ITシステムの保守監視を外部に委託したり、自社の体制を見直したりするとき、多くの情シス担当者がまず知りたいのは「同じような規模・課題を抱えた企業が、実際にどう監視と障害対応を立て直し、どれだけダウンタイムやコストを減らせたのか」という具体的な事例ではないでしょうか。保守監視は、平時には成果が見えにくく、障害が起きて初めてその価値が問われる領域です。だからこそ、自社に近い導入事例・改善事例こそが、投資判断や体制設計の精度を高めてくれます。
本記事は、ITシステム保守監視の導入事例・改善事例・成功事例を、発注企業(情シス)の視点から掘り下げる「事例特化」の解説です。夜間障害でMTTR(平均復旧時間)が長期化していた現場の立て直し、ひとり情シスが監視と一次対応を外部委託した事例、過剰なSLAを適正化して保守費を削減した事例、そして待機費を新機能開発に振り替える「充填型保守」への移行まで、一次データとあわせて具体的に解説します。なお、保守監視の費用相場や契約形態の全体像をまだ把握していない方は、まずITシステム保守監視の完全ガイドから読むことをおすすめします。読み終えるころには、自社が「どこから着手し、どんな効果を狙うべきか」のイメージが描けるはずです。
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ダウンタイムとMTTRを削減した監視改善事例

保守監視の改善でもっとも分かりやすい成果が出るのが、「ダウンタイムの削減」と「MTTR(平均復旧時間)の短縮」です。監視が手薄な現場では、ユーザーからの「動かない」という連絡で初めて障害に気づき、原因の切り分けに時間を取られ、復旧が後手に回ります。これを死活監視・性能監視・ログ監視で先回りできる体制に変えるだけで、停止回数と1回あたりの停止時間の双方を構造的に減らせます。
停止1回1,200万円の損失を起点に効果を定量化した事例
監視改善の効果を稟議で説明するには、ダウンタイムを金額に換算するのが近道です。総務省の2025年版の統計では、金融・医療・EC系のシステムで5分以上の停止が1回発生すると、平均1,200万円の機会損失につながるとされています。海外の指標でもGartnerの2024年の調査でダウンタイム1分あたり約5,600米ドルの損失という数字が示されており、停止の長さがそのままコストに直結することがわかります。改善事例では、まず自社の「停止1回あたりの損失額」を業務部門と合意し、年間の停止回数とMTTRの実績を出発点に置いています。
たとえば、これまで月3回の障害が発生し、1回あたり平均60分のダウンタイムが出ていた現場を考えます。死活監視と性能監視のアラートを先回り型に組み替え、一次対応の手順書を整備した結果、停止回数が月1回、MTTRが平均20分に短縮できたとします。停止1回1,200万円という単価で機械的に見れば、削減効果は月あたり数千万円規模に達します。事例を読むときは、この自社の数字への置き換えを必ず行い、監視投資が「コスト」ではなく「損失回避の保険」であることを定量で示してください。
夜間障害の「火消し」を24/365体制で立て直した事例
もう一つ典型的なのが、夜間や休日の障害対応が属人化し、特定の担当者の携帯電話に連絡が集中していた現場の立て直しです。この状態は、担当者の心理的負担が大きいだけでなく、その人が不在のときに復旧が止まるという属人化リスクを抱えています。改善事例では、24時間365日の死活監視とリソース監視を外部のMSP(マネージドサービスプロバイダ)に委託し、一定の閾値を超えたら自動でアラートが上がり、一次対応まで肩代わりしてもらう体制に切り替えています。
費用感としては、24時間の緊急障害対応は月10万〜20万円、運用・監視(24/365の死活・リソース監視)は月5万〜20万円が一つの相場です。一見すると固定費の増加ですが、夜間障害1回の損失額や、属人化していた担当者の離職リスクと比較すれば、十分に正当化できる水準です。立て直しに成功した現場は、「平時の待機費」を担当者の安心と事業継続のための保険として位置づけ、経営層に説明しています。監視の自動化により、検知から一次対応開始までのリードタイムが大幅に短縮され、結果として重大障害でも2時間以内の対応開始、24時間以内の完全解決という目標値を安定して達成できるようになっています。
ひとり情シスが監視・一次対応を委託した事例

中小企業で多いのが、情シスが一人または兼任で、本来の企画業務に加えて障害対応や監視まで抱え込んでいるケースです。保守監視を24時間365日内製しようとすると、最低でも複数人のシフト体制が必要になり、監視オペレーターの人月単価60万〜80万円を何人分も抱えることになります。ひとり情シスの現場では、これは現実的ではありません。事例から学べるのは、「何を委託し、何を手元に残すか」の線引きです。
監視・一次対応は委託し、判断は手元に残した事例
成功している事例では、24/365の監視と障害の一次対応(検知・切り分け・定型復旧)を外部に委託し、業務影響度の判断やベンダー間の調整といった「自社にしかできない部分」を情シスの手元に残しています。たとえばサーバー監視を月3万円、月次メンテナンスを4時間で2万円、といった形で必要な範囲だけを切り出して契約すると、内製でフルタイムの人員を抱えるより圧倒的に安く、かつ夜間も穴を空けずに済みます。マネージド型のサービスでは、監視のみ月5,000円/台、障害対応込みで月10,000円/台、フルマネージドで月20,000円/台といった料金体系が一例として示されており、規模に応じて段階的に範囲を広げられます。
重要なのは、委託した結果として情シスが「丸投げ」にならないようにすることです。事例で定着しているのは、障害発生時に委託先が一次対応を進めつつ、業務への影響度や経営層への報告の要否は情シスが判断する、という役割分担です。委託先に任せきりにすると、いざ重大障害が起きたときに業務部門への状況説明ができず、社内で孤立してしまいます。「手を動かす作業は委託、判断と社内調整は自社」という線引きが、ひとり情シスが保守監視を持続可能にする鍵です。
必要十分なSLAで初期費用を抑えてスタートした事例
ひとり情シスの事例でもう一つ参考になるのが、最初から最高水準のSLAを求めず、自社の事業実態に合った水準でスモールスタートした点です。稼働率を99.99%にすると、許容できるダウンタイムは年52.6分・月4.38分まで縮まりますが、その分だけ冗長構成や即応体制が必要になり、運用コストは段階的に跳ね上がります。事業への影響が限定的な社内システムであれば、稼働率99.9%(年8.76時間・月43.8分の停止許容)でも十分なケースが多く、無理に高いSLAを選んでコストを膨らませる必要はありません。
この事例の企業は、まず営業時間内の障害対応(月3万〜8万円が相場)と平日日中の監視から始め、運用が回り始めてから夜間・休日の範囲を追加するという段階的な拡張を選びました。最初から24時間の最高水準を契約して持て余すより、自社にとって本当に必要な範囲を見極めてから広げる方が、限られた予算を有効に使えます。スモールスタートで運用ノウハウと社内の納得感を蓄積してから本格的な体制に進む進め方は、後述する過剰SLAの失敗と対照的な、堅実なアプローチだと言えます。
過剰SLAを適正化して保守費を削減した事例

保守費が高止まりしている現場を調べると、実は業務実態に対してSLA(サービスレベル合意)が過剰になっているケースが少なくありません。「念のため」「契約当初の名残で」といった理由で、ほとんど停止が許されない高い稼働率や24時間の即応体制を維持し続け、その待機費だけがかさんでいる状態です。事例から学べるのは、SLAを下げる調整は技術ではなく、業務部門との合意形成の問題だという点です。
事業影響度アセスメントでSLAを段階的に下げた事例
適正化に成功した事例では、まずシステムごとに「停止したときの事業影響度」を棚卸しするアセスメントを実施しています。受発注や決済に直結する基幹システムは高いSLAを維持する一方、社内向けの情報共有ツールや夜間に使われないシステムは、稼働率99.99%から99.9%へ、あるいは24時間監視から営業時間内監視へと段階的に引き下げました。稼働率の「9」が一つ増えるごとに運用コストが跳ね上がる構造を逆手に取り、不要な「9」を外すことで保守費を圧縮したのです。
このとき決め手になるのが、業務部門への説明です。情シスが一方的にSLAを下げると「サービス低下だ」と反発を招きますが、「このシステムは夜間に止まっても翌朝の復旧で業務に支障がない。その分の待機費を年間で他の投資に回せる」と影響度の根拠を示せば、合意は得やすくなります。事例の企業は、影響度アセスメントの結果を一覧表にして経営会議で共有し、SLAのダウングレードを正式な意思決定として位置づけました。この社内調整のステップこそ、競合記事では語られにくい実務の肝です。
監視ツールの統合でアラート過多を解消した事例
SLAの適正化と並んで効果が大きいのが、監視ツールの整理です。複数のシステムを別々のツールで監視していると、似たようなアラートが大量に飛び、本当に重要な障害の予兆が埋もれてしまう「アラート過多」が起きます。事例では、OSSのZabbixやクラウド型のDatadog・Mackerelなどに監視を集約し、閾値とアラートの優先度を設計し直すことで、対応すべきアラートを大幅に絞り込みました。Zabbixはライセンス無料で導入できる一方、構築と維持に工数がかかるため、規模に応じてSaaS型と使い分けるのが現実的です。
アラートを絞り込んだ結果、オペレーターが対応に追われる無駄な工数が減り、その分の人月を本来注力すべき改善業務に回せるようになりました。これは単なる効率化にとどまらず、保守費の中身を「火消し」から「予防と改善」へとシフトさせる第一歩になります。監視は導入して終わりではなく、アラートの設計を定期的に見直すことで、はじめてコストに見合う価値を生みます。事例が示すのは、監視の「量」ではなく「設計の質」が、保守費の最適化を左右するという原則です。
充填型保守で待機費を投資に変えた事例

保守監視の契約でよくある不満が、「障害ゼロの月でも固定の待機費を払い続けるのは無駄ではないか」というものです。これに対する一つの答えが、待機費の中で使われなかった余剰工数を、新機能の開発や改善作業に振り替える「充填型保守」という契約モデルです。事例の企業は、この仕組みで保守費を単なるコストから「継続的な改善投資」へと再定義しました。
余剰工数を新機能開発に振り替える契約に移行した事例
充填型保守の核心は、月々の保守工数を「障害対応で使い切らなかった分は、改善・小規模開発に充当する」と契約上で定義することです。年間保守費の相場は初期開発費の15〜20%とされ、開発費3,000万円のシステムなら年450万〜600万円、月額換算で37万〜50万円が一つの目安になります。この一定額を、障害が少ない月は機能改善に回し、障害が多い月は対応に充てる、という柔軟な運用に切り替えることで、待機費の「払い損」感がなくなります。
この移行を実現するには、ベンダーとの契約交渉で「工数の繰り越し方」「改善作業の優先順位の決め方」を明文化することが欠かせません。事例の企業は、四半期ごとに保守工数の消化状況とバックログ(やりたい改善のリスト)をベンダーと共有し、余った工数で何を優先して開発するかを一緒に決める運用を確立しました。riplaはフルスクラッチ受託と国内運用保守の立場から、こうした「作った後も継続して伴走し、保守を改善投資に変える」進め方を一貫して重視しています。
AIOpsをスモールスタートで部分導入した事例
充填型保守で生まれた工数を使い、監視の自動化(AIOps)を小さく始めた事例も参考になります。JUASの調査ではAI活用について約78%の企業が検討中・未検討という段階で、いきなり大規模なAIOps基盤を導入できる中小企業は多くありません。事例の企業は、まずアラートの自動分類や、過去のログから障害の予兆を検知する仕組みを一部のシステムに限定して導入し、効果を検証してから対象を広げるロードマップを描きました。
このスモールスタートのポイントは、レガシーな監視体制を維持しながら、効果の見込める領域から段階的にAIを差し込むことです。全面的な置き換えを目指すと投資もリスクも大きくなりますが、「夜間のアラート対応だけAIに一次判定させる」といった部分導入なら、低コストで効果を確かめられます。事例が教えるのは、最新技術であっても「自社の現状から逆算し、効果の大きい一部から始める」段階主義が有効だという点です。充填型保守で生まれた余剰工数は、こうした未来への投資の原資にもなります。
まとめ

ITシステム保守監視の事例を振り返ると、成功の共通点は「ダウンタイムを金額で定量化し、自社の事業実態に合った範囲とSLAで体制を組み、保守費を火消しから予防・改善投資へとシフトさせる」という一点に集約されます。停止1回1,200万円・1分5,600米ドルという損失統計を起点に効果を定量化し、ひとり情シスは監視と一次対応を委託しつつ判断は手元に残し、過剰SLAは事業影響度アセスメントで適正化し、充填型保守で待機費を新機能開発やAIOpsのスモールスタートに振り替える。これらが、保守監視を「コスト」から「事業継続の保険+投資」へと変える道筋です。
事例を読むときに大切なのは、「いくら払っているか」ではなく「その費用が事業継続と改善にどうつながっているか」という視点です。自社のシステムの停止損失と影響度に照らし、まずは効果の大きい監視の改善とSLAの見直しから、一歩を踏み出してください。riplaはフルスクラッチ受託と国内運用保守を組み合わせ、作った後も継続して伴走し、保守監視を投資に変える体制づくりを支援します。費用相場や契約形態の全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
