ITシステム保守監視のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

保守監視のフルスクラッチ開発は、監視ツールそのものを作るより、OSSで自社の監視基盤を組むか、既存ツールと連携する自社専用の自動化を作る進め方が中心です。

自社要件に合わせやすい一方、構築と保守を自社で担う人的コストがかかるため、人材と監視規模を見極めてから判断します。

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保守監視における「フルスクラッチ」の位置づけ

OSSによる独自環境、既存ツールと連携する専用システム、構築・運用の人的コストを並べた図解。
監視ツールそのものの開発以外にも、独自構築の形があります。

ITシステム保守監視とは、稼働中のシステムを常時監視し、異常を検知したらアラートを発報する実務です。SLA(サービスレベル合意)に基づき、一次対応や復旧対応も行います。

監視にはDatadogやSite24x7などのSaaS型ツールや、Zabbixなどのオープンソースソフトウェア(OSS)が使われます。フルスクラッチは、こうした既製のSaaS型監視ツールをそのまま使わず、監視エージェントやアラート処理を自社要件に合わせて構築する手法です。

監視ツールと独自の自動化システムを組み合わせる方法もあり、ツールそのものをゼロから開発するケースはまれです。実務では、OSSによる独自環境の構築と、既存ツールと連携する専用システムの開発が中心です。どちらも、標準機能では対応できない自社固有の運用フローを実現するための手段です。

OSSを用いた自社独自の監視基盤構築

OSSを使う方法では、ZabbixやPrometheus + Grafanaを自社環境に合わせて監視基盤として構築します。費用だけでなく、運用体制との相性も判断材料になります。

  • ライセンス:ソフトウェアの利用料は無料(0円)です。
  • カスタマイズ:自社環境に合わせて柔軟に構築できます。
  • 運用責任:サーバーの構築、設定、更新、障害対応までを自社が担います。
  • 技術力:コマンド操作に慣れたエンジニアを社内に用意する必要があります。

Zabbixは設定項目が多く、初心者には導入のハードルが高めです。Prometheus + Grafanaはモダンな構成である反面、学習コストが高めです。

いずれのツールでも、構築と運用を自社で担う責任が生じます。そのため、ライセンス費用だけでなく、必要な人員と工数も見込んでおく必要があります。

SaaS型監視ツールとのTCO比較という視点

SaaS型監視ツールは、有料のサブスクリプションとして提供されます。月額費用はかかりますが、導入や運用の負担を抑えられるのが特徴です。

  • Datadog:1ホストあたり月額18ドルです。
  • Site24x7:STARTERプランの場合、10ホストで月額2,800円です。
  • 導入しやすさ:GUIで操作でき、テンプレートを使えば初日から稼働できます。

情シスの人員が限られる企業では、OSSの構築や運用に時間を使うより、有料SaaSで時間と安心を得るほうが、TCO(総所有コスト)を抑えやすい傾向があります。

この比べ方は、フルスクラッチによる自社構築にも当てはまり、構築・運用の人的コストも含めて比べます。

ポイント

判断に迷うときは、ツールそのものを開発するのか、OSSで基盤を組むのか、既存ツールと連携する自動化を作るのかを先に切り分けて考えます。

フルスクラッチ(独自構築・内製)のメリット・デメリット

メリット側にカスタマイズ性と業務効率化、デメリット側に人材・学習と継続保守を置いた比較図。
柔軟な自動化と、長期的な運用負担を並べて確認できます。

自社独自の監視・自動化基盤には、既製品では得られない利点がある一方、相応の負担も生じます。両方を理解したうえで、自社にとって現実的かどうかを判断することが欠かせません。

メリット—自社要件への合わせやすさと業務の効率化

標準機能では対応できない運用要件がある企業では、独自構築が既製品では代替できない価値につながります。主な利点は次の2点です。

  • カスタマイズ性:独自の業務ロジックや要件を、システムの仕組みに反映できます。
  • 業務効率化:自社のシナリオで、アラート対応を自動化できます。

チケット管理、チャット、電話などの既存システムをAPIでつなぎ、自社の運用に合ったワークフローを構築できます。さらに、対応を自動化すれば、エンジニアは人にしかできない高度な運用改善に力を注げます。

デメリット—極めて高い人的コストと継続的な保守負担

監視基盤の独自開発では、着手時の体制と稼働後の保守計画が導入判断を左右します。

  • 人材・学習:極めて高い人的コストや、習得に要する工数がかかります。
  • 継続保守:更新対応や自社製コードの修正を、稼働後も続けていく必要があります。

ツール選定やサーバー構築、連携スクリプトの開発には、高い技術力を持つエンジニアが欠かせません。

OSや連携APIの更新、自社製コードのバグ修正も、自社で対応し続ける必要があります。また、SaaSならベンダーが担う更新やセキュリティパッチの適用も、自社の責任範囲になります。この点は、判断の時点で見落としやすいところです。

ポイント

導入を判断するときは、利点の大きさだけでなく、構築後の人的コストと、保守を長く続けられる体制があるかを合わせて見ます。

自社独自の監視・自動化基盤を内製している事例

アラート一次対応の自動化率80%以上を見出しに、情報の取得から電話の自動音声によるエスカレーションまでを並べたAMSのフロー図。
自動化の範囲がチケット起票から電話連絡まで続きます。

フルスクラッチで監視基盤を内製し、高度な自動化を実現した事例があります。その仕組みを見ると、自社開発に必要な条件も見えてきます。

アイレット株式会社(cloudpack)の「AMS」導入事例

アイレット株式会社(cloudpack)は、24時間365日の監視運用事例を公開しています。

同社は、自社開発の「AMS(Advanced Monitoring System)」で、アラートの一次対応の80%以上を自動化したと紹介しています。

PagerDutyでインシデントが起票されると、AMSがWebhookで受け取り、あらかじめ定めたシナリオに沿って処理を始めます。そのシナリオは、アラート後の一次対応をどこまで自動化するかを示しています。

  • 情報の取得
  • 復旧作業
  • 動作確認による分岐
  • チケットシステム(Backlog)への起票
  • 電話の自動音声による担当者や顧客へのエスカレーション

この事例では、PagerDutyと自社開発システムを組み合わせ、既製品だけでは難しい一次対応の自動化を実現しています。

事例から読み取れる自社開発の条件

AMS事例では、既存の監視・インシデント管理ツールと自社システムを、API連携でつないでいます。監視ツール自体は作らず、役割を分けて設計しています。

  • 検知:実績のあるSaaS型ツールに任せます。
  • 一次対応:自動化が必要な処理に、開発資源を集中させます。
  • エスカレーション:自社要件に沿ったシナリオを設計します。

この水準の自動化には、Webhook連携、シナリオ設計、電話自動音声との連携など、複数の領域にまたがる開発力が必要です。片手間で進められる規模ではありません。

ポイント

事例を参考にするときは、自動化をアラートの一次対応までに絞るか、電話やチケット連携まで広げるかを先に決めます。範囲が広がるほど、必要な開発力と保守の手間も増えます。

フルスクラッチが向いているケース・向いていないケース

フルスクラッチには向く企業と向かない企業があり、技術力や規模、必要な監視要件を踏まえて見極める必要があります。

向いているケース

自社の人材、監視規模、独自の運用フローの必要性を照らし合わせると、内製の適性を判断できます。

  • 専門人材:高度な技術力を持つエンジニアを、社内で維持できます。
  • 大規模環境:SaaSの従量課金やライセンス費がかさみやすい環境です。
  • 独自の自動化:自社の手順に合う仕組みを構築・運用したい企業です。

Linuxのコマンド操作やネットワーク構築、API連携、スクリプト作成に精通した人材が必要です。こうした人材を内製で維持できることが、前提になります。

OSSでライセンス費をゼロに抑えつつ、AMSのような仕組みを自社の責任で構築・運用したい企業にも、有力な選択肢になります。また、既製ツールの従量課金でコストが合わなくなった場合も、検討する価値があります。

向いていないケース

人員や要件が限られた環境では、独自開発の負担が、得られる効果を上回らないかを見極める必要があります。

  • 人材不足:ひとり情シスなど、IT人材の確保が難しい状況です。
  • 小規模環境:標準的な死活監視やパフォーマンス監視で足ります。
  • 保守体制が不安定:専任のインフラ・運用エンジニアを、継続して確保できません。

人材が不足している企業がOSS構築や内製化を無理に進めると、設定に時間を取られ、本来の業務が滞るおそれがあります。そのため、SaaS導入や外部委託が推奨されます。

小規模環境では、開発費や保守負担に見合う利点が得られない場合があります。また、担当者の退職や異動で、後任が独自システムを引き継げないリスクもあります。

保守監視は止められない領域であるため、選定の前に、何年にもわたって保守できる体制を維持できるかを冷静に考える必要があります。

ポイント

向き不向きは、専門人材を社内で維持できるか、監視規模が大きくSaaSの費用がかさむかで見分けます。人材が足りない企業は、無理に内製を進めず、SaaSや外部委託を選ぶほうが現実的です。

内製化を検討する際の意思決定プロセス

作るか作らないかは、すぐに決めず段階を踏むほうがリスクを抑えられます。実務では、まず人材を洗い出すところから始める方法が有効です。

技術力・保有人材の棚卸し

最初の段階では、自社が持つ技術力と人材を客観的に洗い出します。

  • 技術者数:Linux操作、ネットワーク、API連携の開発に精通した人員が、何人いるかを数えます。
  • 稼働時間:対象メンバーが、継続して保守に時間を割けるかどうかを見ます。
  • 後任の確保:担当者が離れた場合の、引き継ぎ体制の有無。

保守監視は停止が許されにくいため、属人化のリスクを、ほかの内製開発より厳しく評価する必要があります。

人員や技術力が不足する場合は、無理にフルスクラッチを追わず、SaaS型ツールとアウトソーシングを組み合わせる判断が求められます。

「まず既製ツール、徐々に自動化領域を内製化」という段階的ロードマップ

次の段階では、段階的なロードマップを描き、自動化の範囲を少しずつ広げていきます。

  1. 検知は、実績のあるSaaS型ツールやOSSに任せます。
  2. 運用しながら、自動化の効果が大きいアラート対応を絞り込みます。
  3. 投資対効果の高い一次対応から、自動化スクリプトを組み込みます。
  4. 既製品と自社開発の役割を保ちつつ、内製の領域を広げます。

この順序なら、いきなり大規模な自社開発に着手するリスクを避けられます。「PoC・プロトタイプ・モックアップ開発」編のスモールスタートとも、同じ考え方でつながります。

役割分担を明確にして少しずつ内製化すると、フルスクラッチによる保守監視基盤も現実的に進められます。

ポイント

作るかどうかは、技術者数や稼働時間、後任の確保を洗い出してから決めます。検知を既製ツールに任せ、自動化を段階的に広げれば、大規模な自社開発のリスクを避けられます。

まとめ

ここまで、自社構築の位置づけ、利点と負担、実例、向き不向き、内製化の進め方を見てきました。

保守監視のフルスクラッチでも、監視ツールをゼロから作るケースはまれです。実務では、OSSの独自基盤構築と、既存監視ツールに連携する自社専用の自動化システム開発が中心になります。

AMSのように、監視ツールと自社システムを組み合わせて、アラートの一次対応の80%以上を自動化した事例もあります。ただし、その実現には専門人材と継続的な保守が欠かせません。

専門エンジニアを維持し、大規模かつ独自の自動化を求める企業には有力な選択肢です。一方、人材不足や標準的な監視要件の企業には、SaaSや外部委託が現実的です。

まず技術力と人員を確認し、既製ツールと自社開発の役割を決めます。そのうえで段階的に内製化を広げ、複数の開発会社にも相談しながら実現方法を検討します。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。