ITシステム維持管理の保守・運用費用・ランニングコストについて

「ITシステム維持管理」とは、システムを単なる稼働中の仕組みとしてではなく「IT資産」として捉え、その長期的な価値と適合性を最良の状態に保つための、運用と保守を内包する最上位の包括的フレームワークです。ここでいう「運用」とは、稼働監視・バックアップ・ログ確認・再起動といった、システムの構造には手を加えない定常的・予防的な日常オペレーションを指します。一方「保守」とは、バグ修正・OSアップデート・セキュリティパッチ適用・劣化機器の交換など、システムに変更を加える非定常的・突発的な技術的介入を指し、両者は似て非なる業務です。維持管理はこの運用・保守に加えて、ハードウェアの更新計画や資産台帳管理、ライセンス管理までを含む中長期的なライフサイクルコスト(LCC)最適化の概念として位置づけられます。維持管理が対象とする業務領域は幅広く、大きく4つに整理できます。第一に「ハードウェア」領域では、定期点検・部品交換・EOL(サポート終了)機器の更新計画・機器台帳管理が求められます。第二に「ソフトウェア」領域では、バグ修正・ログ管理・バックアップリストア・軽微な改修が発生します。第三に「セキュリティ」領域では、脆弱性スキャン・パッチ適用・アクセス権限の棚卸し・インシデントの初動対応が必要です。第四に「ネットワーク」領域では、トラフィック監視・ファイアウォール設定・IPアドレス管理といった業務が含まれます。これら4領域すべてを継続的にカバーすることが、システムを健全な状態に保ち続けるための維持管理の本質であり、その対価として保守・運用費用が発生します。

本記事では、既存システムの保守・運用にかかる費用相場、保守費用の内訳、インフラ費用、保守契約の形態、そしてコストを最適化する方法までを体系的に解説します。近年、「2025年の崖」に象徴されるレガシーシステムのブラックボックス化リスクや、IT人材不足による担当者の属人化(1〜2名への業務集中→退職・異動による引き継ぎ不能化)が深刻化する中、既存システムの維持管理を計画的に予算化することの重要性が増しており、これを怠れば業務停止による損失、セキュリティインシデント、対応不能化、そして予防保守の削減が招く緊急障害対応費の累積によるライフサイクルコストの肥大化といったリスクを抱えることになります。既存システムの保守費用を見直し、予算化を検討している情シス担当者・経営層の方にとって、現実的な予算計画を立てるための判断材料が得られる内容です。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・ITシステム維持管理の完全ガイド

ITシステム維持管理における保守・運用費用の全体像

ITシステム維持管理における保守・運用費用の全体像

ITシステム維持管理にかかる保守・運用費用は、システムの規模や構成によって大きく異なりますが、費用感をつかむうえで一つの目安になるのが「初期開発コストに対する比率」という考え方です。以降では、この比率の目安と、システム規模別の月額費用相場を具体的に見ていきます。

保守運用費用の相場(初期開発費の年間15〜20%)

一般的に、ITシステムの保守運用費用は初期開発コストの年間15〜20%が目安とされています。たとえば初期開発に1,000万円をかけたシステムであれば、年間150万〜200万円、月額にして12万〜17万円程度が標準的な保守費用の目安になる計算です。外部の開発会社に保守を委託する場合は、開発費の月次5〜15%という見方をされることもあり、依頼先や契約内容によって幅があります。この比率はあくまで目安であり、後述するSLA(サービスレベル合意)の水準やシステムの老朽化度合いによって上下に変動するため、予算策定時には自社システムの特性を踏まえた個別の見積もりが欠かせません。なお、この「初期開発費の年間15〜20%」という比率は、開発時点で予算化しておくべきランニングコストの目安としても機能します。新規システムの企画段階から、開発費だけでなく維持管理費までを含めた総所有コストで投資判断を行うことが、後年の予算不足を防ぐうえで重要です。

規模別の月額費用相場

保守・運用費用は、システムの規模によっても大きく変わります。Webシステムや社内ツールなどの小規模システムであれば月額5万〜20万円、ERPや販売管理システムといった中小規模の基幹システムであれば月額30万〜80万円(年間換算で360万〜960万円)が相場です。24時間対応が必要な大規模システムになると、月額100万円以上のコストがかかることも珍しくありません。これらを踏まえると、年間費用のレンジとしてはおおむね年50万〜800万円程度に収まるケースが多く、自社システムがどの規模帯に位置するかを把握しておくことが、適正な予算策定の第一歩になります。予算を検討する際は、単月の金額だけでなく年間・複数年でのランニングコストとして試算し、稟議や予算申請の場でも説明できる形に整理しておくと、経営層との合意形成がスムーズになります。

保守費用の内訳

保守費用の内訳

「月額○○万円」と提示された保守費用に、実際どのような作業が含まれているのかを理解しておくことは、契約内容の妥当性を判断するうえで欠かせません。ITシステムの保守費用は、大きく5つの業務要素で構成されています。それぞれの内容を確認していきましょう。

バグ・障害対応とセキュリティ対応

保守費用の中核をなすのが、バグ・障害対応(是正保守)とセキュリティ対応(セキュリティ保守)です。バグ・障害対応は、システムで発生したバグやエラーの調査・修正・反映に加え、ハードウェア故障時の部品交換までを含む対応です。セキュリティ対応は、OS・ミドルウェア・ライブラリに発見された脆弱性への対応で、パッチの優先度を判断したうえで適用する作業や、アクセス権限の定期的な棚卸しなどが含まれます。これらは突発的に発生する対応であるため、月額の保守費用の中でどこまでの対応時間・対応範囲がカバーされているかを事前に確認しておくことが重要です。

バージョンアップ・改修と監視・ログ管理、問い合わせ対応

保守費用にはこのほか、バージョンアップ・改修(適応保守)、監視・ログ管理、問い合わせ対応(ユーザーサポート)という3つの要素も含まれます。バージョンアップ・改修は、仕様変更を伴わない軽微な設定変更や表示修正、OSアップデートに伴う不具合修正などを指します。監視・ログ管理は、Zabbix、Datadogといった監視ツールによるリアルタイム監視、異常検知時のアラート対応、バックアップの実行確認やリストア対応です。問い合わせ対応は、システム利用者からの技術的な問い合わせやトラブルシューティングへの対応を指します。保守契約を検討する際は、これら5項目のうちどこまでが月額費用に含まれ、どこからが追加費用となるのかを、契約前にすり合わせておくことがトラブル防止につながります。とくに監視・ログ管理と問い合わせ対応は日々の業務量に比例して工数が積み上がりやすいため、契約時に想定される問い合わせ件数や監視対象の範囲を具体的に共有しておくと、後々の費用交渉が発生しにくくなります。

インフラ費用—オンプレミスとクラウドの違い

インフラ費用(オンプレミスとクラウド)の違い

人的な保守費用とは別に、システムを稼働させ続けるためのインフラ費用が毎月発生します。このインフラ費用は、システムをオンプレミス型で構築しているか、クラウド型で構築しているかによって、費用構造が大きく異なります。自社システムがどちらの形態かによって維持管理コストの前提が変わってくるため、両者の違いを押さえておきましょう。

オンプレミス型のインフラ費用

オンプレミス型は、自社でサーバーやネットワーク機器を保有し運用する形態です。サーバーやネットワーク機器のハードウェア導入にかかる初期費用が大きく、加えて機器を設置するスペース代(電力費・通信費含む)といった物理的な設備投資が継続的に必要になります。ハードウェアは経年劣化するため、一定周期での更新投資も避けられません。自由なカスタマイズ性や既存システムとの連携のしやすさというメリットがある一方で、維持管理の観点では初期費用・継続費用ともに重くなりやすい構成だと言えます。

クラウド型(IaaS/PaaS)のインフラ費用

クラウド型(IaaS/PaaS)は、サーバーやネットワークインフラをクラウド事業者から従量課金で利用する形態です。ハードウェアを自社で保有する必要がないため、初期費用を抑えやすいという特徴があります。利用した分だけ費用が発生する従量課金モデルであるため、需要の変動に応じて柔軟にリソースを増減させられる点も維持管理上のメリットです。一方で、利用状況によっては想定以上にコストが積み上がるケースもあるため、自社システムがオンプレミス型・クラウド型のいずれであっても、インフラ費用は保守・運用費用全体の総所有コストの一部として合算して評価する必要があります。オンプレミスとクラウドのどちらを選ぶかは、初期投資を抑えたいか、既存資産とのカスタマイズ性・連携性を重視するかという方針によって変わるため、維持管理コストの試算にあたっては、自社の中長期的なIT戦略と照らし合わせて判断することが望ましいでしょう。

保守契約の形態とコストを左右する要因

保守契約の形態とコストを左右する要因

保守・運用費用の総額は、どのような契約形態を選ぶか、そしてどのような要因によって変動するかを理解しておくことで、より現実的に見積もることができます。ここでは代表的な保守契約の3つの形態と、コストを左右する主な要因を解説します。

保守契約の3つの形態

保守契約の形態は、大きく3つに分けられます。第一が月額固定型で、毎月定額の費用を支払う契約です。コストの予測がしやすく、予算化しやすいのが利点です。第二がラボ型で、人員・工数単位での契約により、専属のチームを一定期間確保する形態です。継続的な改修や機動的な対応が必要なシステムに向いています。第三がスポット型で、障害発生時や特定のアップデート時など、対応が必要になった都度費用が発生する契約です。なお、官公庁などの「維持管理業務」一括契約であっても、仕様変更に伴う機能拡張、天災によるデータ復旧、ユーザーの過失による対応などは「免責事項」として契約範囲外とされ、別途スポット費用が発生するのが一般的です。契約を結ぶ際は、どこまでが基本料金に含まれ、どこからが追加費用になるのかを明確にしておく必要があります。

コストを左右する要因

保守・運用費用は、いくつかの要因によって大きく変動します。第一にSLA(サービスレベル合意)の水準です。障害対応にかかる時間や稼働率保証のレベル、24時間365日の監視体制の有無によって、費用は大きく変わります。第二にシステムの老朽化とブラックボックス化です。ドキュメントが未整備で担当者が属人化している場合、障害調査に多大な工数がかかり、保守費用は年々右肩上がりに肥大化していく傾向があります。第三に予防保守の不足です。定期的なメンテナンスを削減すると、結果として緊急の是正保守が高頻度で発生するようになり、深夜・休日対応費や代替機の調達費がかさみ、ライフサイクルコスト全体を圧迫します。これらの要因を踏まえると、目先の保守費用の安さだけでなく、中長期的なコスト構造を見て契約内容を検討することが重要だとわかります。

維持管理コストを最適化する方法

維持管理コストを最適化する方法

ここまで見てきた保守・運用費用やインフラ費用は、工夫次第で最適化できる余地があります。ここでは、ITシステムの維持管理コストを抑えるための代表的な方法を紹介します。

運用自動化ツールの導入とクラウド移行

コスト最適化の第一の方法は、運用自動化ツールの導入です。Kompiraのような運用自動化プラットフォームや監視ツールを活用することで、ルーティン業務やアラート対応を標準化・自動化でき、人件費の削減と人為的ミスの防止につながります。第二の方法は、クラウドサービスへの移行です。自社でインフラを保有する形態からクラウド化することで、需要の変動に柔軟に対応できるようになり、無駄な設備投資や維持費を削減できます。とくにオンプレミス型で老朽化した機器を抱えている場合、クラウド移行によって更新投資のタイミングを見直せる点も、維持管理コストの観点で大きなメリットです。

外部委託(アウトソーシング)の戦略的活用

第三の方法として有効なのが、外部委託(アウトソーシング)の戦略的な活用です。24時間体制の監視・保守を自社だけで構築しようとすると、専門人材の採用・育成に高額なコストがかかります。MSP(マネージド・サービス・プロバイダー)などへの外部委託を活用すれば、こうした教育費・インフラ費を削減できるだけでなく、社内の情シス担当者をDX推進などのコア業務に集中させることができます。維持管理コストの最適化は、単に費用を切り詰めることではなく、自動化・クラウド化・外部委託を組み合わせ、限られたリソースを最も価値の高い業務に再配分するという視点で検討することが重要です。3つの方法はいずれか一つを選ぶものではなく、自社システムの規模や重要度に応じて組み合わせることで、より高い効果が期待できます。

まとめ

ITシステム維持管理の保守・運用費用まとめ

本記事では、ITシステム維持管理における保守・運用費用・ランニングコストについて、費用相場、保守費用の内訳、インフラ費用、保守契約の形態とコストを左右する要因、そしてコストを最適化する方法までを体系的に解説しました。保守・運用費用の目安は初期開発費の年間15〜20%で、規模別では小規模システムで月額5万〜20万円、中小規模の基幹システムで月額30万〜80万円、大規模システムで月額100万円以上が相場です。保守費用にはバグ・障害対応、セキュリティ対応、バージョンアップ・改修、監視・ログ管理、問い合わせ対応という5つの要素が含まれ、これにオンプレミスまたはクラウドのインフラ費用を合算した総所有コストで評価することが重要です。契約形態は月額固定型・ラボ型・スポット型の3つがあり、SLAの水準やシステムの老朽化度合い、予防保守の実施状況によって費用は大きく変動します。維持管理コストの最適化には、運用自動化ツールの導入、クラウドサービスへの移行、外部委託の戦略的活用が効果的です。既存システムの維持管理を怠れば、業務停止やセキュリティインシデント、対応不能化、ライフサイクルコストの肥大化といったリスクを抱えることになります。保守・運用にかかる総コストを正しく見積もり、計画的に予算化・意思決定することが、システムの長期的な健全性を保つ鍵となります。

▼全体ガイドの記事
・ITシステム維持管理の完全ガイド

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。