営業支援システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

営業支援システムを検討する際、多くの企業はまずSalesforce、Zoho CRM、GENIEE SFA/CRM、Mazrica Salesといった既製のSaaS型サービスを候補に挙げます。クラウド型のシステムは初期費用0円から始められ、月額数千円のライセンス費用で高機能なダッシュボードを利用できるため、導入の敷居は年々下がっています。しかし、経営企画部門が本気で営業組織の目標管理(MBO)とシステムを連動させようとすると、既製のSaaS型ツールの標準的なKPIダッシュボード機能だけでは対応しきれない壁に突き当たることがあります。訪問件数・架電数・案件化率といった行動指標から売上目標までを一気通貫で管理し、複数部署にまたがる売上配分や、部署・役職ごとに異なる評価ロジックまでシステムに組み込みたいとなると、標準機能のカスタマイズだけでは限界が生じるのです。そこで選択肢となるのが、自社の目標管理制度に合わせてゼロから作り込む「フルスクラッチ・オーダーメイド開発」です。SaaS型を土台に必要な部分だけをカスタマイズするオーダーメイドから、ノーコードツールで自社仕様に組み立てる方法、完全に独自のシステムを構築するフルスクラッチまで、幅広いアプローチが存在します。

本記事では、営業支援システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当て、開発の選択肢とSaaS標準KPIダッシュボードで対応できる範囲、フルスクラッチ・オーダーメイドが必要になる3つのケース、SaaS型カスタマイズとフルスクラッチの比較、MBO・KPI連動要件を定義する際のポイント、そしてフルスクラッチ開発のリスクと発注時に確認すべきポイントまでを、目標管理という切り口から体系的に解説します。自社の目標管理制度に最適な営業支援システムの作り方を見極めるための判断軸が身に付く内容です。

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営業支援システム開発の選択肢とMBO・KPI連動という論点

営業支援システム開発の選択肢とMBO・KPI連動という論点

営業支援システムを実現する方法は、大きく4つの選択肢に整理できます。第一に、SaaS型ツールを標準機能のまま使う方法で、初期費用が最も安く、すぐに使い始められますが、自社独自の目標管理ロジックへの適合には限界があります。第二に、SaaS型ツールに軽微なカスタマイズ(カスタムフィールドの追加、ダッシュボードのレイアウト変更など)を加えて使う方法です。第三に、ノーコードツールを使って自社のKPI体系に合わせて独自にシステムを組み立てる方法で、専門知識がなくても既製のツールでは対応できない独自ロジックを実現できます。第四が、完全に独自のシステムをゼロから構築する「フルスクラッチ開発」で、最も自由度が高い反面、コストと期間も最大になります。実務では、多くの企業が第二・第三の「オーダーメイド」の範囲でMBOとの連動要件を満たせることが多く、フルスクラッチは、既製品やノーコードツールでは対応できない特別な事情がある場合に選ぶ、という位置づけになります。

SaaS標準KPIダッシュボードで対応できる範囲

既存のSaaS型営業支援システムには、営業活動を可視化するための標準機能が数多く備わっています。成約率、商談数、受注までの平均日数などをリアルタイムでダッシュボードに表示する基本的なKPI可視化はもちろん、「初回訪問から課題合意」「提案から受注」といった各営業フェーズの進捗率を可視化し、どこで失注が多いかを把握するファネル(ボトルネック)分析も標準機能として提供されています。さらに一部のツールでは、売上目標に対する受注額のギャップ、案件単価、ステージ移行率のトレンド値から、「いつまでに、どのフェーズに、どのくらいの案件(アプローチ数や商談数)が必要か」を割り出す必要行動量の逆算機能まで備わっています。個人単位・チーム単位でのシンプルな目標対比であれば、こうした標準機能とカスタムフィールドの組み合わせで十分に対応できるケースがほとんどです。

MBO連動でフルスクラッチが検討され始めるタイミング

標準的なKPIダッシュボードで対応しきれなくなるのは、目標管理制度そのものが複雑化してきたタイミングです。具体的には、複数部署にまたがる売上の配分ルールを反映したい、特定の条件下でのみ適用されるインセンティブや評価ロジックを組み込みたい、役職階層ごとに異なる目標の閲覧・承認権限を設定したいといった要望が出てきた段階で、標準機能や軽微なカスタマイズの限界が見え始めます。このタイミングを見誤り、無理にSaaSの標準機能で対応しようとすると、Excelでの二重管理に逆戻りしてしまうリスクが高まります。逆に言えば、こうした複雑な要件が具体的に見えていない段階でフルスクラッチに踏み切るのは時期尚早であり、まずは標準機能とオーダーメイドの範囲で運用しながら、本当に必要な独自ロジックを見極めていくアプローチが現実的です。

フルスクラッチ・オーダーメイドが必要になる3つのケース

フルスクラッチ・オーダーメイドが必要になる3つのケース

MBO・KPI連動という観点から、フルスクラッチやオーダーメイド開発が具体的に検討される代表的なケースを3つ整理します。いずれも、既製品では対応しきれない明確な理由がある場合に選ばれる選択肢です。

複雑な組織構造・評価フローを反映したい場合

第一のケースは、日本企業特有の複雑な組織構造や評価(承認)フローをそのままシステムに反映したい場合です。複数部署にまたがる売上配分、特定の条件下でのみ適用されるインセンティブ・KPIロジック、特殊な役職階層ごとの目標閲覧・承認権限などを設定したい場合、SaaSの標準ダッシュボードや権限設定では柔軟なカスタマイズができず、結果としてExcelでの二元管理に戻ってしまうリスクがあります。海外製の高機能ツールを導入しても、日本の複雑な組織構造や評価フローに適合しないケースは多く、こうした事情がある企業ほど、独自の目標管理ロジックを組み込めるオーダーメイド開発やフルスクラッチが現実的な選択肢になります。

既存のExcel運用ロジックをそのまま再現したい場合

第二のケースは、現在Excelで運用している独自のKPI算出シートや目標管理プロセスを、現場の混乱を避けるため「そのままのロジックで」システム化したい場合です。SaaS導入において高度な独自分析を行おうとすると、それに伴って現場が入力しなければならない項目が確実に増え、営業担当者の負担となってシステムが形骸化する失敗がよく起きます。既存の計算式や運用ルールを変えたくないという明確な意向がある場合、パッケージ化されたSaaSでは対応できないため、プログラミング不要で自社の業務フローに完全適合したシステムを構築できるノーコードツールや、独自のスクラッチ開発が最適な選択肢となります。第三のケースは、無理なカスタマイズによる保守・メンテナンスの崩壊を避けたい場合です。既存のSaaS型ツールを自社の複雑なKPI要件に無理に合わせようと過度なカスタム開発を行うと、システムの構造が複雑化し、カスタム部分は標準保守の対象外となってバージョンアップのたびに自社の管理者がメンテナンスに追われる大きなリスクを伴います。標準機能の範囲内で目標管理制度を妥協・変更できないのであれば、無理にSaaSをカスタマイズするよりも、要件に合わせてフルスクラッチで独自の基盤を開発する方が、中長期的には合理的な選択となります。

SaaS型カスタマイズとフルスクラッチの比較

SaaS型カスタマイズとフルスクラッチの比較

MBO・KPI連動を実現するにあたって、最も大きな分岐点が「SaaS型を土台にカスタマイズするか、完全に独自に構築するか」です。この選択によって、費用・期間・自由度・保守負担が大きく変わります。

SaaS型カスタマイズのメリット・デメリット

SaaS型のメリットは、初期費用0円から始められるものもあり、「1ユーザーあたり月額〇円」というライセンス費用で安価かつ即座に運用を開始できることです。無料トライアルを利用して自社のKPI運用イメージをテストできる点も強みで、導入前にリスクを抑えて検証できます。セキュリティ対策やインフラの保守もベンダー側が担うため、自社でサーバー管理の専門知識を持つ必要もありません。一方でデメリットは、SaaSは基本的にパッケージ化されているため、自社独自の目標管理ロジックへの改修が難しいという点です。無理に自社のKPI体系に合わせようと過度なカスタム開発を行うと、多額の追加費用がかかるだけでなく、標準保守の対象外となりメンテナンスの負担が急増します。自社の目標管理要件がSaaSの標準的な枠組みに収まる範囲であれば、SaaS型カスタマイズが圧倒的にコストパフォーマンスに優れた選択肢です。

フルスクラッチのメリット・デメリットとコスト感

フルスクラッチの最大のメリットは、自社の目標管理制度に完全に適合したシステムを構築できる自由度の高さです。売上配分ロジック、インセンティブ計算、役職階層ごとの承認権限、他システムとの連携方式まで、すべてを自社の要件通りに実装できるため、SaaS型では実現できない独自の運用を実現できます。一方でデメリットは、開発費用・期間が一般的な業務システム開発と同等かそれ以上にかかることです。中規模のオーダーメイド開発で期間4〜7か月・費用500万〜2,000万円程度、大規模なフルスクラッチでは期間7〜12か月以上・費用2,000万円以上になることも珍しくありません。加えて、SaaS型であればベンダーが担ってくれるインフラの保守やセキュリティアップデートを自社(または委託先)で継続的に行う必要があり、長期的な保守体制の構築が不可欠です。自由度の高さと引き換えに、初期投資と継続的な保守負担が大きくなる点を十分に理解した上で選択する必要があります。

MBO・KPI連動要件を定義する際のポイント

MBO・KPI連動要件を定義する際のポイント

フルスクラッチ・オーダーメイドでMBO・KPI連動を実現する際、要件定義の質がプロジェクトの成否を大きく左右します。既製品のように「あらかじめ用意された機能から選ぶ」ことができない分、自社で何を作るべきかを明確に定義する必要があります。

KPIロジックの言語化と評価基準の優先順位づけ

MBOと連動するシステムを構築する際にまず必要なのが、現在Excelなどで運用している評価ロジックを、担当者の頭の中から取り出して言語化する作業です。「売上目標に対する達成率をどう評価に反映するか」「訪問件数や架電数といった行動指標をどこまで評価に組み込むか」「部署をまたぐ案件の売上をどう配分するか」といったルールは、実際には明文化されておらず、評価者の裁量に委ねられている企業も少なくありません。フルスクラッチ開発では、要件定義の段階でこうした評価ロジックを一つひとつ棚卸しし、システムに実装できる形に整理する必要があります。あわせて、「絶対に自動化したいロジック」と「当面は人の判断に委ねてよい部分」を切り分け、優先度の低い評価ロジックはフェーズ2以降に回すという段階的なスコープ設定が、費用と期間の両面でリスクを抑える鍵になります。

人事評価制度との整合性確認と現場ヒアリング

MBO・KPI連動の要件定義では、営業企画部門や情報システム部門だけでなく、人事評価制度を所管する部門との整合性確認も欠かせません。営業支援システムに実装したKPIロジックが、実際の人事評価・賞与査定のロジックと食い違っていると、現場は「システム上の数字」と「実際の評価」の二重基準に振り回されることになります。加えて、システムを利用する営業担当者・マネージャー自身へのヒアリングも重要です。行動指標を細かく管理しすぎると「監視されている」という反発を招きやすいため、評価に用いる指標は納得感のある必要最小限のものに絞り込み、「誰が・いつ・どのように評価データを確認できるか」という権限設計も丁寧に詰めておく必要があります。この整合性確認とヒアリングを怠ると、システム完成後に評価ロジックの作り直しという大きな手戻りが発生するリスクがあります。

フルスクラッチ開発のリスクと発注時に確認すべきポイント

フルスクラッチ開発のリスクと発注時に確認すべきポイント

フルスクラッチ・オーダーメイド開発には、自由度の高さと引き換えに固有のリスクが伴います。これらを事前に把握し、対策を講じておくことが、プロジェクトを成功に導く鍵となります。

組織改編・評価制度変更によるロジック陳腐化のリスク

MBO・KPIロジックをシステムに厳密に作り込むフルスクラッチ開発特有のリスクが、組織改編や評価制度の見直しによって、せっかく構築したロジックがすぐに陳腐化してしまうことです。営業組織は事業方針や人事制度の変更に伴って評価軸が変わりやすく、複雑なロジックをハードコーディングしてしまうと、そのたびに大掛かりな改修が必要になり、保守コストが膨らみ続けます。対策としては、評価ロジックの計算式や条件をシステムの設定画面から柔軟に変更できるよう設計しておくこと、そして開発初期の段階で「今後3〜5年でどの程度の評価制度変更が想定されるか」を発注者側であらかじめ整理し、変更が見込まれる部分は柔軟性を優先した設計にしておくことが重要です。

発注時に確認すべきポイント

発注先を選ぶ際にまず確認すべきは、目標管理・評価制度という経営に近いテーマを理解し、営業企画や人事部門を巻き込んだ要件定義を伴走してくれる体制があるかです。単なるシステムの実装だけでなく、評価ロジックの整理段階から相談に乗ってくれるパートナーであるかを、過去の開発実績を通じて確認しましょう。あわせて確認すべきは、契約段階でソースコードやドキュメントの納品・帰属を明確にしておくこと、設計書や仕様書を整備してもらい属人化を防ぐことです。フルスクラッチ開発では、システムの仕様を熟知しているのが特定のベンダーに限られるため、そのベンダーとの関係が途切れると以降の保守・改修が困難になるリスクがあります。発注にあたっては、まず対応言語ではなく要件(評価ロジック、権限設計、既存システム連携、求める柔軟性)を整理した要件概要をまとめ、複数社から見積もりを取ることを推奨します。いきなり大規模なフルスクラッチを契約するのではなく、まずは標準機能とオーダーメイドの範囲で運用しながら本当に必要な独自ロジックを見極め、段階的に本開発へ進める進め方でリスクを大きく減らせます。

まとめ

営業支援システムのフルスクラッチ・オーダーメイド開発まとめ

本記事では、営業支援システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、開発の選択肢とSaaS標準KPIダッシュボードで対応できる範囲、フルスクラッチ・オーダーメイドが必要になる3つのケース、SaaS型カスタマイズとの比較、MBO・KPI連動要件を定義する際のポイント、そしてフルスクラッチ開発のリスクと発注時に確認すべきポイントまでを、目標管理という切り口から体系的に解説しました。既製のSaaS型ダッシュボードは、個人・チーム単位のシンプルなKPI管理であれば十分に対応できますが、複数部署にまたがる売上配分や特殊な評価ロジック、既存Excel運用の完全再現、過剰カスタマイズによる保守崩壊の回避といった明確な理由がある場合に、オーダーメイドやフルスクラッチが選ばれます。現在の主流は、SaaS型やノーコードツールを土台に、自社の評価ロジック・権限設計だけを作り込むオーダーメイドであり、これが品質・コスト・期間のバランスに最も優れた現実解です。純粋なフルスクラッチは、既製品では対応できない特殊な要件があり、かつ組織改編に応じた柔軟な設計を織り込める体制が整っている場合に限られます。要件定義では評価ロジックの言語化と人事評価制度との整合性確認を徹底し、組織改編によるロジック陳腐化のリスクに備え、伴走型のサポート体制を備えたパートナーを選ぶことが、プロジェクト成功の鍵となります。まずは標準機能の範囲でどこまで運用できるかを見極め、段階的に本開発へ進む進め方で、自社の目標管理制度に最適な営業支援システムを実現することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。