ITシステム保守運営の費用は、人員配置、内製か外部委託か、SLA水準で変わります。保守要員の人月単価は、月60万〜120万円程度が目安とされることが多く、移行費用が300万〜500万円規模にのぼった事例もあります。
保守運営コストの中心は人件費で、人員配置の組み方が金額を大きく左右します。
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保守運営体制の人件費・人員配置コスト

ITシステム保守運営には、稼働中のシステムを保つ作業に加えて、人と組織を動かす仕事も含まれます。たとえば、保守チームの編成や役割分担、シフト・当番体制、エスカレーション体制が、それにあたります。SLAに基づく運用ルールや、既存担当者から新体制への引き継ぎも、保守運営の一部になります。
維持管理がシステムの延命や資産価値の維持を目的とするのに対し、保守運営は人と組織のオペレーションに焦点を当てる概念です。同じ保守・運用業務でも費用の発生構造は異なるため、違いを押さえずに予算を検討すると、費用の所在が見えないまま契約するおそれがあります。さらに、契約後に想定外のコスト増へ直面するリスクも高まります。
保守運営コストの中心は、システムそのものよりも、それを運営する人の人件費です。保守要員の人月単価は、業務範囲やスキルレベルによって変わります。一般的な目安としては、月60万〜120万円程度とされることが多いです。
この金額は、技術レベル、対応範囲、契約形態によって変わる参考値にすぎません。そのため、見積もりでは自社システムの特性を踏まえた個別の試算が欠かせません。
また、人件費は、人数と単価に加えて、シフト・当番体制やエスカレーションの人員設計によっても決まります。そこで、人員配置コストは、常時の当番体制と新体制への引き継ぎという2つの場面に分けて確認します。
シフト・当番体制とエスカレーション対応の人員コスト
常時稼働のシステムでは、受付時間と当番の組み方が人員コストを左右します。どこを厚くし、どこを絞るかで、費用の差がはっきり出ます。
- 受付時間:24時間365日対応なら、夜間と休日の配置が欠かせません。
- 当番人数:複数名の交代で回す体制です。
- 役割分担:一次対応と上位エンジニアの受け持ち範囲です。
24時間365日アクセス可能なWebサービスでは、夜間や休日にも障害や緊急対応が起こりうるため、当番とシフトを組む必要があります。深夜・休日の待機や呼び出しには、通常と異なる手当や割増賃金がかかります。そのため、同じ1人月でも、24時間365日の体制と平日日中のみの体制では人件費の重みが違ってきます。
担当者1名だけの体制では、休暇や急な欠勤のたびに対応が止まるおそれがあります。対応が遅れれば、障害の被害も広がります。役割分担が曖昧なままだと、引き継ぎの判断が現場任せになり、その遅れを生みやすくなります。
保守チームで、異常の検知から一次対応、原因の切り分け、上位エンジニアへの引き継ぎまでを一続きの流れとして整えると、対応品質を高めやすくなります。特に、高単価な上位エンジニアの稼働を必要な局面に絞れば、人件費全体も最適化できます。
体制構築(引き継ぎ)時の人員配置モデルケース
新体制を立ち上げるときは、定常運用とは別に、引き継ぎのコストが発生します。モデルケースでは、委託先と委託元それぞれの人月と期間を並べて確認できます。
- 委託先側:プロジェクトマネージャー0.25人月とリードエンジニア1.0人月です。
- 委託元側:プロジェクトマネージャー1名とシステムエンジニア2名で支援します。
- 期間:委託元側は週2日程度支援し、引き継ぎは約2ヶ月かけて行います。
このモデルケースからは、委託先だけでなく委託元にも人員コストが生じることが分かります。特に、現行担当者が通常業務と並行して支援する時間は、見えにくいコストになります。
見積もりでは、委託元と委託先の双方が割く時間を体制構築費に含めます。
現行担当者が少人数の場合は、引き継ぎ中の負荷増をどう吸収するかを、先に決めておく必要があります。その際は、増員するか、業務の一部を一時的に外部化するかを検討します。
期間を短くすれば費用を抑えやすい一方で、ノウハウ移転が不十分になるおそれがあります。逆に期間が長くなると、委託元と委託先の双方で人件費の負担が増えます。だからこそ、期間と人員配置は自社の体制規模に合わせて設計します。
内製と外部委託(MSP)のコスト比較

内製と外部委託では、保守運営体制の費用構造が大きく異なります。外部委託とは、MSP(マネージド・サービス・プロバイダー)などに保守運営を委ねる方法のことです。
外部委託に切り替えると、運用コストの削減が期待できます。また、自社の人材をコア業務に集中させられる効果もあります。ただし、単純に丸投げして安くなるとは限りません。
発注側は、費用の内訳と長期的な総所有コスト(TCO)の両面で比較する必要があります。
外部委託の費用構造(初期費用・月額固定費用・従量課金)
外部委託の見積もりは、初期費用、月額固定費用、従量課金の3つに分けて読むのが基本です。
- 初期費用:立ち上げ時にかかる費用です。
- 月額固定費用:ヘルプデスク、監視、運用、定例報告が対象です。
- 従量課金:作業の時間に応じて請求されます。
初期費用には、既存体制からの移行作業、監視ツールやアクセス権限の環境セットアップ、委託先が自社システムを理解するためのトレーニング費用が含まれます。
月額固定費用は契約範囲内で毎月継続的に発生します。一方、従量課金は、ユーザーアカウントの追加・削除、インシデント対応、変更作業などに応じて、時間単価で請求される場合があります。
月額固定費用だけで比べると、実際の総額を見誤るおそれがあります。従量課金はシステムの変更頻度やインシデント発生頻度によって変わるため、見込みを立てて比べる必要があります。
そこで発注側は、契約前に固定費用と従量課金の境界を委託先とすり合わせます。変更作業やインシデント件数の見込みを共有しておくと、想定外の請求を防ぎやすくなります。
TCO逆転リスクと長期的な費用比較の視点
外部委託への乗り換えは、月額費用だけでなく、移行後の総額で比べます。その総額は、移行時の一時的な費用と、継続して発生する費用の両方から組み立てます。
- 初期移行費用:乗り換え時の移行と引き継ぎにかかるコストです。
- 変動費:従量課金の見込み額を含めた金額です。
- 長期総額:契約期間全体を、少なくとも3年〜5年で比べた額です。
乗り換え先の月額費用が低くても、移行コストは発生します。実際に、その移行コストが300万〜500万円規模にのぼった事例も報告されています。
初期移行費用を含めて5年間で計算すると、TCOが逆転する場合があります。つまり、月額費用が安くても、現行体制を維持するより割高になることがあります。
さらに、現行担当者の暗黙知を失うことも、見積書には表れにくい隠れたコストです。引き継ぎの工数や、移行後の初期トラブル対応にも、コストがかかります。
発注側は、内製継続、委託先の変更、現行委託先との条件見直しを、いずれも総額で判断します。
SLAレベルによる費用差

SLA(サービスレベル合意)の水準も、保守運営体制の費用を左右します。同じシステムでも、保証するサービス品質が変われば、必要な人員体制も変わります。
そのため、対応時間と稼働率保証が費用にどう響くかを、先に確認しておく必要があります。また、ペナルティ条項の設計も、SLAの費用対効果に影響します。
対応時間・稼働率保証と費用の関係
SLAの費用は、受付時間と保証水準の決め方で大きく変わります。対応する時間帯、駆けつけの範囲、数値目標のそれぞれで、費用の重みが違ってきます。
- 受付時間:平日営業時間内にするか、24時間365日にするか。
- 現地対応:深夜・休日の駆けつけ対応を含めるかどうか。
- 稼働率保証:「稼働率99.9%」などの目標値。
24時間365日の受付・対応では、シフトや当番体制の人件費がSLA費用に反映されます。平日営業時間内のみの対応と比べると、大幅なコスト増になるのが一般的です。一方で、補助的なシステムに24時間365日のSLAを設定すると、過剰な費用になりえます。
売上に直結する基幹システムやECサイトでは、停止がそのまま機会損失につながります。そのため、平日日中のみのSLAだと、夜間や休日の被害が拡大するおそれがあります。また、稼働率保証を高くするほど、監視体制・冗長構成・人員体制の費用も増えます。
発注側は、システムの重要度と障害時の影響範囲を踏まえ、費用対効果で水準を選びます。
ペナルティ条項の設計と費用対効果
SLA未達時にどう補償するかは、契約前に具体化しておく必要があります。補償の中身を決めないまま契約すると、未達が起きても発注側が取れる手段が限られます。
- 費用減額:対応時間や稼働率の未達時に、月額費用を減らす仕組みです。
- 契約解除:重大な未達が続いた場合の解約権です。
- 未達基準:未達の程度と減額幅を、契約書に落とし込む項目です。
SLA未達時に発注者が権利を持つことで、数値目標は実質的な保証になります。目標値を達成できなくても委託先に影響がなければ、努力目標にとどまります。その場合、発注者はサービス品質を担保できないまま費用を払い続けることになります。
厳格なSLA契約は、一見高く見えても業務停止や機会損失への保険になります。また、条項によって委託先の緊張感が保たれ、SLA達成率の向上も期待できます。
保守運営コストを最適化する方法
人件費、委託方法、SLAレベルは、いずれも工夫によって最適化できます。ただし、その際は、体制の運営コストを抑えながら、サービス品質を維持する方法を選ぶことが前提です。
プロセスの自動化・運用統合による効率化
定型作業やアラート対応を見直すと、担当者の負荷と人件費を抑えやすくなります。見直せる範囲は、日々の作業から複数システムの運用、テストの準備まで広がります。
- 定型作業:ルーティン業務や手動メンテナンスの自動化。
- アラート対応:通知と一次対応をツールで処理すること。
- 運用統合:複数システムの重複したフローの一本化。
- テスト再利用:テストデータや環境の流用。
ログ確認や定型メンテナンスを自動化すると、ヒューマンエラーも減らせます。人員が対応する業務量が減れば、同じ人数で多くのシステムをカバーできます。その結果、シフト・当番体制の人員コストを抑える効果も期待できます。
システムAとシステムBで似た監視や定例報告を別々に回すと、同じ作業の重複が生じます。そこで、重なる作業をまとめれば、作業負荷と人件費を減らせます。
リグレッションテストを自動化すると、案件ごとにテスト環境をゼロから作る手間を省けるため、生産性とコストの改善につながります。
既存ベンダーとのコンペ・契約見直し、保守性向上への中長期投資
契約条件の見直しと保守性への投資は、短期と中長期の両面から検討します。
- 既存ベンダー:RFP(提案依頼書)のコンペに参加してもらうこと。
- 保守性向上:文書標準化やコードのリファクタリングへの投資。
- 組み合わせ:自社の規模と重要度に応じて施策を重ねること。
既存ベンダーも交えて比べると、競争原理が働きます。そのうえで条件を見直せば、契約を続けながら費用を最適化できる場合があります。
乗り換えと同等のコスト最適化効果が得られるケースは、全体の約30〜40%程度が目安とされています。
一方、乗り換えにはTCO逆転リスクや移行期間中の混乱が伴います。その点、条件見直しであれば、体制を変えずに費用面を改善できる可能性があります。
また、ソフトウェアのライフサイクルでは、保守費用が全体の40〜80%を占めます。平均は60%程度とされ、開発後の保守運営費が大きな比重を持ちます。
さらに、文書の標準化やリファクタリングへ継続して投資すると、属人化を防ぎ、将来の保守運営コストの膨らみを抑えられます。
まとめ
ITシステム保守運営の費用は、人員配置と体制、ルールの設計によって変わります。人件費は、シフト・当番体制とエスカレーションの役割分担によって重みが変わります。また、体制構築や引き継ぎの時期には、委託元と委託先の双方に一時的な費用が生じます。
外部委託を検討するなら、初期費用、月額固定費用、従量課金を分けて確認します。移行費用を含む長期TCOまで見ておかないと、月額が安くても逆転するおそれがあります。
SLAは対応時間と稼働率保証で費用が変わり、ペナルティ条項も欠かせません。
コスト最適化では、自動化と運用統合を進めるとともに、契約見直しや保守性への投資も組み合わせます。
保守費用を維持費としてひとくくりにせず、内訳を把握しておくと判断がぶれにくくなります。そのうえで、計画的に体制を設計・見直すことが、持続可能な保守運営につながります。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
