ITシステムアラート対応のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

ITシステムのアラート対応は、判定の複雑さ、技術者数、連携範囲に応じて、SaaSから独自開発へと段階的に進めるのが現実的です。

この進め方なら、柔軟性と運用負担の均衡を保てます。SaaSとの違い、構築の利点、連携事例、導入手順を押さえると、その進め方が見えてきます。各テーマの詳細は関連記事もご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・ITシステムアラート対応の完全ガイド

既存SaaSの標準機能とフルスクラッチ構築の違い

アラート標準機能の閾値設定と、独自構築で扱う複数システムの判定や通知ワークフローを4枚のパネルで示した図。
単一メトリクスの設定から、複数システムにまたがる独自処理までを見渡せます。

アラートのしきい値判定と通知ルーティングには、監視SaaSやパッケージの標準機能を使う方法があります。もう一つは、ゼロからフルスクラッチ(内製・オーダーメイド)で判定ロジックを構築する方法です。

両者は、導入の速さ、カスタマイズの自由度、コストのかかり方が違うほか、向いている企業の規模も異なります。そのため、それぞれの特徴を把握しておくことが、選択の出発点になります。

既存SaaS・監視ツールの標準アラート機能の仕組み

Datadog、CloudWatch、Mackerel、Site24x7などの監視SaaSでは、しきい値判定と通知ルートを設定します。

  • 設定:GUIでメトリクスの閾値や継続時間を指定します。
  • 通知先:メール、Slack、PagerDutyなどとの紐づけ。
  • 導入:サーバー構築は不要で、GUIを直感的に操作できます。テンプレートやプリセットも用意されています。
  • 連携:複数ツールをまたぐ通知先設定にも対応します。

標準機能は、単一メトリクスの閾値判定が基本です。そのため、複数システムをまたぐ判定や独自の業務ルールによるフィルタリングには、対応しきれない場合があります。

フルスクラッチ・オーダーメイド構築の仕組み

OSS(オープンソースソフトウェア)のZabbixや、監視ツールのAPI・Webhookを使い、独自の判定ロジックや通知先の振り分けを開発します。まず自社の業務要件に合わせて要件を定義し、そのうえで通知ロジックをプログラムや連携スクリプトで実装します。

  • 要件定義:重要なアラートと、通知する相手や時点を定めます。
  • 判定:複数の監視項目やシステム状態からの緊急度の判断。
  • ワークフロー:社内データベースやBacklogなどと連携します。

独自の通知ワークフローを実現できる反面、ゼロから設計と実装を行うため、SaaS活用に比べて導入期間とコストが大きくなります。

ポイント

SaaSとフルスクラッチは、導入の速さ、カスタマイズの自由度、コストのかかり方、向いている企業の規模が違います。自社の状況をこの違いに当てはめて比べると、どちらが合うか判断しやすくなります。

フルスクラッチ構築のメリット・デメリット

フルスクラッチには利点と欠点があるため、自社にとって投資する価値があるかを見極める必要があります。

メリット:独自ロジックによる高精度な通知フィルタリング

複雑な業務ルールに対応しつつ、社内データベースやチケット管理ツールと統合して、独自の通知判定ワークフローを構築できます。

  • 複合判定:複数項目が同時に閾値を超えた場合に限って、緊急扱いにします。
  • 時間帯別判定:業務時間帯に応じたしきい値の変更。
  • 既知事象の抑制:過去の障害と照合し、軽微な事象の通知を抑えます。
  • 影響範囲の連携:顧客管理や在庫管理も参照して、緊急度を動的に切り替えます。

既製SaaSでは表現しにくい判定や自動化も、自社の業務要件に合わせて実装できます。

デメリット:開発コストと継続的なチューニング負担

ゼロから開発・連携するには、プログラミング、正規表現、ネットワークに精通した高度なエンジニアチームが必要です。さらに、立ち上げにも長期間がかかります。

OSSのライセンス費用は無料(0円)でも、大規模な構築を外部SIerに依頼すると、支援費用として数十万円〜100万円以上かかる場合があります。人的リソースも、大きなコストになります。

監視対象の構成や業務ルールが変わるたびに、判定ロジックを修正し続ける必要があります。その保守コストは自社が負担するため、担当者の経験と継続性も欠かせません。

  • 運用経験:インフラ運用の経験が浅いと、設定変更のたびに問題が起き、運用コストが跳ね上がる事例も報告されています。
  • 属人化:担当者が退職・異動すると、判定ロジックがブラックボックス化するおそれがあります。

ポイント

判断に迷ったら、独自ロジックで得られる効果と、保守を続けられる担当者がいるかを比べてください。フルスクラッチは、効果と引き換えに開発と保守の負担を自社で背負う方式です。

ハイブリッド連携の実例

SaaSとフルスクラッチを組み合わせる方法もあります。通知基盤の利便性を生かしながら、内製の判定ロジックで柔軟性を確保する形です。

cloudpackのAMS(自動対応システム)連携事例

アイレット株式会社(cloudpack)は、PagerDuty(SaaS)を通知基盤として利用する事例を公開しています。その事例では、自社開発のAMS(Advanced Monitoring System)をWebhookとAPIで連携しています。

PagerDutyにアラートが起票されると、AMSがそれを受け取り、事前に定義したシナリオに沿って処理します。

  • 情報取得:アラートに関する情報を集めます。
  • 一時復旧:一時的な復旧作業の実行。
  • チケット起票:Backlogにチケットを作成します。
  • エスカレーション:電話の自動音声による連絡。

この事例は、通知の受け皿をSaaSに任せ、判定や自動処理といった作り込みが必要な部分を独自開発する役割分担になっています。

自動処理率80%以上という効果と示唆

同社によれば、この連携では発生したアラートの80%以上を自動処理しています。定型判定と一次対応を自動化したことで、対応時間を短縮できたといいます。

この事例は、定型対応を自動化した後の人員配置と、独自開発する範囲を考えるうえでの材料になります。

  • 人の注力先:自動解決できなかった残り20%や、高度なしきい値・判定ロジックの改善に集中できます。
  • 独自開発の範囲:自社固有の判定に絞ります。共通の通知基盤まで作ると、開発・保守費用が膨らみます。
  • 見極め:SaaSの対応範囲を確認し、不足する判定機能だけ開発すれば、費用を抑えて独自性も実現できます。

ポイント

通知の受け皿はSaaSに任せ、作り込みが必要な判定や自動処理だけを独自開発するかが判断の目安です。部分ごとに役割を分けて考えると、どこを独自開発するか決めやすくなります。

フルスクラッチが向いているケース・向いていないケース

情シス人員が限られる場合、技術力の高い大企業、超大規模環境、ハイブリッド型の4ケースを並べた確認カード図。
必要な独自機能と運用体制を照らすと、検討する方式を絞れます。

適した方式は、企業の規模、エンジニアの人員、必要な判定ロジックの複雑さによって変わります。

既存SaaS活用が向いているケース

情シス人員が限られていて、初期投資や構築の手間を抑えながら標準的な通知を早く確実に立ち上げたい中堅・中小企業には、監視SaaSやパッケージが適します。

ホスト数やメトリクス量に応じた月額のサブスクリプション料はかかります。一方で、ツールの更新やインフラの維持はSaaSベンダーが担います。

そのため情シス部門は、しきい値の調整と通知精度の向上に集中できます。単一メトリクスの閾値超過や継続時間の条件で運用できるのであれば、独自開発のコストとリスクを負う必要はありません。

フルスクラッチが向いているケース

フルスクラッチが適するかは、専門人材、環境の規模、SaaSで不足する機能を見て判断します。

  • 技術力の高い大企業:クラウドアーキテクトなどの専門家を多く抱え、大量のアラートを独自ロジックで自動的にフィルタリングして、効率化したい場合に適します。
  • 超大規模環境:SaaSのホスト課金・従量課金が膨らみやすく、ツール費を極限まで抑えたい場合も候補です。
  • ハイブリッド型:通知基盤にSaaSを使い、独自の判定・自動化だけを開発する形です。費用と独自性のバランスを取りやすくなります。
  • 段階的な確認:SaaSのトライアルで要件の対応範囲を調べ、不足する部分だけを独自開発します。

ポイント

企業規模、エンジニアの人員、判定ロジックの複雑さで判断します。情シス人員が限られるなら既存SaaS、専門人材がそろい、SaaSで不足する機能があるならフルスクラッチを検討します。

段階的な移行ロードマップの考え方

担当が1〜2名の体制も考慮し、SaaS導入から運用データの蓄積、投資対効果の確認、必要部分の独自開発へ進む流れ図。
運用で得たデータを次の開発範囲の判断につなげます。

一度に方式を決めず、段階的に移行していけば、投資リスクを抑えながら自社に合う仕組みに近づけます。

社内エンジニアリソース・スキルの棚卸し

独自ロジックを作る前に、API連携、スクリプト開発、正規表現を使った通知条件の設計を継続して担当できるエンジニアが何人いるかを確認しておきます。

初期構築のあとも、監視対象の構成や業務ルールの変更に合わせた保守が必要です。特に、担当が1〜2名に限られていると、離職や異動で運用が止まるリスクがあります。

人員が十分でない場合は、無理にフルスクラッチを選ばず、SaaSを軸に必要なロジックだけを外部パートナーに委託して、段階的に作る方法もあります。

SaaS導入からハイブリッド連携への段階的な発展

最初はSaaSの導入から始め、運用で得たデータをもとに独自開発の範囲を広げていきます。最初から独自開発を前提にしないため、各段階で投資の是非を見極められます。

  1. SaaSを導入し、標準の判定・通知を稼働させます。
  2. 運用データを蓄積し、繰り返し発生して標準機能で自動判定しきれない定型アラートを洗い出します。
  3. 自動化の投資対効果が明確な箇所を特定します。
  4. 必要な部分だけ独自開発し、API・WebhookでSaaSと連携します。

たとえば、特定の異常の組み合わせで毎回緊急度を手作業で判断する場合や、連携先ごとに通知先を振り分け直す場合が、独自開発の候補になります。

cloudpackのAMS事例のように対象を絞れば、開発投資を抑えながら独自性を積み上げられます。段階を踏むことで、費用と柔軟性のバランスを保ちやすくなります。

ポイント

いきなり独自開発に進まず、SaaSで運用データを集めて、効果が明確な箇所から独自開発します。人員が十分でなければ、必要なロジックだけを外部に委託する方法もあります。

まとめ

ここまで、フルスクラッチとSaaSの違い、利点と負担、連携事例、適性判断、段階的な移行を見てきました。

監視SaaS(Datadog、CloudWatch、Mackerelなど)は、初期投資を抑えて標準判定を早く導入できます。一方、自社独自の複雑な判定ロジックには対応の限界があります。

フルスクラッチは独自ロジックで高精度な通知を実現できますが、専門チームと継続的な調整が必要です。そのため、社内の人材を棚卸ししないまま着手することは避けるべきです。

アイレット株式会社(cloudpack)の公開事例では、PagerDutyと自社開発のAMSを連携し、アラートの80%以上を自動処理しています。

まずSaaSのトライアルで要件の対応範囲を確かめ、必要な判定ロジックだけを独自開発する方法を検討するとよいでしょう。また、複数の開発会社に相談しながら進めることもできます。

▼全体ガイドの記事
・ITシステムアラート対応の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。