PIMのフルスクラッチ開発は、既存システムを使わず独自に設計・開発する方法です。まず既製品の標準機能で足りるかを確かめ、不足はカスタマイズで補います。
それでも満たせない場合に、フルスクラッチを検討します。構築手法は3つあり、業務要件と標準機能の差で選びます。各テーマの詳細は関連記事で確認できます。
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PIMの構築手法とフルスクラッチの位置づけ
商品情報管理システム(PIM)は、複数のチャネルで使う商品情報を一か所で管理し、同じ内容で配信するための基盤です。自社EC、複数モール、実店舗、カタログ、海外向け多言語サイトなどで使われます。
取扱SKU(在庫管理単位)が数千から数十万点に及ぶ企業にも関わるテーマです。複数モールやグローバル展開を本格化する際に、商品登録にかかる手作業のコストを減らし、全チャネルでの販売機会を広げる基盤になります。
PIMの構築手法は、SaaS型、パッケージ型・オープンソース型、フルスクラッチの3つです。各手法の違いを押さえると、フルスクラッチの位置づけが見えてきます。
- SaaS型:既製のサービスを使い、標準的なデータモデルで早期導入と低コストを狙う形。
- パッケージ型/オープンソース型:基本の土台を使い、自社の業務に合わせてカスタマイズする方式。
- フルスクラッチ:既存システムを使わず、独自のデータ構造や配信APIを設計・開発します。
SaaS型の代表例は、AkeneoのSaaS版です。インフラの保守やバージョンアップはベンダーが担うため、運用の負担を抑えられます。
パッケージ型・オープンソース型の代表例は、Pimcoreなどです。外部連携やデータ構造をある程度自由に変えたい、中〜大規模の企業に向いています。
フルスクラッチは、製品のアーキテクチャでは対応しきれない独自データモデルや超大規模な処理を実現する手法です。複雑な他システムとの連携が事業の中核を担う場合に限り、検討します。
フルスクラッチは自由度が最も高いものの、費用・期間・リスクも最も大きくなります。そのため、最後の選択肢として位置づける必要があります。
商品管理システムとの違いとフルスクラッチ判断の前提
フルスクラッチを検討する前に、PIMと商品管理システムの違いを押さえておきます。商品管理システムは、社内管理用の商品マスタを扱うシステムです。
- 商品管理システム:商品コード、カテゴリ、価格、仕入先などを管理します。
- PIM:顧客に魅力を伝える情報をまとめ、チャネルごとの仕様に合わせて配信する仕組み。
商品管理システムが扱うのは単一の商品マスタで、テキストや数値が中心です。要件も比較的定型的なため、既製パッケージや標準構成で対応できることが多く、フルスクラッチが必要になる場面は限られます。
PIMは対象とするチャネルが多く、商品情報もより高度に扱います。そのため、独自の要件が生じる企業もありますが、高度だからといってフルスクラッチが必須になるわけではありません。
近年の既製PIM製品は、複雑な属性管理、多チャネル配信、多言語対応といった基本要件を備えています。そのうえで、標準機能やカスタマイズで要件を満たせないかを冷静に見極めることが、手法選択の出発点になります。
SaaS/パッケージ/フルスクラッチの判断基準
3つの手法は、合う条件がそれぞれ異なります。次の条件を見比べると、業務要件と標準機能の差から、手法選びの目安がつかめます。
- SaaS型:PIMの基本目的を早く低コストで実現したい場合に適します。
- パッケージ型/オープンソース型:独自業務や標準APIのない基幹連携にカスタマイズが要る場合。
- フルスクラッチ:独自データモデルや超大規模処理などが事業の中核となる場合に限られます。
標準的なデータモデルで足りる企業や、インフラ保守を自社で抱えたくない企業には、SaaS型が合います。
パッケージ型などは、既製の土台を活かしつつ一定のカスタマイズが必要な中〜大規模企業に適しています。
手法を選ぶ際は、Fit to Standard(自社の業務をシステムの標準機能に合わせる考え方)を基本にします。標準機能に業務を寄せれば、導入費用と将来の保守リスクを抑えられます。
まずフィット&ギャップ分析で、標準機能と自社業務の差を洗い出します。そのうえで、その差を業務調整で埋められるか、システム開発が必要かを判断します。
フルスクラッチを安易に選ばず、SaaS型やパッケージ型で要件を満たせないかを先に検討します。こうした確認は、コストを抑える第一歩になります。
フルスクラッチが向くケース

フルスクラッチが向くのは、標準機能では扱えない独自の要件があり、システム開発でしか実現できない場合です。条件に当てはまらなければ、SaaS型やパッケージ型でも目的を達成できる可能性があります。
判断材料になる代表的なケースには、独自の属性体系、外部連携と大量SKU、独自の品質管理フローがあります。自社の要件がこれらに当てはまるか、フルスクラッチが本当に必要かを見極めます。
独自の複雑な属性/タクソノミー体系を持つケース
独自の複雑な属性・タクソノミー体系は、フルスクラッチを検討するケースの一つです。たとえば家電や機械部品では、カテゴリごとに数千ものスペック項目を持つことがあります。
商品群がシリーズ、バリエーション、補修部品などで複雑に階層化される場合もあります。こうした階層は既製PIMの標準データ構造では表現しきれないことがあり、属性を柔軟に定義するEAV(エンティティ・アトリビュート・バリュー)モデルのような構造が求められることもあります。
商材に合わせて極めて複雑なデータモデルを最適に設計する場合には、フルスクラッチの自由度が活きます。
ただし、既製PIMにも柔軟な属性管理機能があり、カテゴリごとの属性セットや階層構造に対応できる製品も多くあります。
このケースでは、フルスクラッチを選ぶ前に、既製品の限界を超えているかを確かめます。そのうえで、その複雑さが事業の競争力に直結するかを判断します。
- 既製PIMでの表現可否:属性管理機能で商材を実際に表現できるかどうかの検証。
- 事業との関係:独自の複雑さが競争力に直結する場合に限り、開発を正当化できます。
属性が複雑であることを理由に、フルスクラッチを短絡的に選ぶのは早計です。多くの企業では、既製PIMの属性管理で対応できるかを先に確かめます。
多数の外部チャネル・基幹連携と大量SKU・多言語多通貨のケース
もう一つのケースは、多数の外部連携が必要な場合と、大量のSKUや多言語・多通貨を扱う場合です。連携と規模の両面から、要件を確認します。
- 複雑な外部連携:既製品の標準連携では扱えない独自仕様や密結合が、事業要件に含まれます。
- 大規模なグローバル展開:数百万SKUと、地域ごとの法規制に基づく項目管理。
連携先には、自社EC、複数モール、実店舗POS、紙カタログの自動組版、基幹システム(ERP)、倉庫管理システム(WMS)などがあります。
リアルタイムで途切れのない完全な統合を求める場合には、自由度が活きます。さらに、密結合では、ミリ秒単位の応答が求められることがあります。
規模の面では、数百万SKUの商品データを扱い、国や地域ごとの法規制に応じて項目を動的に管理・出し分ける企業が想定されます。規制には、関税や成分表示義務などがあります。
超大規模な多言語・多通貨の要件は、既製PIMの拡張性やデータモデルの限界を超えることがあります。その場合は、自社向けの設計が必要になります。
なお、フルスクラッチを決める前に、既製品で実現できるかを確認します。その判断には、連携先やSKUの数だけでなく、技術的な対応可否と事業上の重要性も関わります。
エンタープライズ向けプランや大規模連携に対応したパッケージでも要件を満たせないかを、先に検討します。技術的に対応できず、独自の要件が事業の中核を担う場合に初めて、フルスクラッチが候補になります。
独自の商品データ品質管理ワークフローを持つケース
PIMは、情報を保管するだけでなく、複数の部門や社外の関係者が商品情報を作成し、品質を高める作業も支えます。第三のケースは、商品データ品質管理(エンリッチメント)を完全にシステムで行う場合です。
部門や社外をまたぐ複雑な承認フローを独自ルールで組み立てる場合には、フルスクラッチも候補になります。それぞれの例を見て、既製品での実現性を見極めます。
- 部門間の作業:商品企画部がベース情報を入力し、外部の翻訳会社が多言語化を担います。
- 確認と承認:マーケティング部がSEO用のメタ情報を付け、法務部が薬機法などのコンプライアンス確認を行って、承認・公開します。
- 既製品の機能:標準のワークフローや承認機能で表現できれば、独自開発は要りません。
- 独自開発の条件:既製品で実現できず、独自プロセスが品質管理上の競争力となる場合に限ります。
必要なワークフローは、業種やガバナンス体制によって異なります。
3つのケースに共通する条件は、既製品では技術的に実現できず、独自の要件が事業の中核を担うことです。この条件を満たさない場合には、フルスクラッチは過剰投資になり得ます。
フルスクラッチの費用・期間・体制・リスク

フルスクラッチによるPIM開発では、費用・期間・体制・リスクを正確に把握しておく必要があります。
規模感とリスクを踏まえ、この選択が妥当か、負担を全社で受け止められるかを判断します。そのうえで、費用・期間と体制・リスクの両面を確認します。
費用・期間の目安
費用と期間は、構築手法のなかで最も大きくなります。そのため、初期費用や運用費、開発期間を比べ、負担と選択の条件を見極める必要があります。
- 初期費用:ゼロから開発するため、数千万円から数億円かかります。
- 開発期間:半年から2年以上です。全チャネル配信APIを含む独自構造を一から設計し、複数システムとの連携や大量移行、入念な結合テストも行います。
- 他方式との期間差:SaaS型は3か月〜半年、パッケージ型は半年〜1年で立ち上がります。
- 公開後の費用:サーバー維持費や保守費用が、月額数十万円から数百万円で継続して発生します。
- 選択の目安:保守や更新も自社の負担です。PIM自体が競争優位の源泉になる場合に限り、初期費用と数年の総保有コスト(TCO)で判断します。
体制と主なリスク
フルスクラッチでは、費用や期間に加えて、体制とリスクへの備えが欠かせません。要件の肥大化や保守の負担を見越して、社内の役割を決めておきます。
- 要件肥大化とコスト超過:自由度が高いぶん要望を盛り続けると要件が膨らみ、予算超過と遅延の最大の原因になります。
- 陳腐化と保守負担:機能更新やセキュリティ対策を、自社の責任で続けることになります。
- 主体的な社内体制:専任のPMが、要件定義や連携仕様の策定を進めます。
標準パッケージに70%ものカスタマイズを施した結果、開発費が当初予算の2.5倍に膨らんだ事例もあります。こうした事態を防ぐには、要件の優先順位を社内で判断できる体制が必要です。
フルスクラッチでは、AI機能の統合、セキュリティ対策、インフラ維持を自社の費用と責任で続けます。SaaS型と違い、最新機能やセキュリティ更新は自動では加わりません。
構築時点では最新でも、時間とともに保守の負担は重くなります。加えて、開発後の陳腐化や維持費も、事前に考えておく必要があります。
開発を丸投げせず、社内に専任のプロジェクトマネージャー(PM)を置きます。
連携仕様では、APIを使うかCSVを使うかなどを決めておきます。ベンダー任せにすると要件の肥大化を止められず、業務に合わないシステムになるおそれがあります。
成功させるには、十分な体制に加えて、陳腐化や保守費用を全社で受け入れる必要があります。大規模なエンジニア組織と予算を持つ企業に限られる選択肢です。
既製PIMとの使い分け(成功のポイント)

フルスクラッチと既製PIMのどちらを選ぶかは、導入の成否を左右します。費用・期間・リスクが最も大きいフルスクラッチが向くケースは、限られています。
ECシステム構築と同じく、PIMでもFit to Standard(自社の業務をシステムの標準機能に合わせる考え方)を意識することが大切です。失敗を避け、コストを抑えるための鍵になります。
Fit to Standardの原則と既製PIM優先の考え方
Fit to Standardを軸に、既製PIMを優先します。次に、業務調整やカスタマイズで不足を補う順に検討します。
- 既製PIMを第一候補にする:AkeneoやinRiverは、基本目的を満たすケースが大半です。属性管理と配信、多言語対応、ワークフローも備えます。
- 標準機能に業務を合わせる:ギャップを分析して業務を寄せ、導入費用と将来の保守リスクを抑えつつ、既製品の利点を活かします。
- 残る差はカスタマイズする:業務調整で埋まらない差を、パッケージ型などで必要な部分だけ補い、費用とリスクを抑える。
- 独自開発は最後に検討する:既製PIMとパッケージ型でも要件を満たせない場合に限ります。
多くのマルチチャネル展開企業にとって、既製PIMの活用は現実的な選択です。
自社の業務を絶対視して、システムを業務に合わせようとすると、カスタマイズが膨らみ、コストとリスクが増えます。ただし、業務調整だけでは埋められないギャップもあります。
フルスクラッチを選ぶべき最終判断基準
フルスクラッチを選ぶかは、競争力、負担できる体制、既製品での実現性の順に確認します。
- 競争力への直結:独自のデータ構造や連携機能が、他社には真似できないIT資産となる場合に限ります。
- 事業への効果:独自のデータモデルが顧客体験に直結し、PIM自体が差別化や競争優位になる場合。
- 負担できる体制:保守費用や陳腐化を受け入れられる、大規模なエンジニア組織と予算。
- 既製品での実現性:既製PIMやパッケージ型を含む全案を検討したうえで、なお必要と確信できる場合に限り選びます。
PIMが商品情報を効率よく管理・配信するための道具にとどまるなら、フルスクラッチは過剰投資になります。
独自の要件があるから必須だと早合点し、既製品を十分に検討しないまま投資するのは避けます。そのうえで、既製品で実現できるか、投資に見合う競争優位が生まれるかを問い直します。
まとめ
構築手法の全体像から、フルスクラッチが向くケース、費用・期間・体制・リスク、既製PIMとの使い分けまでを見てきました。
PIMは、複数チャネルの商品情報を一元管理し、配信する基盤です。商品マスタを管理する商品管理システムとは、扱いの高度さと対象チャネル数が異なります。
企業独自の要件が生じることはありますが、フルスクラッチが向くケースは限られます。該当するのは、複雑な属性や多数の連携、大量SKUといった要件と、独自の品質管理フローです。
初期費用は数千万円〜数億円、期間は半年〜2年以上です。公開後も月額数十万〜数百万円がかかり、要件肥大化や保守負担のリスクもあります。
まず既製PIMを検討し、Fit to Standardに沿って業務を調整します。それでもパッケージ型のカスタマイズで満たせない場合に限り、フルスクラッチを最後の手段として検討します。
フルスクラッチを選べるのは、PIMが独自のコア競争力となり、陳腐化や保守コストを全社で受け入れられるだけの大規模なエンジニア組織と予算を持つ企業です。要件を見極めたうえで、開発パートナーと相談して手法を選びます。
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会社紹介
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
