自治体向けシステム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

自治体向けシステム開発における保守・運用費用は、市区町村や都道府県が住民記録・戸籍・地方税・国民健康保険・介護保険・児童手当といった窓口業務システムを稼働させ続けるために、毎年度継続的に発生するコストです。近年、この自治体のランニングコストが大きな論点になっているのは、地方公共団体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行によって、多くの自治体で運用経費がむしろ増大するという想定外の事態が全国で起きているためです。同じ行政のシステムでも、予算制度やセキュリティ制度を主軸に語られる官公庁のシステム全般や、二十四時間稼働のインフラ設備を支える公共システムとは、費用が膨らむ理由もその対策も異なります。自治体向けシステムのランニングコストは、あくまで「自治体という組織の窓口業務システムを、限られた財源で維持し続ける」という固有の文脈で捉える必要があります。

本記事では、自治体向けシステム開発の保守・運用費用・ランニングコストに焦点を当て、費用に含まれる項目と自治体特有の費用構造、標準化・ガバメントクラウド移行後に運用経費が増大する仕組みと実際の自治体の数値、自治体クラウド共同利用によるコスト削減効果とそこで起きている「逆転現象」、法改正・制度改正のたびに発生する継続的な改修コストとその抑制策、そして初期構築費と運用費で異なる国の財政支援の枠組みまでを、具体的な金額と事例を交えて体系的に解説します。情報システム担当課で予算を組む職員の方にとって、次年度以降のランニングコストを現実的に見積もるための判断材料となる内容です。

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自治体向けシステムの運用保守費用の考え方と官公庁・公共との違い

自治体向けシステムの運用保守費用の考え方

自治体向けシステムの運用保守費用を正しく見積もるには、まずどのような費目が含まれるのかを整理し、そのうえで隣接する官公庁のシステムや公共システムとの費用構造の違いを理解しておくことが出発点になります。標準化・ガバメントクラウド移行を経た現在、自治体のランニングコストの内訳は従来のオンプレミス時代とは様変わりしており、この構造変化を押さえないと予算が読み違えられてしまうためです。

自治体向けシステムの運用保守費に含まれる項目

自治体向けシステムのランニングコストは、大きく分けてソフトウェアの利用・保守にかかる費用と、それを動かす基盤にかかる費用で構成されます。ソフトウェア側では、標準準拠システムの利用料やソフトウェア借料、機能の維持保守や制度改正への対応、ヘルプデスク対応などが継続的に発生します。基盤側では、ガバメントクラウドの利用料、庁内からクラウドへ接続するための専用回線費用、ネットワークやアカウントの管理を担う運用管理補助委託費などが加わります。従来のオンプレミス時代であれば、初期にサーバーやパッケージを一括で導入し、その後は保守契約とハードウェアの更新を数年おきに見込む、という比較的単純な構造でした。ところがガバメントクラウドへの移行後は、これらが「毎月・毎年度発生する利用料」という従量的なランニングコストに置き換わり、しかもクラウド利用料や運用管理補助委託費といった新たな費目が純増します。一般的な相場感として、パッケージ型システムの年間保守費は初期構築費のおおむね十から十五パーセント、オーダーメイド型では十から二十パーセントとされますが、自治体の標準化後の費用構造では、この従来の比率だけでは説明できないランニングコストの上昇が起きている点に注意が必要です。予算を組む際は、ソフトウェアと基盤の両面から費目を洗い出し、従量課金部分の変動リスクも織り込んでおくことが求められます。

官公庁・公共システムとの費用構造の違い

自治体向けシステムのランニングコストは、同じ公共分野の他システムとは膨らむ要因が異なります。官公庁のシステム全般では、脆弱性診断や第三者評価、セキュリティ監視といったコストや、単年度予算主義のもとでの予算要求のタイミングが費用論の中心になります。公共システムでは、二十四時間三百六十五日の高可用性を支える監視・運用体制の費用や、冗長化・災害対策によるインフラ費用の増大、スマートメーターや端末といった物理機器の保守費が費用構造を特徴づけます。これに対して自治体向けシステムのランニングコストを押し上げている最大の要因は、国が全国一斉に進める標準化・ガバメントクラウド移行そのものです。全国の自治体が同じ標準仕様に合わせてシステムを更改した結果、多くの団体でシステムが肥大化し、クラウド利用料が純増し、運用経費が移行前を大きく上回るという共通の現象が生じています。つまり自治体の費用問題は、個々の団体の運用のまずさというより、国策としての移行の構造に由来する面が大きいのです。もともと国は標準化によって「二〇一八年度比で運用経費を少なくとも三割削減する」という目標を掲げていましたが、実際には削減どころか大幅な増大が各地で報告されており、この目標と実態の乖離が自治体財政の新たな課題として浮上しています。

標準化・ガバメントクラウド移行で運用経費が増える構造

標準化・ガバメントクラウド移行で運用経費が増える構造

自治体向けシステムのランニングコストを語るうえで避けて通れないのが、標準化・ガバメントクラウド移行に伴う運用経費の増大です。これは一部の団体だけの問題ではなく、全国の中核市を対象とした調査でも明確に数字として表れており、予算計画の前提を大きく揺るがしています。ここでは、実際の自治体の数値と、なぜここまで経費が膨らむのかという構造を具体的に見ていきます。

中核市で平均2.3倍という現実

標準化後の運用経費の増大は、統計データによって裏付けられています。全国の中核市六十二市のうち五十九市を対象とした調査によると、移行前の運用経費は平均で約三億三千八百万円だったのに対し、移行後は約六億八千四百万円となり、平均で二・三倍、差額にして約三億四千六百万円に跳ね上がっています。増加幅には大きな開きがあり、最大では移行前の五・七倍、差額約八億七百万円に達した市もありました。個別の団体を見ると、その深刻さがより鮮明になります。人口約二十七万人のある中核市では、年間運用経費が二億八百万円から七億八千四百万円へと三・八倍に増加し、ソフトウェア関連経費の増加に加えてガバメントクラウド利用料や運用管理補助委託費が純増しています。人口約八万人のある一般市でも、クラウド利用を全業務に広げた結果、年額一億七千四百万円から四億七百万円へと二・三倍に増え、そのうちクラウド利用料が八百万円から二億一千二百万円へと急増しました。また東京都は、都内自治体の運用経費が全体で移行前の約一・六倍に増大する見込みだとして、国に対策を求めています。これらの数字は、自治体向けシステムのランニングコストが標準化を境に構造的に上振れしていることを示しており、次年度予算を組む際の重い前提となります。

なぜ経費が膨らむのか(システム肥大化とクラウド利用料)

ではなぜ、コスト削減を目指したはずの標準化で運用経費が膨らむのでしょうか。要因は複合的です。第一に、標準仕様に準拠する過程でのシステムの肥大化です。ある市では、標準仕様書が求める要件が現行比で平均一・二倍、一部の業務では三倍に増えた結果、システムそのものが大きくなり、これがガバメントクラウド利用料の増加と相まって、運用コストが従来比三・七倍にまで膨張したと報告されています。全国共通の標準仕様は、あらゆる自治体の業務を包含できるよう網羅的に作られているため、個々の団体にとっては使わない機能まで抱え込むオーバースペックになりやすく、その分の維持コストが乗ってくるのです。第二に、ガバメントクラウドの利用料そのものが、従来のオンプレミス運用には存在しなかった純増の費目として加わります。第三に、クラウド接続のための専用回線や、ネットワーク・アカウント管理を担う運用管理補助委託費といった、移行に伴う付随的なコストも積み上がります。とりわけ小規模団体ほど、もともと最小限の機能で低コスト運用していたところに標準仕様への対応が加わるため、増加のインパクトが相対的に大きく表れます。こうした構造を理解しておくと、単に「ベンダーの見積もりが高い」という話ではなく、標準化という制度設計に内在する費用増であることが見えてきます。

自治体クラウド共同利用のコスト削減効果と「逆転現象」

自治体クラウド共同利用のコスト削減効果と逆転現象

ランニングコストを抑える有力な手段として、複数の自治体が同一システムを共同で利用する「自治体クラウド」があります。スケールメリットによって一団体あたりの負担を下げられるのが本来の狙いですが、標準化の局面ではこの共同利用が思わぬ形でコスト増につながる「逆転現象」も起きています。ここでは、共同利用のコスト効果と、その裏で小規模団体が直面する課題を見ていきます。

共同利用・共同調達によるスケールメリット

自治体クラウドは、複数の自治体が単一の仕様書に基づいて同一の事業者からシステムを共同調達し、共同で利用する仕組みです。システムの構築費や運用費を参加団体で分担できるため、一団体で単独に調達するよりも費用を抑えられるのが基本的なメリットです。共同利用の考え方は、システムそのものだけでなく人材の確保にも応用されています。大阪府では、市町村が単独では確保しづらい専門のデジタル人材を、府と市町村が共同で確保・シェアリングする事業を展開しています。この仕組みでは、一つの支援プランを百二十万円程度と想定したうえで、大阪府がその二分の一にあたる六十万円を補助し、全十二回の支援を提供することで、小規模な町村でも低コストで質の高い専門人材を活用できるようにしています。単独ではデジタル人材を雇う予算も採用力もない小規模団体にとって、こうした共同調達による人材シェアリングは、システムの運用保守を外部の専門性で支えるうえで現実的な選択肢となります。ランニングコストを考える際は、システムの利用料だけでなく、それを適切に運用・発注できる人材の確保コストまで含めて捉え、共同化で分担できる部分を見極めることが重要です。

小規模団体で起きる「逆転現象」

一方で、すでに自治体クラウドの共同利用で運用経費を低く抑えていた団体では、標準化によってかえってコストが跳ね上がる「逆転現象」が起きています。人口約一万人のある町の事例では、共同利用によって移行前の運用経費を三千六百万円という低い水準に抑えていましたが、標準仕様への準拠に伴う大幅な機能追加、すなわちソフトウェア借料の増加と、ガバメントクラウドへの移行によって、移行後は六千六百万円、およそ一・八倍に増加する見積もりとなりました。これは、共同利用によって無駄を削ぎ落とし最小限の機能で運用していた優等生的な団体ほど、全国共通の網羅的な標準仕様に合わせることで機能が増え、コストが上がってしまうという皮肉な構図です。もともと効率化が進んでいた団体ほど、標準化による上昇率が大きく出やすいのです。この逆転現象は、人口規模に応じた柔軟なシステム料金設定が難しいという、標準化の制度設計上の課題を浮き彫りにしています。共同利用を検討・継続する自治体は、単純に「共同化すれば安くなる」と考えるのではなく、標準仕様への対応がもたらす機能増とコスト増を織り込んだうえで、それでも共同化のメリットが上回るかを見極める必要があります。

法改正・制度改正のたびに発生する継続的な改修コスト

法改正・制度改正のたびに発生する改修コスト

自治体向けシステムのランニングコストには、稼働後も途切れることなく発生する「制度改正への対応コスト」という自治体特有の費目があります。住民サービスを支えるシステムは、税制や社会保障の制度改正のたびに改修を迫られ、その費用が保守費用に上乗せされ続けます。ここでは、制度改正が生む継続的なコストの実態と、それをあらかじめ抑える契約上の工夫を見ていきます。

制度改正が生む継続的な改修費用

自治体の窓口業務システムは、住民に関わる制度の変更を正確に反映しなければならないため、法改正や制度改正のたびに改修が必要になります。近年の「異次元の少子化対策」に伴う児童手当や子育て支援の拡充、氏名のふりがなを公証する制度への対応といった大規模な制度改正があるたびに、国の標準仕様書が改定されます。標準仕様書が改定されれば、それに追随するための開発が事業者側で発生し、その開発経費が最終的に自治体の支払う「ソフトウェア借料」というランニングコストに跳ね返ってくるのです。この改修コストは一度きりではなく、制度が変わるたびに繰り返し発生するため、単年度の保守費だけを見ていると、制度改正の年に予算が膨らんで慌てることになります。北海道旭川市では、このコストを抑えるための工夫として、直近で大幅な制度改正が見込まれる業務を優先的にガバメントクラウドへ移行させています。古い汎用機のまま法改正対応をすると多額のコストとリスクが生じるため、どうせ改修が必要になるなら新しい環境で対応したほうが合理的だという判断です。ランニングコストを見積もる際は、こうした制度改正に伴う改修費を、平時の保守費とは別枠であらかじめ想定しておくことが、予算のブレを抑えるうえで有効です。

改修コストをベンダーに吸収させる仕様の工夫

制度改正に伴う改修コストは、調達仕様書の書き方によってある程度コントロールできます。宮崎県えびの市は、公共施設予約システムを調達する際、仕様書のなかに「国の法改正等により、地方公共団体全体に対して対応すべき機能改修等は、標準仕様として追加経費の請求無く提供すること」と明記しました。これにより、法改正のたびに発生する共通的な機能改修の費用を、あらかじめベンダー側に吸収させる仕組みを契約段階で組み込んでいます。すべての改修を無償化できるわけではありませんが、少なくとも全国の自治体に共通して求められる制度対応については、そのたびに追加費用を交渉する必要がなくなり、ランニングコストの予見性が高まります。このアプローチが示すのは、ランニングコストは稼働後の運用努力だけで決まるのではなく、調達・契約の段階でどこまで費用を固定化しておけるかによって大きく左右されるということです。年間保守費の割合を見積もる際も、パッケージ型でおおむね初期費の十から十五パーセント、オーダーメイド型で十から二十パーセントという一般的な目安を出発点としつつ、制度改正対応の費用負担をどちらが持つのかを契約で明確にしておくことが、後年度のコスト管理を安定させる鍵になります。

運用保守費用の財源と国への財政措置の要望

運用保守費用の財源と国への財政措置の要望

膨らむランニングコストを、自治体はどのような財源で賄っているのでしょうか。自治体向けシステムの費用を考えるうえでは、初期構築費と運用費とで国の財政支援の枠組みが大きく異なる点を理解しておくことが決定的に重要です。ここでは、活用できる財源メニューと、運用費負担をめぐって自治体が国に求めている財政措置について整理します。

初期構築費への補助と運用費の自治体負担

自治体向けシステムの財源で最も注意すべきは、初期構築費と運用費で国の支援に大きな差があることです。標準化対象二十業務の移行にかかる「一時経費」、すなわち初期の導入・構築経費については、総務省の「デジタル基盤改革支援補助金」によって国から財政支援が行われます。ところが、移行後に毎年度発生する「運用経費(ランニングコスト)」については、原則として国の補助がなく、全額が自治体の負担となります。ここに、自治体財政の深刻な問題があります。前述のとおり、標準化後の運用経費は移行前の二倍前後に膨らむ団体が珍しくないにもかかわらず、その増分を補う国の恒常的な財源は用意されていないのです。初期の移行費用は補助金で乗り切れたとしても、稼働後に毎年重くのしかかる運用費を、限られた一般財源のなかから捻出し続けなければなりません。この構造を踏まえると、自治体がシステムを調達する段階で、初期費だけでなく数年先までの運用費の総額を見通し、財源の裏付けを確認しておくことが不可欠です。補助金があるうちに導入を急ぐあまり、運用フェーズの財源計画が甘いまま進めると、後年度に財政を圧迫することになりかねません。

財源メニューと財政措置の要望

自治体がシステムの導入・運用に活用できる財源は、補助金と交付税措置に大別されます。総務省のデジタル基盤改革支援補助金は、標準化二十業務の初期構築費に対する代表的な支援です。人材面では、地方交付税のうち特別交付税措置が活用されており、熊本県は「地方公共団体におけるデジタル人材の確保に関する特別交付税措置」を用いて、県から市町村へ民間デジタル人材を派遣する事業を展開しています。また、独自の住民向けサービスを導入する際には、地域未来交付金のデジタル実装型といった枠組みが使われることもあり、宮崎県えびの市は公共施設予約システムの導入財源としてこれを活用しました。もっとも、これらの財源の多くは初期投資や人材確保に向けられたものであり、増大する運用費そのものを恒常的に賄うものではありません。そのため、想定を大きく上回る運用経費の増大に直面した自治体側は、国に対して財政措置の拡充を強く求めています。中核市市長会や全国町村会は、「想定を上回る運用経費の増大については、国の責任において全額国費で措置すること」を政府に要望しており、運用費の財源問題は自治体と国の間で継続的な論点となっています。ランニングコストの財源計画を立てる際は、こうした補助・交付税措置の対象範囲を正確に把握し、補助の届かない運用費部分をどう自主財源で支えるかを早期に検討しておくことが求められます。

まとめ

自治体向けシステム開発の保守運用費用まとめ

本記事では、自治体向けシステム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、市区町村・都道府県という自治体組織の窓口業務システムに焦点を当てて解説しました。官公庁のシステム全般や公共インフラを支える公共システムとは異なり、自治体のランニングコストを押し上げている最大の要因は、国が全国一斉に進める標準化・ガバメントクラウド移行そのものです。中核市では移行後の運用経費が平均二・三倍、最大で五・七倍に膨らみ、システムの肥大化やクラウド利用料の純増がその背景にあります。自治体クラウド共同利用はコスト削減の有力な手段である一方、最小限の機能で運用していた小規模団体では逆に経費が上がる「逆転現象」も起きています。さらに、制度改正のたびに繰り返し発生する改修費や、初期構築費には補助が出るのに運用費は原則自治体の全額負担という財源構造が、自治体財政に重くのしかかっています。ランニングコストを現実的に見積もるには、初期費だけでなく数年先までの運用費総額を見通し、制度改正対応の費用負担を契約で明確にし、補助の届かない運用費をどう自主財源で支えるかを早期に検討することが不可欠です。自治体向けシステムの更改を検討されている方は、まず移行後の運用経費の見込みと財源の裏付けを確認することから始めることをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。