ITシステムアラート対応、すなわちアラートのしきい値設計・誤検知(過剰アラート)削減・通知経路の設計を行う際、多くの企業がまず検討するのはDatadogやCloudWatch、Mackerelといった監視SaaSが備える標準のアラート機能や、通知条件のテンプレートの活用です。しかし、自社独自の複雑な業務ロジックに基づいて「このパターンのアラートは自動で無視してよい」「このシステムとこのシステムが同時に異常を示したときだけ緊急扱いにする」といった高度な判定ルールを組み込みたい場合や、既存の社内システム・チケット管理ツールと通知ロジックを深く連携させたい場合には、既存SaaSの標準機能だけでは対応しきれず、フルスクラッチ(ゼロからの独自開発)やオーダーメイドでの構築を検討する場面が出てきます。しきい値の考え方自体は「型」がある程度決まっている領域である一方、どのアラートを重要とみなし、どう通知を間引くかという判定ロジックの複雑さは企業ごとに千差万別であり、既存SaaSの標準機能で十分なのか、独自に作り込むべきなのかの判断は、コストと開発期間、そして将来の柔軟性のバランスを踏まえて慎重に行う必要があります。
フルスクラッチでの構築は、自社の複雑な業務ロジックや既存の社内データベース、チケット管理ツール(Backlogなど)と完全に統合した独自の通知判定ワークフローを実現できる一方、ゼロから開発・連携するための高度なエンジニアチームの確保と、継続的なメンテナンス負担という大きなコストを伴います。一方で、SaaSとフルスクラッチのどちらか一方を選ぶのではなく、両者を組み合わせた「ハイブリッド連携」によって、SaaSの通知基盤の利便性と内製の判定ロジックの柔軟性を両立させている事例も存在します。本記事では、ITシステムアラート対応、すなわちしきい値判定・通知ルーティングロジックのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、既存SaaS活用との違い、それぞれのメリット・デメリット、実際のハイブリッド連携事例、そしてフルスクラッチが向いているケース・向いていないケースの判断軸までを体系的に解説します。
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・ITシステムアラート対応の完全ガイド
既存SaaSの標準機能とフルスクラッチ構築の違い

アラートのしきい値判定・通知ルーティングの仕組みを構築するアプローチには、大きく分けて「既存の監視SaaS・パッケージが備える標準機能を活用する方法」と「ゼロからフルスクラッチ(内製・オーダーメイド)で判定ロジックを構築する方法」の2つがあります。両者は仕組みそのものだけでなく、導入スピード、カスタマイズ性、コスト構造、そして向いている企業の規模まで大きく異なるため、まずはそれぞれの特徴を理解しておくことが判断の出発点になります。
既存SaaS・監視ツールの標準アラート機能の仕組み
Datadog、CloudWatch、Mackerel、Site24x7といった監視SaaSの標準機能を利用して、しきい値判定・通知ルーティングを構築するアプローチです。GUI上でメトリクスに対する閾値を設定し、継続時間の条件や通知先(メール、Slack、PagerDutyなど)をひもづけるだけで、比較的短時間でアラート機能を稼働させられます。サーバー構築が不要で直感的に操作できる点、そしてテンプレートやプリセットが用意されている点が最大の特徴で、複数のツールを横断して柔軟に通知先を設定できる連携の豊富さも評価されています。ただし、標準機能はあくまで「単一メトリクスに対する閾値判定」を基本としており、複数システムの状態を組み合わせた複雑な判定や、自社独自の業務ルールに基づくフィルタリングまでは表現しきれない場合があります。
フルスクラッチ・オーダーメイド構築の仕組み
オープンソースソフトウェア(OSS:Zabbixなど)を利用したり、監視ツールのAPI・Webhookを駆使して、自社専用のアラート判定ロジック、通知先の振り分け、チケット起票システムをゼロから独自開発するアプローチです。自社の業務要件に合わせて要件定義を行い、どのアラートを重要とみなすか、どのタイミングで誰に通知するかというロジックをプログラミングや連携スクリプトによって構築します。複数の監視項目やシステムの状態を組み合わせて総合的に緊急度を判定したり、既存の社内データベース、チケット管理ツール(Backlogなど)と完全に統合した独自の通知ワークフローを構築できる点が最大の強みですが、その分ゼロから設計・実装する分だけ、導入までの期間とコストは既存SaaS活用に比べて大きくなります。
フルスクラッチ構築のメリット・デメリット

フルスクラッチでのアラート判定ロジック構築を検討する際は、メリットとデメリットの両面を正しく理解したうえで、自社にとって本当に必要な投資かどうかを見極める必要があります。
メリット:独自ロジックによる高精度な通知フィルタリング
フルスクラッチの最大のメリットは、自社の複雑な業務ロジックや、既存の社内データベース、チケット管理ツールと完全に統合した独自の通知判定ワークフローを構築できる点です。たとえば、複数の監視項目が同時に閾値を超えたときだけ緊急扱いにする、特定の業務時間帯だけしきい値を動的に変更する、過去の障害パターンと照合して既知の軽微な事象は自動で通知を抑制する、といった既製品のSaaSでは表現しきれない高精度な判定ロジックにも柔軟に対応できます。また、監視ツールと社内の複数システム(顧客管理システム、在庫管理システムなど)を横断的に連携させ、障害の影響範囲を自動で判定し、それに応じて通知の緊急度を動的に変更するといった、自社独自の高度な自動化ロジックを組み込むことも可能です。
デメリット:開発コストと継続的なチューニング負担
一方で、ゼロから判定ロジックを開発し連携させるため、プログラミングや正規表現、ネットワークに精通した高度なエンジニアチームの確保が必須となり、立ち上げまでに長期間を要します。OSSを利用すればツールのライセンス費用自体は無料(0円)になりますが、大規模なシステム構築を外部のSIerに依頼する場合は構築支援費用として数十万円〜100万円以上の投資が必要になるケースもあり、人的リソースという見えないコストが非常に高くつく点を見落としてはいけません。さらに、構築して終わりではなく、監視対象システムの構成変化や業務ルールの変更に合わせて判定ロジックを継続的に修正し続ける保守コストを自社で抱え続ける必要があり、インフラ運用の経験が浅いメンバーが担当すると設定変更のたびにトラブルが発生し、結果的に運用コストが跳ね上がる失敗事例も報告されています。担当エンジニアの退職・異動によって判定ロジックがブラックボックス化するリスクも、継続的なメンテナンス負担として考慮しておく必要があります。
ハイブリッド連携の実例

SaaSかフルスクラッチかという二者択一ではなく、実際の運用現場ではSaaSの通知基盤の利便性と、内製の判定ロジックの柔軟性を組み合わせる「ハイブリッド連携」というアプローチも存在します。
cloudpackのAMS(自動対応システム)連携事例
アイレット株式会社(cloudpack)は、公開している事例の中で、アラート通知の基盤として「PagerDuty(SaaS)」を利用しつつ、そこに自社開発の自動対応システム「AMS(Advanced Monitoring System)」をWebhookとAPIで連携させる独自構築を行っていると紹介しています。同社の説明によれば、PagerDutyにアラートが起票されると、内製システム(AMS)がそれを受け取り、事前定義されたシナリオに沿って「情報の取得」「一時的な復旧作業」「チケット(Backlog)への起票」「電話での自動音声エスカレーション」を自動実行する仕組みです。通知の受け皿という「型」が決まっている部分はSaaSに任せ、受け取ったアラートをどう判定し、どう自動処理するかという「作り込みたい部分」だけをフルスクラッチで構築するという役割分担が、このハイブリッド構成の要点です。
自動処理率80%以上という効果と示唆
同社によれば、この連携により、発生したアラートの80%以上をシステムで自動処理することに成功しているとのことです。定型的なアラート判定・一次対応を自動化することで対応時間の短縮を実現し、人間のエンジニアは「システムで自動解決できなかった残り20%」や、より高度なしきい値・判定ロジックの改善にリソースを集中できるようになっているといいます。この事例が示唆するのは、フルスクラッチで作り込むべき範囲を「自社にとって本当に独自性が必要な判定ロジックの部分」に絞り込むという発想です。通知の受け皿や当番へのルーティングといった、多くの企業に共通する「型」の部分まで自社開発してしまうと、開発・保守コストが際限なく膨らみます。フルスクラッチを検討する際は、まず既存SaaSでカバーできる範囲とできない範囲を切り分け、独自開発が必要な判定ロジックの範囲を最小化する視点を持つことが、コストを抑えつつ独自性を実現する現実的なアプローチです。
フルスクラッチが向いているケース・向いていないケース

フルスクラッチと既存SaaS活用のどちらが適しているかは、企業の規模やエンジニアリソース、求める判定ロジックの複雑さによって大きく異なります。判断軸を整理しておきましょう。
既存SaaS活用が向いているケース
情報システム部門の人員が限られており、初期投資や構築の手間を抑えつつ、標準的なしきい値判定・通知経路の仕組みを素早く確実に立ち上げたい中堅・中小企業には、既存の監視SaaS・パッケージの活用が最適です。利用するホスト数やメトリクス量に応じた月額サブスクリプションという継続的な変動費は発生しますが、ツール自体のアップデートやインフラ維持はSaaSベンダーが行うため、自社の情シス部門は純粋なしきい値のチューニングと通知精度の向上に集中できます。自社の判定ロジックが「単一メトリクスの閾値超過」や「継続時間による条件付け」といった標準的なパターンで十分に運用が回るのであれば、フルスクラッチのコストとリスクを負う必要はありません。
フルスクラッチが向いているケース
高度な専門エンジニア(クラウドアーキテクトなど)を社内に多数抱えており、大量のアラートを自社独自の判定ロジックで自動フィルタリングして圧倒的な業務効率化を図りたい、技術力の高い大企業には、フルスクラッチでの構築が適しています。また、SaaSのホスト課金・従量課金が積み上がって莫大になりやすい超大規模環境において、ツール費を極限まで抑えたい場合にも選ばれる選択肢です。ただし前述のとおり、すべてをゼロから作るのではなく、cloudpackのAMS事例のように、既存SaaSでカバーできる通知基盤部分は活用しつつ、自社独自の判定・自動化ロジックだけをフルスクラッチで作り込むハイブリッド型のアプローチを検討することで、開発コストと独自性のバランスを取りやすくなります。自社の状況がどちらに近いかを見極めるためにも、まずは既存SaaSのトライアルで自社の判定要件がどこまでカバーできるかを確認し、カバーできない部分だけをフルスクラッチで補うという段階的なアプローチから検討を始めることをお勧めします。
段階的な移行ロードマップの考え方

フルスクラッチか既存SaaS活用かを一度に決め切るのではなく、段階的に移行していくロードマップを描くことが、投資リスクを抑えながら自社に最適な仕組みへ近づける現実的な進め方です。
社内エンジニアリソース・スキルの棚卸し
フルスクラッチでの判定ロジック構築を検討する前に、自社にAPI連携やスクリプト開発、正規表現を用いた通知条件の設計を継続的に担える専門エンジニアが実際にどれだけいるかを棚卸しすることが出発点になります。フルスクラッチは初期構築だけでなく、監視対象システムの構成変化や業務ルールの変更への追従といった継続的なメンテナンスを前提とするため、担当できる人員が1〜2名に依存している状態では、その担当者の離職・異動によって仕組みそのものが立ち行かなくなるリスクがあります。エンジニアリソースが潤沢でない場合は、無理にフルスクラッチを選択するのではなく、既存SaaSの活用を軸にしつつ、自社にとって本当に必要な独自の判定ロジックだけを外部の開発パートナーに委託して段階的に作り込むという選択肢も現実的です。
SaaS導入からハイブリッド連携への段階的な発展
現実的なロードマップとしては、まず既存の監視SaaSを導入して標準的なしきい値判定・通知経路を立ち上げ、運用を回しながら「定型的に繰り返し発生していて、かつ既存SaaSの標準機能では自動判定しきれないアラートパターン」を洗い出していくアプローチが有効です。運用データが蓄積されてくると、「特定の組み合わせの異常だけは毎回手作業で緊急度を判断している」「特定のシステム連携だけは手作業で通知先を振り分け直している」といった、自動化・独自開発の投資対効果が明確な箇所が見えてきます。cloudpackのAMS事例のように、そうした箇所だけをピンポイントでフルスクラッチ開発し、既存SaaSとAPI・Webhookで連携させていくことで、開発投資を最小化しながら独自性を積み上げていくことができます。最初から完璧な独自判定システムを目指すのではなく、SaaS導入→運用データの蓄積→自動化ポイントの特定→部分的なフルスクラッチ開発という段階を踏むことが、コストと柔軟性のバランスを取りながら仕組みを成熟させていく現実的な道筋です。
まとめ

本記事では、ITシステムアラート対応、すなわちしきい値判定・通知ルーティングロジックのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、既存SaaS活用との違い、フルスクラッチのメリット・デメリット、ハイブリッド連携の実例、向いているケース・向いていないケースの判断軸、そして段階的な移行ロードマップまでを体系的に解説しました。既存の監視SaaS(Datadog、CloudWatch、Mackerelなど)は、初期投資を抑えてスピーディーに標準的なアラート判定を立ち上げられる一方、自社独自の複雑な判定ロジックへの対応には限界があります。フルスクラッチは独自ロジックによる高精度な通知フィルタリングを実現できる反面、高度なエンジニアチームの確保と継続的なチューニング負担を伴うため、社内エンジニアリソースの棚卸しなしに着手すべきではありません。アイレット株式会社(cloudpack)が公開する事例のように、SaaSの通知基盤と自社開発の自動対応システムをAPI連携させ、アラートの80%以上を自動処理しているとされるハイブリッド連携の事例は、独自開発すべき判定ロジックの範囲を最小化しながら独自性を実現する現実的なアプローチとして参考になります。自社にとって最適な構築方式を見極めるためにも、まずは既存SaaSのトライアルで自社要件のカバー範囲を確認したうえで、フルスクラッチが本当に必要な判定ロジックの部分を見極め、複数の開発会社に相談しながら検討を進めることをお勧めします。
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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
