予防保全システム開発の発注/外注/依頼/委託方法について

予防保全システムの発注は、センサーやAIの機能を先に買うのではなく、重要設備の台帳・点検・故障履歴を整理し、現場の作業指図までつながる範囲を段階的に委託することが成功の近道です。

予防保全を始めたい企業では、「クラウドサービスを導入するのか、個別開発するのか」「RFPには何を書けばよいのか」「見積金額の差をどう判断するのか」といった疑問が生じます。この記事では、発注形態の選び方、要件整理とRFPの作成、契約形態、費用相場、委託先の比較方法、導入後の運用まで、予防保全システムを外注する手順を実務の順番に沿って解説します。

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予防保全システムの発注前に整理すべき全体像

予防保全システムの発注計画を整理する担当者

予防保全システムとは、設備が故障してから修理するのではなく、周期や状態に応じて点検・部品交換・修理を計画し、作業履歴を蓄積する仕組みです。発注時は「設備を監視する仕組み」だけでなく、異常を検知した後に誰が判断し、いつまでにどの作業を行い、結果をどこへ記録するかまでを業務として定義する必要があります。

予防保全・予知保全・CMMSは何が違いますか?

予防保全は、時間・稼働時間・使用回数などの周期を基準に点検や交換を行う考え方です。予知保全は、振動・温度・電流・圧力などの状態データから異常の兆候を推定する発展的な方法です。CMMSは設備台帳、作業指図、点検履歴、部品在庫を管理する業務システムで、EAMは設備資産のライフサイクルや調達・原価まで含む、より広い管理概念です。まずCMMSの基本機能を整え、故障履歴が蓄積されてから予知保全やAIを追加する順番が現実的です。

発注範囲はどこまで含めるべきですか?

最低限、設備台帳、設備の親子階層、点検計画、作業指図、点検・修理履歴、写真や数値の登録、権限管理、検索・集計を範囲に含めます。部品在庫、QRコード、モバイル端末、オフライン入力、PLC・SCADA・MES・ERPとの連携は、現場の課題と投資効果を見ながら優先順位を付けます。センサーを取り付ける場合も、通信方式、設置工事、ゲートウェイ、電源、保守、データ保存期間を別々の項目に分けてRFPへ記載します。

発注形態はクラウド・パッケージ・個別開発から選びます

クラウドと個別開発の発注形態を比較する場面

発注形態の選択では、機能数よりも「自社の保全業務を標準化できるか」「既存設備や基幹システムと接続できるか」「導入後に自社で運用できるか」を比べます。クラウド、パッケージ、スクラッチ開発にはそれぞれ適した条件があり、最初から一つに決めず、標準機能で満たせる範囲と個別対応が必要な範囲を切り分けます。

クラウドCMMSを選ぶケース

点検計画、台帳、履歴、作業指図を早く始めたい場合は、クラウドCMMSが候補です。サーバー調達やアップデートの負担を抑えやすく、1拠点で試してから他拠点へ展開しやすい点が利点です。一方で、工場の閉域網、データの保管場所、認証方式、外部連携API、障害時の復旧目標を確認します。クラウド料金だけでなく、初期設定、データ移行、教育、センサー接続が別料金かを確認することが重要です。

パッケージ導入と個別開発を組み合わせるケース

設備階層や作業指図のように一般化しやすい機能はパッケージで導入し、独自の設備コード、特殊な点検帳票、MESやERPとの連携だけを追加開発する方式は、費用と柔軟性のバランスを取りやすいです。標準機能に業務を合わせる部分と、競争力や安全に関わるため変えられない部分を、RFPの段階で明示します。標準機能を大幅に改修すると、アップデート時の検証費用やベンダーロックインが増えるため注意が必要です。

スクラッチ開発やPoCが適するケース

複数工場の設備階層や権限を統合し、独自の製造プロセス、リアルタイムデータ、AI分析、ERP・MES連携まで一体化する場合は個別開発が候補です。ただし、全社版をいきなり作ると要件が膨らみやすいため、重要設備1〜5台または1ラインを対象に、3〜6か月程度のPoCでデータ品質と現場定着を検証します。PoCの合否はAIの検知率だけでなく、アラートから作業完了までの時間、誤報への対応工数、計画外停止時間で判定します。

予防保全システムの要件整理とRFP作成の進め方

予防保全システムのRFP要件を整理する会議

RFPは、開発会社に機能一覧だけを渡す資料ではありません。現状の課題、目標KPI、対象設備、利用者、業務フロー、データ、連携、セキュリティ、納期、予算、提案してほしい事項をそろえ、各社が同じ前提で提案できる状態にする文書です。現場・保全・生産技術・情シス・購買・経営の代表者を集め、部門ごとの要求を一つの優先順位にまとめます。

現状資料とKPIを先にそろえる

RFPには、設備台帳の項目、設備数と拠点数、点検帳票、故障履歴、交換部品、担当者と承認者、現行のExcelや紙帳票を添付します。過去データが欠けている場合も、欠損を隠す必要はありません。「初期導入で移行する期間」「新システム稼働後に蓄積する期間」を分けて示すと、各社が移行作業を過小評価しにくくなります。KPIは、MTBF、MTTR、計画保全率、計画外停止時間、保全費、アラート対応時間などから、最初の3〜5個に絞ります。

現場が使える要件を具体化する

現場要件では、スマートフォンやタブレットでの入力、写真添付、QRコードからの設備呼び出し、オフライン入力、入力必須項目、外国語表示、手袋をした状態での操作などを確認します。高機能な画面よりも、巡回中に数十秒で記録でき、異常を作業指図へ変換できることが定着の条件です。アラートを受け取る人、一次確認をする人、停止判断をする人、修理を承認する人を役割としてRFPに書きます。

IoT連携とセキュリティを要件に含める

センサーを使う場合は、対象の振動・温度・電流などの種類、サンプリング周期、既存PLCやSCADAから取得できるデータ、通信経路、ゲートウェイ、エッジ処理、クラウド保存、時刻同期を明記します。経済産業省は2025年4月、中小規模の製造事業者向けに工場セキュリティの始め方を示す解説書を公開し、工場の規模にかかわらずサプライチェーンを含む対策が必要だとしています(出典: 経済産業省「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン Appendix」、2025年)。ネットワーク分離、最小権限、多要素認証、暗号化、ログ、バックアップ、脆弱性対応、委託先の責任分界をRFPに含めます。

予防保全システム開発を外注する手順

予防保全システム開発の工程を確認する担当者

外注では、会社探しから契約までを急がず、現状把握、RFP配布、提案比較、要件定義、設計・開発、テスト、教育、本番運用の順に進めます。現場データと業務ルールを確認しないまま開発を始めると、画面は完成しても点検記録が残らないという事態になりやすいため、各工程の成果物と意思決定者を先に定めます。

1. 現状診断と対象設備の選定

最初に、故障による停止損失、安全・品質への影響、修理部品の入手性、故障履歴の量から設備を分類します。重要度が高く、停止したときの影響が大きい一方で、データを取得できる設備を初期対象にすると、効果を検証しやすいです。保全責任者だけでなく、設備を操作する担当者と生産計画の責任者にもヒアリングし、点検の実態と例外処理を明らかにします。

2. RFP配布と提案・見積の比較

候補会社には同じRFPを渡し、提案書の目次、要件別の対応可否、前提条件、標準機能と追加開発の区別、体制、工程、費用内訳、運用保守、導入事例を指定します。価格だけで比較せず、設備業務への理解を確認するため、提案時に現場ヒアリングや画面モック、簡易なデータ連携の説明を求めます。提案の段階で質問への回答が曖昧な会社は、契約後の追加請求や責任分界でも曖昧になりやすいです。

3. 要件定義からテスト・本番運用へ移行

契約後は、要件定義書、業務フロー、設備コード一覧、画面・権限一覧、連携仕様、テスト計画、移行計画を確定します。開発中は、現場の代表者が定期的に画面と操作を確認し、試験用データで点検登録から作業完了までを通します。受入テストでは、正常系だけでなく、通信断、センサー欠損、異常値、重複登録、担当者不在、緊急停止などの例外を確認します。本番前には教育、旧帳票との並行運用、問い合わせ窓口、障害時の復旧手順を整えます。

契約形態と責任分界を発注前に決めます

予防保全システムの契約条件を確認する場面

予防保全システムでは、要件の不確実性が大きい初期工程と、成果物を確定しやすい開発工程で契約を分ける方法が有効です。設備や既存データを確認しないまま全工程を固定すると、後から追加要件が発生し、納期と費用の調整が難しくなります。契約書と見積書には、作業範囲、成果物、検収条件、変更手続き、知的財産、データ所有権、保守範囲を明記します。

請負契約・準委任契約・サブスクリプションの使い分け

機能と成果物が明確な設計・開発は、完成した成果物を検収する請負契約が適しやすいです。現状調査、要件定義、データ整理、PoCのように、発注者と受託者が協議しながら進める工程は、作業時間や体制を管理する準委任契約が適しやすいです。クラウド製品は月額または年額のサブスクリプションとなることが多く、利用料と導入支援費、追加開発費、保守費を分けて確認します。契約名だけで判断せず、各工程の成果とリスク負担を照合します。

センサー・ネットワーク・AIの責任分界

設備側のセンサー故障、通信回線の停止、ゲートウェイの障害、クラウドの停止、アプリの不具合、AIの誤検知は、原因によって対応者が変わります。一次窓口を誰にするか、設備メーカー・通信会社・クラウド事業者・SIerのどこへ連絡するか、切り分けに必要なログを誰が持つかを契約前に決めます。AIモデルを使う場合は、学習データの所有権、再学習の条件、モデル更新の費用、誤報によって生じた確認作業の扱いも確認します。

予防保全システムの費用相場と見積の内訳

予防保全システムの費用見積を比較する担当者

予防保全システムの受託開発費には、公的な一律統計がありません。以下のレンジは、公開されているCMMSの料金例と、業務システム・IoT連携の類似案件から整理した企画段階の目安です。設備数、拠点数、センサー工事、データ移行、AI、ERP・MES連携、24時間保守によって大きく変わるため、発注判断では必ず自社条件の見積を取得します。

導入パターン別の費用レンジ

クラウドCMMSの標準導入は、初期費用0万〜30万円程度、月額3万〜20万円前後が一つの目安です。公開料金の例では、設備保全総合研究所のEMLinkが初期費用0円、ベーシックで1事業所あたり月額12万円、AI機能を含むプロフェッショナルで月額21万円としています(税抜・年間契約の掲載例、2026年8月確認)。これは製品料金の例で、現場調査や特殊な連携の費用を含むとは限りません。

1拠点の台帳・点検・QR・モバイル・簡易ダッシュボードを個別対応する場合は、類似CMMS案件から300万〜700万円程度、2〜4か月程度が企画上の目安です。複数ライン、部品在庫、承認、MES・ERP連携を含む中規模構築は700万〜1,800万円程度、4〜9か月程度、複数工場や大規模スクラッチは1,800万〜4,000万円以上、9〜18か月以上になる可能性があります。これらは予防保全システム単独の公的相場ではなく、要件が近い案件からの推定です。

センサー・開発・運用を分けて比較する

見積では、要件定義、画面・API開発、設備マスタ整備、紙・Excel履歴の移行、センサー本体、取り付け工事、ゲートウェイ、通信費、クラウド利用料、データ分析、AIモデル、テスト、教育、保守を別行にします。AWSの公開例では、50センサー・50ゲートウェイを含む予知保全クラウド構成を月額159.84米ドルと試算していますが、これは2024年3月6日時点のクラウドサービス料金例で、センサー本体・設置工事・通信・アプリ開発・データ整備・保守は含まれません(出典: AWS「IoT 予知保全のためのクラウド構成と料金試算例」、2024年)。

保守費は、障害対応だけでなく、OSやブラウザの更新、クラウドの仕様変更、脆弱性対応、バックアップ確認、モデル再学習、設備追加、問い合わせ対応を含むかで変わります。年間保守を初期開発費の10〜20%程度とする提案もありますが、これは一般的な業務システムの目安であり、24時間監視や現地駆け付けを含む場合は別見積になります。月額料金と初期費用を足した3年総額で比較すると、安価に見える提案の隠れた費用を確認できます。

委託先の選定と見積比較で確認するポイント

予防保全システムの委託先を比較する打ち合わせ

委託先は、単に設備保全の製品を扱っている会社ではなく、業務設計、現場端末、センサー・制御データ、クラウド、基幹連携、導入後の保守をどこまで担えるかで比較します。製品ベンダーとSIerが別の場合は、一次窓口と障害の切り分け責任を確認します。RFPへの回答だけでなく、実績の再現性、担当者の経験、提案の具体性、契約条件まで含めて判断します。

設備業界・現場運用の実績を確認する

実績確認では、導入社数だけでなく、自社と似た設備、拠点数、通信環境、ユーザー数、導入範囲を聞きます。公開事例では、エクサが古野電気の三木工場に予防保全・リアルタイム監視・稼働集計の仕組みを導入し、2019年から2022年に対象設備のMTTRを約20%短縮し、保守費用を3年間で約56%削減したと説明しています(出典: 株式会社エクサ「古野電気株式会社様 導入事例」)。事例の数字は自社で同じ効果が出る保証ではありませんが、KPIの設定や効果測定の進め方を確認する材料になります。

見積書の比較軸をそろえる

見積比較では、機能、品質、納期、費用、体制、保守、将来拡張の7軸をそろえます。機能は標準・設定・追加開発・対象外に分類し、費用は一式表記を避けて工数、単価、数量、前提条件を確認します。納期は開発期間だけでなく、設備調査、センサー工事、データ移行、教育、現場の停止可能時間を含めます。将来拡張では、設備や拠点を追加したときの料金、API、データのエクスポート、設計書の引き渡し、解約後のデータ返却を確認します。

安すぎる見積と高すぎる見積の理由を聞く

他社より極端に安い場合は、要件定義、データ移行、テスト、教育、保守、センサー工事が含まれていない可能性があります。高い場合は、不要なAI機能や全設備の一括対応が先行していないかを確認します。各社に「初期対象を重要設備5台に絞った場合」「AIを第2段階にした場合」「クラウド標準機能を優先した場合」の代替案を求めると、費用と効果の関係を比較しやすくなります。最安値ではなく、前提が明確で変更時のルールが透明な提案を選びます。

よくある質問

予防保全システムの発注に関する質問を確認する場面

最後に、予防保全システムの発注・外注でよく寄せられる質問に回答します。自社の設備数や既存データによって最適な方法は変わりますが、初期相談やRFP作成の前に判断軸を持つための基準として活用できます。

小規模工場でも予防保全システムを外注できますか?

外注できます。最初から全工場を対象にせず、重要設備1〜5台または1ラインを対象に、台帳、点検、履歴、作業指図を導入し、現場で使えるかを確認します。クラウドCMMSの標準機能や短期間のPoCを使えば、全社スクラッチ開発より小さく始められます。

故障履歴が少なくてもAI予知保全を導入できますか?

導入はできますが、故障ラベルや十分な履歴がなければ、AIの予測精度を検証しにくいです。まず設備台帳、点検値、異常内容、修理内容、作業時間をデジタル化し、閾値やルールによる通知から始めます。データが蓄積された設備から統計的な異常検知やAIを追加し、誤報率と対応工数を評価します。

RFPにはどの資料を添付すればよいですか?

設備台帳、設備の階層、点検帳票、故障・修理履歴、部品一覧、現行のExcelや紙帳票、ネットワーク構成、連携対象のMES・ERP・SCADA、利用者と権限、希望KPIを添付します。過去履歴の欠損や設備ごとの例外も明記します。資料が完全でなくても、現状を正確に示すほうが、提案会社の見積前提と追加費用をそろえやすいです。

クラウド型の予防保全システムは安全ですか?

クラウドかオンプレミスかだけで安全性は決まりません。工場ネットワークとITネットワークの分離、通信の暗号化、権限と多要素認証、ログ監視、バックアップ、脆弱性対応、委託先のサプライチェーン管理を、システム構成と運用の両方で確認します。特にOT機器へ接続する場合は、停止時の安全確保と責任分界を含めて、情シス・生産技術・ベンダーで合意します。

まとめ

予防保全システムの発注計画をまとめる場面

予防保全システムを発注・外注するときは、まず設備停止の課題と対象設備を定め、台帳・点検・履歴・作業指図をどこまで整えるかを決めます。クラウドCMMS、パッケージと個別開発の組み合わせ、スクラッチ開発を比較し、重要設備1〜5台や1ラインから段階的に検証すると、投資効果と現場定着を確認しながら拡張できます。

RFPには、設備・データ・業務フロー・KPI・現場操作・連携・セキュリティ・保守・責任分界を記載し、見積は開発、センサー、移行、教育、クラウド、保守を分けて比較します。公開料金や導入事例の数字は参考情報であり、自社の設備数、拠点、停止損失、既存システムによって変わります。最初からAIや全社連携を盛り込むのではなく、データを整えてから状態監視とAIへ進むことが、予防保全を業務として定着させる現実的な進め方です。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。