運用保守のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

運用保守では、標準で足りる領域はSaaSやMSPに任せ、標準で満たせない独自の要件だけを個別に設計して使い分けます。

フルスクラッチ・オーダーメイドは通常、ゼロからのシステム独自開発を指します。全体像は、システム運用保守の完全ガイドもご覧ください。

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運用保守における「作り込み」の2つの方向性

運用保守の作り込みを、監視基盤や運用自動化を含む仕組みと、SLAや障害対応フローを含む運用設計に分けた図。
作り込む対象を二つの層に分けて把握できます。

運用保守の作り込みは、仕組みと運用設計の2層に分けて考えます。仕組みには、監視基盤や運用自動化、インシデント管理ツールや運用ポータルが含まれます。一方、運用設計には、SLAの内容や障害対応フロー、エスカレーションルール、体制構成が含まれます。

仕組みでは、監視や自動化のツールを既製品にするか独自開発するかを選びます。

運用設計では、ルールや品質基準を標準に合わせるか、自社向けにカスタマイズするかを決めます。

まず、この2層のどちらを指しているのかを区別することが、適切な意思決定の出発点です。

標準メニュー型MSP・SaaS活用という選択

標準メニュー型MSPやSaaS型監視ツールは、共通の性能・可用性・応答時間の基準をそのまま使う選択肢です。ASP/SaaSのように基本サービスとオプションが分かれている形も、これに当たります。

  • 初期設計:導入しやすく、設計コストを抑えやすい
  • 費用:月額は数万円から数十万円、または利用量に応じた従量課金が一般的
  • 開始時期:体制やツールが用意済みなら、数週間から1ヶ月程度で始められる
  • 適する要件:一般的な監視や定型の手順書対応に、自社の業務を合わせられる場合

SaaS監視ツールの初期費用は、無料から数十万円程度です。

特殊な要件がない多くのシステムでは、標準メニュー型でも運用品質を保てる場合があります。また、費用対効果にも優れます。

発注側は、死活監視や定型の手順書対応に自社の運用フローを合わせられるかを確かめ、標準パッケージで賄えるかを検討します。ここが費用最適化の第一歩です。

オーダーメイドの運用設計という選択

オーダーメイドの運用設計は、顧客ごとのニーズや期待に応じて、サービス品質や運用要件を定める方法です。

SLAの言葉でいえば、顧客ごとに基準を作る「顧客レベルSLA」に当たります。

一方、標準メニュー型は、ベンダーのサービスに共通の基準を当てはめる「サービスレベルSLA」です。両者の違いは、顧客ごとの事情に合わせて基準を作るかどうかにあります。

  • 柔軟性:障害復旧の目標時間やエスカレーションフローを設計できる
  • 対象例:障害が住民サービスや顧客取引に大きく影響するシステム
  • 選定条件:標準メニューでは事業リスクをカバーしきれない場合

ペナルティ条件も、ビジネス環境や状況の変化に応じて設計し、変更できます。

特にミッションクリティカルなシステムでは、根本原因の調査から復旧までの手順を個別に設計し、厳密なSLAを定める必要があります。

このようなシステムでは、標準メニューで要件を満たせないため、個別設計が必要になります。ただし、設計と構築に手間がかかり、専任体制も必要になることから、標準メニュー型よりコストは大幅に高くなります。

ポイント

作り込みを考えるときは、まず仕組みと運用設計のどちらの話かを区別します。標準メニューで足りる部分は標準に寄せ、独自要件のある部分だけを個別に設計するかどうかで判断します。

運用基盤をフルスクラッチで作るべきケース

フルスクラッチを検討する事情として、特殊なシステム構造、外部サービスの制限、運用の競争力を並べた3枚のパネル。
標準サービスの不足を見極める視点が並びます。

SaaS型ツールやMSPの標準パッケージで賄える場合は、その活用が効率的です。一方で、標準パッケージでは満たせない要件を持つシステムもあります。

フルスクラッチは、規模に応じて数百万円から数千万円以上の初期費用と、最短3〜6ヶ月の構築期間がかかる大きな投資になるため、本当に必要かを慎重に見極めます。

独自要件・コンプライアンスが求めるケース

既製ツールやサービスで満たせない独自要件や、コンプライアンス要件がある場合は、フルスクラッチを検討します。該当するのは、次のような事情があるケースです。

  • 特殊なシステム構造:標準監視ツールで状態を捉えられない
  • 外部サービスの制限:監視データを自社環境内に閉じる必要がある
  • 運用の競争力:独自の最適化ノウハウを基盤に組み込む

たとえば、レガシーな基幹システムや、独自プロトコルを使う設備系システムでは、汎用ツールが対応できず、専用の監視ロジックが必要になることがあります。

金融・医療・公共など機微情報を扱う領域や、法令・業界規制でSaaSの利用が制限される環境では、ログや監視データを自社環境内に閉じることがあります。その際、運用ポータルや監視基盤を内製する判断に至る場合もあります。

大規模サービス事業者では、運用の自動化や分析が競争力の源泉になることがあります。そのため、独自の最適化ノウハウを組み込み、既製品では実現できない基盤を自前で開発します。

共通するのは、標準パッケージに合わせると事業継続性、コンプライアンス、競争力のいずれかが損なわれるという必然性です。

この必然性がなければ、コストと保守負担を増やす過剰投資になりかねません。

フルスクラッチは、他に手段がない場合に選びます。

「念のため自前で持つ」という理由で選ぶものではありません。

フルスクラッチの費用・期間と維持コスト

フルスクラッチでは、初期構築が済んだ後も、運用基盤そのものの保守が続きます。初期費用、期間、維持負担を分けて捉える必要があります。

  • 初期費用:規模に応じて数百万円から数千万円以上
  • 構築期間:最短3〜6ヶ月、規模により半年から1年以上
  • 維持費:年間で開発費の最大20%程度

要件定義から設計、開発、テストまで進めるため、数週間から1ヶ月程度で稼働する標準パッケージに比べ、立ち上げが長期化します。複雑にカスタマイズした運用基盤は、それ自体が新たな保守の対象になります。

一方、標準パッケージやSaaSでは、ツール更新や障害対応をベンダーが担います。そのため、利用側の維持負担は月額利用料にまとまります。

判断の際は、初期費用だけでなく、維持費と社内人材を確保し続けられるかも含めて、総コストを見ます。

たとえば、開発担当者の退職後に誰も保守できなくなることは、運用保守で起きる典型的な失敗です。

フルスクラッチは作って終わりではなく、基盤を持ち続ける覚悟が問われます。

内製とアウトソースのコスト構造の違い

フルスクラッチやオーダーメイドを考えるときは、運用を内製するか外部に委託するかも判断の分かれ目になります。内製は人員数が、委託は利用するメニューや手順の複雑さが、費用を左右します。

  • 内製:エンジニア1人あたり年間600万〜1,000万円程度
  • 24時間365日の内製:最低4〜5名、年間3,000万〜5,000万円規模
  • MSP標準メニュー:監視と一次対応は月額数万円〜数十万円、年間数十万〜数百万円
  • 専任運用の委託:複雑な手順が必要なら月額数百万円規模

内製の人件費には、給与のほか、法定福利費や採用費も含まれます。なお、24時間365日体制の人員は、労働基準法を考慮した目安です。

内製は、運用ノウハウを社内に蓄積でき、独自要件にも柔軟に対応できます。一方で、人材の確保と維持に負担がかかります。

MSPの標準メニューは、複数社で監視体制を共有する仕組みです。そのため、複数の顧客で体制を共有することで、スケールメリットが働きます。

内製のフルスクラッチや専任運用は最も高コストで、標準メニュー型の委託は最も安価です。要件をどこまで標準化できるかが、費用最適化を左右する判断材料です。

ポイント

フルスクラッチは、標準パッケージに合わせると事業継続性、コンプライアンス、競争力のいずれかが損なわれる場合に限って選びます。費用と期間に加え、保守を担う人材を確保し続けられるかも含めて判断します。

主流となるハイブリッド型運用の考え方

ハイブリッド運用の対応範囲を、アラート検知と定型復旧、アプリ固有の原因究明、サービスレベル、顧客レベルに分けた図。
定型対応と独自対応の区分がカードごとに見渡せます。

実際の運用保守では、標準パッケージとフルスクラッチを組み合わせて使うことができます。現在は、こうしたハイブリッド型運用が主流です。

標準化の領域と自社独自の領域を分けて手段を組み合わせると、コストとリスクの均衡を取りやすくなります。

標準化領域と独自領域の切り分け

ハイブリッド運用では、標準化できる業務は効率化し、自社独自の業務に人や費用を集中させます。手順が決まっていて繰り返し行う作業は、標準ツールに任せられます。

  • 監視:ハードウェア、OS、ネットワークトラフィックを対象とする
  • 定期作業:月1回のパッチ適用
  • 一次対応:手順書に基づく再起動や電話連絡

これらはITIL(ITサービス管理のベストプラクティス集)などで標準化された領域です。企業間で基本的な手順が共通するため、MSPの定型パッケージやSaaSでコストと労力を削減できます。

自社で持つ独自領域には、アプリケーションエラーの解析、未知のトラブルの原因究明(二次対応)、業務改善へのプロアクティブな提案があります。この領域は、自社システムを知る専任エンジニアチーム(準委任契約など)や社内IT部門が担います。

定型監視という「守り」はパッケージで効率化し、業務改善や複雑な障害対応という「攻め」には、人や費用を振り向けます。領域ごとに手段を選ぶと、標準化で要件が犠牲になることも、すべてを自前で抱える負担も避けられます。

この考え方は、費用対効果を高め、現実的で持続可能な運用保守設計の要になります。

責任分界点の設計とオプション組み合わせ

ハイブリッド運用を機能させるには、MSPやSaaSベンダーと自社の責任分界点を明確に設計することが欠かせません。線引きが曖昧だと、障害時にどちらが対応するか決まらず、押し付け合いになって復旧が遅れることがあります。

MSPでは、標準パックをベースに、顧客固有のインシデント対応やオンサイト保守をオプションで組み合わせる形が一般的です。

  • MSP:アラート検知と定型復旧を担当
  • 自社専任チーム:アプリ固有の原因究明(二次対応)
  • オンサイト保守:夜間休日の駆けつけを、オプションで行う
  • SLA:標準領域はサービスレベル、独自領域は顧客レベルを適用

発注側は、領域ごとの担当と責任範囲を、契約段階で文書にしておきます。SLAも責任分界点に合わせて設計すれば、過不足のない品質をコスト効率よく実現できます。

フルスクラッチやオーダーメイドは、独自に作る領域を見極め、責任分界点を定める考え方です。全部を独自に作るという意味ではありません。

作り込み度合いを決める判断ステップ

作り込みの度合いは、要件と必然性を順に確かめて決めます。次のステップを踏めば、過剰投資と要件不足を避けられます。

  1. 運用要件を、標準的なものと独自のものに分けて一覧にする。
  2. 標準的な要件を、SaaSやMSPの標準メニューで賄えるかを確かめる。
  3. 標準メニューで満たせない要件について、個別構築の必然性(事業継続性・法令順守・競争力への影響)があるかを精査する。
  4. 真に独自対応が必要な領域だけを、内製の専任チームか個別委託で担い、責任分界点を設計する。
  5. 構築後の維持費と担い手を確保できるかを、最後に確認する。

一覧にした要件は、死活監視やパッチ適用と、自社固有のアプリ監視や事業リスクに直結する障害対応とに分けます。多くの場合、標準要件の大半は標準メニューで賄え、費用も抑えられます。

「あれば便利」程度の要件なら、まず運用フローを標準ツールに合わせられないかを検討します。独自対応は、感覚や念のためで決めず、必然性を確かめてから選びます。

段階を踏んで判断することが、費用とサービス品質を両立させる道筋になります。

ベンダー選定とSLA契約で確認すべきポイント

MSPやSaaS、個別の運用設計を外部に委託する際は、ベンダー選定とSLA契約で条件を確かめる必要があります。各条件は、費用と継続性を左右します。

  • サービス範囲:標準パック、オプション、二次対応、オンサイト保守
  • SLA:応答・復旧時間、稼働率、未達時の料金減額など
  • 体制:担当者のスキル、夜間休日対応、属人化の有無
  • 引き継ぎ:ランブックや運用ナレッジの所有権と移管義務

サービスメニューの粒度が曖昧だと、標準パックに含まれると思っていた対応が追加費用になることがあります。

次に、SLAの数値とペナルティ条項を確認します。応答・復旧時間や稼働率、未達時の補償が明示されているかを見て、過剰な条件で費用が膨らまないかも確かめます。

24時間365日の対応を求めるなら、夜間休日の体制を確認します。特定の担当者に依存していないかは、長く任せるうえで見逃せません。

個別設計を委託する場合は、設計を理解して維持できる人材がベンダーに複数いるかが、長期の安定運用を左右します。

将来の乗り換えや内製化に備えて、ランブックや運用知識の所有権と引き継ぎ義務を契約に明記しておきます。これは、特定ベンダーへの過度な依存を防ぐ手立てになります。

契約の段階で確認事項を押さえておけば、委託後にコストと品質の両面で後悔せずに済みます。

ポイント

定型の監視や一次対応は標準メニューに任せ、独自領域だけを自社の専任チームなどで担います。責任分界点は契約段階で文書にし、SLAも領域ごとに使い分けます。

まとめ

フルスクラッチ・オーダーメイドと標準パッケージ・SaaSは、運用保守の観点から選び分けます。

作り込みは、監視基盤などの仕組みと、SLAや対応フローなどの運用設計に分けて考えます。標準メニュー型MSPやSaaSは、初期負担を抑えながら、数週間から1ヶ月程度で稼働できます。

フルスクラッチは、初期費用が数百万円から数千万円以上、期間は3〜6ヶ月以上です。年間開発費の最大20%程度の維持費も踏まえると、独自要件・法令順守・競争力に明確な必要性がある場合に限られます。

「念のため自前で持つ」という理由による過剰投資は、避けたいところです。

現実的には、定型領域をSaaSやMSPに任せ、独自領域に人や費用を集中させるハイブリッド運用が有効です。

成否は、ベンダーと自社の責任分界点を明確にできるか、そして領域ごとにSLAの設計思想を使い分けられるかにかかります。

まずは運用要件を標準と独自に分けて一覧にし、本当に個別設計が必要な領域を見極めます。作り込みのバランスを設計する際は、運用保守の知見を持つパートナーに相談する選択肢もあります。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。