運用保守費は、標準化やクラウド利用、規模によって、年三千六百万円の町から七億八千四百万円の市まで差があります。
運用保守費は、住民記録や戸籍、地方税などの窓口業務を毎年度維持するためのもので、情報システム担当課が次年度以降のランニングコストを見積もる際に役立ちます。
▼全体ガイドの記事
・自治体向けシステム開発の完全ガイド
・業務システム開発を依頼する会社の選び方やRFPの作り方については、無料ホワイトペーパー「業務システム開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
・スクラッチシステム開発を依頼する会社の選び方やRFPの作り方については、無料ホワイトペーパー「スクラッチシステム開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
自治体向けシステムの運用保守費用の考え方と官公庁・公共との違い

運用保守費用を見積もるには、費目を整理したうえで、官公庁や公共システムとの違いを押さえておく必要があります。費用増の理由も対策も、他の公共分野とは異なるためです。
標準化やガバメントクラウドへの移行後は、オンプレミス時代と費用の内訳が変わりました。この構造の変化を把握しておかないと、予算を読み違えます。
自治体向けシステムの運用保守費に含まれる項目
ランニングコストは、ソフトウェアの利用・保守費と、稼働基盤の費用の二つで構成されます。
- ソフトウェア:標準準拠システムの利用料、借料、維持保守、制度改正対応、ヘルプデスク
- 稼働基盤:ガバメントクラウドの利用料、専用回線費、ネットワークやアカウントの運用管理補助委託費
オンプレミス時代は、サーバーやパッケージを初期に導入したうえで、保守契約と数年おきの機器更新を見込む構造でした。一方、移行後は、費用の中心が毎月・毎年度の利用料に置き換わり、クラウド利用料などが新たに加わります。
一般に年間の保守費は、パッケージ型では初期構築費のおおむね十から十五パーセント、オーダーメイド型では十から二十パーセントが目安です。ただし、標準化後の自治体では、この比率だけでは説明できない費用の上昇が起きています。
予算では、ソフトウェアと基盤の費目を洗い出したうえで、従量課金の部分が変動するリスクも見込んでおく必要があります。
官公庁・公共システムとの費用構造の違い
同じ公共分野でも、自治体向けシステムは官公庁や公共システムと、費用が増える要因が異なります。
- 官公庁全般:脆弱性診断や第三者評価、セキュリティ監視、単年度予算主義のもとでの要求時期が主な論点
- 公共システム:24時間365日の高可用性を支える監視、冗長化や災害対策によるインフラ費の増加、機器の保守
- 自治体システム:標準化とガバメントクラウド移行に伴う、システムの肥大化と利用料の増加
全国の自治体が標準仕様に合わせて更改した結果、移行前を大きく上回る運用経費が共通して報告されています。
自治体の費用上昇は、個々の団体の運用だけでなく、国が進めた移行の仕組みに由来する面もあります。
国は2018年度比で運用経費を少なくとも3割減らす目標を掲げました。しかし実際には経費が増えており、目標との乖離が自治体財政の課題になっています。
標準化・ガバメントクラウド移行で運用経費が増える構造

標準化・ガバメントクラウド移行に伴う運用経費の増大は、避けて通れない課題です。その影響は中核市の調査にも表れており、予算計画を揺るがしています。移行前と比べて、中核市では経費が平均で二・三倍、最大で五・七倍に膨らんでおり、その増加は、システムの肥大化、クラウド利用料、移行に伴う付随費が重なって生じています。
中核市で平均2.3倍という現実
統計データも、運用経費の増大を裏付けています。全国の中核市六十二市中五十九市の調査では、移行後の平均が二・三倍でした。
- 中核市の平均:約三億三千八百万円から約六億八千四百万円へ増え、差額は約三億四千六百万円
- 最大の増加:移行前の五・七倍となり、差額は約八億七百万円に上る市もある
- 人口約二十七万人の市:二億八百万円から七億八千四百万円へと、三・八倍に膨らんだ
- 人口約八万人の市:全業務のクラウド化により、一億七千四百万円から四億七百万円へ、二・三倍になった
- 東京都の見込み:都内自治体全体で移行前の約一・六倍を見込み、国に対策を要望している
人口約二十七万人の市では、ソフトウェア関連費に加えて、クラウド利用料と運用管理補助委託費が純増しました。一方、人口約八万人の市では、クラウド利用料が八百万円から二億一千二百万円へ急増しています。
これらの個別事例は、標準化を境にランニングコストが構造的に上振れすることを示しています。そのため、次年度予算では重い前提として扱う必要があります。
経費が膨らむ理由(システム肥大化とクラウド利用料)
削減を目指した標準化でも、複数の要因が重なると経費は増えます。
たとえば、報告された事例では、運用費が従来比で三・七倍に膨らんでいます。その増加は、システムの肥大化やクラウド利用料、移行に伴う付随費が加わったことで生じています。
- システムの肥大化:標準仕様が求める要件が、ある市では現行比で平均1.2倍、一部業務では3倍に増加
- クラウド利用料:従来のオンプレミスにはなかった費目が純増
- 移行に伴う付随費:専用回線や運用管理補助委託費が加算
全国共通の仕様は多様な自治体業務を含むため、個々の団体では使わない機能まで含む過剰な仕様になりやすい面があり、その機能の維持費も加わります。一方、小規模団体は従来の機能が最小限だったため、増加の影響が相対的に大きくなります。
費用の増加は、ベンダーの見積もり額だけの問題ではありません。標準化の制度設計そのものに内在する要因もあります。
自治体クラウド共同利用のコスト削減効果と「逆転現象」
自治体クラウドは、複数の団体で同じシステムを使い、規模の利点で一団体あたりの費用を下げる取り組みです。一方で、標準化後は、共同利用で費用を抑えてきた小規模団体で、かえって費用が増える逆転現象も起きています。
共同利用・共同調達によるスケールメリット
自治体クラウドでは、複数の団体が単一の仕様書で同じ事業者から調達し、構築費と運用費を分担します。
- システムの共同化:参加団体で費用を分けるため、単独で調達するより負担を抑えられる
- 大阪府の人材支援:一プラン約百二十万円のうち府が半額の六十万円を補助し、全十二回の支援を行う
- 小規模団体:単独で採用する予算や採用力がなくても、専門人材を低コストで活用できる
大阪府は、市町村と専門人材を共同で確保し、分け合っています。小規模団体にとっては、運用保守を外部の専門性で支える現実的な選択肢になります。
自治体は、システム利用料だけでなく人材の確保費も含めて、共同化できる部分を見極める必要があります。
小規模団体で起きる「逆転現象」
共同利用で経費を抑えていた団体でも、標準化後に費用が増える場合があります。具体的には、人口約一万人の町で次のような変化が起きています。
- 移行前:人口約一万人の町は、共同利用によって経費を三千六百万円に抑えていた
- 移行後:機能追加でソフトウェア借料が増え、クラウド移行も重なって、六千六百万円、約一・八倍の見積もり
- 背景:機能を絞っていた団体ほど、全国共通の網羅的な仕様で機能が増え、費用も上がる
逆転現象は、人口規模に応じてシステム料金を柔軟に設定しにくいという、制度設計上の課題を示しています。
共同化を検討・継続する際は、標準仕様による機能増と費用増を織り込んだうえで、利点が上回るかどうかを確かめておく必要があります。
法改正・制度改正のたびに発生する継続的な改修コスト
制度改正への対応費は、稼働後も途切れず発生する、自治体特有のランニングコストです。改正のたびに改修が求められ、その費用はソフトウェア借料に反映されるため、単年度の保守費だけでは改正年の増額を見落とすおそれがあります。
契約段階で負担を抑える工夫として、えびの市は、公共施設予約システムで全国共通の法改正対応を追加費用なしと明記しています。ただし、すべての改修が無償になるわけではありません。
制度改正が生む継続的な改修費用
自治体の窓口業務システムは、住民に関わる制度変更を反映する必要があるため、法改正のたびに改修が求められます。
- 改正例:児童手当や子育て支援の拡充、氏名のふりがなを公証する制度への対応
- 費用の流れ:標準仕様書の改定に追随する開発が事業者に生じ、その費用が自治体のソフトウェア借料に反映される
- 予算上の注意:制度変更のたびに費用が発生するため、単年度の保守費だけでは改正年の増額を見落とすおそれがある
- 旭川市の対応:大幅な改正が近い業務を優先して移行し、改修の機会に新環境へ移すことで、旧汎用機での多額の費用とリスクを避ける
予算のぶれを抑えるには、制度改正に伴う費用を平時の保守費と分けて見積もっておくことが大切です。
改修コストをベンダーに吸収させる仕様の工夫
調達仕様書の書き方によって、制度改正に伴う改修費をある程度調整できます。
- えびの市の条件:公共施設予約システムについて、全国共通の法改正対応は追加費用なしと明記
- 対象:地方公共団体全体に必要な機能改修を、標準仕様として提供する範囲
- 効果と限界:共通改修費を契約時にベンダー側へ含めることで都度の交渉を減らせるが、すべての改修が無償になるわけではない
保守費の目安は、前述のとおり、パッケージ型で初期費のおおむね十から十五パーセント、オーダーメイド型で十から二十パーセントです。
運用の工夫だけでなく、調達や契約の時点で固定できる費用の範囲も総額を左右します。負担者を明確にしておくと、後年度の費用を見通しやすくなります。
運用保守費用の財源と国への財政措置の要望

初期構築費と運用費では、国の財政支援の枠組みが異なります。そのため、運用費の負担を考えるには、利用できる財源と、自治体から国への要望の両方を押さえておく必要があります。
初期構築費への補助と運用費の自治体負担
初期費には補助がある一方で、運用費への支援は限られており、この違いが財源計画を大きく左右します。
- 初期費:標準化対象の二十業務について、導入・構築費が総務省のデジタル基盤改革支援補助金の対象になる
- 運用費:移行後に毎年度発生する費用は、原則として国の補助がなく、自治体が全額を負担する
- 増額分:移行前の二倍前後になる団体も珍しくないが、その増分を補う恒常的な国費はない
自治体は限られた一般財源から運用費を賄うため、調達の時点で、数年先までの総額と財源の裏付けを確認しておくことが欠かせません。
補助金がある間に導入を急ぎ、運用段階の財源計画が不十分なままだと、後年度に財政を圧迫しかねません。
財源メニューと財政措置の要望
自治体が使える財源は、大きく補助金と交付税措置に分けられます。
- 初期構築:標準化の二十業務について、初期構築費を支援する総務省の補助金
- 人材確保:地方交付税の特別交付税措置
- 独自サービス:地域未来交付金のうち、デジタル実装型
熊本県は特別交付税措置を使い、民間デジタル人材を県から市町村へ派遣しています。また、宮崎県えびの市は、公共施設予約システムの導入に地域未来交付金のデジタル実装型を活用しました。
ここで挙げた財源の多くは初期投資や人材確保向けで、増大する運用費を恒常的に賄う財源ではありません。
中核市市長会と全国町村会は、想定を超える運用費の増大について、国の責任で全額を国費により措置するよう政府に求めています。
財源計画では、支援の対象を確認したうえで、補助の届かない運用費を自主財源でどう支えるかを、早い段階で検討します。
まとめ
自治体の運用費を押し上げる最大の要因は、標準化・ガバメントクラウド移行です。中核市の移行後経費は平均2.3倍、最大5.7倍に達し、その背景には、システムの肥大化とクラウド利用料の純増があります。
共同利用は費用を抑える手段ですが、機能を絞っていた小規模団体では、標準仕様への対応によって費用が上がる場合があります。制度改正の改修費は繰り返し発生するため、契約時に負担範囲を明確にし、初期費だけでなく数年先の運用費も見通しておくことが大切です。
初期構築費には補助がありますが、運用費は原則として自治体の負担です。自主財源の計画も、早い段階から検討しましょう。さらに、更改を検討する際は、移行後の経費見込みと財源の裏付けから確認しましょう。
▼全体ガイドの記事
・自治体向けシステム開発の完全ガイド
▼RFP作成前に読みたい無料ホワイトペーパー
・業務システム開発の完全ガイドブック
・スクラッチシステム開発の完全ガイドブック
・【2026年最新版】AI駆動開発の完全ガイドブック
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
