなければならず、その鮮度と正確性を維持するための継続的なコストが発生するからです。

本記事では、人事管理システム開発の「保守・運用費用・ランニングコスト」に焦点を当て、導入形態別のランニングコスト相場、インフラ費やマスタデータメンテナンス・周辺システム連携維持といった費用の内訳、そして法改正への追随や組織改編に伴うマスタ構造変更といった人事管理システム特有の継続コスト要因、さらにランニングコストを抑えるための考え方までを、具体的な金額感とともに解説します。これから社員マスタ基盤の構築や刷新を検討している人事部門・情報システム部門の担当者はもちろん、すでにSaaSかフルスクラッチかを比較検討している方にとっても、初期費用だけでなく総所有コスト(TCO)で判断するための材料となる内容です。

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人事管理システムのランニングコストの全体像

人事管理システムのランニングコストの全体像

人事管理システムの費用を考えるとき、多くの企業は初期の開発・導入費用に目を向けがちですが、実際にはリリース後に継続的に発生するランニングコストの方が、長期的な負担として大きな意味を持ちます。社員マスタは全社の人事関連システムの土台であるため、いったん稼働を始めたら止めることができず、社員の入退社や組織改編、法制度の変更に合わせて更新し続けなければなりません。この「維持し続けるためのコスト」を初期段階で見落とすと、稼働後に想定外の出費が積み重なることになります。ランニングコストは導入形態によって構造が大きく異なり、SaaS型では月額利用料に多くが含まれる一方、フルスクラッチやオンプレミス型では保守契約やインフラ維持、法改正対応などを個別に負担する必要があります。

社員マスタ基盤を維持し続けるということ

人事管理システムのランニングコストが他の業務システムと異なるのは、扱うデータが「常に変わり続ける社員情報」だという点にあります。社員は毎月のように入社・退社し、期の変わり目には大規模な組織改編や人事異動が発生します。扶養家族の増減、住所変更、資格の取得、雇用形態の変更なども日常的に起こります。これらの変化を漏れなくシステムへ反映し続けなければ、社員マスタの鮮度が落ち、給与計算や勤怠管理など連携先のシステムにも誤ったデータが流れてしまいます。つまり人事管理システムの維持とは、単なるサーバーの稼働維持ではなく、「正確で最新のマスタを保ち続けるための運用」を含むのです。この運用には人事部門の継続的な工数が必要であり、システムの保守費用と人的な運用コストの両方を、ランニングコストとして見込んでおく必要があります。

初期費用とランニングコストをTCOで捉える

人事管理システムの費用を正しく判断するには、初期費用とランニングコストを合算した総所有コスト(TCO=Total Cost of Ownership)で捉える視点が欠かせません。初期費用が安く見えても、毎月・毎年のランニングコストや、法改正・組織改編のたびに発生する改修費が積み重なれば、数年単位のトータルでは高くつくことがあります。逆に、初期投資は大きくても、その後の維持費が抑えられる形態であれば、長期的には割安になる場合もあります。特に人事管理システムは、一度導入すると5年、10年と長期にわたって使い続ける基盤システムであるため、単年度の費用ではなく、想定する利用期間全体での費用を試算することが重要です。SaaS型は初期費用を抑えられる一方で従業員数に応じた月額が継続し、フルスクラッチ型は初期投資が大きい代わりに月額の従量課金がない、といった構造の違いを踏まえ、自社の社員規模と利用期間に照らしてTCOを比較することが、後悔しない選択につながります。

導入形態別のランニングコスト相場

導入形態別のランニングコスト相場

人事管理システムのランニングコストは、SaaS型かフルスクラッチ・オンプレミス型かによって、金額の構造が根本的に異なります。SaaS型は月額利用料に多くの保守が含まれるのに対し、フルスクラッチ・オンプレミス型は保守契約やインフラ維持を個別に負担します。ここでは、それぞれの形態でどの程度のランニングコストがかかるのか、相場感を整理します。

SaaS型:月額利用料に保守が内包

クラウドSaaS型の人事管理システムは、サーバー利用料やインフラの保守費用、基本的なシステムアップデート費用が、月額のシステム利用料に最初から含まれているのが一般的です。初期費用は10万円から30万円未満に収まるケースが最も多く、月額利用料は従業員1名あたり300円から500円未満が中心的な価格帯です。たとえば従業員100名の企業であれば、月額数万円程度からの利用が可能で、初期投資を大きく抑えられます。SaaS型の最大の利点は、法改正への対応やセキュリティアップデート、機能改善がベンダー側で継続的に行われ、その費用が月額に含まれている点です。人事・労務領域は法改正が頻繁に発生しますが、SaaSであれば自社で対応する必要がなく、追加費用も基本的に発生しません。ただし、既存データからの移行作業や初期設定をベンダーに依頼する場合には、別途10万円から30万円程度の費用が発生することがあり、オプション機能や上位プランを選ぶと月額単価が上がる点には留意が必要です。

フルスクラッチ・オンプレミス型:年間保守は初期費用の10〜20%

自社独自の社員マスタ基盤をフルスクラッチで開発したり、オンプレミスで自社構築したりする場合、ランニングコストの目安は「初期導入費用の10%から20%程度」が年間保守費用となるのが一般的です。初期費用がサーバー構築やカスタマイズを含めて数百万円から数千万円規模になるため、たとえば初期費用が2,000万円のシステムであれば、年間保守費として200万円から400万円程度を継続的に見込む必要があります。この保守費用には、システムの安定稼働を維持するための監視・障害対応、軽微な不具合修正、セキュリティパッチの適用などが含まれます。SaaS型と異なり、サーバーの運用保守やセキュリティ対策、システムアップデートをすべて自社(または委託先)で実施する必要があるため、専門知識を持つIT担当者の人件費、あるいは外部の保守契約費が継続的に発生します。さらに、後述する法改正対応や大規模な組織改編に伴う改修は、この定常的な保守費とは別に、都度発生する費用として上乗せされる点に注意が必要です。

保守・運用費用の内訳

保守・運用費用の内訳

人事管理システムの保守・運用費用は、いくつかの要素に分解して考えると、どこにコストがかかるのかが見えてきます。特にフルスクラッチやオンプレミス型では、これらの要素を個別に負担することになるため、内訳を理解しておくことが正確な予算計画につながります。ここでは、インフラ費・セキュリティ監査、マスタデータメンテナンスの運用工数、周辺システム連携の維持コストという3つの主要な内訳を見ていきます。

インフラ費・セキュリティ監査

オンプレミス型やフルスクラッチ型の場合、サーバーの運用保守、セキュリティ対策、システムアップデートをすべて自社で実施する必要があり、これらに専門知識を持つIT担当者の人的コスト、または外部の保守契約費が継続的に発生します。人事管理システムはマイナンバーや社会保険情報、扶養家族の情報といった極めて機密性の高い個人情報を大量に扱うため、セキュリティの維持は最優先事項です。定期的な脆弱性診断やセキュリティ監査、アクセスログの監視、暗号化の維持、不正アクセス対策など、金融システムに準ずるレベルの対策が求められることも少なくありません。これらのセキュリティ関連費用は、一般的な業務システムよりも手厚くなる傾向があり、その分ランニングコストにも反映されます。クラウド型を選ぶ場合、インフラの保守やセキュリティ対策の大部分はベンダー側が担うため、この領域の自社負担は大きく軽減されますが、その代わりに信頼できるベンダーの選定と、データの取り扱いに関する契約内容の確認が重要になります。

マスタデータメンテナンスの運用工数

人事管理システムのランニングコストで見落とされがちなのが、社員マスタを最新に保つための運用工数です。システム導入後も、社員の入退社に伴う情報の登録・更新、住所変更や扶養家族の変更、資格取得や雇用形態の変更といったメンテナンス業務が日常的に発生します。これを怠るとマスタデータが古くなり、システムが「使えるデータの集まり」から「信頼できない名簿」に劣化してしまい、せっかくの投資が無駄になります。このメンテナンスを担うのは人事部門や兼任担当者であり、その人件費は目に見えにくいものの、確実に発生する運用コストです。逆に言えば、人事管理システムをうまく設計すれば、入社・異動・退職の情報を一度登録するだけで、その最新のマスタが給与・勤怠・採用など各システムへ自動的に同期されるため、部門ごとの二重入力や手作業でのデータ移し替えが不要になり、全社的な運用工数を大幅に削減できます。マスタメンテナンスの工数を最小化する設計こそが、長期的なランニングコストを抑える要になります。

周辺システム連携の維持コスト

人事管理システムを社員マスタのハブとして機能させている場合、勤怠管理・給与計算・採用管理などとの連携を維持するためのコストも継続的に発生します。人事システムをこれらの周辺システムと連携させるには、API等の連携仕様の確認や、場合によっては追加のオプション費用(開発費)が必要です。さらに厄介なのが、連携先システムの仕様変更への追随です。給与システムや勤怠システム、外部の求人媒体などがAPI仕様をアップデートした際、自社開発のシステムであれば、その都度連携部分の改修が必要になり、数十万円規模の費用が突発的に発生することがあります。連携先が多いほど、この種の維持コストは積み重なります。SaaS型であれば、主要な外部サービスとの連携はベンダー側が保守してくれることが多いため、この負担は軽減されますが、フルスクラッチで独自の連携を数多く作り込んだ場合は、その一つひとつが将来の保守対象となることを念頭に置く必要があります。連携の設計段階で、変更に強い疎結合な作りにしておくことが、維持コストの抑制につながります。

人事管理システム特有の継続コスト要因

人事管理システム特有の継続コスト要因

人事管理システムには、法制度や組織の変更に常に追随しなければならないという特殊性があり、これがフルスクラッチ・オンプレミス型では大きな継続コストになります。一般的な業務システムであれば「作ったら基本的にそのまま使える」ものも多いのですが、人事・労務領域は制度改正が頻繁で、組織も生き物のように変わり続けます。ここでは、人事管理システムならではの継続コスト要因を2つ取り上げます。

法改正・制度改正への追随

人事管理システムが扱う領域は、雇用保険料率の変更、マイナンバー制度のアップデート、電子帳簿保存法、育児・介護休業法の改正など、法改正が頻繁に行われます。社会保険や労働法に関わる制度変更は毎年のように発生し、そのたびにシステムを最新の制度に合わせて対応させる必要があります。SaaS型であれば、こうした法改正に合わせてベンダー側がシステムを無償でアップデートしてくれるため、利用企業は追加負担なく最新の制度に準拠できます。これはSaaS型の大きなメリットです。一方、フルスクラッチ開発の場合は、法改正のたびに自社で要件定義と追加開発を行う必要があり、都度数十万円から数百万円規模の改修コストが突発的に発生します。しかも、これらは「いつ・どの程度の規模で発生するか」を事前に読みにくいため、年度予算に織り込みづらいという難しさもあります。フルスクラッチを選ぶ場合は、この法改正対応コストを毎年の見えない保守費用として想定し、対応してくれる開発パートナーを継続的に確保しておくことが不可欠です。

組織改編・人事異動に伴うマスタ構造の変更

もう一つの人事管理システム特有の継続コスト要因が、組織改編や大規模な人事異動に伴うマスタ構造の変更です。マトリクス組織の導入や、事業部の統廃合、グループ会社の再編といった大きな組織変更が行われると、社員マスタの構造そのものや、部署・役職の体系、権限設定を作り変える必要が出てくることがあります。システムの権限設定やワークフロー設計が柔軟でない場合、こうした変更のたびにベンダーへ設定変更やカスタマイズを依頼することになり、これがオプション費用(隠れコスト)として発生します。特にフルスクラッチで組織構造を固定的に作り込んでしまうと、将来の組織変更に対応するための改修費が想定以上にかさむことがあります。この観点からは、設計段階で「組織は必ず変わる」という前提に立ち、部署や役職の追加・変更を運用側の設定で柔軟に行える構造にしておくことが、長期的な継続コストを抑えるうえで極めて重要です。組織の変化に強い設計かどうかが、稼働後の維持費を大きく左右します。

ランニングコストを抑えるポイント

ランニングコストを抑えるポイント

人事管理システムのランニングコストは、導入形態の選択と保守契約の設計次第で大きく変わります。初期費用の安さだけで判断せず、長期にわたって発生する維持費まで見据えた選択をすることが、結果的にコストを抑えることにつながります。ここでは、ランニングコストを抑えるための2つの実践的なポイントを解説します。

SaaSとフルスクラッチのTCO比較

ランニングコストを抑える第一歩は、SaaSとフルスクラッチのTCOを冷静に比較することです。人事管理システムをフルスクラッチで独自要件を満たそうとすると、初期費用だけでなく、法改正への対応やセキュリティ維持にかかる見えない保守費用が膨張しやすい傾向があります。一方SaaS型は、月額数百円から利用でき、法改正対応やセキュリティアップデートが月額費用に含まれるため、維持費の予測が立てやすく、多くの企業にとって割安になります。まずは、自社の要件がSaaSの標準機能でどこまで満たせるかを検証し、SaaSで対応可能ならばそれを軸に据えるのが賢明です。ただし、数万名規模で複数のグループ会社を抱える超大手企業の場合は、SaaSの従業員数連動の課金が長期的に膨らみ、5年・10年スパンで見るとフルスクラッチの方がTCOで有利になる損益分岐点を超えることもあります。自社の社員規模と想定利用年数を前提に、両者のTCOを具体的な数字で試算したうえで判断することが、ランニングコスト最適化の基本です。

保守契約範囲の明確化と隠れコスト対策

フルスクラッチやパッケージカスタマイズを選ぶ場合、保守契約の範囲を最初に明確にしておくことが、隠れコストを防ぐ鍵になります。契約時に確認すべきは、定常的な保守費用にどこまでが含まれ、どこからが別料金の追加開発になるのかという線引きです。たとえば「軽微な設定変更は保守内、法改正対応や新機能追加は別見積もり」といった具合に、対応範囲と料金体系を書面で合意しておかないと、稼働後に「これは保守外です」と都度追加費用を請求され、予算が膨らむことになります。特に人事管理システムでは、法改正対応と組織改編対応という発生が避けられない改修があるため、これらをどう扱うかを契約段階で詰めておくことが重要です。あわせて、組織や役職の追加・変更、権限の調整といった日常的なメンテナンスを、ベンダーに依頼せず自社の運用で対応できる設計にしておくことも、隠れコストの抑制に有効です。保守費用は一度契約すると長く続くため、契約内容の精査と、自社で対応できる範囲を広げる設計の工夫が、ランニングコストの安定につながります。

まとめ

人事管理システム開発の保守運用費用まとめ

本記事では、社員の基本情報・マスタデータを一元管理する人事情報の基盤(HRIS)としての人事管理システムについて、保守・運用費用・ランニングコストの観点から解説しました。人事管理システムは採用・勤怠・給与・評価といった周辺システムがマスタを参照・連携するハブであるため、その維持は単なるサーバー運用にとどまらず、正確で最新の社員マスタを保ち続けるための継続的な運用を含みます。導入形態別では、SaaS型はインフラ保守や法改正対応が月額利用料に内包され、初期10万〜30万円・月額1名あたり300〜500円未満が相場です。フルスクラッチ・オンプレミス型は年間保守費が初期費用の10〜20%程度に加え、法改正のたびの改修(数十万〜数百万円)や組織改編に伴うマスタ構造変更の隠れコストが発生します。費用を正しく判断するには、初期費用だけでなくTCOで捉え、SaaSとフルスクラッチを自社の社員規模と利用年数で比較し、保守契約の範囲を明確化することが重要です。まずは自社の要件が標準機能でどこまで満たせるかを検証したうえで、長期的な維持費まで見据えて開発会社に相談することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。