自治体向けシステム開発は、法令・セキュリティ・調達要件を早期に整理したうえで、要件定義から運用まで各工程の合意を重ねながら進めるのが基本です。計画全体を見通すには、開発方式、工程、技術に加えてリスクを順に確認しておくと、後の判断が進めやすくなります。
- 方式と計画:スクラッチ、パッケージ、SaaSそれぞれの特徴と期間
- 工程:要件定義から設計、開発、テスト、運用までの計画
- 技術と体制:主要機能、標準化・セキュリティ要件、開発体制の整理
本テーマの全体像は、次の記事にまとめています。
▼全体ガイドの記事
・自治体向けシステム開発の完全ガイド
・業務システム開発を依頼する会社の選び方やRFPの作り方については、無料ホワイトペーパー「業務システム開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
・スクラッチシステム開発を依頼する会社の選び方やRFPの作り方については、無料ホワイトペーパー「スクラッチシステム開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
自治体向けシステム開発の全体像

自治体向けシステム開発では、着手前に開発方式と全体スケジュールを明確にしておく必要があります。行政特有の調達プロセスや法令対応が加わるため、民間システムと比べて計画段階に時間をかけることが求められます。
開発方式の種類(スクラッチ・パッケージ・SaaS)
自治体向けシステムの開発方式は大きく3種類に分かれ、どれを選ぶかは、業務の複雑さ・予算規模・既存システムとの連携要件を総合的に判断して決めます。1つ目の「スクラッチ開発」は、自治体固有の業務フローや条例に合わせて、ゼロから設計・開発する方式です。
高い柔軟性が得られる反面、開発期間が長くなりやすく、費用も高額になります。2つ目の「パッケージシステムのカスタマイズ」は、住民記録システムや税務システムなど行政業務向けのパッケージ製品をベースにカスタマイズする方式です。標準機能を活用しつつ、自治体固有の要件は差分開発で対応できるため、コストと期間を抑えやすいのが特徴です。
3つ目の「SaaS・クラウドサービスの活用」は、政府が推進する自治体情報システムの標準化・共通化に対応したクラウドサービスを使う方式で、近年急速に普及しています。初期費用を抑えながらセキュリティや可用性を確保しやすく、なかでも中小規模の自治体での採用が増えています。
一般的な開発期間とスケジュール感
自治体向けシステムの開発期間は、システムの規模と複雑さによって大きく異なります。窓口受付システムや申請受付システムなど比較的シンプルな場合は、入札・調達から本番稼働まで6〜12ヶ月程度が目安です。
住民記録・税務・福祉といったコアな業務システムでは12〜24ヶ月、複数部署にまたがる大規模統合システムでは24〜36ヶ月以上かかるケースもあります。スケジュール設計で特に押さえておきたいのが、入札・調達プロセスへの対応です。公告から契約締結まで最低でも2〜3ヶ月を要するため、実質的な開発開始が遅れることを計画に織り込む必要があります。
システム稼働前の住民・職員への周知期間、データ移行検証期間、並行稼働期間も、余裕を持って確保しておくことが重要です。
自治体向けシステム開発の進め方(フェーズ別)

自治体向けシステム開発は、要件定義、基本設計・詳細設計、開発、テスト、運用の各フェーズを、計画に沿って進めることが求められます。各フェーズで適切な成果物を作り、担当部署や首長・議会への報告と承認を得ながら進めることで、手戻りを最小化できます。
要件定義フェーズ(業務ヒアリング・RFP策定)
要件定義は、システム開発の成否を左右する最も大切なフェーズです。自治体では複数の担当課・係にまたがる業務フローを正確に把握する必要があるため、ヒアリングでは現行業務の流れや帳票、データ量を詳しく確認します。利用者数や特例処理のパターンも、併せて押さえます。
法令・条例・省令の要件を整理し、今後の法改正への対応方針も検討します。RFP(提案依頼書)を策定する段階では、業務要件と機能要件に加えて、非機能要件(可用性・性能・セキュリティ・拡張性)も明確に定義します。
特に非機能要件では、住民個人情報を扱うシステムに適した「LGWAN接続」「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」への対応要件を盛り込む必要があります。要件定義には2〜4ヶ月程度を確保し、担当課と情報政策課が中心となって、法務担当や外部専門家と連携して取り組む体制が理想的です。
基本設計・詳細設計フェーズ
基本設計では、要件定義で整理した業務要件をもとに、システム全体のアーキテクチャや画面構成を決めます。データベース設計と外部システム連携方式は、この段階で定めます。住民記録系・税務系・福祉系などの既存レガシーシステムとデータ連携するケースが多いため、連携インターフェースの設計には十分な時間を割く必要があります。
詳細設計では、基本設計をもとに各画面と機能の詳細仕様を決めます。帳票・証明書の出力レイアウトやバッチ処理の仕様も、このフェーズで確定させます。エラー処理のパターンやログ管理の仕様も、詳細設計の段階で固めます。
加えて、データ移行設計(旧システムからのデータ変換・クレンジング方針)も、このフェーズで策定します。設計フェーズの成果物は後続の開発・テスト・検収の基準となるため、担当課との確認と承認を丁寧に進める必要があります。
開発・テストフェーズ(受入検査含む)
開発フェーズでは、詳細設計書に基づいてプログラムの実装を進めます。担当課との定期的な進捗確認や途中レビューを組み込むことで、認識のずれを早期に解消しやすくなります。
テストは、単体テスト、結合テスト、システムテスト、受入テストの順に実施します。受入テストは、自治体の担当者が実際の業務データを使ってテストを行う工程で、2〜4週間の実施期間を確保することが一般的です。
本番稼働前には、データ移行リハーサルを実施し、旧システムからのデータ移行に問題がないかを確かめます。また、セキュリティ診断(脆弱性診断)も本番稼働前に実施し、報告書を提出することが、自治体案件では求められるケースが増えています。受入テストが完了すると、自治体と開発会社が確認書を取り交わし、正式に検収となります。
リリース・運用フェーズ(保守・法改正対応)
リリース時には、本番環境へのシステム移行とデータ移行を実施します。住民サービスへの影響を最小化するため、土日や年度末・年度初めの繁忙期を避けてリリース日程を調整することが重要です。
運用フェーズでは、システムの稼働状況のモニタリング、定期メンテナンス、障害対応の体制を整えます。さらに、毎年度の税制改正、社会保障制度改正、条例改正への対応が発生するため、法改正に対応する保守契約を事前に締結しておくことが不可欠です。
また、マイナンバーに関連する法改正や、行政手続きのオンライン化推進に伴うシステム改修のニーズも、継続的に発生します。運用・保守の体制としては、問い合わせ対応窓口(ヘルプデスク)、定期パッチの適用、セキュリティインシデント対応の手順を整え、SLA(サービスレベル合意)を明確にします。
自治体向けシステムの主要機能と技術選定
自治体向けシステムでは、業務内容に応じて機能を設計し、行政特有のセキュリティ要件や可用性要件を満たす技術を選ぶことが求められます。また、標準への準拠と柔軟なカスタマイズ性を両立させた技術スタックを選ぶことも必要です。
自治体システムで求められる主要機能
自治体向けシステムに共通する主要機能は、住民情報管理、申請受付・審査管理、証明書発行の3つです。住民情報管理は、氏名・住所・生年月日などの基本情報に加えてマイナンバーの管理を扱い、申請受付・審査管理では、オンライン申請・紙申請の統合管理を行います。証明書発行には、住民票や印鑑証明などの各種証明書の電子発行と窓口発行が含まれます。
そのほか、通知・連絡管理(住民へのお知らせ・督促通知の管理)や、帳票・統計出力(業務報告・統計データの出力機能)も挙げられます。近年は、マイナポータルとの連携によるオンライン申請の受付や、キャッシュレス決済(各種手数料・税金の電子納付)機能の重要性も増しています。
内部業務の効率化では、RPA(Robotic Process Automation)との連携、ワークフロー機能、電子決裁機能を組み込むケースが増えています。一方で、住民サービス向上の観点では、スマートフォン対応のUIや、チャットボットによる24時間問い合わせ対応機能も、自治体DX推進の一環として導入が進んでいます。
技術選定のポイント(クラウド・セキュリティ・標準化)
技術選定でいちばん大切なのは、「自治体情報システムの標準化・共通化」への対応です。デジタル庁が主導する自治体システム標準化により、住民記録・税務・福祉など20業務のシステムは、国が定める標準仕様に準拠することが求められています。このため、標準準拠のパッケージシステムを前提に技術を選ぶことが推奨されます。
クラウド基盤は、政府が認定するISMAP登録クラウドサービスから選定することが、セキュリティ面での信頼性を担保します。たとえば、AWS、Azure、Google CloudはいずれもISMAP対応サービスを提供しています。
ネットワークでは、個人情報を扱うシステムにLGWAN(総合行政ネットワーク)への接続が求められるため、インターネットとLGWANを適切に分離したシステム構成が必要です。データベースには、PostgreSQLやOracleなどのRDBMSが多く採用されており、可用性を確保するための冗長化・バックアップ設計も、技術選定の要素となります。
自治体向けシステム開発の注意点

自治体向けシステム開発には、民間システム開発とは異なる注意点があります。セキュリティ要件、法令対応、調達ルールへの理解が不足すると、プロジェクト失敗の主要因になりやすいため、事前に十分な確認が欠かせません。
セキュリティ要件・情報セキュリティポリシーへの対応
自治体向けシステムは、住民の個人情報、マイナンバー、医療情報などの機微な情報を大量に扱います。そのため、総務省が定める「地方公共団体情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」への準拠が必要です。
具体的には、アクセス制御(職員ごとの権限管理・業務担当課のみがアクセス可能な設計)と、通信の暗号化(TLS1.2以上)が求められます。ログ管理(操作ログ・アクセスログの保管・定期監査)、不正アクセス検知(IDS/IPS・WAFの導入)、端末認証(多要素認証・ICカード認証)についても、開発段階から組み込む必要があります。
また、マイナンバーを扱うシステムでは、特定個人情報保護評価(プライバシー影響評価)の実施が法律で義務付けられており、開発着手前に完了させる必要があります。開発会社についても、ISO27001やプライバシーマークを取得しているか、情報セキュリティの管理体制が整備されているかを確認することが大切です。
法令・制度改正への継続対応
国の法律・政令・省令の改正に合わせて、システムの改修が継続的に発生します。例えば、毎年度の税制改正(所得税・住民税の税率・控除額変更)や、社会保障制度改正(介護保険・国民健康保険の制度変更)が挙げられます。そのほかにも、マイナンバー制度の拡充や、行政手続きオンライン化法の適用拡大があります。
法改正への対応は、改正内容が確定してから施行日までの期間が短いケースもあります。そのため、保守契約では、対応の対象範囲、対応期間、追加費用の取り扱いを、あらかじめ明確にしておくことが重要です。
また、国が推進する自治体システム標準化への移行期限(2025年度目標)に対応するため、新規開発でも、将来の標準システム移行を見据えたデータ設計とインターフェース設計が必要です。法令対応の見落としは、住民サービスの停止や行政処分の誤りにつながりかねないため、法務・業務担当との連携を密に保つことが不可欠です。
開発を成功させるポイント
自治体向けシステム開発を成功させるには、技術面の取り組みに加えて、組織の体制づくりとパートナー選定が欠かせません。プロジェクト管理、関係者の調整、継続的な改善の仕組みを整えることも大切です。
推進体制とプロジェクト管理の整備
自治体向けシステム開発では、情報政策課と業務担当課が法務担当や外部ベンダーと連携する、複雑な推進体制になります。そのため、明確な責任者(PMO:プロジェクトマネジメントオフィス)を置き、意思決定プロセスを明文化しておくことが必要です。
週次や月次で進捗報告会を設け、課題やリスクを早く見つけて、迅速に意思決定できる体制を整えます。また、自治体内部の担当者は、仕様の確認と承認を行う際に業務知識とIT知識の両方が求められます。そのため、ITコーディネーターやPMO支援の外部専門家を活用することも、選択肢の一つになります。
開発会社の選定段階から、自治体向けシステム開発の実績、公共案件への理解、セキュリティ対応力を重視して評価することが、開発成功率の向上につながります。
信頼できる開発パートナーの選び方
パートナーの選定では、公共案件の開発実績、法令対応への理解、セキュリティ対応力の3点を重視して評価することが重要です。提案書は、単純な価格比較だけでなく、要件の理解度とプロジェクト管理の手法を中心に見ます。テスト計画や保守体制の内容も含めて、総合的に判断します。
また、入札後の仕様変更や追加要件への対応の柔軟性、担当チームの安定性(キーパーソンの離脱リスク)も、長期プロジェクトでは大切な評価項目となります。コンサルティングから開発・運用まで一貫して対応できる会社を選ぶと、フェーズ間の情報伝達ロスを防ぎ、プロジェクト全体の品質と効率を高められます。
自治体向けの豊富な開発実績を持つ会社に相談すると、プロジェクトの計画段階から適切なアドバイスを得られます。
まとめ
自治体向けシステム開発は、民間システム開発とは異なる法令対応、セキュリティ要件、調達プロセスへの対応が求められる特殊な領域です。成功のポイントは、要件定義に十分な時間を確保することと、RFPの精度を高めることです。加えて、開発実績のある信頼できるパートナーを選び、法改正対応を含む保守体制を整えることが大切です。
ここまで解説したフェーズ別の進め方と注意点を参考に、住民サービスの向上と行政業務の効率化を両立させてください。自治体DXの推進では、適切なパートナーとともに計画的に取り組むことが、プロジェクト成功への近道です。
▼全体ガイドの記事
・自治体向けシステム開発の完全ガイド
▼RFP作成前に読みたい無料ホワイトペーパー
・業務システム開発の完全ガイドブック
・スクラッチシステム開発の完全ガイドブック
・【2026年最新版】AI駆動開発の完全ガイドブック
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
