商品管理システム開発のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

商品管理システム開発は、PoC、モックアップ、プロトタイプの順に進めます。各段階で技術面、画面、業務を確かめ、設計リスクを本格開発の前に見つけます。

PIM(商品情報管理システム)は、商品情報を各チャネルへ配信するもので、役割が異なるため、基幹業務の商品マスタ検証に絞ります。

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商品管理システムでPoC・プロトタイプが重要な理由

商品管理システムは、商品コードやカテゴリ、価格、原価、仕入先などの商品マスタをまとめて管理します。

商品マスタは、在庫・販売・会計・ECなどの基幹業務へデータを供給する土台です。

PoC・プロトタイプが重要なのは、商品マスタ設計の誤りが後の大きなコストを生むためです。採番や構造に欠陥があると、連携業務に影響が及び、後からの修正も難しくなります。さらに、変更時には既存データの移行、連携先の改修、業務フローの見直しが広く必要になります。

要件定義や設計の見落としを後工程で直す費用は、早期対応の数十倍から数百倍に膨らむといわれます。そのため、本格開発の前に小さく作って動かし、設計の妥当性を確かめるPoC・プロトタイプが有効です。

次に、PoC・プロトタイプ・モックアップの違いと、マスタ設計の失敗がもたらす具体的なリスクを見ていきます。

PoC・プロトタイプ・モックアップの違い

PoC、プロトタイプ、モックアップは、検証する対象と目的が異なります。

  • PoC:技術的な実現性や期待する効果を検証します。
  • モックアップ:画面の構成、項目の配置、操作の流れを確認します。
  • プロトタイプ:実際に動く試作品で、機能や操作を試します。

商品管理でPoC(Proof of Concept=概念実証)が扱う対象は、独自の採番ロジック、数万SKUの検索、複数システムのマスタ統合です。

モックアップは動作しなくてもよく、画面構成や項目配置、操作導線を関係者と確認できます。たとえば商品管理では、PoCでコード体系とマスタ構造を確かめ、モックアップで登録・検索画面を合意します。PoC、モックアップ、プロトタイプを使い分けると、本格開発の前に設計リスクを洗い出せます。

マスタ設計の失敗がもたらすリスク

商品マスタの設計ミスは、運用開始後にデータや業務の混乱として表面化します。

  • 採番ルールの曖昧さ:同じ商品に重複コードが付いたり、途中で意味を失うコードが生じたりします。
  • 浅いカテゴリ設計:商品を細かく分類できず、検索や集計が難しくなります。
  • ダブルミーニング:項目の解釈が分かれ、集計結果が食い違います。

ダブルミーニングとは、異なる意味の情報を1つの項目に詰め込む設計です。

マスタ設計の失敗は、商品管理システムだけにとどまりません。マスタは在庫管理や販売管理、会計、ECへデータを届けるため、破綻すると誤コードで在庫を管理し、誤価格で販売し、誤った原価で会計処理するなど、全社に影響が及びます。

データが蓄積したあとは、修正が難しくなります。そのため、被害の小さい開発前の段階で、PoC・プロトタイプにより失敗を見つけて手を打てます。

ポイント

マスタ設計の誤りは後から直すと費用が膨らむため、本格開発の前に設計の誤りを見つけられる段取りかどうかが判断の目安です。

PoC・プロトタイプで検証する商品マスタの論点

商品マスタのPoC検証論点として、SKU採番、マスタ構造の厳密性、外部マスタの統合・名寄せを示す図解。
3つの論点を並べると、検証対象の抜けを見つけやすくなります。

商品マスタやデータベースの設計が破綻すると、システム全体に影響が及びます。そのため、PoC・プロトタイプでは重要な論点から優先して検証します。

検証の対象は、SKU採番、マスタ構造の厳密性、外部マスタの統合・名寄せの3つです。

商品コード(SKU)採番ルールの検証

商品コード(SKU)はシステム管理の要で、採番設計に欠陥があると信頼性を損ないます。

PoCでは実データを入れて、次のようなアンチパターンを避けられるかを確かめます。

  • 先頭が0のコード:ExcelやCSVで扱うと、先頭の0が欠落するおそれがあります。
  • 日本語や記号を含むコード:システムエラーや文字化けの原因になります。
  • 大文字・小文字の混在:DOG-1とdog-1が別コードとして扱われ、誤出荷につながります。
  • 極端に長い・短いコード:汎用性を欠くコード体系になるおそれがあります。

SKUの粒度も確かめておきます。たとえば、柄2種類、サイズS・M・LのTシャツなら、2×3=6種類のコードが必要です。色やサイズが増えても採番が崩れないか、実際にデータを入れて試します。

また、JANコード(13桁)とインストアコード(自社専用コード)を併用する場合も、検証が必要です。両者を矛盾なく管理し、必要に応じて相互に参照できるかを確かめます。

採番ルールの検証を怠ると、稼働後に膨大な修正コストが生じるおそれがあります。

マスタ構造(データベース)の厳密性検証

マスタ構造は、将来の拡張性と運用のしやすさを左右します。そのため、開発の前に妥当性を確かめておきます。

特に注意したいのは、設計の曖昧さです。PoC・プロトタイプでは、曖昧な列や意味の混在を避けられているかを確かめ、各テーブルの役割を検証します。

  • 用途不明の「その他」列:拡張を理由に仮置きすると用途が曖昧になり、データ品質を損ないます。
  • 意味の異なる情報の統合:取引先と部署を「コード区分」にまとめると、バグの温床になります。
  • 役割の明確なテーブル:商品、カテゴリ、仕入先のほか、価格・原価の履歴を分けて確認します。

実データを入れて、新しい属性を追加できるか、また1商品に複数のカテゴリを登録できるかを試します。

価格改定の履歴をさかのぼって参照できるかを確かめ、実務上の操作で構造が崩れないかも検証します。

厳密なマスタ構造があると、後の機能追加やシステム連携を無理なく進められます。

外部システムとのマスタ統合・名寄せ

外部システムとのマスタ統合・名寄せは、3つ目の検証論点です。導入時には、複数の既存システムがそれぞれ独自のマスタを持つ場合があります。とくに販売管理や在庫管理、EC、Excelでは、コード体系やマスタ項目が異なるのが一般的です。

  • コード・項目の不一致:システム間で異なる箇所を洗い出します。
  • 名寄せとコード統廃合:同一商品を突き合わせ、正しく統合できるか試します。
  • 自動化と人手確認:実データで自動処理できる範囲を見極めます。

検証には、整ったサンプルではなく、実際に運用してきた「汚れた」データを使うことが重要です。

実データには、表記ゆれや重複登録、廃番コード、単価やカテゴリの欠損が潜んでいます。

データの汚れが名寄せの精度に与える影響と、人手による確認が必要な範囲を確かめます。

難易度を事前に把握できれば、データ移行の工数を見積もり、稼働直前の遅延を防げます。

ポイント

SKU採番、マスタ構造、外部マスタとの名寄せの3点を、整った見本ではなく汚れた実データで試せているかどうかが、判断の目安になります。

モックアップで確認するUI・運用フロー

商品情報の更新から廃番後の案内までに含まれる新商品登録、価格改定、廃番、後継品案内を示す図解。
登録後の更新や廃番後の案内まで、確認範囲を広げられます。

PoCでマスタ設計の技術面を確かめたあとは、担当者の目線でUIと運用フローを確認します。ただし、マスタ設計が優れていても、日々の登録が使いにくければ運用は定着しません。

主な観点は、商品登録・検索画面の使いやすさと、登録から廃番までのライフサイクルです。

商品登録・検索画面の使いやすさ

商品の登録・更新・検索を担う担当者にとって、画面の使いやすさは運用の効率を左右します。そこで、モックアップで項目、入力順、必須と任意の見分けやすさを、現場の登録担当者と確認します。

大量の商品を効率よく登録できる仕組みも、特に大切な確認事項です。

  • 登録方法:1件ずつ手入力する方法と、CSVやExcelでの一括登録を確認します。
  • 類似商品の複製:商品をコピーし、一部だけ変更できるか試します。
  • 検索と絞り込み:複数条件やあいまい検索で商品を探せるか確認します。
  • 入力チェック:不正なコードの理由が担当者に伝わるか確かめます。

検索条件には商品コードと商品名、カテゴリ、仕入先を使い、数万点の中から素早く探せるかを試します。

エラー表示で何が問題かが伝われば、担当者は迷わず入力を直せます。

現場の声をモックアップやプロトタイプの画面に反映すると、運用の定着につながります。

新商品登録〜廃番のライフサイクル運用

商品は登録後に情報や価格が更新され、やがて廃番になります。プロトタイプでは、この一連の業務を試し、実際の業務でスムーズに回るかを検証します。

  • 新商品登録:仮登録から正式登録、発売開始までの状態を確認します。
  • 価格改定:承認後の確定と連携先への反映を試します。
  • 廃番:過去の取引履歴を保つ論理削除か、単純削除かを業務に合わせて検討します。
  • 後継品案内:必要な商材で廃番品と後継品を紐付けられるか試します。

価格更新に手作業の確認が多く残ると、旧価格で販売するミスにつながるおそれがあります。そのため、更新をどこまで自動で反映できるか、また連携先すべてに正しく反映されるかを確かめます。

また、BtoBの部品や資材のように、廃番後に後継品や代替品の案内が必要な商材もあります。運用を一通り試しておけば、稼働後に操作や業務フローの不一致が見つかる事態を防げます。

ポイント

モックアップで、登録の使いやすさと登録から廃番までの流れを、現場の担当者が実際に操作して確かめているかどうかが、判断の目安です。

PoC・プロトタイプの進め方

PoC・プロトタイプを対象の絞り込み、実データを使った検証、段階的な範囲拡大の順で進める図解。
小さな検証で得た学びを、次の対象範囲へつなげます。

PoC・プロトタイプでは対象を絞り、実際のデータを使って検証することが重要です。

スモールスタートによる対象の絞り込み

最初から全商品・全機能を対象にすると、検証時間とコストが膨らみ、PoCの機動力が失われます。そこで、まず主力カテゴリ1つ、または色・サイズの多い商品やセット品など特徴的な商材に絞ります。

商品コードの採番とマスタ登録から始め、得た学びをもとに修正を重ねて、短期間で再検証します。

  • リスクの高い論点から検証:商品コード体系とマスタ構造を優先します。
  • 小さく試して修正:対象を絞り、学びを次の検証に反映します。
  • 段階的に範囲を拡大:妥当性を確認後、対象カテゴリを広げます。

対象を絞ると、検証を素早く回せ、得た知見を本格開発の設計に早く取り入れられます。

カテゴリを広げたあとは、より複雑なケースにも設計が耐えられるかを確かめます。

実データを使った検証

ベンダーが用意した整ったデモ環境では、サンプルデータは順調に動きます。一方で、検証には自社で運用してきた実データを使います。

本番データを入れると、重複や表記ゆれ、欠損が噴き出し、想定外の桁数も問題になって、動かなくなる失敗が頻繁に起きます。そのため、品質の悪いデータも含めて、システムがどこまで耐えられるかを確かめます。

  • 採番・登録・検索:実際の商品数とコード体系で速度や精度を確かめます。
  • 名寄せ:既存マスタをどこまで自動で統合できるか確認します。
  • 性能:数万から数十万SKUで検索や一覧表示を試します。

カタログ上の性能よりも、自社の規模やコード体系、データ品質で確かめる必要があります。

実データの持ち出しには、セキュリティへの配慮が必要です。ただし、検証を省くと開発後に動かないリスクが高まります。

手間をかけて実データを使うことが、PoCを意味のある検証にする鍵です。

ポイント

最初から全商品を扱わず、主力カテゴリなど小さく絞って実データで検証し、結果を次の検証に反映しているかどうかが、判断の目安です。

PoC・プロトタイプでよくある失敗

PoC・プロトタイプは有効ですが、進め方を誤ると時間とコストを浪費します。

よくある失敗は2つあり、いずれも回避策があります。

カタログスペックだけによる判断

機能一覧だけで導入を判断すると、自社の条件で期待どおりに動くかは分かりません。

資料には自動採番、大量データの高速処理、多システム連携などの機能が示されます。ただし、自社の規模やコード体系、業務フローでも同様に機能するとは限りません。

  • 独自コード体系:自社の採番ルールに対応できるか試します。
  • 数万SKUの検索:実用的な速度で検索できるか確かめます。
  • 既存システム連携:連携時の制約や名寄せの可否を検証します。

これらの勘所は実データで検証し、機能の有無だけでは分からない適合性を見極めます。特に、高額なパッケージ型やフルスクラッチ型を選ぶ場合は、PoCへの投資が大きな失敗を防ぎます。

PoCの目的・評価基準の未設定

目的や評価基準が曖昧だと、結果を見ても導入すべきか判断できません。そのため、検証が長引き、時間とコストをかけても結論が出ない事態になりがちです。

PoCを始める前に、何を検証し、どの状態を成功とするかを明確に決めておきます。

  • 採番・登録:1万件を登録し、エラー率が○%以下か確認します。
  • 検索速度:数万SKUから商品名で検索し、○秒以内に返るか測ります。
  • 名寄せ率:既存2システムのマスタで、自動突合が○%以上か調べます。

合格基準を関係者で合意しておくと、結果を客観的に評価して、導入の可否を判断できます。さらに、基準に届かなかった場合は、次に取る行動として、設計を直すか別の方式を検討するかを、あらかじめ決めておきます。

目的と評価基準を明確にすることが、PoCを成果や意思決定につなげる最も大切な点です。

ポイント

機能一覧だけで決めず、自社の条件で実データを使って試しているか、また開始前に合格基準を関係者と合意しているかが、判断の目安になります。

まとめ

商品管理システムは、商品コード(SKU)やカテゴリ、価格、原価、仕入先のマスタをまとめて管理し、基幹業務へデータを供給します。

採番ルールやデータベース構造が破綻すると、影響はシステム全体に及びます。

マスタ設計は後から変えるのも難しいため、本格開発の前にPoC・プロトタイプで妥当性を確かめる価値があります。

PoCでは、SKU採番の問題を避けられるか、ダブルミーニングや用途不明の列がない構造になっているか、外部マスタの名寄せができるかを、実データで検証します。

モックアップでは、現場の担当者と一緒に、登録・検索のUIや廃番までの運用を確かめます。

対象を絞って実データで検証し、段階的に範囲を広げます。さらに、カタログだけに頼らず、目的と評価基準を定めておきます。

まずは、リスクの高い商品コード体系とマスタ構造から、小さく検証を始めましょう。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。