システムのリリース直前になって「保守はどこに頼めばいいのか」「費用はいくらかかるのか」と慌てて検討を始める企業は少なくありません。しかし、保守体制の構築には「立ち上げそのものにかかる初期費用」と「立ち上がった後に継続的に発生するランニングコスト」という、性質の異なる2種類のコストが存在します。この2つを混同したまま予算計画を立ててしまうと、初期費用だけを見て「安く済みそうだ」と判断した結果、開発ベンダーから保守ベンダーへの移行に想定外の費用がかさみ、後になって総所有コスト(TCO)が逆転してしまうといった事態を招きかねません。保守体制構築という「立ち上げプロジェクト」の費用構造を正しく理解しておくことは、開発費用の見積もりと同じくらい重要な経営判断です。
本記事では、既存システムの保守運用フェーズへ移行するための「保守体制構築」に焦点を当て、体制を立ち上げる際の初期構築費用の相場と内訳、構築後に継続するランニングコストの相場、保守契約の形態、そしてコストを左右する要因までを体系的に解説します。開発ベンダーから保守ベンダーへの移管を検討している方、あるいは開発完了後に初めて保守体制の予算を確保しようとしている情報システム部門の担当者にとって、現実的な予算計画を立てるための判断材料となる内容です。
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保守体制構築にかかる費用の全体像—「立ち上げ費用」と「運用費用」の二段構成

保守体制構築のコストを考えるうえで最も重要なのは、「立ち上げにかかる初期構築費用」と「立ち上がった後に発生し続けるランニングコスト」を分けて捉えることです。多くの企業が保守費用の見積もりを取る際、月額いくらという運用フェーズの数字だけに注目しがちですが、実際にはその前段階として、既存システムの引き継ぎ調査、監視ツールのセットアップ、保守担当者への教育・トレーニングといった、一度限りの初期構築費用が発生します。この初期費用を見落として月額費用の安さだけでベンダーを選定すると、後になって想定外の移行コストが発覚し、当初の予算計画が崩れるケースが少なくありません。以降では、この2つのコストをそれぞれ具体的に見ていきます。
体制構築の初期費用(移行コスト)の相場と内訳

保守体制を新たに立ち上げる際、あるいは既存の保守ベンダーから新しいベンダーへ運用を移管する際には、初期費用(移行コスト)が発生します。この費用の相場観と、具体的にどのような作業に費用がかかっているのかを確認しましょう。
移行コストの相場(目安300万〜500万円)とTCOへの影響
新しい保守ベンダーへ運用を移行(引き継ぎ)する際にかかる移行コストの目安は、300万〜500万円程度とされています。ここで注意すべきは、新ベンダーの月額費用がどれほど安く見えても、この初期移行コストがかさむことで5年間のTCO(総所有コスト)が逆転してしまうリスクがある点です。たとえば月額費用が現行より数万円安いベンダーであっても、移行コストが数百万円上乗せされれば、その差額を回収するまでに数年を要することもあります。保守体制構築の予算を検討する際は、月額費用の比較だけでなく、初期移行コストを含めた複数年でのトータルコストで判断することが不可欠です。
初期費用の3つの内訳
初期費用として計上される主な項目は、大きく3つに分けられます。第一に「移行作業費」で、システム全体像の把握や既存環境の調査にかかる費用です。第二に「セットアップ費」で、監視ツールの導入やアクセス権限の設定などが該当します。第三に「教育・トレーニング費(ナレッジ移管)」で、保守手順の習得、障害対応フローの理解、過去のトラブル事例の分析といった、現行担当者から暗黙知を引き継ぐための費用です。見積もりを受け取る際は、これら3項目がそれぞれどの程度の工数・金額で構成されているかを確認することで、内容の妥当性を判断しやすくなります。特に教育・トレーニング費は、既存システムのドキュメント整備状況によって工数が大きく変動する項目であるため、見積もり時点でどこまでの引き継ぎ範囲が想定されているかをすり合わせておくことが重要です。
構築後の保守・運用ランニングコストの相場

保守体制が立ち上がった後は、継続的なランニングコストが発生します。初期構築費用とは異なり、この費用はシステムが稼働し続ける限り毎月・毎年発生し続けるため、中長期的な予算計画の中核をなす要素です。
ライフサイクル全体に占める保守費の割合
情報システムのライフサイクル全体を見ると、保守にはソフトウェア全体のコストの40〜80%(平均60%)がかかるとされています。また、全産業平均において、「既存システムの運用に係る支出」と「新規システム構築に係る支出」の割合は、おおむね2対1になるというデータもあります。つまり、多くの企業では新規開発費用よりも、その後の保守・運用費用の方が長期的には大きな金額を占めているということです。保守体制構築のタイミングで「開発費用さえ確保できればよい」という発想に留まらず、開発後何年にもわたって発生し続ける保守費用まで含めて予算計画を立てることが、経営判断として重要になります。
月額・年額の一般的な相場観(一般的なIT実務の知見)
ここからは一般的なIT実務の相場観に基づく補足です。年間保守費用は、初期開発費用の10〜20%程度が目安とされます。たとえば初期開発に5,000万円をかけたシステムであれば、年間保守費用は500万〜1,000万円、月額換算でおよそ40万〜80万円程度が一つの水準になります。保守を担う運用保守エンジニアの人月単価は、定型的な手順対応であれば60万〜80万円/人月程度、障害の根本原因調査やインフラ設計まで担う高度なエンジニア(SREなど)であれば100万〜150万円/人月程度が相場です。監視ツールのライセンス費用はSaaS型の場合、監視対象のサーバー台数に応じた従量課金が多く、小・中規模であれば月額数万円〜十数万円程度に収まるケースが一般的です。半年〜1年の期間を定めて専属のエンジニアチームを月額固定費用で確保する「ラボ型契約」では、体制規模に応じて月額数百万円規模になることもあります(例:3名体制で月額300万円など)。これらの数値はあくまで目安であり、正確な費用感は自社システムの構成と要件を踏まえた個別見積もりで確認する必要があります。
保守契約の形態—月額固定・従量課金・オプション

保守運用のランニングコストは、単一の契約形態でシンプルに構成されるわけではなく、「月額固定」「従量課金」「オプション」を組み合わせたハイブリッドな見積もり・契約形態とするのが一般的です。それぞれの内容と適した契約形式を確認しましょう。
月額固定費用(準委任契約が適合)
月額固定費用には、ヘルプデスク対応、定常的な監視・運用、定例レポート作成などが含まれます。対応量が少なくても毎月一定額が発生する一方、予算管理がしやすいのが特徴です。障害監視や問い合わせ対応といった継続的なサービス提供には、成果物の完成を保証しない「準委任契約」が適しています。保守体制構築の段階で、どこまでの業務を月額固定の範囲に含めるかを明確に定義しておくことが、後々の「これは契約範囲内か外か」という認識齟齬を防ぐポイントです。
従量課金(請負契約が適合)とオプション費用
従量課金(タイムアンドマテリアル制・スポット型)には、アカウントの追加・削除(1件あたり)、インシデント対応や障害調査(時間単価)、追加の構築・変更作業(時間単価)などが含まれます。実際に作業した時間や件数に応じて費用が発生する方式で、明確な仕様に基づく機能追加やバグ修正など「特定の成果物の完成」が求められる作業は、都度見積もりを取得して請負契約で対応するのが実務的です。これに加えて、24時間365日の監視体制、現地駆けつけ対応、セキュリティ強化メニューといったオプション費用が別途発生します。保守体制構築の予算を組む際は、この月額固定・従量課金・オプションの3層構造を理解したうえで、自社の業務要件に照らしてどの範囲まで契約に含めるべきかを検討する必要があります。
コストを左右する要因

保守体制構築の初期費用とランニングコストは、いくつかの要因によって大きく変動します。見積もりの妥当性を判断するためにも、コストを左右する主な要因を押さえておきましょう。
SLA対応時間帯の設定
第一の要因は、SLA(サービスレベル合意)で定める対応時間帯の設定です。「平日営業時間内」とするか「24時間365日」とするかは、保守体制構築の初期費用・ランニングコストの両方に直結します。24時間365日体制はシフト要員の確保などにより大幅なコスト増につながるため、保守体制を構築する段階で、システムの重要度と費用のバランスを見ながら対応時間帯を設定する必要があります。すべての機能を24時間365日体制で監視する必要はなく、事業継続性への影響度が高い機能に絞って手厚い体制を組み、それ以外は平日日中対応にとどめるといった、メリハリのある設計がコスト最適化の鍵になります。
ドキュメントの整備状況とテスト環境の再利用性
第二の要因は、既存システムのドキュメント整備状況です。引き継ぎ(立ち上げ)時や保守改修時に、既存システムの設計書や運用マニュアルが不足していたり、ソースコードと一致していなかったりすると、調査・分析にかかる工数が膨大になり、初期構築費用が想定より膨らみます。第三の要因は、テスト環境の再利用性です。保守開発において、既存のテスト環境や過去のテストデータ、テストケースが再利用できるかどうかで、テスト工程の生産性が大きく変わり、コストに影響します。保守体制構築を検討する際は、見積もり依頼の段階でこれらの前提条件を開発ベンダーから正確に引き継いでおくことが、後の予算超過を防ぐ第一歩になります。
保守体制構築コストを抑える方法

ここまで見てきた初期構築費用とランニングコストは、進め方次第で無理なく抑えられる余地があります。ここでは、保守体制構築のコストを最適化するための代表的な方法を紹介します。
段階的な移行によるコストの分散
コスト最適化の第一の方法は、保守対象の全システムを一斉に新体制へ移行するのではなく、優先度の高い一部システムから段階的に移行していくことです。一斉移行は初期構築費用が一時期に集中して発生し、キャッシュフローを圧迫しやすいうえ、想定外のトラブルが同時多発すると追加のスポット費用がかさみます。影響範囲の狭いシステムから着手し、移行のノウハウを蓄積しながら対象を広げていくことで、初期費用を複数期にわたって分散でき、かつ後続システムの移行では前段階で得た知見を活かして工数そのものを削減できます。予算が限られている企業ほど、この段階的アプローチによるコスト分散のメリットは大きくなります。
内製・外部委託の使い分けとツールの再利用
第二の方法は、内製と外部委託の使い分けです。定型的な監視・一次対応は外部のMSP(マネージド・サービス・プロバイダー)に委託してコストを平準化し、自社の業務知識が不可欠な二次対応・改修判断のみを社内に残すハイブリッド体制にすることで、24時間365日体制を自前で構築する場合に比べて人件費を大きく抑えられます。第三の方法は、開発時点で使用していた監視ツールやCI/CD環境をそのまま保守フェーズでも再利用することです。保守体制構築のタイミングで監視ツールを新規に選定し直すと、ライセンス費用に加えて開発チームが蓄積した設定ノウハウが失われますが、開発時のツールチェーンを保守チームに引き継げれば、セットアップ費用と学習コストの両方を圧縮できます。いずれの方法も、コストを切り詰めることだけを目的にするのではなく、限られた予算の中で保守品質を落とさない体制をどう組み立てるかという視点で検討することが重要です。
まとめ

本記事では、ITシステムの保守体制構築にかかる保守・運用費用・ランニングコストについて、初期構築費用と運用フェーズのランニングコストという二段構成の費用の全体像、初期費用の相場(目安300万〜500万円)と内訳、構築後のランニングコストの相場、保守契約の形態、そしてコストを左右する要因までを体系的に解説しました。保守体制構築のコストを検討する際は、月額費用の安さだけで判断するのではなく、移行作業費・セットアップ費・教育トレーニング費からなる初期費用を含めた複数年でのトータルコスト(TCO)で比較することが重要です。ライフサイクル全体で見ると保守費用はソフトウェア全体コストの40〜80%を占めるとされ、月額固定・従量課金・オプションを組み合わせた契約形態を理解したうえで、SLA対応時間帯やドキュメント整備状況といったコスト要因を踏まえた現実的な予算計画を立てることが、保守体制構築を成功に導く鍵となります。自社に合った費用感を把握するためにも、複数の開発会社・保守ベンダーに現状のシステム構成を提示して見積もりを取ることから始めることをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
